私のわがままな異世界転移

とみQ

文字の大きさ
上 下
46 / 135
第3章 隼人の力、美奈の力

幕間 ~美奈はただ、自身の能力に身を委ねる~

しおりを挟む
  隼人達がワイバーンと戦っている間。
  美奈は咄嗟に吹雪に晒されたネムルさんに取りついた。
  美奈は覚醒を経て自身が能力に目覚めている意識はあった。
  だがそれが一体どういったものなのか、その全貌は未だ全く掴めてはいない。
  先程隼人が恐慌状態になった際も、とにかく隼人を助けたい一心で、必死になった結果と言える。
  それは所謂偶然と呼べるような不確かな代物だったのだ。
  だから今回ネムルさんの事に関しても、自分がどうにか出来るといった確信は何もないのだ。
  ただ一つ言えること。
  それはこのまま放っておけば間違いなく死に至るであろう者を目の前にして、ただ何もせず黙ってその命が終える瞬間を見過ごすことなど出来ない。
  美奈はそんな優しい性格の持ち主だということであった。

「――お父さんに何をするつもりなの?」

  娘のメリーが涙で瞳を潤ませながら美奈に声を掛ける。
  その言葉には棘があり、自暴自棄になっている雰囲気すら感じられる。
  彼女は目の前の父親がもう助からないということを予期してしまっているように見えた。
  ただ終わり行く父をそっとしておいておいてくれと、最期の瞬間に慈悲を求めるようなそんな諦めにも似た感情に思えたのだ。
  美奈はそんなメリーを見て、強くそれを否定したい衝動に駆られた。

「諦めないで!  私、何とか出来るかもしれないの!」

  想像以上に大きな声が出た。
  気持ちが昂っているのか。
  こんなにも声を荒げるのは美奈にしては珍しいことだ。
  そもそもこのような凄惨な現場に立ち合わせたことも初めてなのだ、そうもなるだろう。

「……かもしれないって……そんな……」

  メリーは美奈を見つめる。その瞳には一層の苛立ちが込められていた。
  美奈の語気に若干気圧されながらも、その不確かな物言いに戸惑いの気持ちがないと言えば嘘になるのだ。それは嫌悪の感情に直結する。
  だがそれでも、余りにも強い美奈のその眼差しに、困惑と嫌悪の気持ちはありつつも、不思議と反発する気持ちが癒えていったのだ。

「メリー、予言の勇者様を信じてみよう。こう言ってくださってるんだ。私達もネムル村長の無事を祈ってみようよ」

  後ろに控えて成り行きを見守っていた一人の若者が、彼女の肩に手を置きそう言い聞かせた。
  同郷の者の言葉にメリーも幾らか落ち着いたようである。
  逡巡した後、やがてこくりと頷くと顔を上げて美奈を見つめた。

「ミナさん、お願いします。どうか父を――父をお救い下さい」

  最後は両手を胸の前で強く握り締め、懇願するような視線を送る。
  それに応えるように美奈は力強く頷いた。
  氷漬けになったネムルさんの前に立ち、彼を抱くようにして目を閉じた。
  ひんやりと冷たい氷が肌に凍みる。
  それでも彼女はそんな冷たさなどなきもののように、心の中で強く願うのだ。
  ――――それは祈りに近かった。
  目を閉じていると、自身に内包する不思議な力を感じられる。
  それは今まで感じたことのない不思議な力だ。
  覚醒してからというもの、ずっと美奈の胸に溢れ、揺蕩っていた。
  水面のような揺らめきが、確かな熱量を伴って自身に力を与えてくれるような気がしたのだ。
  美奈はその力に抗うことなく、素直に身を委ねた。
  その素直さが彼女の美徳である。
  瞬く間に自身とネムルさんの間に波動のような流れを作り出した。
  水面に波紋が満ちるように、川に水が止めどなく流るるように。二人の間に畝りが生まれ、それは温かな光を生み出し、光は徐々にその大きさを増していく。
  最後には可視化された光が皆が目を開けていられないほどの眩しさとなり、神々しいまでの光に当てられ村人達は目を背けた。

「なんなの!?  この光はっ――」

「――眩しいっ」

 数刻の後、光が収まり静寂が訪れた。

「――ワシは……一体?」

「――っ!?  お父さんっ!」

  沈黙を破ったのは他でもない、朧気な記憶を手繰り寄せるように呟きを漏らすネムルだった。
  メリーは彼の無事を目の当たりにするなり彼に飛びついた。
  状況は分からずとも、娘の涙に応えるようにネムルさんは彼女の背中をさすってやった。
  美奈は温かな親子の包容を、優しく微笑みながら見つめていたのだった。
しおりを挟む
小説家になろうにて4年以上連載中の作品です。https://ncode.syosetu.com/n2034ey/続きが気になる方はこちらでも読めますのでどうぞ。ブクマや感想などしていただけるととても嬉しいです。よろしくお願いいたします。
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

戦国記 因幡に転移した男

山根丸
SF
今作は、歴史上の人物が登場したりしなかったり、あるいは登場年数がはやかったりおそかったり、食文化が違ったり、言語が違ったりします。つまりは全然史実にのっとっていません。歴史に詳しい方は歯がゆく思われることも多いかと存じます。そんなときは「異世界の話だからしょうがないな。」と受け止めていただけると幸いです。 カクヨムにも載せていますが、内容は同じものになります。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...