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第3章 隼人の力、美奈の力
幕間 ~美奈はただ、自身の能力に身を委ねる~
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隼人達がワイバーンと戦っている間。
美奈は咄嗟に吹雪に晒されたネムルさんに取りついた。
美奈は覚醒を経て自身が能力に目覚めている意識はあった。
だがそれが一体どういったものなのか、その全貌は未だ全く掴めてはいない。
先程隼人が恐慌状態になった際も、とにかく隼人を助けたい一心で、必死になった結果と言える。
それは所謂偶然と呼べるような不確かな代物だったのだ。
だから今回ネムルさんの事に関しても、自分がどうにか出来るといった確信は何もないのだ。
ただ一つ言えること。
それはこのまま放っておけば間違いなく死に至るであろう者を目の前にして、ただ何もせず黙ってその命が終える瞬間を見過ごすことなど出来ない。
美奈はそんな優しい性格の持ち主だということであった。
「――お父さんに何をするつもりなの?」
娘のメリーが涙で瞳を潤ませながら美奈に声を掛ける。
その言葉には棘があり、自暴自棄になっている雰囲気すら感じられる。
彼女は目の前の父親がもう助からないということを予期してしまっているように見えた。
ただ終わり行く父をそっとしておいておいてくれと、最期の瞬間に慈悲を求めるようなそんな諦めにも似た感情に思えたのだ。
美奈はそんなメリーを見て、強くそれを否定したい衝動に駆られた。
「諦めないで! 私、何とか出来るかもしれないの!」
想像以上に大きな声が出た。
気持ちが昂っているのか。
こんなにも声を荒げるのは美奈にしては珍しいことだ。
そもそもこのような凄惨な現場に立ち合わせたことも初めてなのだ、そうもなるだろう。
「……かもしれないって……そんな……」
メリーは美奈を見つめる。その瞳には一層の苛立ちが込められていた。
美奈の語気に若干気圧されながらも、その不確かな物言いに戸惑いの気持ちがないと言えば嘘になるのだ。それは嫌悪の感情に直結する。
だがそれでも、余りにも強い美奈のその眼差しに、困惑と嫌悪の気持ちはありつつも、不思議と反発する気持ちが癒えていったのだ。
「メリー、予言の勇者様を信じてみよう。こう言ってくださってるんだ。私達もネムル村長の無事を祈ってみようよ」
後ろに控えて成り行きを見守っていた一人の若者が、彼女の肩に手を置きそう言い聞かせた。
同郷の者の言葉にメリーも幾らか落ち着いたようである。
逡巡した後、やがてこくりと頷くと顔を上げて美奈を見つめた。
「ミナさん、お願いします。どうか父を――父をお救い下さい」
最後は両手を胸の前で強く握り締め、懇願するような視線を送る。
それに応えるように美奈は力強く頷いた。
氷漬けになったネムルさんの前に立ち、彼を抱くようにして目を閉じた。
ひんやりと冷たい氷が肌に凍みる。
それでも彼女はそんな冷たさなどなきもののように、心の中で強く願うのだ。
――――それは祈りに近かった。
目を閉じていると、自身に内包する不思議な力を感じられる。
それは今まで感じたことのない不思議な力だ。
覚醒してからというもの、ずっと美奈の胸に溢れ、揺蕩っていた。
水面のような揺らめきが、確かな熱量を伴って自身に力を与えてくれるような気がしたのだ。
美奈はその力に抗うことなく、素直に身を委ねた。
その素直さが彼女の美徳である。
瞬く間に自身とネムルさんの間に波動のような流れを作り出した。
水面に波紋が満ちるように、川に水が止めどなく流るるように。二人の間に畝りが生まれ、それは温かな光を生み出し、光は徐々にその大きさを増していく。
最後には可視化された光が皆が目を開けていられないほどの眩しさとなり、神々しいまでの光に当てられ村人達は目を背けた。
「なんなの!? この光はっ――」
「――眩しいっ」
数刻の後、光が収まり静寂が訪れた。
「――ワシは……一体?」
「――っ!? お父さんっ!」
沈黙を破ったのは他でもない、朧気な記憶を手繰り寄せるように呟きを漏らすネムルだった。
メリーは彼の無事を目の当たりにするなり彼に飛びついた。
状況は分からずとも、娘の涙に応えるようにネムルさんは彼女の背中をさすってやった。
美奈は温かな親子の包容を、優しく微笑みながら見つめていたのだった。
美奈は咄嗟に吹雪に晒されたネムルさんに取りついた。
美奈は覚醒を経て自身が能力に目覚めている意識はあった。
だがそれが一体どういったものなのか、その全貌は未だ全く掴めてはいない。
先程隼人が恐慌状態になった際も、とにかく隼人を助けたい一心で、必死になった結果と言える。
それは所謂偶然と呼べるような不確かな代物だったのだ。
だから今回ネムルさんの事に関しても、自分がどうにか出来るといった確信は何もないのだ。
ただ一つ言えること。
それはこのまま放っておけば間違いなく死に至るであろう者を目の前にして、ただ何もせず黙ってその命が終える瞬間を見過ごすことなど出来ない。
美奈はそんな優しい性格の持ち主だということであった。
「――お父さんに何をするつもりなの?」
娘のメリーが涙で瞳を潤ませながら美奈に声を掛ける。
その言葉には棘があり、自暴自棄になっている雰囲気すら感じられる。
彼女は目の前の父親がもう助からないということを予期してしまっているように見えた。
ただ終わり行く父をそっとしておいておいてくれと、最期の瞬間に慈悲を求めるようなそんな諦めにも似た感情に思えたのだ。
美奈はそんなメリーを見て、強くそれを否定したい衝動に駆られた。
「諦めないで! 私、何とか出来るかもしれないの!」
想像以上に大きな声が出た。
気持ちが昂っているのか。
こんなにも声を荒げるのは美奈にしては珍しいことだ。
そもそもこのような凄惨な現場に立ち合わせたことも初めてなのだ、そうもなるだろう。
「……かもしれないって……そんな……」
メリーは美奈を見つめる。その瞳には一層の苛立ちが込められていた。
美奈の語気に若干気圧されながらも、その不確かな物言いに戸惑いの気持ちがないと言えば嘘になるのだ。それは嫌悪の感情に直結する。
だがそれでも、余りにも強い美奈のその眼差しに、困惑と嫌悪の気持ちはありつつも、不思議と反発する気持ちが癒えていったのだ。
「メリー、予言の勇者様を信じてみよう。こう言ってくださってるんだ。私達もネムル村長の無事を祈ってみようよ」
後ろに控えて成り行きを見守っていた一人の若者が、彼女の肩に手を置きそう言い聞かせた。
同郷の者の言葉にメリーも幾らか落ち着いたようである。
逡巡した後、やがてこくりと頷くと顔を上げて美奈を見つめた。
「ミナさん、お願いします。どうか父を――父をお救い下さい」
最後は両手を胸の前で強く握り締め、懇願するような視線を送る。
それに応えるように美奈は力強く頷いた。
氷漬けになったネムルさんの前に立ち、彼を抱くようにして目を閉じた。
ひんやりと冷たい氷が肌に凍みる。
それでも彼女はそんな冷たさなどなきもののように、心の中で強く願うのだ。
――――それは祈りに近かった。
目を閉じていると、自身に内包する不思議な力を感じられる。
それは今まで感じたことのない不思議な力だ。
覚醒してからというもの、ずっと美奈の胸に溢れ、揺蕩っていた。
水面のような揺らめきが、確かな熱量を伴って自身に力を与えてくれるような気がしたのだ。
美奈はその力に抗うことなく、素直に身を委ねた。
その素直さが彼女の美徳である。
瞬く間に自身とネムルさんの間に波動のような流れを作り出した。
水面に波紋が満ちるように、川に水が止めどなく流るるように。二人の間に畝りが生まれ、それは温かな光を生み出し、光は徐々にその大きさを増していく。
最後には可視化された光が皆が目を開けていられないほどの眩しさとなり、神々しいまでの光に当てられ村人達は目を背けた。
「なんなの!? この光はっ――」
「――眩しいっ」
数刻の後、光が収まり静寂が訪れた。
「――ワシは……一体?」
「――っ!? お父さんっ!」
沈黙を破ったのは他でもない、朧気な記憶を手繰り寄せるように呟きを漏らすネムルだった。
メリーは彼の無事を目の当たりにするなり彼に飛びついた。
状況は分からずとも、娘の涙に応えるようにネムルさんは彼女の背中をさすってやった。
美奈は温かな親子の包容を、優しく微笑みながら見つめていたのだった。
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小説家になろうにて4年以上連載中の作品です。https://ncode.syosetu.com/n2034ey/続きが気になる方はこちらでも読めますのでどうぞ。ブクマや感想などしていただけるととても嬉しいです。よろしくお願いいたします。
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