私のわがままな異世界転移

とみQ

文字の大きさ
上 下
42 / 135
第3章 隼人の力、美奈の力

39

しおりを挟む
「今……私に近づかないっ……でくれっ……!」

  絞り出すように声を出す。私はそう叫ぶので精一杯だった。

「ごばあああっ……」

  その拍子に胸が張り裂けんばかりに苦しくなる。
  前につんのめった私は、耐えきれずに地面に盛大に吐いた。
  吐瀉物(としゃぶつ)の臭いに目眩(めまい)がする。

「一体どういうこと!?」

「わかんねえっ!  わかんねえけどさっきの魔族に攻撃したらこうなった!」

「隼人くん!  しっかりして!  今度は私が助けるからっ!」 

  誰が、何を言っているのかも最早理解出来ない。
  言葉が言葉では無いように感じ、くらくらする意識の中、最早心は砕け散っているのではないだろうか。何も考えられない。
  そんな最中、誰かが私の体を包んで強く強く抱き締めてきた。
  その温かさが更に心を逆撫でする。
  苛立ちでざわめいて、逆上してしまいそうになる。
  何もかもを壊してしまいたくてもう自分ではどうしようもないのだ。こんな苦しみ、とてもではないが耐えられない。
  駄目だ……もう……壊れる……。

「…………っ!  …………っ!!」

  何も聞こえない。
  私は深い闇の中に横たわり、宇宙の深淵にただ一人取り残されたようだ。
  意識があるのか無いのか、今この時、私は思考しているのか。何の判別もつけられない。つけたくない。
  ただ何も無い、無の空間に私自身溶け込んでしまったかのようだ。

「…………っ!  …………っ!」

  ――遠くで何かが、聞こえる。
  ――私は……。

「隼人くんっ!」

「っ!!!  ……がっ……がはあっ!!」

  私は肩で荒い息をしながらぜえぜえと呼吸を繰り返した。
  無理矢理現実に引き戻されたかのような感覚。そして再びの苦しみ。
  もしかしたら束の間、息すらしていなかったのかもしれない。
  ぼやけた視界が段々とその鮮明さを取り戻していき、その先に椎名と工藤の青ざめた顔があった。
  そして次に私を包み込む温かな温もりに気づく。
  甘い匂いが鼻腔をくすぐり、その柔らかさに妙な安堵感を覚える。
  それと同時に、どす黒い悪意がぶしゅぶしゅと醜悪な音を立てながら潰れていっているような感覚があった。
  やがて少しずつではあるが確かに闇はその大きさを、領域を狭められるように縮小されていく。
  心に温かな火が灯っていくように、少しずつ楽になっていく。

「隼人くん!  ごめんね!  側にいられなくて!  ……隼人くん!  私も、あなたを守ってみせるから!」

  懐かしい声が耳に届いて、この温もりが美奈なのだということを理解する。
  彼女の想いが、叫びが。黒く染まった心を白く染め上げていくように、本来の私をこの世界に呼び戻したのだ。

「……み……な……」

「隼人くんっ!?」

  名前を呼ばれたことで美奈が私の顔を仰ぎ見る。
  そこで私が正気に戻ったのを悟ったようだった。

「良かった……私……」

  その表情は涙でぐしゃぐしゃで、笑おうとしたようだったがうまく笑えず、更に大粒の涙がぼろぼろと溢れた。

「隼人くんっ!!」

  美奈はそのか細い腕で力一杯私を抱き締めた。
  震える肩を私も両腕で包み込む。

「美奈……ありがとう」

「ううん……私こそ……守ってくれて……ありがとう」

  私を胸に抱きながら何度も頷く美奈。
  今更ながらようやく彼女を救い出せたのだと思う。
  安堵の気持ちが胸に去来して、大きなため息が溢れた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

ヘリオンの扉

ゆつみかける
ファンタジー
見知らぬ森で目覚める男。欠落した記憶。罪人と呼ばれる理由。目覚め始める得体のしれない力。縁もゆかりもない世界で、何を得て何を失っていくのか。チート・ハーレム・ざまあ無し。苦しみに向き合い、出会った人々との絆の中で強くなっていく、そんな普通の異世界冒険譚。 ・第12回ネット小説大賞 一次選考通過 ・NolaブックスGlanzの注目作品に選ばれました。 2024.12/06追記→読みやすくなるように改稿作業中です。現在43話まで終了、続きも随時進めていきます。(設定や展開の変更はありません、一度読んだ方が読み直す必要はございません) ⚠Unauthorized reproduction or AI learnin.

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

処理中です...