18 / 135
第2章 覚醒
16
しおりを挟む
私は朝目覚める時、決して目覚まし時計の音で目覚めるということはない。
何故かいつも目覚ましが鳴る五分前には一度目が覚めてしまうのだ。
それから時間を確認して、目覚ましのアラームを解除して、ベッドから出て窓の外の景色を眺める。そんな一日の始まりを幾度となく繰り返してきた。
しかし今日は目を覚ますと、見慣れない木製の天井があった。
実を言うと、この世界には時計というものはあるのだが、目覚まし時計というものはない。
それでも私は、やはり起きようと思っていた時間のきっちり五分前に目覚めた。
時刻は五時五十五分だ。こちらの世界では五の時、五十五分と言うらしいが。
半身を起き上がらせ周りを見ると、美奈、椎名と工藤がそれぞれベッドとソファーに眠っていた。
「……ん。……隼人くん、起きたの?」
椎名が一早く気づいて起き上がり、声を掛けてくる。
まだ少し眠いのか、胡乱(うろん)げな表情で目を擦っている。
そんな彼女は高校三年生とはいえ、まだあどけない少女のような可憐さも残しているように思えた。
しかしこんな簡単に起き出すとは、やはり感覚が鋭い分少しの変化にも敏感に反応してしまうのだろうか。
「……ああ。椎名、おはよう」
「うん。おはよう」
椎名は肩口をはだけさせて、それでもそんな事はお構い無しという風に笑顔をこちらに向けてくる。
その表情がいつもの彼女とは違い扇情的な雰囲気を醸し出しているようでかなり目のやり場に困ってしまった。
「あ、ちょっと……」
そう言い彼女は部屋の外へ。
パタンと小気味よい音がして扉がしまった。
私は何かあるのかとのそりとベッドから降り、椎名の後を追おうと立ち上がる。一体朝から何だと言うのだ。
体は、少し重かった。疲れはそこまで取れてはいなさそうだ。
ふと斜めに目を逸らすと美奈の苦しそうな顔が視界に入る。
そういえば昨日は彼女を背負い山を下ったのだ。
手足の痛みの原因に思い当たり、だがそれについては別段嫌な気はしなかった。
私は美奈と未だ眠りこける工藤を部屋に残し、椎名の後を追うべく扉を開けた。
廊下に出ると彼女の姿はなかった。
斜め向かいにもう一つ部屋がある。
もしかしたらそこで私が来るのを待っているのかと思う。
朝から話とは一体どういった了見か。
私はおもむろに扉に手をかけ、カチャリと奥へと押し開けた。
「……は?」
「は?」
椎名はそこに、いた。
今の間抜けな声は椎名本人と私自身のものだ。
目が合うとお互いに固まってしまったのだ。
なぜならそこには着替えのために部屋を移動した椎名の姿。
上着に手をかけ、白いお腹周りの素肌と胸には白い絹の下着、いわゆるブラジャーがおもいっきり覗いていたのだ。
「ばっ……ばかあ~~~~~~っ!!!」
顔を真っ赤にした椎名の怒号が、早朝の村長さんの家に響き渡ったのだ。
今更ながらに気づいた。
椎名は始めから私を呼んでなどいない。
ちょっと席を外すと言いたかっただけなのだ。
それをのこのこ後からついてきて、何とも滑稽なことだ。
こちらの世界に来て初めての朝は、とんだ勘違いで幕を開けたようだ。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
一時間程して支度を済ませ、私達は村長達に見送られいよいよ洞窟を目指す。
「気をつけてな。護衛なども用意してやれんで申し訳ない。わしらも自分たちのことで精一杯じゃて」
わざわざこんな朝早くから村の入り口まで来てくれて、最後まで本当にありがたかった。
村長の優しさが目に沁みて、またここに戻ってくる意思を固める。
「いえ。武器も持たせて頂きましたし、食料まで用意して頂いて、本当に感謝です。後は自分達で何とかしてみせます。なので美奈の事、よろしく頼みます」
一礼すると村長は私の肩にそっと手を置いた。
「ああ、任せておけ」
彼の手は温かくて、笑顔は優しくて。
この異世界に来て初めて出逢う人がこの人で本当に良かったと思える。
「ハヤト殿、ただ一つだけ言うておく。命を粗末にするんじゃないぞ? 人助けも命あってのものじゃ。ミナ殿もそこまでされることを望まんじゃろうて」
引き結んだ唇から彼の心配の度合いが伺える。
本当にありがたい。
だが私は何があろうと美奈を救う。
もちろん命を粗末にするつもりなど毛頭ないが、彼女を助けるために自分が傷つくことは厭わないつもりだ。
「はい……。夜までには戻りますので」
私たちはネムルさんを始め、村の人々に見送られながら1日ぶりに村の外へと出た。
踏みしめる大地は枯れ葉に覆われて、柔らかい。
顔を上げると針葉樹が針山のように高々とそびえ立っている。
少しだけ身震いがした。
私は力強く足を前へと踏み出した。カサカサと歯が擦れる音が耳に届き、ごくりと唾を飲み込む。
「よしっ! 行くかっ!」
前を歩く工藤が元気よく拳を打ちつけた。
それが今はすごく心強く感じられる。
「隼人くん」
ポンと背中を後ろから叩かれて、私を追い抜いていく。
「えっち」
言葉とは裏腹に、顔を上げた隙に見えた椎名の横顔がとても緊張しているように感じられた。
「朝から得したのだ」
「む……バカ」
そう毒づいた椎名は私の前をすたすたと歩いていく。その歩調はかなり速い。
「椎名、あんまり急ぐなよっ」
「分かってるわよっ、工藤くんのあほっ」
「え~~~~」
日差しは暖かく、天気は快晴と言っていいほどに澄み渡っている。
緊張など当たり前だ。油断するよりずっといい。
私は両の拳に力を込めて先ほどより更に強く足を踏み出した。
さあ、いよいよ出発だ――。
何故かいつも目覚ましが鳴る五分前には一度目が覚めてしまうのだ。
それから時間を確認して、目覚ましのアラームを解除して、ベッドから出て窓の外の景色を眺める。そんな一日の始まりを幾度となく繰り返してきた。
しかし今日は目を覚ますと、見慣れない木製の天井があった。
実を言うと、この世界には時計というものはあるのだが、目覚まし時計というものはない。
それでも私は、やはり起きようと思っていた時間のきっちり五分前に目覚めた。
時刻は五時五十五分だ。こちらの世界では五の時、五十五分と言うらしいが。
半身を起き上がらせ周りを見ると、美奈、椎名と工藤がそれぞれベッドとソファーに眠っていた。
「……ん。……隼人くん、起きたの?」
椎名が一早く気づいて起き上がり、声を掛けてくる。
まだ少し眠いのか、胡乱(うろん)げな表情で目を擦っている。
そんな彼女は高校三年生とはいえ、まだあどけない少女のような可憐さも残しているように思えた。
しかしこんな簡単に起き出すとは、やはり感覚が鋭い分少しの変化にも敏感に反応してしまうのだろうか。
「……ああ。椎名、おはよう」
「うん。おはよう」
椎名は肩口をはだけさせて、それでもそんな事はお構い無しという風に笑顔をこちらに向けてくる。
その表情がいつもの彼女とは違い扇情的な雰囲気を醸し出しているようでかなり目のやり場に困ってしまった。
「あ、ちょっと……」
そう言い彼女は部屋の外へ。
パタンと小気味よい音がして扉がしまった。
私は何かあるのかとのそりとベッドから降り、椎名の後を追おうと立ち上がる。一体朝から何だと言うのだ。
体は、少し重かった。疲れはそこまで取れてはいなさそうだ。
ふと斜めに目を逸らすと美奈の苦しそうな顔が視界に入る。
そういえば昨日は彼女を背負い山を下ったのだ。
手足の痛みの原因に思い当たり、だがそれについては別段嫌な気はしなかった。
私は美奈と未だ眠りこける工藤を部屋に残し、椎名の後を追うべく扉を開けた。
廊下に出ると彼女の姿はなかった。
斜め向かいにもう一つ部屋がある。
もしかしたらそこで私が来るのを待っているのかと思う。
朝から話とは一体どういった了見か。
私はおもむろに扉に手をかけ、カチャリと奥へと押し開けた。
「……は?」
「は?」
椎名はそこに、いた。
今の間抜けな声は椎名本人と私自身のものだ。
目が合うとお互いに固まってしまったのだ。
なぜならそこには着替えのために部屋を移動した椎名の姿。
上着に手をかけ、白いお腹周りの素肌と胸には白い絹の下着、いわゆるブラジャーがおもいっきり覗いていたのだ。
「ばっ……ばかあ~~~~~~っ!!!」
顔を真っ赤にした椎名の怒号が、早朝の村長さんの家に響き渡ったのだ。
今更ながらに気づいた。
椎名は始めから私を呼んでなどいない。
ちょっと席を外すと言いたかっただけなのだ。
それをのこのこ後からついてきて、何とも滑稽なことだ。
こちらの世界に来て初めての朝は、とんだ勘違いで幕を開けたようだ。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
一時間程して支度を済ませ、私達は村長達に見送られいよいよ洞窟を目指す。
「気をつけてな。護衛なども用意してやれんで申し訳ない。わしらも自分たちのことで精一杯じゃて」
わざわざこんな朝早くから村の入り口まで来てくれて、最後まで本当にありがたかった。
村長の優しさが目に沁みて、またここに戻ってくる意思を固める。
「いえ。武器も持たせて頂きましたし、食料まで用意して頂いて、本当に感謝です。後は自分達で何とかしてみせます。なので美奈の事、よろしく頼みます」
一礼すると村長は私の肩にそっと手を置いた。
「ああ、任せておけ」
彼の手は温かくて、笑顔は優しくて。
この異世界に来て初めて出逢う人がこの人で本当に良かったと思える。
「ハヤト殿、ただ一つだけ言うておく。命を粗末にするんじゃないぞ? 人助けも命あってのものじゃ。ミナ殿もそこまでされることを望まんじゃろうて」
引き結んだ唇から彼の心配の度合いが伺える。
本当にありがたい。
だが私は何があろうと美奈を救う。
もちろん命を粗末にするつもりなど毛頭ないが、彼女を助けるために自分が傷つくことは厭わないつもりだ。
「はい……。夜までには戻りますので」
私たちはネムルさんを始め、村の人々に見送られながら1日ぶりに村の外へと出た。
踏みしめる大地は枯れ葉に覆われて、柔らかい。
顔を上げると針葉樹が針山のように高々とそびえ立っている。
少しだけ身震いがした。
私は力強く足を前へと踏み出した。カサカサと歯が擦れる音が耳に届き、ごくりと唾を飲み込む。
「よしっ! 行くかっ!」
前を歩く工藤が元気よく拳を打ちつけた。
それが今はすごく心強く感じられる。
「隼人くん」
ポンと背中を後ろから叩かれて、私を追い抜いていく。
「えっち」
言葉とは裏腹に、顔を上げた隙に見えた椎名の横顔がとても緊張しているように感じられた。
「朝から得したのだ」
「む……バカ」
そう毒づいた椎名は私の前をすたすたと歩いていく。その歩調はかなり速い。
「椎名、あんまり急ぐなよっ」
「分かってるわよっ、工藤くんのあほっ」
「え~~~~」
日差しは暖かく、天気は快晴と言っていいほどに澄み渡っている。
緊張など当たり前だ。油断するよりずっといい。
私は両の拳に力を込めて先ほどより更に強く足を踏み出した。
さあ、いよいよ出発だ――。
0
小説家になろうにて4年以上連載中の作品です。https://ncode.syosetu.com/n2034ey/続きが気になる方はこちらでも読めますのでどうぞ。ブクマや感想などしていただけるととても嬉しいです。よろしくお願いいたします。
お気に入りに追加
43
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

戦国記 因幡に転移した男
山根丸
SF
今作は、歴史上の人物が登場したりしなかったり、あるいは登場年数がはやかったりおそかったり、食文化が違ったり、言語が違ったりします。つまりは全然史実にのっとっていません。歴史に詳しい方は歯がゆく思われることも多いかと存じます。そんなときは「異世界の話だからしょうがないな。」と受け止めていただけると幸いです。
カクヨムにも載せていますが、内容は同じものになります。

異世界無宿
ゆきねる
ファンタジー
運転席から見た景色は、異世界だった。
アクション映画への憧れを捨て切れない男、和泉 俊介。
映画の影響で筋トレしてみたり、休日にエアガンを弄りつつ映画を観るのが楽しみな男。
訳あって車を購入する事になった時、偶然通りかかったお店にて運命の出会いをする。
一目惚れで購入した車の納車日。
エンジンをかけて前方に目をやった時、そこは知らない景色(異世界)が広がっていた…
神様の道楽で異世界転移をさせられた男は、愛車の持つ特別な能力を頼りに異世界を駆け抜ける。
アクション有り!
ロマンス控えめ!
ご都合主義展開あり!
ノリと勢いで物語を書いてますので、B級映画を観るような感覚で楽しんでいただければ幸いです。
不定期投稿になります。
投稿する際の時間は11:30(24h表記)となります。
【書籍化進行中、完結】私だけが知らない
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる