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ネストの村編 第1章 変わる日常
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「……ふう。なんとかなったみたいね」
「……いや……圧勝だろ」
短く息を吐く椎名。
冷や汗を浮かべた工藤が、震えた声で呟くように声を漏らす。
そこには少なからず怯えのような色も混じっているように感じられた。
そんな工藤の態度も正直分からなくはない。
確かに今の椎名は凄まじかった。
私達の知っている彼女とはまるで別人だと思える程に。
「まあ結果的にはね。とにかくこれで村までの懸念はなくなったわよ? 行きましょ? ――て、あれ――?」
今まで平然と喋っていた椎名の膝が突然折れて、ガクッとその場にへたりこむ。
そのまま彼女の膝が震えだした。
「な……なんか、私――安心しちゃったら……急に力が抜けちゃったみたい……」
彼女の顔を見れば瞳からは一筋の涙が零れていた。
その直後から身体が戦慄(わなな)き小刻みに震え始める。
瞳からは瓦解したようにぽろぽろと大粒の涙が溢れては流れ落ちていく。
「椎名っ!」
工藤が慌てて椎名に駆け寄り両手を握る。
「う……ああああ……」
椎名は顔を歪めながら俯き声を上げた。
私は先程彼女に抱いた感情に強く後悔した。
何が別人だと思えるだ。椎名は椎名だ。
普通の高校生の女の子で、私や工藤なんかよりずっとか弱くて脆い。
「マジでありがとなっ! お前がいなかったら俺たち今頃どうなってたか」
「――怖かったっ! 私っ、……とにかく必死でっ……!」
「うんっ、分かってる! すまねえ椎名!」
「うわああああっ!!!」
椎名は大粒の涙を流しながらそのまま工藤の胸にコツンと倒れ込み、慟哭した。
震えは一向に治まらず、彼女の頬をたくさんの涙が伝う。
工藤はしばらくの間、彼女が落ち着くまで背中をぽんぽんと叩いてやっていた。
嘘みたいだが、やはりこれは現実なのだ。しっかりと受け止めなければ。そして覚悟を決めなければ。
世界は私達の心の有り様などお構いなしに様々なものを奪い去っていくに違いない。
そうならないように。そうならないために、まずは私達が生きていくことを考えるのだ。
そう思いながら、顔を上げ前を向く。
「――??」
不意に視界にさっきの魔物二体の亡骸がある場所が目に入った。
だがそこに魔物の姿はもうない。消え去っていたのだ。
代わりに魔物が倒れていた場所には宝石のようにキラキラと輝く石が幾つか落ちていた。
私はそこに歩みより、手に取ってみる。
それは赤い長さ十センチほどの縦長の宝石であった。
合計二つ。一体につき一つという事だろう。
「どうした隼人?」
振り向くと、工藤と椎名が並んでこちらを見ていた。
椎名は少し目を赤く腫らしてはいるが、いつもの調子に戻ったようだ。
その様子に私はホッと胸を撫で下ろす。
「魔物が消えて、代わりにこれが落ちていたのだ」
私はその石を二人に見せた。
工藤はふむふむと言いつつ、一人妙に納得した様子だ。
鼻を擦ると得意気な顔をした。
「なるほど。魔物を倒すと現れるドロップアイテムみたいなもんだろ。魔石とかそんな感じじゃねえか?」
魔石。
妙に物知り顔で宣うが、私もそんなことだろうかと思案していたところだ。
工藤のその知識はおそらくゲームなどから来るものなのだろう。
だがその知識もこの世界では満更でもなく、割と役に立つのかもしれない。
「とりあえずそれ、そのまま拾って持っていきましょ? もしかしたらお金になるかもしれないし。ほら、私たち無一文だし」
椎名は笑顔こそ見えないが、普段の調子を戻していた。
それが今は、とても嬉しく感じる。
「うむ、分かったのだ。これぐらいならポケットに入れて持ち運べるしな」
「うん、それは隼人くんが持ってなよ。とにかく日が暮れないうちに村まで急ぎましょ? 村で色々聞ければいいんだけど――って人間の村かもわかんないけどねっ」
「椎名それ、洒落になってないから」
「何よバカ。工藤くんのクセに生意気よ?」
などと言い工藤の肩を小突く椎名であったが、私もさらっと縁起でもないことを言うという感想を抱いた。
確かにここが異世界ならば、さっきの魔物といい、人間以外の種族がいても不思議はないのかもしれない。
「――隼人くん? 行くわよ?」
気がつくと椎名はすでに美奈を抱え、少し前を歩いていく。
「椎名?」
「うん? 何よ」
「――その、大丈夫か?」
「あ、うん。さっきはごめんね? 取り乱しちゃって。……なんか恥ずかしいな……でもさ、もう大丈夫だから」
そう言い彼女はにこやかな笑顔を見せた。
それは何とも頼もしくもあり、同時に危ういとも思ってしまうのだ。
私としては別に少しくらい休憩しても良かったのだが、工藤もそれに次いでいるので素直に後を追うことにした。
そうして私達は再び歩みを進め始めた。
まだまだ何一つ安心出来ることはない。
むしろ不安だらけで、どうにかなってしまいそうだった。
だが、だからといってそんな気持ちに押し潰されたり負けそうになっている場合ではないのだ。
今は少しずつでも前に進む。
それだけを胸に私は息を短く吐き出した。
空を見上げると太陽が大分西に傾いている。いや、ここが地球でない限り、あれが太陽かも分からない。
ましてや太陽が傾く方向が西なのかどうかさえも。
今のこの状況、考えれば考える程不確かな事ばかり。
ならばせめて、友人達とは互いに助け合い、補い合っていきたい。
そんなことを空を見上げながら強く願った。
「……いや……圧勝だろ」
短く息を吐く椎名。
冷や汗を浮かべた工藤が、震えた声で呟くように声を漏らす。
そこには少なからず怯えのような色も混じっているように感じられた。
そんな工藤の態度も正直分からなくはない。
確かに今の椎名は凄まじかった。
私達の知っている彼女とはまるで別人だと思える程に。
「まあ結果的にはね。とにかくこれで村までの懸念はなくなったわよ? 行きましょ? ――て、あれ――?」
今まで平然と喋っていた椎名の膝が突然折れて、ガクッとその場にへたりこむ。
そのまま彼女の膝が震えだした。
「な……なんか、私――安心しちゃったら……急に力が抜けちゃったみたい……」
彼女の顔を見れば瞳からは一筋の涙が零れていた。
その直後から身体が戦慄(わなな)き小刻みに震え始める。
瞳からは瓦解したようにぽろぽろと大粒の涙が溢れては流れ落ちていく。
「椎名っ!」
工藤が慌てて椎名に駆け寄り両手を握る。
「う……ああああ……」
椎名は顔を歪めながら俯き声を上げた。
私は先程彼女に抱いた感情に強く後悔した。
何が別人だと思えるだ。椎名は椎名だ。
普通の高校生の女の子で、私や工藤なんかよりずっとか弱くて脆い。
「マジでありがとなっ! お前がいなかったら俺たち今頃どうなってたか」
「――怖かったっ! 私っ、……とにかく必死でっ……!」
「うんっ、分かってる! すまねえ椎名!」
「うわああああっ!!!」
椎名は大粒の涙を流しながらそのまま工藤の胸にコツンと倒れ込み、慟哭した。
震えは一向に治まらず、彼女の頬をたくさんの涙が伝う。
工藤はしばらくの間、彼女が落ち着くまで背中をぽんぽんと叩いてやっていた。
嘘みたいだが、やはりこれは現実なのだ。しっかりと受け止めなければ。そして覚悟を決めなければ。
世界は私達の心の有り様などお構いなしに様々なものを奪い去っていくに違いない。
そうならないように。そうならないために、まずは私達が生きていくことを考えるのだ。
そう思いながら、顔を上げ前を向く。
「――??」
不意に視界にさっきの魔物二体の亡骸がある場所が目に入った。
だがそこに魔物の姿はもうない。消え去っていたのだ。
代わりに魔物が倒れていた場所には宝石のようにキラキラと輝く石が幾つか落ちていた。
私はそこに歩みより、手に取ってみる。
それは赤い長さ十センチほどの縦長の宝石であった。
合計二つ。一体につき一つという事だろう。
「どうした隼人?」
振り向くと、工藤と椎名が並んでこちらを見ていた。
椎名は少し目を赤く腫らしてはいるが、いつもの調子に戻ったようだ。
その様子に私はホッと胸を撫で下ろす。
「魔物が消えて、代わりにこれが落ちていたのだ」
私はその石を二人に見せた。
工藤はふむふむと言いつつ、一人妙に納得した様子だ。
鼻を擦ると得意気な顔をした。
「なるほど。魔物を倒すと現れるドロップアイテムみたいなもんだろ。魔石とかそんな感じじゃねえか?」
魔石。
妙に物知り顔で宣うが、私もそんなことだろうかと思案していたところだ。
工藤のその知識はおそらくゲームなどから来るものなのだろう。
だがその知識もこの世界では満更でもなく、割と役に立つのかもしれない。
「とりあえずそれ、そのまま拾って持っていきましょ? もしかしたらお金になるかもしれないし。ほら、私たち無一文だし」
椎名は笑顔こそ見えないが、普段の調子を戻していた。
それが今は、とても嬉しく感じる。
「うむ、分かったのだ。これぐらいならポケットに入れて持ち運べるしな」
「うん、それは隼人くんが持ってなよ。とにかく日が暮れないうちに村まで急ぎましょ? 村で色々聞ければいいんだけど――って人間の村かもわかんないけどねっ」
「椎名それ、洒落になってないから」
「何よバカ。工藤くんのクセに生意気よ?」
などと言い工藤の肩を小突く椎名であったが、私もさらっと縁起でもないことを言うという感想を抱いた。
確かにここが異世界ならば、さっきの魔物といい、人間以外の種族がいても不思議はないのかもしれない。
「――隼人くん? 行くわよ?」
気がつくと椎名はすでに美奈を抱え、少し前を歩いていく。
「椎名?」
「うん? 何よ」
「――その、大丈夫か?」
「あ、うん。さっきはごめんね? 取り乱しちゃって。……なんか恥ずかしいな……でもさ、もう大丈夫だから」
そう言い彼女はにこやかな笑顔を見せた。
それは何とも頼もしくもあり、同時に危ういとも思ってしまうのだ。
私としては別に少しくらい休憩しても良かったのだが、工藤もそれに次いでいるので素直に後を追うことにした。
そうして私達は再び歩みを進め始めた。
まだまだ何一つ安心出来ることはない。
むしろ不安だらけで、どうにかなってしまいそうだった。
だが、だからといってそんな気持ちに押し潰されたり負けそうになっている場合ではないのだ。
今は少しずつでも前に進む。
それだけを胸に私は息を短く吐き出した。
空を見上げると太陽が大分西に傾いている。いや、ここが地球でない限り、あれが太陽かも分からない。
ましてや太陽が傾く方向が西なのかどうかさえも。
今のこの状況、考えれば考える程不確かな事ばかり。
ならばせめて、友人達とは互いに助け合い、補い合っていきたい。
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