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ネストの村編 第1章 変わる日常
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「はー! 食べた食べた~!」
椎名は長い足を広げ、お腹をさすりつつ壁にもたれかかった。
ショートパンツ姿なのでスラッとした肉付きのよい生足が伸び、Tシャツの隙間からは白い肌が覗く。
更にはちらちらとおへそなども垣間見えているのだ。視線は自然とそちらに向いてしまうのだ。
そのルックスでそんな隙のある姿を見せつけられて、年頃の男子が気にならないはずがない。
「――いっつっ!?」
そんな矢先、横から美奈に軽く手をつねられてしまう。
彼女を見やると何事もなかったかのように平然とにこやかな表情で紅茶を飲んでいる。
目が合わないのが逆に怖い。
私は俄に戦慄を覚えたが、それをできるだけ顔に出さないよう努めた。
「そ……それではそろそろ勉強を再開するか」
「え~っ!? 早くない!?」
当然抗議の声が上がるがのんびりしていても雑念が入りろくなことはない。
まったりとしてしまわない内に再開してしないと椎名も工藤もどんどんだらけていくだろう。
「もう充分休めたはずなのだ。甘えるな、ほら工藤も」
「ちっ……わあったよ」
「ぶ~。隼人くんのいじわるっ」
膨れっ面で文句を言う椎名にはこれ以上目もくれず、私は内心の冷や汗を隠すように姿勢を正し、机に向かうのだった。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
そこから三十分程経った頃。
再び集中を切らした工藤がだらりとテーブルに突っ伏した。
「うはあ~……もう無理だあ~」
「工藤……まだそう時間は経っていないのだが……」
「隼人、でもよ~。もうずっと今日は勉強しっぱなしじゃねえか。流石に集中も続かねえって。バスケなら話は別だけどなあ~」
確かに休憩を挟みつつとはいえ、朝からずっと勉強しっぱなしなのだ。
普段から勉強する習慣のないものにとって、これは苦行以外の何物でもないだろう。
かといって明日になれば学校が始まるのだ。
そしたら宿題の提出は求められるわけで。
今やらないという選択肢は取れないのだ。少なくとも私が勉強を見ている以上は。
「うむ……まあこうなればとことん付き合ってやるのだ。休憩し終わったら言え」
私は工藤の説得は諦めて、自身の勉学に打ち込むことにする。
やる気がないものをいくらせっついても能率は上がらない。やるしかないという気分になるまで待つだけだ。
「ふう~……しっかし……明日から学校とは、面倒くせ~な~……」
工藤はだらんと机に腕を投げ出して気だるそうに呟いた。
「そうね~……ずっと夏休みならい~のにね~……なんならさ、どこか遠いところへさ、のんびりみんなで旅行、なんかいいよね?」
「おっ、いいなっ。高校生活最後にはよ、卒業旅行でも行きてえよな~」
テーブルに身を投げ出し、シャーペンを放り、ぱたりとその場に倒れ込む椎名に工藤も同意。
――確かにそれは楽しそうだ。
二人の会話を聞きながら私も素直にそう思う。
最早ほんの半年先と迫っている未来に、私もふと想いを馳せる。
この四人で高校生活最後の思い出作りか。
私としても是非とも実現したいものだ。
それはそうなのだが……。この二人の集中力の続かなさといったら……。
本当にしょうがないなと思いつつ、辟易しながら私はふうと溜め息を漏らした――――。
「――――え……?」
突然の出来事に、私は思わず間抜けな声を漏らした。
ふと気がつくと、そこは山の中だった。
鬱蒼と茂る草木。びゅうっ、と強く風が吹き、枯れ葉が舞い上がり私は目を細め顔を覆う。
「…………」
あまりにも唐突過ぎて、一時思考が停止する。
最初に自分自身の姿を確認してみた。
先程部屋にいた時と何ら変わらぬ格好だ。
こんな状態で私はこんな所に一人、佇んでいたのだ。
――何なのだ? これは……一体……??
夢……にしてはあまりにもリアル過ぎる。そう感じる。
ふと足元に視線を向ければ、大量の枯れ葉が敷き詰められていた。
部屋の中にいたのだから当然靴は履いていない、靴下の布地が薄く足を包み込むのみ。
それでもこの一面に敷き詰められた落ち葉のお陰で地べたで動き回るにしても特に支障はなさそうだった。
「……ここは……一体?」
呟きながら周りを見回す。
耳を澄ますと「コトコト」とあまり馴染みのない何かの鳴き声なのか、木に何かを打ちつける音なのか。それが耳朶に飛び込んできた。
思考は完全に置いてきぼりであったというのに、しばらく佇んでいるだけで少しずつ冷静さを取り戻してきている。
今では私の脳はこうして状況を把握しようと努めてくれているのだから、人間の生存本能というべきか、自身の情報処理能力は大したものなのかもしれない。
「――ふう……」
脳に酸素を取り込むように改めて短く深呼吸を入れる。
私はもう一度、先程までの自分自身を思い返してみる。
どう考えても、つい今しがたまで皆で夏休みの宿題をしていた筈だったのだが。
これは悪い夢か?
「おい! 隼人!」
不意に後ろから声が掛かる。
びくりとして振り向くと、そこには工藤の姿が。
茂みを掻き分けこちらへと走ってくる彼の姿を見て、私はほんの少しだけ安堵した。
「隼人っ、一体ここはどこなんだよ!? 俺たち高野の家にいたよな!?」
「う、うむ……」
曖昧な返事が口をついて出る。
工藤も私と同じような所感を抱いているようだ。
私は試しに一度目を閉じ両の瞼にぎゅっと力を込める。しばらくそのままで、再び目を開けてみた。
「何してんだ隼人? 言っとくけどこれは夢じゃねえからなっ!? 俺もここにいるだろーがっ」
当然の結果だ。
もしかして悪い夢なのかと思っての行動だったのだが……ただ工藤に呆れられてしまっただけだった。
工藤の言うことは最もだとは思う。だがこいつは何故こんなにも飲み込みが早いのか。
私と同じように焦りは見えるが、気のせいだろうか。何故かどことなくこの状況を受け入れているように見える。
改めて私は周りに目を向ける。
目の前に広がる光景は見渡す限り草木ばかり。
ここは一体どこなのか。覚えが全くない。初めて訪れる場所――だと思う。
考えれば考える程今この身に起きている現象の説明がつかず、やがて頭で考えるその事自体を放棄したくなってくる。
「きゃあーーーっ!!!」
そんな私の思考を遮るように悲鳴が聞こえた。
この声には聞き覚えがあった。
「おい! 今の高野の声じゃねーか!?」
工藤も私と同じことを思ったようだった。
間違いない。あれは間違いなく美奈の声だ。
そう確信するまでもなく私は駆け出していた。
「工藤! 近いのだっ! とにかく行くぞっ!」
「お、おおっ!!」
心臓が早鐘を打ち始める。
それはこれからに対する不安からか、急に走ったから体がついてこなかったからか。
そんな事はどっちでもいい。
私は自身を鼓舞するように拳を強く握り締め走った。
すぐ後ろには工藤がいる。
美奈も近くにいるのはずだ。
もしかしたら椎名も一緒にいるかもしれない。そうすれば四人無事に合流することは出来るだろう。
その時の私は、そんな安直な事を考えていたような気がする。
この時の私には気づく由も無かっただろう。
これから自身の身に起こる、途方もなく辛く、果てしない未来など。
椎名は長い足を広げ、お腹をさすりつつ壁にもたれかかった。
ショートパンツ姿なのでスラッとした肉付きのよい生足が伸び、Tシャツの隙間からは白い肌が覗く。
更にはちらちらとおへそなども垣間見えているのだ。視線は自然とそちらに向いてしまうのだ。
そのルックスでそんな隙のある姿を見せつけられて、年頃の男子が気にならないはずがない。
「――いっつっ!?」
そんな矢先、横から美奈に軽く手をつねられてしまう。
彼女を見やると何事もなかったかのように平然とにこやかな表情で紅茶を飲んでいる。
目が合わないのが逆に怖い。
私は俄に戦慄を覚えたが、それをできるだけ顔に出さないよう努めた。
「そ……それではそろそろ勉強を再開するか」
「え~っ!? 早くない!?」
当然抗議の声が上がるがのんびりしていても雑念が入りろくなことはない。
まったりとしてしまわない内に再開してしないと椎名も工藤もどんどんだらけていくだろう。
「もう充分休めたはずなのだ。甘えるな、ほら工藤も」
「ちっ……わあったよ」
「ぶ~。隼人くんのいじわるっ」
膨れっ面で文句を言う椎名にはこれ以上目もくれず、私は内心の冷や汗を隠すように姿勢を正し、机に向かうのだった。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
そこから三十分程経った頃。
再び集中を切らした工藤がだらりとテーブルに突っ伏した。
「うはあ~……もう無理だあ~」
「工藤……まだそう時間は経っていないのだが……」
「隼人、でもよ~。もうずっと今日は勉強しっぱなしじゃねえか。流石に集中も続かねえって。バスケなら話は別だけどなあ~」
確かに休憩を挟みつつとはいえ、朝からずっと勉強しっぱなしなのだ。
普段から勉強する習慣のないものにとって、これは苦行以外の何物でもないだろう。
かといって明日になれば学校が始まるのだ。
そしたら宿題の提出は求められるわけで。
今やらないという選択肢は取れないのだ。少なくとも私が勉強を見ている以上は。
「うむ……まあこうなればとことん付き合ってやるのだ。休憩し終わったら言え」
私は工藤の説得は諦めて、自身の勉学に打ち込むことにする。
やる気がないものをいくらせっついても能率は上がらない。やるしかないという気分になるまで待つだけだ。
「ふう~……しっかし……明日から学校とは、面倒くせ~な~……」
工藤はだらんと机に腕を投げ出して気だるそうに呟いた。
「そうね~……ずっと夏休みならい~のにね~……なんならさ、どこか遠いところへさ、のんびりみんなで旅行、なんかいいよね?」
「おっ、いいなっ。高校生活最後にはよ、卒業旅行でも行きてえよな~」
テーブルに身を投げ出し、シャーペンを放り、ぱたりとその場に倒れ込む椎名に工藤も同意。
――確かにそれは楽しそうだ。
二人の会話を聞きながら私も素直にそう思う。
最早ほんの半年先と迫っている未来に、私もふと想いを馳せる。
この四人で高校生活最後の思い出作りか。
私としても是非とも実現したいものだ。
それはそうなのだが……。この二人の集中力の続かなさといったら……。
本当にしょうがないなと思いつつ、辟易しながら私はふうと溜め息を漏らした――――。
「――――え……?」
突然の出来事に、私は思わず間抜けな声を漏らした。
ふと気がつくと、そこは山の中だった。
鬱蒼と茂る草木。びゅうっ、と強く風が吹き、枯れ葉が舞い上がり私は目を細め顔を覆う。
「…………」
あまりにも唐突過ぎて、一時思考が停止する。
最初に自分自身の姿を確認してみた。
先程部屋にいた時と何ら変わらぬ格好だ。
こんな状態で私はこんな所に一人、佇んでいたのだ。
――何なのだ? これは……一体……??
夢……にしてはあまりにもリアル過ぎる。そう感じる。
ふと足元に視線を向ければ、大量の枯れ葉が敷き詰められていた。
部屋の中にいたのだから当然靴は履いていない、靴下の布地が薄く足を包み込むのみ。
それでもこの一面に敷き詰められた落ち葉のお陰で地べたで動き回るにしても特に支障はなさそうだった。
「……ここは……一体?」
呟きながら周りを見回す。
耳を澄ますと「コトコト」とあまり馴染みのない何かの鳴き声なのか、木に何かを打ちつける音なのか。それが耳朶に飛び込んできた。
思考は完全に置いてきぼりであったというのに、しばらく佇んでいるだけで少しずつ冷静さを取り戻してきている。
今では私の脳はこうして状況を把握しようと努めてくれているのだから、人間の生存本能というべきか、自身の情報処理能力は大したものなのかもしれない。
「――ふう……」
脳に酸素を取り込むように改めて短く深呼吸を入れる。
私はもう一度、先程までの自分自身を思い返してみる。
どう考えても、つい今しがたまで皆で夏休みの宿題をしていた筈だったのだが。
これは悪い夢か?
「おい! 隼人!」
不意に後ろから声が掛かる。
びくりとして振り向くと、そこには工藤の姿が。
茂みを掻き分けこちらへと走ってくる彼の姿を見て、私はほんの少しだけ安堵した。
「隼人っ、一体ここはどこなんだよ!? 俺たち高野の家にいたよな!?」
「う、うむ……」
曖昧な返事が口をついて出る。
工藤も私と同じような所感を抱いているようだ。
私は試しに一度目を閉じ両の瞼にぎゅっと力を込める。しばらくそのままで、再び目を開けてみた。
「何してんだ隼人? 言っとくけどこれは夢じゃねえからなっ!? 俺もここにいるだろーがっ」
当然の結果だ。
もしかして悪い夢なのかと思っての行動だったのだが……ただ工藤に呆れられてしまっただけだった。
工藤の言うことは最もだとは思う。だがこいつは何故こんなにも飲み込みが早いのか。
私と同じように焦りは見えるが、気のせいだろうか。何故かどことなくこの状況を受け入れているように見える。
改めて私は周りに目を向ける。
目の前に広がる光景は見渡す限り草木ばかり。
ここは一体どこなのか。覚えが全くない。初めて訪れる場所――だと思う。
考えれば考える程今この身に起きている現象の説明がつかず、やがて頭で考えるその事自体を放棄したくなってくる。
「きゃあーーーっ!!!」
そんな私の思考を遮るように悲鳴が聞こえた。
この声には聞き覚えがあった。
「おい! 今の高野の声じゃねーか!?」
工藤も私と同じことを思ったようだった。
間違いない。あれは間違いなく美奈の声だ。
そう確信するまでもなく私は駆け出していた。
「工藤! 近いのだっ! とにかく行くぞっ!」
「お、おおっ!!」
心臓が早鐘を打ち始める。
それはこれからに対する不安からか、急に走ったから体がついてこなかったからか。
そんな事はどっちでもいい。
私は自身を鼓舞するように拳を強く握り締め走った。
すぐ後ろには工藤がいる。
美奈も近くにいるのはずだ。
もしかしたら椎名も一緒にいるかもしれない。そうすれば四人無事に合流することは出来るだろう。
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