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後悔できない立ち位置

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「おはようございます。面倒なので詳しいことは省きますが、財政難です。なので交易ができる船を操縦できる人、できれば船付きを至急探してきてください。それでは日課のハチミツがありますのでこれで。」

 歓迎パーティー翌朝、マクシムは俺の部屋に入ってきたかと思えば急にそんなことを言って去って行った。あまりのスピード感と一方的すぎる状況に俺は何も返せず、ただ言いたいことだけ言って去っていったマクシムの背中を見送っただけ。
 財政難という割には食材でも売れば当分なんとかなるのでは、とかどこに行けばいいか目星はあるかとか聞きたいことはたくさんある。たくさんあるがもう姿が見えないし、諦めてリーナたちを呼んで作戦会議をした方が良さそうだ。

(大体なんだよ、日課のハチミツって……)

 思わず長めのため息を吐きながら部屋を出た。




「というわけで交易商、できれば船付きを見つけに行かないといけないんだがどこに向かうのがいいだろうか。あと防衛設備に詳しい奴も欲しいな。」

「お姉さんだったらコリエンテにもう一度向かうわね~。あそこなんて思いっきり交易の街だもの。」

 ソフィアの提案にそれもそうか、と納得する。それと同時にちょっと前のことなのにすっかりコリエンテを忘れていた自分が少し恥ずかしい。
 確かに前回行ったときも交易船が多くとまっていたし、ヒンメルの船にさえ気をつければあそこほど交易商探しにうってつけのところはないだろう。

「オレ的にもコリエンテはもう一度行きたいなー! あそこの焼き魚美味かったし。てか防衛設備の方はそれこそアドラーとかアリーチェ何か知ってねぇの?」

「知ってたらここにいねぇでとっとと皇帝暗殺計画遂行してんだよ。つまりそういうことだ。」

「わたくしも同じですわ。暗殺部隊ですし、兵器に縁はありませんでしたから。」

 それもそうだ。ヒンメルに対抗できる術を知っているなら知った時点で過去の俺たちが実践していたはず。それをしていないどころか、ここでどうしようか悩んでいる時点で何も手掛かりはないということ。
 軍内部にいた人間が知らないとなればもう兵器オタクとか発明の天才とか、もしくは兵器なしで勝てる戦略を考えることができる軍師を探すしかない。
 そう、今まで大きな戦いをしていないせいで気づかなかったが、リベラシオンには軍師がいない。この先戦っていくには必ず必要となるであろう人物がまだいないのはかなりまずい状況だろう。

「じゃあ軍師はどうだ? どこかに腕の良い軍師がいるとかいう噂を知ってたりはしないか?」

「腕の良い軍師ねぇ……。俺の部隊は俺の指揮で動いてたし、そういうのもあんまり知らねぇんだよなぁ。」

「そうか……。」

 せめて軍師だけでも、と思ったがそうもいかないらしい。いくら一部隊を率いていたとはいえ、自分たちに関係ないことはやはりそう簡単に情報を手に入れることはできないのだろう。
 ひとまずは交易商だけでも探しに行くか、と立ちあがろうとしたとき、アリーチェが複雑そうな声色で話し出した。

「3年前のアゲート、リンドブルム、そしてヒンメルの3カ国で勃発した大戦争。当時も軍事国家とはいえ、ヒンメルは優秀な軍師がいなかったばかりに宝の持ち腐れ状態でアゲートとリンドブルムに負けてましたわ。一瞬でその戦況をひっくり返し、ヒンメルを勝利へと導いた軍師。その人でよければ知ってますわ。」

 アリーチェのその言葉に思い当たることがあったのかアドラーが頭をかきながら反応する。

「あの時は俺は暗殺部隊で動いてたから直接のやり取りはなかったが、そういや確かに急激に流れが変わったな。ま、俺には関係なかったんで詳しくは知らねぇが。」

「わたくしはあの戦争中は最高司令官であるお父様のご機嫌取りをさせられていましたから。新しい軍師だと紹介されてからほぼ毎日一緒にいましたわ。ですから腕の良さだけは超一流なのは確かです。ただ性格がたまにちょっとアレなときがあるくらいで……。でも頼めばやってくださると思いますわ!」

 性格がちょっとアレというのがどういうものか気になるが、戦況を覆した実績があるならぜひともお願いしたいところだ。今はこの拠点になんの防衛設備もないし、攻められたときにどうすればいいかの最適解を導けるなら本当にありがたい。

「性格がちょっとアレは気になるがそうも言ってられないし、その人に軍師をお願いしよう。どこにいるかわかるか?」

 そう聞くとアリーチェはさらに複雑そうな顔をしながらこちらを見た。

「後ろにいますわ。フィン、あなたの。」

「は?」

 予想外の言葉に驚くも慌てて後ろを振り返る。するとそこには大量のハチミツを抱えたマクシムの姿があった。

「え、いや、え? まさか、マクシムが?」

 思わず困惑して問いかけると、アリーチェは静かに頷いた。それと同時にマクシムはやれやれとハチミツを机に置いて俺の隣に座る。

「アリーチェお嬢様、なんで言っちゃうんですか。楽しようと思ってたから言わなかったというのに。」

「わたくしの知っている中だとあなた以上の軍師はおりませんから。」

 そういうアリーチェにマクシムは複雑そうな表情を浮かべる。この2人にとってこの話題はどうもスッキリとしたものではないらしい。
 過去のその戦争での出来事がそうさせるのか、それとも何か2人の中で秘密があるのかはわからないが、俺としてはぜひともマクシムに引き受けてもらいたいところだ。そうすれば他に探さなくて済むし、性格がちょっとアレというのもハチミツに対して異常な執着があるということだろうから安心だ。

「マクシム、軍師を頼まれてくれないか。俺としてもマクシムがやってくれるととても嬉しい。」

「……正直あまり乗り気になれません。軍師はいついかなるときもそれが最善だったと言い張らないといけません。しかしわたしはもう言い張るのに疲れてしまった。どの最善であっても人が死ぬことに変わりはないですから。」

 そう言うとマクシムは俯いて口を閉じた。軍師の策で動く以上責任は重大で、それは恐らく想像以上に重くのしかかるんだろう。
 それでもマクシムはここにいる。戦うという行為そのものからは逃げていない。だから俺は信じたい。リベラシオンを勝利へ導く策を練ってくれると。

「オレもマクシムがいいなー。軍師ってやっぱ何かとやりとりするしさ、オレたちと合う合わないってスゲェ大事だと思うんだよね。ハチミツ毎食食って良いから頼む!」

「その点マクシムなら安心だもんね! シンティアとマクシムはハチミツ同盟があるし! あ、このハチミツ美味しかったよほらマクシムも食べよ!」

「マクシム、わたくしからもお願いしますわ。ハチミツデザートまたたくさんお作りしますから!」

「……。わかりました。できる限り犠牲は出さないよう頑張りますが、それも限度があるということだけはご了承ください。」

 みんなの必死の説得、と言う名のハチミツでの釣りにマクシムは折れてくれたようだ。ひとまずはこれで軍師の件は一件落着でいいだろう。

(あとはコリエンテで交易商探しだな。うまく見つかると良いが……)

 こればかりはなんとかうまくいくことを願うしかない。今までだってなんとかなってきた、きっと大丈夫だ。
 そう俺は自分に言い聞かせてコリエンテに思いを馳せた。もう少ししたら出発だ。
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