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その瞬間を永遠に

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「では気を取り直してヒラソルに向かいたいんだが……。聞いてるかおまえら。」

 一夜明けて出発の準備をしながら俺はみんなに問いかけた。というのも朝からずっととある話題で俺以外大盛り上がりをしており、全く出発準備をしている気配がないからだ。
 今日中にハチミツを手に入れて帰りたいというのに、こいつらはまだ焚き火の後始末さえしていなかった。

「マジでオレもドキドキしたもん! おまえは誰より可愛いよって! しかも抱きしめながらだぜヤベエ!」

「何が凄いって彼女じゃない女の子にやったところよね~。お姉さんバレないと思って超至近距離で見てたけどほんとドキドキしたわ~。」

「スレッスレで見てたもんねソフィア! シンティアもだけどー!」

 いっぱいいっぱいで本当に気づかなかった自分が恥ずかしい。というかどういう神経をしていたらそんな至近距離であんなシーンを見れるのかわからない。
 もうこの話はやめてくれと願いながら俺は仕方なく焚き火の後始末を始めた。担当はローテーションしているから本来なら今日はソフィアのはずだが、本人はもう話に夢中でこちらを見向きもしない。
 次俺のときに絶対代わってもらおうと心に決めて水魔法で火消しをする。そんなに大きな焚き火ではなかったからか火はすぐに消えてくれた。
 あとは綺麗に掃き掃除やら食べられない魚の骨などをゴミ袋に入れて、できる限り来たときの状態に戻せば完璧だ。
 これも今日はルキが当番の日だが、ルキも同じく話に夢中でこちらのことなど全くもって見もしない。まぁソフィアとルキにはこいつらも原因ではあったが助けてもらったし、恩返しということにしておいていいかもしれない。

(ソフィアはクナイでルキは弓で俺を射ったけどなぁ……。)

 味方にやられて気を失うことになるなんて思いもしなかった。ある意味貴重な体験だったかもしれないが、こんなことは二度とごめんだ。
 口にはしないものの心の中で少し文句を言いながら掃除をしていると、視界の隅でルキが何かをバッグから取り出しているのが見えた。じゃーんとみんなに見せびらかしながら取り出したそれはどう見てもただの携帯だ。

「実はオレあのシーン連写で撮ってたからね! 動画と悩んだけど後で見返した時に便利なのは写真かなって。ちなみにちゃんとシンティアとソフィアはオレの加工技術で消えてる。」

「消せ今すぐ消せ携帯壊れろ消せ。」

 一体何をしてくれてるのか。一枚ならまだしも連写。確かに思い返してみるとあのとき微かにカシャシャシャシャと機械音みたいなものは聞こえていた。それを気にする余裕がなかったので何の音だろうとも思わなかったが。
 必死にルキから携帯を奪おうと掃除をやめて手を伸ばすが、身長差のせいで携帯に手が届きそうにない。ホレホレと上に上げてくるルキに若干イラつきながら俺は奪うのを諦めた。
 というか、携帯。すっかり忘れていたがあると便利だろとリベラシオンの道具屋で全員分買っておいたものだ。そのときにみんなで電話番号とかを登録したあと満足してずっとポケットにいれていた。
 こうしてみんなでいるときは見る必要もないものだが、先ほどからやけに通知を知らせる振動が伝わってきている。このタイミング、嫌な予感しかしないが見ないわけにもいかず俺は携帯を取り出した。
 するとこの五人とマクシムを入れたチームチャットに、案の定さっき言っていた写真が送られてきていた。

(やっぱり写真かよ! 無駄に加工うますぎて本当にツーショットになってるの凄いけども。)

 これを急に見せられるハメになったマクシムのことも考えてあげてほしかった。多分俺以上に何を見せられているんだろうと困惑しているに違いない。
 俺はソッと再び携帯をポケットにしまって後片付けの続きを始めた。あと少し綺麗にしたら出発準備完了だ。
 こんなにコンパクトになるなんて最近の折りたたみ椅子はすごいな、と感心しながら畳んでいく。どういう構造になっているのかわからないが、畳んでしまえば手のひらほどの大きさで、分厚さも数センチにまでなっている。
 それらをバッグに入れて、水魔法で洗ったコップも布巾で綺麗に拭きながら入れればもうあとはすることはなさそうだ。

「後始末終わったしヒラソルに今度こそ向かうぞ。」

「待ってフィン! 私今真剣なの。ちょっと待って欲しい。」

「いいけど、何してるんだよリーナ。」

 怠そうに立ち上がったルキたちと違い、リーナはいつになく真剣な表情で携帯を見つめていた。何か操作をしているあたり壊れたとかではなさそうだ。
 何か変な風になってしまったとかだろうか、と気になってリーナの携帯を覗き込む。するとひたすらルキから送られてきた連写の写真をスライドしているのが見えた。

「いやホントに何してるんだおまえは。」

「どれアイコンにしてどれホーム画面にしてどれ背景にしようかなって。」

「やめろこんなもん設定すんな! ほら行くぞ!」

「でも……。」

 何がそんなに諦めきれないのかわからないが、リーナはしぶしぶと立ち上がりながらも携帯からは目を離さない。見ながら歩いてもいいがコケるなよ、とだけ言って俺も歩き出そうとしたそのとき、再び携帯が震えた。
 なんだろうか、と取り出して見てみるとそれはマクシムからのチャットで。

『青春してる場合ですか。早く私のハチミツを手に入れてきてください。いいですか、糖度はもちろんのことヒラソルに咲いている花の……。』

 長すぎて読む気にもなれなかったが、怒っていることだけはなんとなく感じる。
 なんとしてでも今日こそはヒラソルにたどり着くぞ、と俺たちはようやく歩みを進めた。この方角で合っていますようにと祈りながら。
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