上 下
3 / 74

まわりだす

しおりを挟む

 鍛冶屋から少し歩くと、多くの店が並ぶ街中に出た。
 中央には噴水が設置された広場があり、憩いの場なのかベンチや花壇も綺麗に整えられている。
 店はというとアパレル系や雑貨屋、食料品など、このあたりだけで一通り生活に必要なものは揃えられそうなくらい多くの店が建ち並んでいた。

「ここの通りはすごいな。」

「そりゃあリンドブルムの港町で一番栄えている場所だもの。ここにくればなんでも揃うし、たまにあそこの広場に違う国の品物を売る屋台が来たりするのよ。」

「違う国ねぇ。」

(そういえば俺はどこの国にいたんだろう。それもモヤがかかったかのように思い出せない)

 育った土地さえもぼんやりとしか思い出せないのは気味が悪いが、もはや覚えていることの方が少ないので気にしていられない。
 わざと意識を逸らすように頭を軽く振って、店の紹介をしながら歩くリーナの隣に並んだ。

 それからはリーナに次々と店を案内され、あっという間に30分が経過していた。リーナはまだあちこち行く気なのか、次は服屋と~とあれこれ独り言を言いながら歩みを進めている。
 別に30分で戻らないといけないわけでもないのだが、そろそろ鍛冶屋に戻らないと、長時間剣を置いてもらうのも気が引ける。
 
「そろそろ時間も経ったし、一回戻らないか?」

 いざ次の店へ、と意気込んでいたリーナにそう声をかけると、時間が経っていたことに気づいたのか慌てて時計を見ながらこちらを振り返った。

「ホントだこんな時間! 戻りましょうか。」

 また今度ゆっくり一緒に来ようね、と笑いながら言うリーナにはっきりと答えることはできず、俺は鍛冶屋へと歩いて行った。



「いらっしゃいま……、お兄さん! 双剣すごく綺麗になりましたよ!」

「おう、ありがとな。」

 店に入るなりこちらに駆け寄りながら報告する店員に思わず笑ってしまった。子供らしくてとても可愛い。
 ほら、と奥から持ってきた双剣を見ると確かに見違えるくらいとても綺麗だった。海水と、あと血……やらなんやらで汚れていたとは思えない、新品と言われても信じれる出来だ。

「見事なもんだな。ここまで綺麗になるとは。」

「意外と簡単に汚れが取れましたので何もしてないようなもんですよ! いつもは商売なのでお代頂くんですけど、今回はサービスってことにしておきます!」

 そこまで言われて気づいた。そうだ、俺お金持ってねえ。

「よかったわね、フィン。あなた今無一文だし。まぁ私が出すつもりだったけど。」

「無一文って言うな。その通りで言い返せねえよ。」

 子供の前で情けないことを暴露され少し辛い気持ちになった。
 料金はサービスとは言われたが、さすがにここまで綺麗にしてもらって何も渡さないというのも気が引ける。かと言ってリーナが言う通りお金は持っていないので渡せるものと言ったら身につけているものくらいなのだが。

(そうだ、このネックレスなら売ってもそこそこ値段いきそうだしいいかもしれない)

 昔から趣味で作っていたネックレス。我ながらなかなかの出来の、嫌味にならない程度の大きさの赤い宝石がキラキラと輝いている。作った中でもお気に入りでよくつけていたこれをつけたままでいられたのは幸運だったかもしれない。
 よし、これを渡そう、と意気込むも心なしか哀れんでいるような表情をしている店員を真っ直ぐ見ることはできず、少し目線を逸らして話しかけた。

「もしよければこのネックレス受け取ってくれ。俺が作ったものだが売ったら良い値段になると思うし。」

「えっ!? これお客さんが作ったんですか?」

「趣味みたいなもんでな。作った中でもこれは一番良い出来だったし、売れないことはないと思うから。」

 そう言って店員の手に乗せるとただでさえ大きな瞳がさらに大きく見開かれて、綺麗、と呟きながら嬉しそうに眺めている。

「こんな綺麗なもの売れません! 一生大切につけます! そういえばまだ名乗ってませんでしたね、シンティア・グロームです!」

 ニコニコしながら手を差し出してくるシンティア。可愛らしいな、と思いながらその手をとった。

「俺はフィン・クラウザーだ。こっちはリーナ。」

「リーナ・フルールよ。よろしく。さて、私も実はここに用があるのよね。武器を見せてほしくて。」

「武器でしたらこちらですよ!
……あの、実は敬語って慣れなくて、その、普段の話し方でもいいですか……?」

「変に気を遣われるより全然いいわ。ね、フィン。」

「そうだな。普通に話してくれると嬉しい。」

 俺がそう言えばシンティアは嬉しそうに笑った。年相応の方が見ているこちらも安心する。
 その後は意外と気が合うのか、2人は仲良く話しながら様々な武器を見ていた。俺も一応は一緒にいるが、女同士の会話に入るだけの度胸も話題もなく、あの武器使いやすそうだなとただ武器を見つめるだけである。

(なんかさっきから俺のことディスってるんだよなぁ)

 気がつけば話題の標的は俺になっており、ああいうタイプは彼女できても放置しそうだの、イチャイチャしなさそうだの、好き勝手言ってくれている。
 そんなことねえよめっちゃイチャイチャするわ、と言い返せたらいいのだが、生憎生まれて彼女などできたことがない。
 彼女ができたらずっと引っ付くし俺が作ったアクセサリーで周りの男牽制するし、と思っているだけで実際のところわからないのが悲しかった。

(彼女欲しい……)

 早く話題変わってくれ、と願いながら俺は無言で2人を見つめていた。

 それから少しして、お気に召すものがあったらしいリーナが一つの武器を手に取った。
 それは綺麗な銀色のスピアで、凛としたリーナによく似合っていた。

「これ買うわ。いくら?」

「本当は5000エールだけどネックレス嬉しかったし、2000エールでいいよ!」

 あのネックレスそんなに気に入ったのかとか、勝手に値引きして店長とかに怒られないかとか少し不安になるくらいシンティアは俺たちを贔屓していた。

「そんなに値引きして怒られないの?」

 さすがにリーナも不安になったらしくそう聞くが、ちゃっかり財布からは2000エールだけ出してシンティアに渡している。

「この店シンティアのだから大丈夫だよ。」

「シンティアのって……。おまえが一人でやってるのか?」

 こんなどう見ても12歳かそこらにしか見えない子供が? と少し失礼なことを思いつつも気になって聞いてしまった。
 子供が親の店で働くのはよくあることだが、一人で自分の店を仕切っているのはそうそうない。
 とはいえ俺も店を構えていたわけではないがアクセサリーを趣味で売ったりはしていたため、少しだけ親近感も感じていた。

「親は数年前の戦争で死んじゃったんだ。あ、これ武器買ってくれたお礼の飴! 特別にフィンのもあげる!」

 サラッと重いことを聞いたが、なんて返したらいいかわからず差し出された飴を手に取った。綺麗な青色に輝くそれは、今はどこか物悲しさを感じさせる。

「ありがとう、スピアも大事にするわ。フィン、帰りましょうか。」

 そうだな、と返して扉を開けようとしたとき、ちょうど他の客がきて扉が開いた。

「おいおい、とっくに逃げたかと思ったのにまーだこの街にいたのかよ? さっさと逃げた方がいいぜ、そこのイケメン。」

 入ってくるなり俺に向かってそう告げた男。イケメンと言われたのは嬉しいが逃げるってなんだよ、と怪訝な顔をしてしまった。
 何を言われているのかよくわからないのはリーナも同じだったようで、目の前の男を睨むように見ている。

「すまないが、逃げた方がいいというのは一体?」

 そう問いかけると男は予想外の返しだったのか、本気で言ってんのか? とこちらを探るような目で見ながら呟いた。
 何を言われているのか本当にわからない俺はただ目の前の男を見つめるしかなかった。
 それにしてもこの銀髪に紫の瞳、かなり整った顔立ちは男の俺から見ても相当なイケメンで、こいつは彼女いるんだろうなぁと場違いな羨望の感情さえ生まれる。
 不躾にもじろじろと観察していると、その視線に落ち着かなくなったのか男が再び口を開いた。

「指名手配されてんの知らねえの? さっきどっかのお偉いさんが広場に来てビラ配ってたぜ。ほら、これキミのことだろ。フィン・クラウザーさんよぉ。」

 そう言って見せてきたビラには確かに自分の名前と、いつ撮られたのかわからない顔写真が載っていた。
l
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

処理中です...