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最終章 過ぎた願いの末路
61話.聖王国レノアス
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一夜明けてアルベルトに別れを告げてクロエと合流した。
クロエに新しいヴァージャススーツについて聞かれたけど、アルベルトとの秘密だと言って誤魔化した。一応新型のスーツについても話をしていたが、殆どヨーゼフの話しかしていなかったからね。
ヴェロニカさん側についたクロエに責任を感じて欲しくはないから、ヨーゼフの死を知られる訳にはいかない。
早めに話を切り上げて目的地である聖王国レノアスへ向かった。道中、折角なので寄り道をする。
先ずは僕たちが乗っている馬の故郷であるガタの村。馬の言葉は分からないが、心なしか嬉しそうに感じた。
そして、タイアル王国と聖王国レノアスの国境……僕の挫折と覚醒の地であるサルバ砦にたどり着いた。
砦に入ると兵士長のアーネストさんが駆けつけて来てくれた。僕たちは再会を喜び合い、予定は無かったが一晩泊まっていく事になった。オークキング討伐の時に面識があった兵士達と宴会しながら近況について話しあった。話が僕たちの旅の目的に差し掛かったところで、アーネストさんが渋い顔をする。
そして忠告を受けた。
「聖王国レノアスに行くなら気をつけて下され。以前も申し上げたが、あの国は10年前に魔の領域に突如現れたのだ。誰も建国された事実すら知らないのに300年の歴史があるのだ」
以前、ヨーゼフに連れられて冒険した謎の洞窟でナブエルが言っていた事が思い浮かぶ。
『創作者』のアルバート。
転生の特典で聖王国を得たと言っていた。それが本当であるなら辻褄があう。10年前にアルバートが異世界ザサムに転生して、転生特典として聖王国レノアスが生まれていたのであれば……
アルバートは知っているのかな、いつも奥さんと娘さんの事を愛していると惚気ていたけど。再会出来たら直接聞いてみるとするか。
翌日、僕は砦内にある共同墓地にあるマルケスさんの墓にお参りにいった。この砦で僕を庇って死んだ兵士……
「君のお陰で僕は多くの命を救うスーパーヒーローになれたよ。ありがとう」
今更力を得ても過去は変わらない、だから感謝の言葉だけを伝えた。
そして、もう何者にも屈しないと再び誓ったのであった。
*
聖王国レノアスの首都レノアスは、白を基調に青と金のラインで縁取った建造物が整然と並んでいた。聖王国という位なのだから宗教国家なのだろう。神を信じていなくても崇めたくなるような荘厳な雰囲気に圧倒される。
「なぁ、クロエは来たことあるんだよね。こんなに綺麗なところなのにどうして紹介してくれなかったんだよ」
「宗教色が強くて苦手なのよね。お金取られそうだし。お塔婆料払うより課金したかったわ……前世の話だけどね」
いやっ、堂々と苦手って言わないでよ。周囲の視線が痛いのだけど。しかもお塔婆料って仏教ですか? クロエが前世でヘビーゲーマーだって知ってるけど、そこまで課金したいの?! 異世界に課金要素が無くて良かったよ。
国家の危機レベルの依頼なら稼げるけど、毎度国が脅かされる事態になんてならないから、稼ぎが良くてもそのうち破産するって!
「えっとクロエさん? 課金要素あったら今でも課金しますか?」
我ながらみっともない質問だと思う。結婚相手の生活能力をこそこそ探ろうとしているみたいでね。
「しないわよ。欲しいものがないから」
「以外だな。装備を充実させたいとか希望があると思ったのだけど」
「装備はもういらないわね。リアンのお陰で何でも自由に出来る様になったからね。ほらっ」
クロエが手をかざすと一瞬で光の大剣が現れる。周囲に気付かれないように直ぐに消したが凄い代物だ。
「何でも自由に作れるのは凄いな」
「チョットー、何でも自由じゃないわよ。旦那様には絶対服従で自由は存在しないんだからっ。好きに命じて良いのよ!」
突如、光の精霊リアンがクロエの頭部から生える。心臓に悪いから出てこないでくれよ!
なんで絶対服従なのか分からないけど、命令を聞いてくれるなら助かる。だから今一番やって欲しい事を命じる!
「じゃあ命令するよ。早くリアンを引っ込めてくれ」
「ちょ、どうして?!」
クロエが両手でリアンを頭部に押し込める。
笑っちゃいけない、笑っちゃいけないけど笑わずにはいられない。
リアンが仲間になってくれて本当に良かった。一緒にいて楽しいし、筋トレグッズも持ち運びしなくてすむ様になった。何よりクロエとも仲良くしてくれているのが嬉しい。
苦手という訳ではないが女性の事は詳しくないし、何か困った事があった時に話が出来る女性が一緒にいてくれるのは有り難い。
このまま観光するのも楽しそうだが、日が暮れる前に目的の冒険者ギルドに向かった。受付で勇者アルバート捜索の依頼を受けたいと告げるとあっさり情報を手に入れる事が出来た。情報を整理するーー
・目撃したのは1ヶ月前。
・場所はレノアス南部の魔の領域
・灰色のローブを着た男と一緒だった。
・目撃した冒険者に気付くと黙って去っていった。
冒険者ギルドにはアルベルトに聞いた話以上の情報はないようだ……ただ一点を除いて。
ギルドの端のテーブルで一人で酒を飲む灰色のローブの男。何故誰も声をかけないのだろう?
目の前に手がかりと思われる人物がいるのに。
僕は灰色のローブの男に声をかけたのであった……
クロエに新しいヴァージャススーツについて聞かれたけど、アルベルトとの秘密だと言って誤魔化した。一応新型のスーツについても話をしていたが、殆どヨーゼフの話しかしていなかったからね。
ヴェロニカさん側についたクロエに責任を感じて欲しくはないから、ヨーゼフの死を知られる訳にはいかない。
早めに話を切り上げて目的地である聖王国レノアスへ向かった。道中、折角なので寄り道をする。
先ずは僕たちが乗っている馬の故郷であるガタの村。馬の言葉は分からないが、心なしか嬉しそうに感じた。
そして、タイアル王国と聖王国レノアスの国境……僕の挫折と覚醒の地であるサルバ砦にたどり着いた。
砦に入ると兵士長のアーネストさんが駆けつけて来てくれた。僕たちは再会を喜び合い、予定は無かったが一晩泊まっていく事になった。オークキング討伐の時に面識があった兵士達と宴会しながら近況について話しあった。話が僕たちの旅の目的に差し掛かったところで、アーネストさんが渋い顔をする。
そして忠告を受けた。
「聖王国レノアスに行くなら気をつけて下され。以前も申し上げたが、あの国は10年前に魔の領域に突如現れたのだ。誰も建国された事実すら知らないのに300年の歴史があるのだ」
以前、ヨーゼフに連れられて冒険した謎の洞窟でナブエルが言っていた事が思い浮かぶ。
『創作者』のアルバート。
転生の特典で聖王国を得たと言っていた。それが本当であるなら辻褄があう。10年前にアルバートが異世界ザサムに転生して、転生特典として聖王国レノアスが生まれていたのであれば……
アルバートは知っているのかな、いつも奥さんと娘さんの事を愛していると惚気ていたけど。再会出来たら直接聞いてみるとするか。
翌日、僕は砦内にある共同墓地にあるマルケスさんの墓にお参りにいった。この砦で僕を庇って死んだ兵士……
「君のお陰で僕は多くの命を救うスーパーヒーローになれたよ。ありがとう」
今更力を得ても過去は変わらない、だから感謝の言葉だけを伝えた。
そして、もう何者にも屈しないと再び誓ったのであった。
*
聖王国レノアスの首都レノアスは、白を基調に青と金のラインで縁取った建造物が整然と並んでいた。聖王国という位なのだから宗教国家なのだろう。神を信じていなくても崇めたくなるような荘厳な雰囲気に圧倒される。
「なぁ、クロエは来たことあるんだよね。こんなに綺麗なところなのにどうして紹介してくれなかったんだよ」
「宗教色が強くて苦手なのよね。お金取られそうだし。お塔婆料払うより課金したかったわ……前世の話だけどね」
いやっ、堂々と苦手って言わないでよ。周囲の視線が痛いのだけど。しかもお塔婆料って仏教ですか? クロエが前世でヘビーゲーマーだって知ってるけど、そこまで課金したいの?! 異世界に課金要素が無くて良かったよ。
国家の危機レベルの依頼なら稼げるけど、毎度国が脅かされる事態になんてならないから、稼ぎが良くてもそのうち破産するって!
「えっとクロエさん? 課金要素あったら今でも課金しますか?」
我ながらみっともない質問だと思う。結婚相手の生活能力をこそこそ探ろうとしているみたいでね。
「しないわよ。欲しいものがないから」
「以外だな。装備を充実させたいとか希望があると思ったのだけど」
「装備はもういらないわね。リアンのお陰で何でも自由に出来る様になったからね。ほらっ」
クロエが手をかざすと一瞬で光の大剣が現れる。周囲に気付かれないように直ぐに消したが凄い代物だ。
「何でも自由に作れるのは凄いな」
「チョットー、何でも自由じゃないわよ。旦那様には絶対服従で自由は存在しないんだからっ。好きに命じて良いのよ!」
突如、光の精霊リアンがクロエの頭部から生える。心臓に悪いから出てこないでくれよ!
なんで絶対服従なのか分からないけど、命令を聞いてくれるなら助かる。だから今一番やって欲しい事を命じる!
「じゃあ命令するよ。早くリアンを引っ込めてくれ」
「ちょ、どうして?!」
クロエが両手でリアンを頭部に押し込める。
笑っちゃいけない、笑っちゃいけないけど笑わずにはいられない。
リアンが仲間になってくれて本当に良かった。一緒にいて楽しいし、筋トレグッズも持ち運びしなくてすむ様になった。何よりクロエとも仲良くしてくれているのが嬉しい。
苦手という訳ではないが女性の事は詳しくないし、何か困った事があった時に話が出来る女性が一緒にいてくれるのは有り難い。
このまま観光するのも楽しそうだが、日が暮れる前に目的の冒険者ギルドに向かった。受付で勇者アルバート捜索の依頼を受けたいと告げるとあっさり情報を手に入れる事が出来た。情報を整理するーー
・目撃したのは1ヶ月前。
・場所はレノアス南部の魔の領域
・灰色のローブを着た男と一緒だった。
・目撃した冒険者に気付くと黙って去っていった。
冒険者ギルドにはアルベルトに聞いた話以上の情報はないようだ……ただ一点を除いて。
ギルドの端のテーブルで一人で酒を飲む灰色のローブの男。何故誰も声をかけないのだろう?
目の前に手がかりと思われる人物がいるのに。
僕は灰色のローブの男に声をかけたのであった……
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