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2章 新たなる力! 絶望の先へ!!

30話.見えない生息者

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 修行を終え特に目的がなかった僕達は、ガルファダ王国に帰るファビオについて行く事にした。転生者のファビオにとっての第2の故郷と言えるガルファダ王国は、ファルファーン帝国の東にあり緑と水が豊富で素晴らしい国だと言う。ファビオが絶賛するガルファダ王国に向かうのはとても楽しみだ。
 だが、ケン達とは逆方法のファルファーン帝国に向かう隊商が暗い顔ですれ違うのが気になる。一度なら気にならないが、すれ違う度に暗い顔をしていると流石に気になる。
 何度目かにすれ違った隊商の人に声をかける。

「何かあったのですか? 皆暗い顔でファルファーン帝国に向かってますけど」
「疫病だよ……今ガルファダ王国は誰も治せない病が蔓延しているんだよ。あんたらも引き返した方がいい」

 声をかけた隊商の人はそう言って去っていった。
 誰も治せない病? 剣と魔法の世界で?

「だぁぁぁぁい丈夫。君たちは役に立たなくても、この大賢者ヨーゼフ様なら一発解決さっ!」

 ヨーゼフはステッキを振り回し上機嫌だ。
 役立たずと言われて不愉快な思いも少しあるが、ヨーゼフが病を直す魔法が使えるのは事実だ。更に次元の断層に病を直す『エレメトス草』を大量に保管している。病気の治療に関しては万全の体制といえる。

「ガルファダ王国についたら、全部大賢者ヨーゼフ様に任せましょ」
「筋肉では病気の治療は出来ないから、頼むぞヨーゼフ!」

 クロエは少し嫌みっぽく、ファビオは意味がわからないが二人共ヨーゼフの意見に同意する。
 疫病の状況が気になった僕たちは、急ぎガルファダ王国へと向かった。

 *

 ガルファダ王国の国境付近にある村は比較的落ち着いていた。村人に聞いた話では王都の方はかなり酷い状況らしい。
 ヨーゼフが病気を治せると聞いて喜ぶ村人に連れられて、噂の疫病にかかった青年の所に案内される。青年は王都に行商に行って感染したのだという。
 ベッドに寝ている青年にさっそく、ヨーゼフが治癒魔法を使う。

「直ぐに良くなりますよぉっ。『トリートメント・エレメント!』」

 柔らかい光が青年を包む
 いつものヘンテコ魔法では無く、どうやら真面目な魔法のようだ。
 だが魔法の光が収まり、治療が終わった筈の青年はまだ苦しそうな顔をしている。

「効果が無いわね。重病だったのかしら?」

 魔法の効果が無いことを疑問に思ったクロエがヨゼーゼフに問いかける。
 ヨーゼフはクロエの問いを無視して、初めて見る鬼気迫る形相でを始める。
 そう、前世で入院生活を送っていたケンには分かる。
 ヨーゼフが行っているのは現世での診察……だ。
 どうやって入手したのか分からないが、この世界では見慣れない……前世では見慣れた医療器具をアイテムボックスから取り出し的確に使いこなす。
 そして、ヨーゼフが病気の青年から採取した何かを顕微鏡で確認した直後に叫ぶ。

「これは? どこのクズの仕業だ!」
「ヨーゼフ? どういう事ですか?」
「そうだぞ。いきなりどうした?」
「一体どうしたの? アンタらしくないじゃない?」

 初めて見るヨーゼフの怒り狂う姿に僕たちは状況の説明を求める。
 だが、ヨーゼフの答えは僕らの問いを一方的に否定するものだった。

「今すぐ全員出て行け! 私が許可するまでこの部屋に立ち入るな!!」

 ヨーゼフが手にしたステッキを振り回し追い出そうとする。
 横暴だとは思ったが、ヨーゼフの『真剣な眼差し』に気圧されて部屋を出る。
 ファビオとクロエは納得いかないようだが、僕はヨーゼフを信じて二人を部屋の外へ連れ出したーー僕はあの目を知っている。前世で、どうせ自分の病気は治らないとやさぐれていた僕に、生きる事を諦めるなと言い続けてくれた主治医と同じ目。
 精神的にはヴァージャスと出会う事で立ち直った僕だったが、僕の病気と最後まで一緒に戦ってくれたのは主治医戦友だった。
 だから信じる……病と戦う医師の目をしていたヨーゼフを……

 *

 雑談をしながら部屋の外で待機すること4時間。
 ヨーゼフが籠もった部屋から赤い光が漏れだした後、部屋の扉が開かれる。
 部屋に入ると、苦しさから解放された青年がベッドに横たわっていた。青年の治療に成功した様に見えるが、ヨーゼフは怒りは収まっていないようだ。

「ガルファダ王国には見えない生息者が存在している……細菌共だ!」

 ダンッ。
 ヨーゼフが怒りをぶつける様に、手にしたステッキを床に突き立てる。

「細菌って、あの細菌ですか?」
「今回の疫病の原因は細菌兵器だって事だ……つまり、この疫病騒ぎには転生者が関わっている」
「疫病の原因が細菌って当たり前でしょ。わざわざ言う事なの?」

 真剣に語るヨーゼフの話の意味がクロエには分からない。それは、僕やファビオも同じだ。病気の原因が細菌って普通の事ではないのか?
 戸惑う僕らにヨーゼフが説明を続ける。

「貴様等は知らないのか? この世界の病は体内の精霊力の乱れで発生するものだ。だから治療魔法は『トリートメント・エレメント』。つまり乱れた体内の精霊力を正常化する魔法で治癒を行う。病を直す『エレメトス草』も同じ効果だ。細菌による病気の治療魔法はこの世界に存在しない」
「それじゃ……誰も救えないのか?」
「心配ない、私を誰だと思っている? 既に治療用の魔法『デッドリー・ライト』を開発した。先ほどの青年も治療済みだ」

 ヨーゼフが居てくれて良かった。こういう時、僕らは本当に役に立たない。僕もクロエもファビオも戦闘職で、敵を倒す事は出来ても人を救う力はないから。

「随分物騒な名前の魔法だな。格好いいから好きだけどな」

 ファビオは魔法の名前が気になるようだ。
 僕も治療魔法というより、攻撃魔法のような名前は気になってしまう。ヨーゼフの言葉使いも、普段のふざけた調子ではなく攻撃的なままだし。

「まぁ、分類で言えば攻撃魔法だからな。この世界の住民にとっては物騒に見えるだろうな。まぁ、実際に使えば効果は理解するだろうがな。誰かに伝授しておきたいが、この村には魔法が使える者がいないようだ」
「それなら王都に向かいましょ! 王都の魔法使いの手を借りれば人手不足を解消出来るわ」

 僕たちはクロエの提案でガルファダ王国の王都に向かう事にした。
 ヨーゼフが開発した細菌を死滅させる光の魔法『デッドリー・ライト』を王都の魔法使いに伝授してガルファダ王国を救う為に……
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