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1章 キャプテン・ヴァージャス誕生!
14話.激闘オークキング
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戦況を覆すには出来るだけ敵を減らすしかない。まず目の前のオークを倒す為に殴りかかるーーだが直前で隣のオークに棍棒で腕を叩き落とされる。諦めずそのまま蹴りを入れる。今度は当たったが威力は低い。右肩に違和感を感じた直後に激痛が走る。この痛みは棍棒じゃない剣で抉られたか。剣は棍棒より危険だから先に倒さなければ。剣持ちのオークに意識を集中した瞬間ーー別のオークに足を棍棒で打たれて転倒する。
「くっ」
起きあがろうとした瞬間、剣が突き出されるのを見た。間に合わない……死ぬ! どうしたんだよヴァージャス? 僕達の正義はこんな物だったのか? 僕は死を覚悟して目を閉じた……
ザシュッ
剣が突き刺さり肉が抉れる音が聞こえた。だが痛みが無い。恐る恐る目を開けると、目の前で剣が止まっているのが見えた。正確にいうと目の前の兵士が、僕を庇って腹部を刺されていた。
「きみは?」
思わず問いかける。僕を庇ってくれた兵士が昨日、広場で話した人だったから……
「マルケスです。後を頼みます」
そう言って血を吐き倒れていった……
「一度撤退します」
救援に来た別の兵士達に連れられて、そのまま中央の塔に避難させられた。
*
塔の最上階ーー
「避難出来たのは16人だけか」
アーネストさんが憔悴した顔をしている。これだけ部下が殺されれば無理もない。
「すみません。僕がもっと頑張っていれば……」
「別にケンが頑張ったところで、戦況は変わらないでしょ?」
クロエに呆れた声で否定される。
「そんな事はない! ヴァージャスの力があれば勝てたんだ! なんで正義が負けるんだ!」
そんなの納得いくか! あの時の、ゴブリンロードを倒した力があれば全員救えたんだ!
「ケン様。私にはケン様が正義に拘る理由はわかりません。でも、ケン様が自分を見失っている事だけは解ります」
クロエとの言い争いを見かねたアーネストさんが静かに語りかけてきた。
「僕が自分を見失っている?」
「はい。ケン様は正義の為に戦っている訳では無い様にお見受け致します。本来の力が出せないのは気持ちを偽っているからなのではないでしょうか?」
「そんな事はない! ヴァージャスは正義の味方だから。僕が正義を志さなければ、ヴァージャスにはなれないじゃないか」
「ヴァージャスなんか関係ない! アンタ自身の思いは無いの? ヒーローごっこしてる場合じゃないでしょ!」
ヒーローごっこ? 何でだ、僕は真剣に戦っていたんだ! 僕の何が間違っていたんだ? 本当の心? 今の自分の思いが偽物だってのか? 目を閉じて心の中にヴァージャスを思い浮かべる。僕自身の理想の存在なら、僕の正しさを証明してくれるだろう。そして、想像の存在であるヴァージャスに問いかけるーー
「敵が強いからって諦めたくなかった」
「みんなを守りたかった」
「力がないのが悔しかった」
僕の思いにヴァージャスが答える。
『諦めない事に私が必要かい?』
『みんなを守るのに正義は必要かい?』
『力を得るのに私のモノマネは必要かい?』
僕の妄想の存在のくせに僕を否定するのか……いや、解っている。否定されている訳じゃない。僕が現実から目を反らしていただけだ。死を目の当たりにして焦っていたのかな? 静かに目を開けて皆に思いを伝える。
「本当は死ぬのが怖かった。皆を守れないのが辛かった。だから、正義だとか、ヴァージャスとか、何か理由を付けていないと不安だったんだ……格好悪いな」
アーネストさんがそんな情けない僕を、今度は庇うように否定する。
「そんな事ありません、それが普通です。我々もそれぞれ事情を抱えて戦っております。国を守る為など大きな事は言えませぬ。戦う理由も近隣の町に住んでいる家族を守る、生活費の為など人それぞれです。それでも此処で戦ったのです。ケン様と同じように」
「で、どうするの? 50体までは何とかしたけど流石の私も限界よ。少し休憩したいわね」
50体か……クロエは僕には出来なかった事を、いとも簡単にやってくれていたのだな。
「すごいなクロエは。さて、僕は今から行ってくるよ」
「行くってどういう事? まさか一人で?」
「約束があるんだ……だから、待っていて欲しい」
クロエが出口につながる階段に立ち塞がる。外に行かせないつもりだろう。僕はクロエに背を向けて窓辺に立った。そして、僕を庇って死んだマルケスさんの最後を思い出す。
「あぁ、任せてくれ」
あの時、言えなかった言葉をつぶやく。僕の命を繋いでくれた事が無駄ではなかったと証明してみせる。そして窓から体を乗り出して下を見た。
周囲を見渡しすとオーク達が塔の入り口を破壊しようとしているのが見える。城壁の方では登ってきたオークとの戦いが続いている。
『まだ間に合う、救える命がある』
目の前の命をこれ以上失う訳にはいかない。ためらわず窓から飛び降りた。心のヴァージャスが語りかけてくる。
『戦うのは私では無い。君自身の思いで戦うんだ。それでも力及ばぬ場合は遠慮なく呼ぶがいい、私の名前を……その時は君の思いを支える力になるさ』
そして僕は空中で叫ぶ。
「力を貸せっ! キャプテェェェェン・ヴァージャァァァァス!」
僕の思いに呼応するかの様に大胸筋が膨張する。爆発するかのような筋肉の躍動で、ヴァージャスの力が宿ったと感じる……塔の最上階から飛び降りたが無傷だ。頑強な大腿四頭筋と大臀筋が身体を支える。そして、着地の衝撃を吸収する為に収縮した筋肉を解き放ち飛び上がる。一気に城壁の上に飛んだ僕は、近くのオークを蹴り飛ばす。
「俺に任せて下がっていろ」
城壁の上のオーク達めがけて全力で走る。やっている事は只のタックルだが、ぶつかったオーク達は小石のように弾け飛んでいく。これで城壁の上の安全は確保出来た。次は塔の前に集まっている奴らだ。
バギャン。
城壁を蹴り、再び塔の前へ飛ぶ。着地後、目の前のオークを蹴散らそうとした所、視線の横に何かが映る。飛び退くと、元いた場所を戦斧が通り過ぎる。オークキングか!
『グゥゴウ』
部下を殺されて怒り狂っているようだ。だが、それは此方も同じだ。
「食らえっ!」
ゴブリンロードを一撃で倒した力を解き放つ。しかし戦斧で防がれる。手強が今の僕が負ける訳ない。オークキングが戦斧で切りかかってきたのを蹴り上げて防ぐ。そのまま振り上げた足を下ろす勢いで踏み込む。
ズムッ。
踏み込みの力を拳に乗せて打ち抜く。オークキングが身を捩ってかわそうとするがーー
「いけぇっ!」
気合いで右肩に当てオークキングの右腕がちぎれ飛ぶ。
『ペギャッ』
不遜な態度を続けていたオークキングが初めて情けない声を上げる。このまま押し切ろうと左フックでボディを狙う。右腕を失った状態では防げないと判断したのかオークキングが突撃してきた。突然の体当たりを食らい塔の外壁に叩きつけられる。
「ぐはっ」
塔の外壁の一部が吹き飛び体が半分めり込む。あまりの激痛に痛みが落ち着くのを待ちたかったが、オークキングが殴りかかってきているのが目に入った。残念ながら休んでる暇はない。急ぎ広背筋に意識を向け力を込める。爆発的にパンプした広背筋によって、めり込んだ塔の外壁から体を打ち出す。打ち出された勢いそのままにオークキングに向かって突撃する。これが今の僕の全てだ!
「ヴァージャス・パンチ!」
打ち出した拳が吸い込まれるように、オークキングの体を打ち抜いた。そしてオークキングは跡形もなく消し飛んだ。初めから何もなかったかの様に……僕はそのまま静かに座り込んだ。まだ他ののオークが残っているがもう動けない。
「悔しいけど限界だな。後は任せたクロエ」
「勝手に任せないでよ。ってか、なんで気づいてるのよ」
背後からクロエの返事が聞こえる。何となく呟いただけなんだけど、本当に居るとは……
「一流の騎士様なら、この好機を逃さないよな」
「なに言ってるの? 好機じゃなくても体力が回復したら、一人で切り抜けられたわよ」
「今回は一人じゃないだろ?」
「アンタがね!」
出会って1ヶ月も経っていないが、長年の相棒の様に行動が予測出来る。
「燃え上がれ、アグニシオン!」
炎を吹き出した大剣アグニシオンが流麗に舞う。大剣の質量を感じさせない動きで残存していたオークの命を狩っていく……
これがクロエの実力かーー相変わらず珍妙なかけ声は聞こえるが、そんな事が気にならなくなるくらいに鮮やかな姿だった。
「おわったよっ」
クロエがアーネストさんと共に近づいてきたのを見て、戦いが終わった事に気づいた。
「本当に終わってしまったな」
座り込んだまま、気怠そうに答える。
「なに落ち込んでるのよ」
「だって、死んだんだぞ! こんなに!」
「うぬぼれないで。幾ら強くたって全てを救える訳じゃないのよ」
「でもっ、僕を守って彼らは……」
僕を守って死んだ兵士達の顔が思い出され顔をしかめる。
「ケン殿、それが我々兵士の仕事です」
アーネストさんの回答に納得がいかない僕は突っかかる。
「仕事だからって!? 死んだら意味が無いじゃないか!」
「意味はありますよ。ケン殿を守れたではないですか。他の冒険者達が撤退する中、ケン殿は残ってくれました。冒険者達の判断は仕方がない事だと思います。そんな中、我々と共に戦う決意を示してくれたケン殿に、我々は勇気づけられました」
突っかかる僕を気にも止めず、冷静に語りかけてくる。そんなアーネストさんの態度を見て僕は落ち着きを取り戻す。
「僕はこんなにも弱かったのにか?」
「はい。一生懸命戦ってくれていた事は見ていて分かりました。最後に見せてくれた力も簡単には発揮出来ない力だったのでしょう」
「あぁ。それでも守りたかったんだ」
「私も同じ思いです。だから悔しくて、無念で、とても悲しいです。でも後悔だけは御座いません。だからケン殿も後悔されるな」
「分かりました。ありがとうアーネストさん」
「こちらこそ、ありがとう御座います」
多くの命を失った辛さが無くなった訳ではないけど、アーネストさん言葉で救われた気がした。
「話が終わったなら休もうよ。けが人の手当とか出来ないしね」
そして、クロエの提案にのって休む事にした。
「くっ」
起きあがろうとした瞬間、剣が突き出されるのを見た。間に合わない……死ぬ! どうしたんだよヴァージャス? 僕達の正義はこんな物だったのか? 僕は死を覚悟して目を閉じた……
ザシュッ
剣が突き刺さり肉が抉れる音が聞こえた。だが痛みが無い。恐る恐る目を開けると、目の前で剣が止まっているのが見えた。正確にいうと目の前の兵士が、僕を庇って腹部を刺されていた。
「きみは?」
思わず問いかける。僕を庇ってくれた兵士が昨日、広場で話した人だったから……
「マルケスです。後を頼みます」
そう言って血を吐き倒れていった……
「一度撤退します」
救援に来た別の兵士達に連れられて、そのまま中央の塔に避難させられた。
*
塔の最上階ーー
「避難出来たのは16人だけか」
アーネストさんが憔悴した顔をしている。これだけ部下が殺されれば無理もない。
「すみません。僕がもっと頑張っていれば……」
「別にケンが頑張ったところで、戦況は変わらないでしょ?」
クロエに呆れた声で否定される。
「そんな事はない! ヴァージャスの力があれば勝てたんだ! なんで正義が負けるんだ!」
そんなの納得いくか! あの時の、ゴブリンロードを倒した力があれば全員救えたんだ!
「ケン様。私にはケン様が正義に拘る理由はわかりません。でも、ケン様が自分を見失っている事だけは解ります」
クロエとの言い争いを見かねたアーネストさんが静かに語りかけてきた。
「僕が自分を見失っている?」
「はい。ケン様は正義の為に戦っている訳では無い様にお見受け致します。本来の力が出せないのは気持ちを偽っているからなのではないでしょうか?」
「そんな事はない! ヴァージャスは正義の味方だから。僕が正義を志さなければ、ヴァージャスにはなれないじゃないか」
「ヴァージャスなんか関係ない! アンタ自身の思いは無いの? ヒーローごっこしてる場合じゃないでしょ!」
ヒーローごっこ? 何でだ、僕は真剣に戦っていたんだ! 僕の何が間違っていたんだ? 本当の心? 今の自分の思いが偽物だってのか? 目を閉じて心の中にヴァージャスを思い浮かべる。僕自身の理想の存在なら、僕の正しさを証明してくれるだろう。そして、想像の存在であるヴァージャスに問いかけるーー
「敵が強いからって諦めたくなかった」
「みんなを守りたかった」
「力がないのが悔しかった」
僕の思いにヴァージャスが答える。
『諦めない事に私が必要かい?』
『みんなを守るのに正義は必要かい?』
『力を得るのに私のモノマネは必要かい?』
僕の妄想の存在のくせに僕を否定するのか……いや、解っている。否定されている訳じゃない。僕が現実から目を反らしていただけだ。死を目の当たりにして焦っていたのかな? 静かに目を開けて皆に思いを伝える。
「本当は死ぬのが怖かった。皆を守れないのが辛かった。だから、正義だとか、ヴァージャスとか、何か理由を付けていないと不安だったんだ……格好悪いな」
アーネストさんがそんな情けない僕を、今度は庇うように否定する。
「そんな事ありません、それが普通です。我々もそれぞれ事情を抱えて戦っております。国を守る為など大きな事は言えませぬ。戦う理由も近隣の町に住んでいる家族を守る、生活費の為など人それぞれです。それでも此処で戦ったのです。ケン様と同じように」
「で、どうするの? 50体までは何とかしたけど流石の私も限界よ。少し休憩したいわね」
50体か……クロエは僕には出来なかった事を、いとも簡単にやってくれていたのだな。
「すごいなクロエは。さて、僕は今から行ってくるよ」
「行くってどういう事? まさか一人で?」
「約束があるんだ……だから、待っていて欲しい」
クロエが出口につながる階段に立ち塞がる。外に行かせないつもりだろう。僕はクロエに背を向けて窓辺に立った。そして、僕を庇って死んだマルケスさんの最後を思い出す。
「あぁ、任せてくれ」
あの時、言えなかった言葉をつぶやく。僕の命を繋いでくれた事が無駄ではなかったと証明してみせる。そして窓から体を乗り出して下を見た。
周囲を見渡しすとオーク達が塔の入り口を破壊しようとしているのが見える。城壁の方では登ってきたオークとの戦いが続いている。
『まだ間に合う、救える命がある』
目の前の命をこれ以上失う訳にはいかない。ためらわず窓から飛び降りた。心のヴァージャスが語りかけてくる。
『戦うのは私では無い。君自身の思いで戦うんだ。それでも力及ばぬ場合は遠慮なく呼ぶがいい、私の名前を……その時は君の思いを支える力になるさ』
そして僕は空中で叫ぶ。
「力を貸せっ! キャプテェェェェン・ヴァージャァァァァス!」
僕の思いに呼応するかの様に大胸筋が膨張する。爆発するかのような筋肉の躍動で、ヴァージャスの力が宿ったと感じる……塔の最上階から飛び降りたが無傷だ。頑強な大腿四頭筋と大臀筋が身体を支える。そして、着地の衝撃を吸収する為に収縮した筋肉を解き放ち飛び上がる。一気に城壁の上に飛んだ僕は、近くのオークを蹴り飛ばす。
「俺に任せて下がっていろ」
城壁の上のオーク達めがけて全力で走る。やっている事は只のタックルだが、ぶつかったオーク達は小石のように弾け飛んでいく。これで城壁の上の安全は確保出来た。次は塔の前に集まっている奴らだ。
バギャン。
城壁を蹴り、再び塔の前へ飛ぶ。着地後、目の前のオークを蹴散らそうとした所、視線の横に何かが映る。飛び退くと、元いた場所を戦斧が通り過ぎる。オークキングか!
『グゥゴウ』
部下を殺されて怒り狂っているようだ。だが、それは此方も同じだ。
「食らえっ!」
ゴブリンロードを一撃で倒した力を解き放つ。しかし戦斧で防がれる。手強が今の僕が負ける訳ない。オークキングが戦斧で切りかかってきたのを蹴り上げて防ぐ。そのまま振り上げた足を下ろす勢いで踏み込む。
ズムッ。
踏み込みの力を拳に乗せて打ち抜く。オークキングが身を捩ってかわそうとするがーー
「いけぇっ!」
気合いで右肩に当てオークキングの右腕がちぎれ飛ぶ。
『ペギャッ』
不遜な態度を続けていたオークキングが初めて情けない声を上げる。このまま押し切ろうと左フックでボディを狙う。右腕を失った状態では防げないと判断したのかオークキングが突撃してきた。突然の体当たりを食らい塔の外壁に叩きつけられる。
「ぐはっ」
塔の外壁の一部が吹き飛び体が半分めり込む。あまりの激痛に痛みが落ち着くのを待ちたかったが、オークキングが殴りかかってきているのが目に入った。残念ながら休んでる暇はない。急ぎ広背筋に意識を向け力を込める。爆発的にパンプした広背筋によって、めり込んだ塔の外壁から体を打ち出す。打ち出された勢いそのままにオークキングに向かって突撃する。これが今の僕の全てだ!
「ヴァージャス・パンチ!」
打ち出した拳が吸い込まれるように、オークキングの体を打ち抜いた。そしてオークキングは跡形もなく消し飛んだ。初めから何もなかったかの様に……僕はそのまま静かに座り込んだ。まだ他ののオークが残っているがもう動けない。
「悔しいけど限界だな。後は任せたクロエ」
「勝手に任せないでよ。ってか、なんで気づいてるのよ」
背後からクロエの返事が聞こえる。何となく呟いただけなんだけど、本当に居るとは……
「一流の騎士様なら、この好機を逃さないよな」
「なに言ってるの? 好機じゃなくても体力が回復したら、一人で切り抜けられたわよ」
「今回は一人じゃないだろ?」
「アンタがね!」
出会って1ヶ月も経っていないが、長年の相棒の様に行動が予測出来る。
「燃え上がれ、アグニシオン!」
炎を吹き出した大剣アグニシオンが流麗に舞う。大剣の質量を感じさせない動きで残存していたオークの命を狩っていく……
これがクロエの実力かーー相変わらず珍妙なかけ声は聞こえるが、そんな事が気にならなくなるくらいに鮮やかな姿だった。
「おわったよっ」
クロエがアーネストさんと共に近づいてきたのを見て、戦いが終わった事に気づいた。
「本当に終わってしまったな」
座り込んだまま、気怠そうに答える。
「なに落ち込んでるのよ」
「だって、死んだんだぞ! こんなに!」
「うぬぼれないで。幾ら強くたって全てを救える訳じゃないのよ」
「でもっ、僕を守って彼らは……」
僕を守って死んだ兵士達の顔が思い出され顔をしかめる。
「ケン殿、それが我々兵士の仕事です」
アーネストさんの回答に納得がいかない僕は突っかかる。
「仕事だからって!? 死んだら意味が無いじゃないか!」
「意味はありますよ。ケン殿を守れたではないですか。他の冒険者達が撤退する中、ケン殿は残ってくれました。冒険者達の判断は仕方がない事だと思います。そんな中、我々と共に戦う決意を示してくれたケン殿に、我々は勇気づけられました」
突っかかる僕を気にも止めず、冷静に語りかけてくる。そんなアーネストさんの態度を見て僕は落ち着きを取り戻す。
「僕はこんなにも弱かったのにか?」
「はい。一生懸命戦ってくれていた事は見ていて分かりました。最後に見せてくれた力も簡単には発揮出来ない力だったのでしょう」
「あぁ。それでも守りたかったんだ」
「私も同じ思いです。だから悔しくて、無念で、とても悲しいです。でも後悔だけは御座いません。だからケン殿も後悔されるな」
「分かりました。ありがとうアーネストさん」
「こちらこそ、ありがとう御座います」
多くの命を失った辛さが無くなった訳ではないけど、アーネストさん言葉で救われた気がした。
「話が終わったなら休もうよ。けが人の手当とか出来ないしね」
そして、クロエの提案にのって休む事にした。
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