ホビーレーサー!~最強中年はロードレースで敗北を満喫する~

大場里桜

文字の大きさ
上 下
99 / 101
最終章 最強部長はロードレースでも最強を目指す

第99話 奇跡の再会

しおりを挟む
 ここから先は11kmの上り区間。
 今いるのはチームメンバーだけだから遠慮する事はない。
 集団内で大人しくする必要が無くなったから全力で走る事が出来る。
 短い斜度がキツイ箇所は、私の必殺スプリント『ディバイディング・スプリント・トレイ』で加速して乗り切る。
 ここで多少スプリントパワーを使っても、後の下りの13km、最後の平地の15kmで回復が間に合うから問題ない。
 空気抵抗が少ない上り区間でも少しでも楽になる様に、木野さん、北見さん、南原さん、利男が私の前を走る。
 今は走っている上り区間は、ヤビツ峠と同じ程度の距離と難易度だから安心して上れる。
 慣れている峠と同じような距離、斜度だとペース配分が楽になる。
 少し体力を使ったが問題なく頂上まで上り切り、直ぐに下り始めた。
 今走っている下り区間は、前の山岳地帯の下りより速く下れている。
 集団で下るより、人数が少ないチームメンバーだけで下る方が速いからだ。
 私と利男で少し先行して走っているが、木野さん達を置き去りにしない様に少し抑え気味で走行した。
 仲間全員で下り区間を走り終え、最後の平地区間に突入した。
 海斗君との距離はどうなっている?
 見通しが良くなった所で確認したが、まだ1~2km程離されている。
 仲間全員で追いかければ、ゴール前に追いつけるかもしれない。
 だが、それではゴールスプリントで勝負するだけの体力が残せない。
 どうすれば良いのだろう?

「お久しぶりです、お兄さん。苦戦してるみたいですね」
「前にクリテでご一緒して以来ですね」
「あの時は途中で棄権したみたいですけど、大丈夫でしたか?」

 追いついて来た青いジャージの3人の選手に話しかけられた。
 前にクリテで……あの時の選手か!
 私が落車して愛車を失ったクリテリウムで、途中一緒に協調して先頭集団を追いかけた選手達だ!
 今日のレースに参加していたのだな。

「久しぶりですね。あの時は落車して愛車が走行不能になったから棄権したんだ」
「それは残念でしたね」
「それでバイクが変わってたのか」
「私達が無理をさせたせいですかね」
「そんな事は無いですよ。少し欲が出て無理をしてしまっただけです」
「おいおい、世間話してる場合か? どうやって追いつくんだよ?」

 北見さんが話に割り込む。

「アシストが頑張って追いつけば良いだけですよ」
「そういう事なんで後ろについて来て下さい」
「スプリント要員以外はローテーションしてもらえるかな?」

 何故アシストしてくれようとする?
 前に一緒に走った時は、先頭集団に追いつくという同じ目的があった。
 だが、今回は何も思いつかない。

「どうしてアシストしてくれるのですか?」
「いやぁ、第2集団の先頭付近が急に加速したと思ったら、選手がボロボロ脱落してきて驚きましたよ。脱落した理由を聞いたら面白そうだったので、追いかける事にしてみたんですよね」
「追いついてみて、面識がある人だったので更に驚きましたけど。面白そうだからアシストさせて下さいよ」
「自由に楽しむのが僕らのチームの信条ですから。僕達ブルーフリーダムの3人が道を切り開きますよ」

 3人が楽しそうにアシストしてくれる理由を語ってくれた。
 有難いな。
 今回のレースは感謝ばかりしている。
 こんなにも多くの人に支えられて走れている事が本当に嬉しい。

「よっしゃ。それなら気合で追いかけるぞ。こっちのローテーションメンバーは俺とこいつだ」

 北見さんが名乗り出ると同時に、南原さんを指名する。

「猛士さん、ジェルです。加速する前に補給をしておきましょう」

 南原さんからジェルを受け取り、封を切って一気に吸い込む。
 口の中が独特な甘みで満たされる。
 中々慣れない味わいだが、手軽にカロリーを摂取出来るのは魅力だ。
 私が補給食を食べた後、隊列を組んで加速を始めた。
 南原さん、北見さん、ブルーフリーダムの3人の順番でローテーションしながら高速巡行をする。
 ローテーションメンバーの中では、南原さんが一番長く前を引いている。
 時速50km前後を長く維持出来るのは凄いな。
 その他のメンバーは後ろで、体力の消耗を抑えて走っている。
 私、利男、そして木野さんだ。
 北見さんはローテーションメンバーに南原さんを指名したが、木野さんは指名しなかった。
 そして、南原さんも木野さんをローテーションメンバーに誘わなかった。
 そういう事なんだな。私は木野さんの立ち位置を理解した。
 今回のレースで木野さんは目立った活躍をしていない。
 そして全力で協力しなければならない、今の局面でも活躍を抑えている。
 明らかに木野さんの体力を温存している。
 それは最後局面。ゴールスプリントのアシスト。
 スプリントトレインのメンバーとして扱われているという事だ。
 最後は木野さん、利男、私の3人で、海斗君との勝負に決着をつけるのだ!
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

GIVEN〜与えられた者〜

菅田刈乃
青春
囲碁棋士になった女の子が『どこでもドア』を作るまでの話。

「南風の頃に」~ノダケンとその仲間達~

kitamitio
青春
合格するはずのなかった札幌の超難関高に入学してしまった野球少年の野田賢治は、野球部員たちの執拗な勧誘を逃れ陸上部に入部する。北海道の海沿いの田舎町で育った彼は仲間たちの優秀さに引け目を感じる生活を送っていたが、長年続けて来た野球との違いに戸惑いながらも陸上競技にのめりこんでいく。「自主自律」を校訓とする私服の学校に敢えて詰襟の学生服を着ていくことで自分自身の存在を主張しようとしていた野田賢治。それでも新しい仲間が広がっていく中で少しずつ変わっていくものがあった。そして、隠していた野田賢治自身の過去について少しずつ知らされていく……。

【完結】偽りの告白とオレとキミの十日間リフレイン

カムナ リオ
青春
八神斗哉は、友人との悪ふざけで罰ゲームを実行することになる。内容を決めるカードを二枚引くと、そこには『クラスの女子に告白する』、『キスをする』と書かれており、地味で冴えないクラスメイト・如月心乃香に嘘告白を仕掛けることが決まる。 自分より格下だから彼女には何をしても許されると八神は思っていたが、徐々に距離が縮まり……重なる事のなかった二人の運命と不思議が交差する。不器用で残酷な青春タイムリープラブ。

秘密のキス

廣瀬純一
青春
キスで体が入れ替わる高校生の男女の話

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

僕は 彼女の彼氏のはずなんだ

すんのはじめ
青春
昔、つぶれていった父のレストランを復活させるために その娘は 僕等4人の仲好しグループは同じ小学校を出て、中学校も同じで、地域では有名な進学高校を目指していた。中でも、中道美鈴には特別な想いがあったが、中学を卒業する時、彼女の消息が突然消えてしまった。僕は、彼女のことを忘れることが出来なくて、大学3年になって、ようやく探し出せた。それからの彼女は、高校進学を犠牲にしてまでも、昔、つぶされた様な形になった父のレストランを復活させるため、その思いを秘め、色々と奮闘してゆく

Missing you

廣瀬純一
青春
突然消えた彼女を探しに山口県に訪れた伊東達也が自転車で県内の各市を巡り様々な体験や不思議な体験をする話

切り札の男

古野ジョン
青春
野球への未練から、毎日のようにバッティングセンターに通う高校一年生の久保雄大。 ある日、野球部のマネージャーだという滝川まなに野球部に入るよう頼まれる。 理由を聞くと、「三年の兄をプロ野球選手にするため、少しでも大会で勝ち上がりたい」のだという。 そんな簡単にプロ野球に入れるわけがない。そう思った久保は、つい彼女と口論してしまう。 その結果、「兄の球を打ってみろ」とけしかけられてしまった。 彼はその挑発に乗ってしまうが…… 小説家になろう・カクヨム・ハーメルンにも掲載しています。

処理中です...