ホビーレーサー!~最強中年はロードレースで敗北を満喫する~

大場里桜

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最終章 最強部長はロードレースでも最強を目指す

第84話 黄・青・赤

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 いよいよレーススタートだ。
 最初の37kmは平坦区間だ。
 私達のチームは集団内で2列で走行する事にした。
 先頭は師匠と利男。続いて北見さんと木野さん。最後が私だ。
 まだ序盤なので逃げる選手もおらず、集団で淡々と走行している。
 所々、斜度4%程度の緩い上りはあるが、速度は落ちず、ほぼ時速40km程度を維持している。
 周囲に他の選手がいるので、接触しない様に気を遣う必要はあるが、脱落の心配がないので気分的に楽だ。
 今の実力なら、集団内で時速40kmを維持するのは簡単である。
 それは周囲の選手も同様だ。周囲の選手が雑談を始める。
 今の脚の調子について……前回のレースの話……新しく発売された機材の話……
 選手によって話題は違うが、雑談をしているのは一緒だった。
 それは、私のチームも同じだった。

「何か利男のペダリング変じゃねぇか?」
「普通だぜ!」
「普通ですかぁ。足が荒ぶってますよぉ」

 利男は気にしていないが、木野さんの言う通り、足の軌道が荒ぶっている。
 北見さんが変と言うのも分かる。

「いいのよ、俺はノリでペダルを踏み込む派だからさ」
「ノリで踏み込む派なんて、聞いた事ねぇよ」
「そんなに足がブレていて、膝を痛めないんですかぁ?」
「大丈夫! 可動タイプのクリート使ってるからさ!」

 可動タイプのクリートか……
 レース用のペダルはシューズを固定出来るようになっている。
 ペダルの相方であるシューズの底面についている、固定用のパーツがクリートだ。
 クリートの種類によって、ペダルとの固定部の可動域が変わる仕組みだ。
 メーカーによって可動域が違うが、大抵は可動タイプ・中間タイプ・固定タイプの3種類があり、色で判別出来るようになっている。
 利男が使っているのは可動タイプで、固定部のあそびが一番大きくて、つま先の角度の可動域が大きいものだ。

「お揃いだぁ。僕も可動タイプ使ってますよぉ」

 木野さんも利男と同じで可動タイプを使っているのか。

「俺は中間タイプだ。可動タイプは動きすぎるんだよね。東尾君は?」
「俺も中間タイプですよ。可動タイプはスプリントの時に動き過ぎるから」

 北見さんと師匠は中間タイプを使っているのか。
 そうすると固定タイプを使っているのは、私とレースを引退した南原さんの二人だな。

「スプリントで動き過ぎるなら、固定タイプにすれば良いじゃねぇか」
「完全に固定するとヒルクライムがキツイんですよ。平地とヒルクライムでペダリングを変えてるから。猛士さんは固定タイプかな?」
「師匠の想像通り、固定タイプを使ってますよ」

 師匠に問われて、使っているクリートの種類を答えた。
 利男のペダリングの話から、完全にクリートの話題に変わったな。
 ホイールやサドル等の機材の話と違って、シューズ等のウェア関係の話題はあまりしないので、どの様な理由で選んだか興味がある。

「やっぱ、スプリンターは固定タイプだよな!」
「猛士さんくらいパワーがあると、固定タイプじゃないとペダルが外れるんですかぁ?」
「いや、膝を痛めない為に固定タイプを使っている」

 始めた頃は可動タイプを使っていたが、南原さんにお勧めされて固定タイプに変えたのだ。
 固定タイプの方がパワーが逃げないからとの事だったが、予想と違って膝を痛めなくなったから愛用している。

「はっ、膝を痛めない為なら可動タイプだろ?」
「膝を痛めない為に固定タイプを使うなんて、初めて聞いたな」
「そうだな、俺も初めて聞くよ。膝を痛めない為だったら、普通は俺と同じで可動タイプを選ぶよな」
「そうですねぇ。初めて聞きますねぇ。足先が固定されていると、膝が捻じれて痛めないですかぁ?」

 皆にとって、膝を痛めない為に固定タイプを使用する事が理解出来ないようだ。
 それなら、理由が分かる様に説明するしかない。

「逆だな。足先が固定されていないと、パワーをかけて踏み込んだ時に、つま先の角度が変わって膝が捻じれるのだ。足先を完全に固定した方が膝の捻じれが少なくて済むのだ」
「そんな事あるんか? 普通は踏み下ろした時の膝の軌道がブレた時に、足先が固定されていると膝に負担がかかるんだけどな」
「うーん、猛士さんは体幹が強いからかな。ペダリングが安定しているから、体幹部と足先の2か所を固定した方が、膝の軌道が安定するのかな」

 北見さんは理解出来ない様だが、師匠は理解出来たようだ。
 経験豊富な師匠は、イレギュラーな事態に対して理解が速い。
 説明が的確だ!

「流石です師匠。説明が的を得ている」
「一般論と違う事もあるんか……」
「ファッションと同じで、クリートも人それぞれって事さ!」

 元気よく持論を展開する利男だったが……

「それはねぇだろ!」
「それはないな」
「ないですねぇ」

 即座に私以外の3人に否定されたのであった……

*タイトルは作者が愛用しているメーカーのクリートの色です。
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