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6章 終わった夢が残した物
第75話 お金で勝って恥ずかしくないの?
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コースから出て、ゼッケンと計測器を返却した後に仲間の元に戻った。
「猛士さん凄かったです! 最後のスプリントでグングン後ろの選手が離されてました! 他の選手が止まってる様に見えちゃいました!」
勇也くんがはしゃぎながら出迎えてくれた。
彼の様子を見ていると、勝てて本当に良かったと思う。
自分の勝利を喜んでくれる相手がいるというのは良いものだな。
「ありがとう、スプリントだけは得意だからね。でも、他の選手が止まって見えるは言い過ぎだよ」
「いいじゃない。他に活躍する所がないんだから。預かるわよ」
綾乃がロードバイクを預かってくれたので、グローブを外し、ヘルメットを脱ぐ。
「ナイスだよ中杉君。いやぁ、ボロ負けして泣かれたらどうしようかと思ったよ」
「パパみたいに微妙な負け方しなければいいもん」
「俺微妙かよぉ」
勇也くんは父親である北見さんの走りが好きではないのか。
私にとっては尊敬出来る先輩の一人なのだけどな。
「どういう所が微妙なの?」
綾乃も気になったのだろう。
勇也くんに理由を聞いた。
「いつも無難な走り方する所。何となく先頭集団にいるけど、勝負所で攻めないから。レース展開を動かす為に攻めの走りをして、力尽きて完走出来ない方が無難な走りをするよりカッコイイ」
「分かるー、私もドキドキ、ハラハラする方が楽しい」
ひまりちゃんが勇也くんに同意する。
「なんだよぉ~、俺人気ねぇの?」
「派手な走りをする方が観客受けが良さそうですね。北見さんのクレバーな走りは実際に走っているホビーレーサーは興味があると思いますけど」
「だよなぁ。俺の大人の魅力は玄人には伝わんのよ!」
北見さんが元気を取り戻す。
勇也くんやひまりちゃんが派手な走りが好きなのは良く分かるな。
先頭で積極的にアタックして集団の人数を絞る走りは派手だし、数人で後方の集団から逃げる選手がいると盛り上がる。
特に逃げは楽しい。
逃げてる選手がスタートラインを通過した後、続いて集団がスタートラインを通過するまでのタイムを計測するのだ。
そして、逃げている選手にタイム差を教えるのだ。
10秒差! 逃げ切れるよ、とかね。
でも北見さんの走りも凄いのだ。
彼の走りには、私の様な弱小レーサーが生き残る為の智慧が詰まっている。
体力を温存して年齢の差を穴埋めするテクニックは勉強になる。
「なんだ、勇也もいたのか」
突然、背後から子供の声が聞こえた。
振り向くと勇也くんと同じ10才くらいの少年がいた。
勇也くんは女子と間違える程、可愛らしいタイプだが、目の前の彼はいかにもスポーツ少年といった鋭い顔つきだ。
「陸、何か用?」
勇也くんが冷たく言い放つ。
お互い名前を知っているという事は知り合いなのだろう。
だが、何故冷たい態度をとるのだ?
「別に、アニキがエリートクラスで参加するから見に来ただけだよ。エリートクラスが始まるまで暇なんだよね」
「暇なら観戦していけば。スポーツクラス始まってるよ」
「興味ないね。アニキと違って低レベルだから。さっきのビギナークラスも、微妙だったよね」
「そんな事ないだろ! 猛士さんのスプリント凄かったもん」
勇也くんが怒る。
陸君が失礼だから……か?
どうやら二人には私が知らない確執があるようだ。
「あぁ、そこにいるオッサンね。勝ったのロードバイクの性能のお陰でしょ。お金で勝って恥ずかしくないの?」
「陸!」
陸君に掴みかかろうとする勇也くんを止める。
「勇也くん、落ち着こう」
「でもっ!」
「中杉君の言う通り落ち着こうじゃないか。始めて3か月の勇也に負けて以来、万年2位の相手に苛つく必要はないんだぜ。王者の風格を見せてやろうじゃないか」
「僕に勝てたのは速いロードバイク買ってもらってるからだろ!」
北見さんの話で大体の事情を把握出来た。
陸君は勇也くんのレース仲間で、彼をライバル視しているのか。
しかも負けの理由がロードバイクの性能差だと思っているようだな。
だから私の様な高級ロードバイクに乗っている選手を目の敵にしているのか。
しかし、北見さんは大人げないな。
子供相手にムキになり過ぎだ。
「北見、大人げない! ごめんなさいね陸君」
綾乃が北見さんを注意し、陸君に謝る。
「僕だって、僕だって……」
陸君が泣き出す。
彼が言った事はレースに参加する選手へのリスペクトがないし、同じ趣味を共有する仲間として良い事ではない。
それでも、このまま放置するのは可哀そうだ。
彼はまだ幼いのだ。
「折角だからお兄さんのレースを一緒に観戦しようじゃないか。私達の仲間も参加するからね」
「ふんっ、どうせアニキには勝てないんだからな」
残念ながらその通りだろうな。
利男はエリートクラスで完走出来ないからな。
申し訳ない利男。そして、申し訳ない木野さん。
予期せぬ陸君の来訪で、木野さんのレースを見逃してしまった……
後は南原さんの写真に期待するしかない。
きっと木野さんの雄姿を写真に収めてくれているだろう。
そして陸君は私達と一緒にレースを観戦する事となった。
色々文句を言っているが、一人で観戦するのが寂しかったのかな?
「猛士さん凄かったです! 最後のスプリントでグングン後ろの選手が離されてました! 他の選手が止まってる様に見えちゃいました!」
勇也くんがはしゃぎながら出迎えてくれた。
彼の様子を見ていると、勝てて本当に良かったと思う。
自分の勝利を喜んでくれる相手がいるというのは良いものだな。
「ありがとう、スプリントだけは得意だからね。でも、他の選手が止まって見えるは言い過ぎだよ」
「いいじゃない。他に活躍する所がないんだから。預かるわよ」
綾乃がロードバイクを預かってくれたので、グローブを外し、ヘルメットを脱ぐ。
「ナイスだよ中杉君。いやぁ、ボロ負けして泣かれたらどうしようかと思ったよ」
「パパみたいに微妙な負け方しなければいいもん」
「俺微妙かよぉ」
勇也くんは父親である北見さんの走りが好きではないのか。
私にとっては尊敬出来る先輩の一人なのだけどな。
「どういう所が微妙なの?」
綾乃も気になったのだろう。
勇也くんに理由を聞いた。
「いつも無難な走り方する所。何となく先頭集団にいるけど、勝負所で攻めないから。レース展開を動かす為に攻めの走りをして、力尽きて完走出来ない方が無難な走りをするよりカッコイイ」
「分かるー、私もドキドキ、ハラハラする方が楽しい」
ひまりちゃんが勇也くんに同意する。
「なんだよぉ~、俺人気ねぇの?」
「派手な走りをする方が観客受けが良さそうですね。北見さんのクレバーな走りは実際に走っているホビーレーサーは興味があると思いますけど」
「だよなぁ。俺の大人の魅力は玄人には伝わんのよ!」
北見さんが元気を取り戻す。
勇也くんやひまりちゃんが派手な走りが好きなのは良く分かるな。
先頭で積極的にアタックして集団の人数を絞る走りは派手だし、数人で後方の集団から逃げる選手がいると盛り上がる。
特に逃げは楽しい。
逃げてる選手がスタートラインを通過した後、続いて集団がスタートラインを通過するまでのタイムを計測するのだ。
そして、逃げている選手にタイム差を教えるのだ。
10秒差! 逃げ切れるよ、とかね。
でも北見さんの走りも凄いのだ。
彼の走りには、私の様な弱小レーサーが生き残る為の智慧が詰まっている。
体力を温存して年齢の差を穴埋めするテクニックは勉強になる。
「なんだ、勇也もいたのか」
突然、背後から子供の声が聞こえた。
振り向くと勇也くんと同じ10才くらいの少年がいた。
勇也くんは女子と間違える程、可愛らしいタイプだが、目の前の彼はいかにもスポーツ少年といった鋭い顔つきだ。
「陸、何か用?」
勇也くんが冷たく言い放つ。
お互い名前を知っているという事は知り合いなのだろう。
だが、何故冷たい態度をとるのだ?
「別に、アニキがエリートクラスで参加するから見に来ただけだよ。エリートクラスが始まるまで暇なんだよね」
「暇なら観戦していけば。スポーツクラス始まってるよ」
「興味ないね。アニキと違って低レベルだから。さっきのビギナークラスも、微妙だったよね」
「そんな事ないだろ! 猛士さんのスプリント凄かったもん」
勇也くんが怒る。
陸君が失礼だから……か?
どうやら二人には私が知らない確執があるようだ。
「あぁ、そこにいるオッサンね。勝ったのロードバイクの性能のお陰でしょ。お金で勝って恥ずかしくないの?」
「陸!」
陸君に掴みかかろうとする勇也くんを止める。
「勇也くん、落ち着こう」
「でもっ!」
「中杉君の言う通り落ち着こうじゃないか。始めて3か月の勇也に負けて以来、万年2位の相手に苛つく必要はないんだぜ。王者の風格を見せてやろうじゃないか」
「僕に勝てたのは速いロードバイク買ってもらってるからだろ!」
北見さんの話で大体の事情を把握出来た。
陸君は勇也くんのレース仲間で、彼をライバル視しているのか。
しかも負けの理由がロードバイクの性能差だと思っているようだな。
だから私の様な高級ロードバイクに乗っている選手を目の敵にしているのか。
しかし、北見さんは大人げないな。
子供相手にムキになり過ぎだ。
「北見、大人げない! ごめんなさいね陸君」
綾乃が北見さんを注意し、陸君に謝る。
「僕だって、僕だって……」
陸君が泣き出す。
彼が言った事はレースに参加する選手へのリスペクトがないし、同じ趣味を共有する仲間として良い事ではない。
それでも、このまま放置するのは可哀そうだ。
彼はまだ幼いのだ。
「折角だからお兄さんのレースを一緒に観戦しようじゃないか。私達の仲間も参加するからね」
「ふんっ、どうせアニキには勝てないんだからな」
残念ながらその通りだろうな。
利男はエリートクラスで完走出来ないからな。
申し訳ない利男。そして、申し訳ない木野さん。
予期せぬ陸君の来訪で、木野さんのレースを見逃してしまった……
後は南原さんの写真に期待するしかない。
きっと木野さんの雄姿を写真に収めてくれているだろう。
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