ホビーレーサー!~最強中年はロードレースで敗北を満喫する~

大場里桜

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5章 2年目の終わり。それは夢の終わり。

第62話 先頭集団から脱落する

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 パァーン!
 レース開始の合図が会場に鳴り響く。
 先頭に並んだ選手は直ぐに走り出しただろうが、後方の選手は走り出すのにタイムラグがある。
 渋滞時の走り出しと同じような感じだろうか。
 20秒程待ったところで私の前の選手が走り出したので続いて走り始める。
 走り始めて一気に時速40kmを超える。
 このまま時速50km近くまで上がったらどうしようと心配したが、巡行速度は時速43km前後で落ち着いたので安心する。
 単独で巡行するにはキツイ速度だが、集団の後ろで空気抵抗を減らせてる状況では問題なくついていける速度である。
 逆に言えば、立ち上がりで遅れたら追いつけないって事だけどな。

「ブレーキ」

 前方から減速を伝える声が聞こえ始めると同時に選手集団の速度が落ちる。
 私も追突防止で「ブレーキ」と声に出す。
 そのまま時速30km近くまで減速して90度コーナーを抜けて、一気に離れる前走者を追いかける。
 周囲の選手の立ち上がり加速が鋭い!
 私はパワーはあるが、体重がある分加速は鈍い。
 少し開いた前走者との隙間に他の選手が入り込んでいく。
 順位を落としたが仕方がない。
 ここで前の集団から距離が開いたら、私もついていけなくなるのだから。
 私と同じで後方に並んだ選手だが、勝負を諦めている訳ではない様だ。
 それぞれの目標に向かって全力を出している。
 立ち上がり後の直線部分では再び時速40kmに落ち着く。
 人数が多いし、まだ一周目だから直線では勝負をかけないのだろう。
 今みたいに立ち上がりで脚力を削って、人数を絞ってから勝負をかけるのだろう。
 時速43km前後で2km巡行した後、再び90度コーナーに差し掛かる。
 再び「ブレーキ」の掛け声を上げながら減速して、コーナーを抜けた後に再び加速を行う。
 数人に抜かれたが、全力で加速したので、何とか集団についていけた。
 複数の選手が立ち上がりで遅れたのが見える。
 遅れたのは数秒、距離にして6m。
 だが、それだけでドラフティング効果は激減する。
 後方から他の選手の走行音が聞こえなくなる。
 選手集団後方の位置取りで得られる空力抵抗削減の利点を失った選手達が、たったの6mの僅かな距離を詰められず後方に引き離されたのだ。
 遅れた選手の中には私より体力がある選手もいただろう。
 それでも、先頭集団から遅れたらレース終了になる。
 これがレース経験の差だ!
 再び走る直線部で、立ち上がりの加速で消耗した足を休める。
 自転車で時速40km以上で走行しながら足を休めるなんて、自転車競技をしてない人には想像も出来ないだろうな。
 だから速度が高い直線部で頑張ろうと加速をためらって、結局遅れてしまう選手が出てくる。
 1周目の3度目の90度コーナー。
 前回のコーナー同様に「ブレーキ」の掛け声で減速して、コーナーの立ち上がりで全力加速する。
 前の選手に追いついたが、更に数人前の選手が選手集団から大幅に遅れていたようだ。
 気付いた時には先頭集団から10mも離されていた。
 1周目にしてレース終了か……

「おい!」
「遅れんなよ!」

 苛立った一部の選手が怒号を上げる。
 さて、この集団でラップアウトされずにレースを終えられるだろうか。

「お兄さん、体格いいけどパワーある?」

 突然隣に現れた青いジャージの選手に声をかけられた。
 周りに同じデザインの青いジャージを着た選手が2人いるから、恐らくチームジャージなのだろう。
 面識がない3人だが、状況から察するに協力依頼か?

「FTPが低いから巡行では追えないですよ。短時間のパワーなら自信がありますけど」
「500W、30秒でどうかな?」
「大丈夫です。お願いします」

 青いジャージの選手が言った「500W、30秒」……500Wで走行して30秒で交代って事だ。
 何故か私をローテーションに加えて先頭集団を追おうとの提案だ。
 さっき迄の巡行はドラフティング効果のお陰で200W前後で走っていたから、500Wは2倍以上のパワーを出さなければならない。
 30秒という短時間だが結構キツイ。
 私を入れて4名だから1分30秒毎に先頭を引かなければいけないのだ。
 それでもレースで生き残るには、先頭集団に復帰する以外に手段はない。
 だから私はお願いしますと即答した。
 話しかけてきたリーダーと思われる選手が合図すると同時に一気に加速を始めた。
 驚く事に私の並びは、先頭交代の回数が少なくて済む最後尾だった。
 実力が不透明な私の様子見なのか、誘った立場だから配慮したのかは分からない。
 だが、有り難い事だと思う。
 私を先頭集団を追う為の捨て駒として利用するのでは無く、本当に協調する為に誘ってくれたのだろう。
 時速47kmまで一気に速度が上がり、先頭集団の選手の背中が徐々に近づいてくる。
 どうやら私のレースは終わらないで済んだようだ。
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