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5章 2年目の終わり。それは夢の終わり。
第58話 嫌われても伝えた想い
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南原さんから速く走れなくなったと打ち明けられた翌週、相談があるとひまりちゃんを走りに誘った。
峠を上った後、山頂で休憩しながら話を始めた。
「猛士さんが私を呼ぶなんて珍しいですね。相談があるって言ってましたけど、忘年会の開催についてですか? 年末近いから」
「忘年会は木野さんが張り切ってるよ。今日相談というか、話を聞きたかったのは南原さんの事なんだ」
「堅司の事? どうして?」
私が南原さんの話を始めたのが、ひまりちゃんにとって意外だったようだ。
不思議そうな顔をしている。
「先週一緒に走った時に速く走れなくなった、レースを走る気持ちが無くなったと打ち明けられてね。理由をはっきり言ってくれなかったけど、チームも辞めようと思っているようなんだ」
「ふーん。その原因が私だって事?」
ひまりちゃんが急に不機嫌な顔になる。
今の話の流れで、私が疑っていると感じたからだろう。
不快に思われるのは悲しいが、機嫌を気にしていては話が進まない。
彼女は勘が鋭いようだから、誤魔化さず正直に話す。
「原因って言い方が合っているか分からないけど、切っ掛けではあると思っている」
「それで注意しようと思ったの?」
「注意なんてしないさ。ただ、南原さんが悩んでる原因を解消してあげたいだけなんだ」
「ハッキリしないわね。要するに私がグルメライドとかに連れ出してるから堅司が遅くなった。私が誘わなければ原因解消って事でしょ!」
予想通りだな。これが南原さんが言っていた、乗ってはいるが速く走ってないって事なのだろう。
でも、誤解されたままなのは良くないな。
速く走る事がロードバイクの全てではない。
私は彼やひまりちゃんにレース以外でも、ロードバイクを楽しんで欲しいを思っているのだから。
「そうではない。そうなった事くらい把握出来ている。元々彼は活躍出来るレースが少なくて、レースを続ける事を悩んでいたんだ。だから、レース以外のロードバイクの楽しみを知る切っ掛けになって欲しいと思って、ひまりちゃんを南原さんに任せたんだ。レースなんて関係ない。私は彼に堂々とロードバイクを楽しんで欲しいんだ」
「そんな事言われても困ります。レース会場で教えてあげるとか知らない男性が寄って来て迷惑だったかから。男避けの為に体格がよい彼や貴方を利用しようとしただけだから!」
ひまりちゃんが言っているのは、今年最初のレースで出会った時の事だろう。
そんな事はおっとりしている木野さんへの態度や、遠巻きに見ていた人達の状況で分かっていたさ。
仕事上でも同様の事態は起きる。
その度に嫌われながら対応する事も、部長としての私の務めなのだからな。分かっていて当然だ。
「私は多くの部下を預かる身だ。それくらい最初から分かっていたさ。それでも彼に任せた。それが二人にとって良いと判断したからだ。楽しそうに走るひまりちゃんなら、南原さんにレース以外の楽しさを教えられると思った。誠実な彼はひまりちゃんが安心して走れる様にエスコートしてくれると思った」
「猛士さんの正論だらけなところ、私は嫌いです!」
「私は嫌われても構わない。上に立つという事はそういものだ。だけど、これからも南原さんを頼むよ」
「貴方に頼まれる事じゃない!」
「その通りだな。無理強いは正しくない」
「そういうのが駄目なのよ! 正しいかどうかじゃなくて、どうしたいかでしょ!」
ひまりちゃんが私と会話を進める度に苛立ち始める。
これも中年の宿命か……若者の感覚と合わないのだろう。
「そういうものか。それなら今まで通り南原さんと仲良くして欲しい。私の我儘だけどな」
「分かったわよ。本当、貴方を好きになった人は苦労するわね」
「分かってくれたのは有り難いが、何故私を好きになった人の話しになるのだ? まぁ、私を好きになってくれる人がいないから問題は起きないけどな」
「駄目ね、このオッサン」
「オッサンか。事実ではあるな。それに、今の話し方の方がひまりちゃんらしいな」
「可愛くなくて御免なさいね」
ひまりちゃんが大分荒っぽい話し方になったが、今までの可愛い話し方より自然だと感じる。
今日は苛立たせて怒鳴られてばかりだったけど、少しは打ち解けられたのだろうか。
言葉の粗さとは逆に、表情の険しさはなくなっていた。
結果は分からないが、私の想いは全て伝えきった。後は二人の問題だ。
話を終え、峠を下った所でひまりちゃんと別れた。
そして、自宅に帰った後に南原さんと連絡を取った。
私からの突然の連絡で驚いていたが、私の想いを全て話したらスッキリしていた。
レースは引退する事になったが、チームは辞めない事になった。
予定が合えば私達の応援に来てくれるそうだ。
一緒にレースを走れないのは少し寂しいが、これで南原さんも大丈夫だろう。
峠を上った後、山頂で休憩しながら話を始めた。
「猛士さんが私を呼ぶなんて珍しいですね。相談があるって言ってましたけど、忘年会の開催についてですか? 年末近いから」
「忘年会は木野さんが張り切ってるよ。今日相談というか、話を聞きたかったのは南原さんの事なんだ」
「堅司の事? どうして?」
私が南原さんの話を始めたのが、ひまりちゃんにとって意外だったようだ。
不思議そうな顔をしている。
「先週一緒に走った時に速く走れなくなった、レースを走る気持ちが無くなったと打ち明けられてね。理由をはっきり言ってくれなかったけど、チームも辞めようと思っているようなんだ」
「ふーん。その原因が私だって事?」
ひまりちゃんが急に不機嫌な顔になる。
今の話の流れで、私が疑っていると感じたからだろう。
不快に思われるのは悲しいが、機嫌を気にしていては話が進まない。
彼女は勘が鋭いようだから、誤魔化さず正直に話す。
「原因って言い方が合っているか分からないけど、切っ掛けではあると思っている」
「それで注意しようと思ったの?」
「注意なんてしないさ。ただ、南原さんが悩んでる原因を解消してあげたいだけなんだ」
「ハッキリしないわね。要するに私がグルメライドとかに連れ出してるから堅司が遅くなった。私が誘わなければ原因解消って事でしょ!」
予想通りだな。これが南原さんが言っていた、乗ってはいるが速く走ってないって事なのだろう。
でも、誤解されたままなのは良くないな。
速く走る事がロードバイクの全てではない。
私は彼やひまりちゃんにレース以外でも、ロードバイクを楽しんで欲しいを思っているのだから。
「そうではない。そうなった事くらい把握出来ている。元々彼は活躍出来るレースが少なくて、レースを続ける事を悩んでいたんだ。だから、レース以外のロードバイクの楽しみを知る切っ掛けになって欲しいと思って、ひまりちゃんを南原さんに任せたんだ。レースなんて関係ない。私は彼に堂々とロードバイクを楽しんで欲しいんだ」
「そんな事言われても困ります。レース会場で教えてあげるとか知らない男性が寄って来て迷惑だったかから。男避けの為に体格がよい彼や貴方を利用しようとしただけだから!」
ひまりちゃんが言っているのは、今年最初のレースで出会った時の事だろう。
そんな事はおっとりしている木野さんへの態度や、遠巻きに見ていた人達の状況で分かっていたさ。
仕事上でも同様の事態は起きる。
その度に嫌われながら対応する事も、部長としての私の務めなのだからな。分かっていて当然だ。
「私は多くの部下を預かる身だ。それくらい最初から分かっていたさ。それでも彼に任せた。それが二人にとって良いと判断したからだ。楽しそうに走るひまりちゃんなら、南原さんにレース以外の楽しさを教えられると思った。誠実な彼はひまりちゃんが安心して走れる様にエスコートしてくれると思った」
「猛士さんの正論だらけなところ、私は嫌いです!」
「私は嫌われても構わない。上に立つという事はそういものだ。だけど、これからも南原さんを頼むよ」
「貴方に頼まれる事じゃない!」
「その通りだな。無理強いは正しくない」
「そういうのが駄目なのよ! 正しいかどうかじゃなくて、どうしたいかでしょ!」
ひまりちゃんが私と会話を進める度に苛立ち始める。
これも中年の宿命か……若者の感覚と合わないのだろう。
「そういうものか。それなら今まで通り南原さんと仲良くして欲しい。私の我儘だけどな」
「分かったわよ。本当、貴方を好きになった人は苦労するわね」
「分かってくれたのは有り難いが、何故私を好きになった人の話しになるのだ? まぁ、私を好きになってくれる人がいないから問題は起きないけどな」
「駄目ね、このオッサン」
「オッサンか。事実ではあるな。それに、今の話し方の方がひまりちゃんらしいな」
「可愛くなくて御免なさいね」
ひまりちゃんが大分荒っぽい話し方になったが、今までの可愛い話し方より自然だと感じる。
今日は苛立たせて怒鳴られてばかりだったけど、少しは打ち解けられたのだろうか。
言葉の粗さとは逆に、表情の険しさはなくなっていた。
結果は分からないが、私の想いは全て伝えきった。後は二人の問題だ。
話を終え、峠を下った所でひまりちゃんと別れた。
そして、自宅に帰った後に南原さんと連絡を取った。
私からの突然の連絡で驚いていたが、私の想いを全て話したらスッキリしていた。
レースは引退する事になったが、チームは辞めない事になった。
予定が合えば私達の応援に来てくれるそうだ。
一緒にレースを走れないのは少し寂しいが、これで南原さんも大丈夫だろう。
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