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5章 2年目の終わり。それは夢の終わり。
第57話 突然の告白
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東尾師匠とのスプリントトレーニングを終え、休憩していたところに南原さんから連絡が入った。
一緒に走ろうとの誘いだが、今は師匠と一緒だ。
午後も引き続き走る予定だったから、南原さんの誘いを受けようと思ったので、師匠に午後の予定を確認する。
「南原さんから誘いが来てますけど、午後も一緒に走りませんか?」
「午後はレース仲間と練習する予定があるから遠慮しとくよ。久しぶりに堅司とも走りたかったけどね」
師匠は予定があるのか。少し残念だけど、今日はここでお別れだな。
「そうですか。今日は有難う御座いました」
「次のレース期待してるよ!」
師匠に別れを告げ、南原さんとの待ち合わせ場所に向かった。
*
待ち合わせ場所に着くと、南原さんが先に到着していた。
「猛士さん、こんにちは」
「こんにちは、南原さん。今日は何処に行くのかな」
「平地メインで海岸通りを走ろうと思ってます」
「私達の得意なルートだな。早速走ろうか」
「はい。前を走ります」
早速、走り出す。今日は随分ゆっくり走るのだな。
南原さんはタイムトライアルスペシャリストだから平地が異常に速い。
普段は、後ろについて空気抵抗を減らしても、ついていくのが大変なのだけどな。
私の実力が上がったから楽になったのだろうか?
疑問に思いながらも走り続け、辿り着いたのは城ヶ島。南原さんの目的地はここか。
恋人のモニュメントの前に立つ、ピチピチのレースジャージを着た男二人。
違和感が凄いな……
「今日の自分の走り……どうでした?」
「少しゆっくりだったかな。私の実力に合わせようとしてくれたのかな?」
南原さんに今日の走りの感想を問われたので正直に答えた。
少し沈黙した後、南原さんが躊躇いながら話始める。
「これが……今の自分の実力なんです……もう、去年の様には走れなくて……」
南原さんからの突然の告白。
そう言えば、前回のロードレースでも私より先に脱落していたな。
いくらアシストしていたとはいえ、南原さんにとって短い距離のレースで力尽きたのは違和感を感じていた。
たまたま調子が悪かったのかと思っていたが、走力が落ちていたのは驚きだ。
トレーニングする時間がないのだろうか?
「大学忙しいのか? あまり乗れていないとか?」
「乗ってはいるのですが。速く走る事はしてないです」
「そうか。でも、何故すまなそうな顔をしてるのだ。遅くても楽しければ良いと思うのだが?」
「レースチームなのに遅くてもよいのでしょうか? レースを走る気持ちが無くなった自分が所属していても良いのでしょうか?」
南原さんが必死に訴えかける。
私のチームはレースチームだが、レースに勝つよりも仲間といつも一緒に走りたいとの思いが強いのだけどな。
だからチーム名も『いつも一緒』なんて緩い名前なんだけどな。
「レースを走る気持ちが無くても良いと思うよ。一応レースチームとして立ち上げたけど、レース参加は義務じゃない。たまに休日一緒に走るだけでも良いと思う。今はいないけど、レース好きで観戦するだけだったり、写真を撮りたいだけのメンバーがいてもいいと思う」
「でもっ」
「結論を急ぐ必要はないさ。遅くなったとは言っても、まだまだ私より速いだろ? 遅くて抜けるなら私が一番に抜けなくてはいけなくなる。そういう事かな?」
「そ、そんな。猛士さんはレース頑張ってるじゃないですか」
南原さんが慌てる。少し意地悪な言い方をしたかな。
でも、南原さんは西野の次に知り合った仲間だし、初めて私にロードバイクでの走り方を教えてくれた人でもある。
私のわがままだが、レースに参加しなくなるだけで、お別れしたくはない。
「まぁ、どうしても気持ちの整理がつかないならやめても良いけど、仲間ではいてくれよ」
「当然ですよ。猛士さんだけじゃない。みんな自分の友人ですから」
「それなら悩む事はないさ。さて、帰りも距離が長いから、そろそろ行こうか」
「はい」
私達は帰路についた。今度は逆に私が前を引いて走る。
午前中に師匠とのトレーニングを行ったから、疲労で瞬発力がなくなっている。
それでも、普段のトレーニング速度で走ると南原さんが少し遅れる。
彼が遅れない様に速度を落として走ってみて、本当に遅くなったのだと実感してしまった。
ーー帰宅後。
ベッドに寝ころびながら、今日の出来事を振り返った。
南原さんが遅くなった原因について心当たりがある。
恐らく私のお節介が原因だろう。
レース活動を続けるか悩んでいた彼に余計な事をしたかもしれない。
それなら、原因と直接話して解決しないとな。
レース以外のロードバイクの楽しみを知って欲しかったのに、逆に困らせてしまったのだからーー
一緒に走ろうとの誘いだが、今は師匠と一緒だ。
午後も引き続き走る予定だったから、南原さんの誘いを受けようと思ったので、師匠に午後の予定を確認する。
「南原さんから誘いが来てますけど、午後も一緒に走りませんか?」
「午後はレース仲間と練習する予定があるから遠慮しとくよ。久しぶりに堅司とも走りたかったけどね」
師匠は予定があるのか。少し残念だけど、今日はここでお別れだな。
「そうですか。今日は有難う御座いました」
「次のレース期待してるよ!」
師匠に別れを告げ、南原さんとの待ち合わせ場所に向かった。
*
待ち合わせ場所に着くと、南原さんが先に到着していた。
「猛士さん、こんにちは」
「こんにちは、南原さん。今日は何処に行くのかな」
「平地メインで海岸通りを走ろうと思ってます」
「私達の得意なルートだな。早速走ろうか」
「はい。前を走ります」
早速、走り出す。今日は随分ゆっくり走るのだな。
南原さんはタイムトライアルスペシャリストだから平地が異常に速い。
普段は、後ろについて空気抵抗を減らしても、ついていくのが大変なのだけどな。
私の実力が上がったから楽になったのだろうか?
疑問に思いながらも走り続け、辿り着いたのは城ヶ島。南原さんの目的地はここか。
恋人のモニュメントの前に立つ、ピチピチのレースジャージを着た男二人。
違和感が凄いな……
「今日の自分の走り……どうでした?」
「少しゆっくりだったかな。私の実力に合わせようとしてくれたのかな?」
南原さんに今日の走りの感想を問われたので正直に答えた。
少し沈黙した後、南原さんが躊躇いながら話始める。
「これが……今の自分の実力なんです……もう、去年の様には走れなくて……」
南原さんからの突然の告白。
そう言えば、前回のロードレースでも私より先に脱落していたな。
いくらアシストしていたとはいえ、南原さんにとって短い距離のレースで力尽きたのは違和感を感じていた。
たまたま調子が悪かったのかと思っていたが、走力が落ちていたのは驚きだ。
トレーニングする時間がないのだろうか?
「大学忙しいのか? あまり乗れていないとか?」
「乗ってはいるのですが。速く走る事はしてないです」
「そうか。でも、何故すまなそうな顔をしてるのだ。遅くても楽しければ良いと思うのだが?」
「レースチームなのに遅くてもよいのでしょうか? レースを走る気持ちが無くなった自分が所属していても良いのでしょうか?」
南原さんが必死に訴えかける。
私のチームはレースチームだが、レースに勝つよりも仲間といつも一緒に走りたいとの思いが強いのだけどな。
だからチーム名も『いつも一緒』なんて緩い名前なんだけどな。
「レースを走る気持ちが無くても良いと思うよ。一応レースチームとして立ち上げたけど、レース参加は義務じゃない。たまに休日一緒に走るだけでも良いと思う。今はいないけど、レース好きで観戦するだけだったり、写真を撮りたいだけのメンバーがいてもいいと思う」
「でもっ」
「結論を急ぐ必要はないさ。遅くなったとは言っても、まだまだ私より速いだろ? 遅くて抜けるなら私が一番に抜けなくてはいけなくなる。そういう事かな?」
「そ、そんな。猛士さんはレース頑張ってるじゃないですか」
南原さんが慌てる。少し意地悪な言い方をしたかな。
でも、南原さんは西野の次に知り合った仲間だし、初めて私にロードバイクでの走り方を教えてくれた人でもある。
私のわがままだが、レースに参加しなくなるだけで、お別れしたくはない。
「まぁ、どうしても気持ちの整理がつかないならやめても良いけど、仲間ではいてくれよ」
「当然ですよ。猛士さんだけじゃない。みんな自分の友人ですから」
「それなら悩む事はないさ。さて、帰りも距離が長いから、そろそろ行こうか」
「はい」
私達は帰路についた。今度は逆に私が前を引いて走る。
午前中に師匠とのトレーニングを行ったから、疲労で瞬発力がなくなっている。
それでも、普段のトレーニング速度で走ると南原さんが少し遅れる。
彼が遅れない様に速度を落として走ってみて、本当に遅くなったのだと実感してしまった。
ーー帰宅後。
ベッドに寝ころびながら、今日の出来事を振り返った。
南原さんが遅くなった原因について心当たりがある。
恐らく私のお節介が原因だろう。
レース活動を続けるか悩んでいた彼に余計な事をしたかもしれない。
それなら、原因と直接話して解決しないとな。
レース以外のロードバイクの楽しみを知って欲しかったのに、逆に困らせてしまったのだからーー
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