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4章 2年目の中年レーサー
第49話 ロードレースに参戦する
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レースを終えた東尾師匠が挨拶に来てくれた。
少し時間がかかったのは、師匠がメインで所属しているレースチームの仲間のところに寄っていたからだろう。
「師匠、お疲れ様です」
「おめでとう、東尾」
「完走おめでとう。凄い走りだったな」
「凄かったですよ」
私、西野、北見さん、木野さんの4人で師匠の健闘を称える。
「おーい。また話し込んで見てなかっただろう?」
師匠の指摘に焦る。
確かに今回は最初の数周とゴールの瞬間しか見ていなかった。
「済みません。また話し込んでしまいました」
「私は猛士と木野さんの応援で来てるから。元々東尾は応援してないわよ」
「おいおい、俺を信じてくれねぇのかい? 長い付き合いだろう?」
私は素直に謝ったが、西野と北見さんは個性的な返答だ。
西野はある意味正直なだけだけど、北見さんのは完全な嘘だよな。
当然、東尾師匠にも嘘がバレているようだ。
「まぁ、猛士さんとノノはいいけど、北見さんは駄目だろう。別に見て貰わなくても良いけど、嘘は良くないよぉ」
「なんだい、俺ばっか責めて。言い訳していない木野さんはOKなのかい?」
師匠に嘘を指摘された北見さんが木野さんに責任転嫁する。
「何言ってるんだ。木野さんだけが一人で応援していただろう?」
そうだったのか……だから佐々木さんとの会話に参加していなかったのか。
「面白い事になってるな。済まないな東尾君。初めまして佐々木利男です」
佐々木さんがいつものじゃれ合いに割り込む。
「宜しく東尾隼人だ。猛士さんのスプリントの師匠で、掛け持ちで一緒のチームにも所属している」
「済まないな。俺が魅力的なせいで、皆が君のレースを見逃してしまったようだ」
「あ、ああ。そうか。それは仕方がないな」
「君が話が分かる男で良かったよ」
佐々木さんの独特ノリに師匠も返答に困っている。
師匠もこんな風に狼狽えるのだな。
「なぁ、猛士さんもしかしてだけどな、彼を同じチームに入れたのか?」
「そうなりましたね。気が合うので。意外ですけど、木野さんとも気が合いますよ」
「利男は凄い選手ですよぉ。今度、一緒にレースに参加したいですねぇ」
「そうか、猛士さんと木野さんが認めたなら、俺とも仲間だな」
「仲間か……いい響きだ」
「いつも一緒に戦う仲間だからチーム名が『いつも一緒』なんだよ」
「ツーリング目的のサイクリングクラブみたいな緩い名前だけど熱いな。最初見た時は、詩人の名言でも書いてるのかと思ったぜ」
流石に気付かれるか。
チームジャージの背中の『いつも一緒』の文字は、有名な詩人の書体を真似ているからな。
「佐々木さんが所属したお陰でレースメンバーが結構増えたな。猛士さん、木野さん、北見さん、南原、そして俺。5人でロードレースに参加してみるか」
ロードレース!
今まで参加してきた周回レースとは違って、スタート地点からゴール地点を目指して舗装路を走るレースだ。
私がロードバイクを始めた切っ掛けのプロの動画もロードレースだった。
「是非是非。アシストでもなんでもしますよ」
「おっ、このご老体までこき使う気かい?」
「いいな、今までは孤軍奮闘していたけど、チーム参加は面白そうだな」
「私も参加するのか?」
憧れのロードレースに誘われたのに、思わず参加に否定的に聞こえる聞き方をしてしまった。
私が参加する事に前向きでないのが意外だったらしい。
皆が揃って不思議そうな顔をしている。
「えっと、北見さんのはスルーするとして、猛士さんが乗り気でないのが意外だな」
「そうね、ロードレースの動画見て始めたんでしょ。レース好きなのにどうしたの?」
「師匠と利男はクリテリウムで最上位クラスで走る実力がある。北見さんと木野さんはヒルクライムが得意だ。南原さんだって、持久力があって平地で活躍出来る。だから、今の私の実力では確実に足を引っ張る」
私は何故乗り気ではなかったのか説明した。
ロードレースには興味あるが、チームリーダーとして皆の足を引っ張りたくはない思いが強いからだ。
「そんなの気にしてないさ。俺にとっては順位を狙うレースじゃないからね。交流目的で誘ってるのさ」
「去年猛士さんにアシストしてもらったお陰でスポーツクラスに上がれたのです。上り区間でのアシストは任せて下さい」
「俺は優勝しても何かが変わる年齢でもないからね。楽しければ良いさ」
「俺も気にしないぜ。自分より遅いエースの為に仕事をするアシストってのもカッコイイんだぜ」
「そうか、みんな……」
みんなの足を引っ張るのではと思い悩む私に温かい声をかけてくれる仲間達。
有難いな。負け続けながらもレースに参戦し続けたお陰で、こんなにも良い仲間に恵まれた。
ロードバイクを始めて良かった、心の底からそう思う。
「それなら決まりだな。南原には俺から言っておくよ」
「ありがとう師匠。それじゃ解散しようか」
今日は表彰されるメンバーがいないので、解散してそれぞれ帰路についた。
少し時間がかかったのは、師匠がメインで所属しているレースチームの仲間のところに寄っていたからだろう。
「師匠、お疲れ様です」
「おめでとう、東尾」
「完走おめでとう。凄い走りだったな」
「凄かったですよ」
私、西野、北見さん、木野さんの4人で師匠の健闘を称える。
「おーい。また話し込んで見てなかっただろう?」
師匠の指摘に焦る。
確かに今回は最初の数周とゴールの瞬間しか見ていなかった。
「済みません。また話し込んでしまいました」
「私は猛士と木野さんの応援で来てるから。元々東尾は応援してないわよ」
「おいおい、俺を信じてくれねぇのかい? 長い付き合いだろう?」
私は素直に謝ったが、西野と北見さんは個性的な返答だ。
西野はある意味正直なだけだけど、北見さんのは完全な嘘だよな。
当然、東尾師匠にも嘘がバレているようだ。
「まぁ、猛士さんとノノはいいけど、北見さんは駄目だろう。別に見て貰わなくても良いけど、嘘は良くないよぉ」
「なんだい、俺ばっか責めて。言い訳していない木野さんはOKなのかい?」
師匠に嘘を指摘された北見さんが木野さんに責任転嫁する。
「何言ってるんだ。木野さんだけが一人で応援していただろう?」
そうだったのか……だから佐々木さんとの会話に参加していなかったのか。
「面白い事になってるな。済まないな東尾君。初めまして佐々木利男です」
佐々木さんがいつものじゃれ合いに割り込む。
「宜しく東尾隼人だ。猛士さんのスプリントの師匠で、掛け持ちで一緒のチームにも所属している」
「済まないな。俺が魅力的なせいで、皆が君のレースを見逃してしまったようだ」
「あ、ああ。そうか。それは仕方がないな」
「君が話が分かる男で良かったよ」
佐々木さんの独特ノリに師匠も返答に困っている。
師匠もこんな風に狼狽えるのだな。
「なぁ、猛士さんもしかしてだけどな、彼を同じチームに入れたのか?」
「そうなりましたね。気が合うので。意外ですけど、木野さんとも気が合いますよ」
「利男は凄い選手ですよぉ。今度、一緒にレースに参加したいですねぇ」
「そうか、猛士さんと木野さんが認めたなら、俺とも仲間だな」
「仲間か……いい響きだ」
「いつも一緒に戦う仲間だからチーム名が『いつも一緒』なんだよ」
「ツーリング目的のサイクリングクラブみたいな緩い名前だけど熱いな。最初見た時は、詩人の名言でも書いてるのかと思ったぜ」
流石に気付かれるか。
チームジャージの背中の『いつも一緒』の文字は、有名な詩人の書体を真似ているからな。
「佐々木さんが所属したお陰でレースメンバーが結構増えたな。猛士さん、木野さん、北見さん、南原、そして俺。5人でロードレースに参加してみるか」
ロードレース!
今まで参加してきた周回レースとは違って、スタート地点からゴール地点を目指して舗装路を走るレースだ。
私がロードバイクを始めた切っ掛けのプロの動画もロードレースだった。
「是非是非。アシストでもなんでもしますよ」
「おっ、このご老体までこき使う気かい?」
「いいな、今までは孤軍奮闘していたけど、チーム参加は面白そうだな」
「私も参加するのか?」
憧れのロードレースに誘われたのに、思わず参加に否定的に聞こえる聞き方をしてしまった。
私が参加する事に前向きでないのが意外だったらしい。
皆が揃って不思議そうな顔をしている。
「えっと、北見さんのはスルーするとして、猛士さんが乗り気でないのが意外だな」
「そうね、ロードレースの動画見て始めたんでしょ。レース好きなのにどうしたの?」
「師匠と利男はクリテリウムで最上位クラスで走る実力がある。北見さんと木野さんはヒルクライムが得意だ。南原さんだって、持久力があって平地で活躍出来る。だから、今の私の実力では確実に足を引っ張る」
私は何故乗り気ではなかったのか説明した。
ロードレースには興味あるが、チームリーダーとして皆の足を引っ張りたくはない思いが強いからだ。
「そんなの気にしてないさ。俺にとっては順位を狙うレースじゃないからね。交流目的で誘ってるのさ」
「去年猛士さんにアシストしてもらったお陰でスポーツクラスに上がれたのです。上り区間でのアシストは任せて下さい」
「俺は優勝しても何かが変わる年齢でもないからね。楽しければ良いさ」
「俺も気にしないぜ。自分より遅いエースの為に仕事をするアシストってのもカッコイイんだぜ」
「そうか、みんな……」
みんなの足を引っ張るのではと思い悩む私に温かい声をかけてくれる仲間達。
有難いな。負け続けながらもレースに参戦し続けたお陰で、こんなにも良い仲間に恵まれた。
ロードバイクを始めて良かった、心の底からそう思う。
「それなら決まりだな。南原には俺から言っておくよ」
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