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3章 レースチームを立ち上げる中年
第30話 本当の想い
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サーキットエンデューロに参加した翌週、チームメイト全員で小高い丘の上の教会に走りにいった。
どうしてもこの場所でチーム名の発表をしたかったからだ。
西野、北見さん、南原さん、木野さんの4人を前にして、立ち上げたレーシングチームの名前を発表する。
「チーム名は『いつも一緒』にしたよ」
「なんだその気の抜けた名前は。一応レーシングチームなんだろ?」
すかさず北見さんが突っ込みを入れてきた。
「まったりしていて僕は好きですよ」
「自分は何でも良いですよ。面子は変わらないですから」
木野さんの好みには合ったようだ。
南原さんは相変わらず何事にも動じないな。
反応はそれぞれだけど、何故『いつも一緒』に決めたのか説明はしておく必要があるな。
「まぁ、仲間と『いつも一緒』に楽しく走りたいって思いをそのまま表現しただけだ。愛車と『いつも一緒』って意味もある。これからも一緒にロードバイクを楽しめたらと思っている」
「そういう事かい。少し恥ずかしいけど、目立ちそうだから良いか。他のチームは外国語が多いからな」
「僕はずっとソロだったから仲間と『いつも一緒』なのは大賛成だよ」
「自分も賛成しますよ」
「私は猛士と一緒に考えたから当然賛成よ」
全員賛成してくれて良かった……自分でも格好良さは無いと思っていたから。
でも、今の気持ちを正直に言葉にしたら、こうなってしまったのだ。
「同じチームメイトになるんだから、私の事は『ノノ』って呼びなさいよ」
突如、西野が北見さんに『ノノ』と呼ぶように迫った。
「なぁ、その呼び方は蓮を思い出して辛くならねぇか?」
いつも遠慮しない北見さんが遠慮がちに言う。
西野に『ノノ』と名付けた蓮さんは病気で亡くなったのだ。
友人だった北見さんが気を遣うのも無理もない。
「蓮は関係ない! 私のサイクリストとしての名前は『ノノ』だから。蓮と一緒にサイクリストとしての私まで否定しないで!」
「そこまで言うなら仕方ねぇな。改めて宜しく『ノノ』」
「宜しく北見」
事情を知らない木野さんは面食らっている。
サイクリストとしてのあだ名を呼ばせるにしては物々しいからだ。
「僕、場違いな気がするけど大丈夫かな?」
「場違いじゃないよ。木野さんも大事な仲間だから。ただ、あの二人には過去の因縁が少しだけあっただけさ。南原さんもそう思うだろ?」
状況が理解出来ず、疎外感を感じている木野さんに気を遣った。
「木野さんがいると和みますからね。むしろ自分の方が場違いなのではと思ってしまいますよ。蓮さんの事で西野……『ノノ』に遠慮して、勝手に苦手意識をもってましたからね」
南原さんも木野さんをフォローする。
流石、最年少だけど出来る男だ。
「そろそろ帰りましょ。長居しても意味ないから」
北見さんに『ノノ』と呼んでもらう事を確約させた西野が帰宅を促す。
私は西野が早く帰宅したい理由を知っている……だから敢えて引き留める。
「いや、ノノは残ってくれ」
「それじゃ、私達は先に降りてるぜ」
私が西野を引き留めた理由に感づいたのだろうか、北見さんが木野さんと南原さんの二人を連れて先に下っていった。
「どうしたの猛士?」
西野が少し苛立ちながら引き留めた理由を問う。
「蓮さんの事を無理して嫌おうとしてないか?」
「どうしてそんな事を……前にも言ったでしょ。私はロードバイクで走りに行くのが楽しかっただけ! 蓮は関係ない!」
今の私と同じで走りに行くのが楽しかったというのは嘘ではないだろう。
だけど蓮さんが関係ないと言うのは駄目だ。
蓮さんが亡くなってサイクリストとしての自分まで否定された。
だから、原因となった蓮さんを無理に嫌おうとしている様に感じる。
それが本当なら悲しい事だ……
「走りに行くのが楽しかったのと、蓮さんが好きだった事は別の話だろう?」
「好きじゃないわよ! だって……蓮は好きになる前に死んじゃった人なのよ。毎週楽しかった。これからも一緒に走りに行くものだと思ってたわよ! それなのに……それなのに! 始まる前に終わった恋なんて!」
「それでも目を背けるな。好きになった気持ちは大切にしろ」
錯乱して叫ぶ西野に冷徹に思いを告げた。
「猛士には関係ないでしょ! 今更想ったところで何の意味があるのよ!」
今更想った所で何の意味があるかだって?
あるさ! 叶わない恋であっても!
「『ノノ』は真っすぐな人だと思っている。誰かの機嫌を伺いながら生きる人ではないだろ」
「そうよ! ご機嫌伺いなんてしないわよ。それがなんだって言うの?」
「だったら自分自身の機嫌を伺って嘘をつくな! 本当の気持ちを隠すな!!」
西野には大切な思い出を歪ませたまま生きて欲しくない。
悲しみで心を曇らせないでいて欲しい。
ヒルクライムで軽快に上ってる時と同じように、ひたすらに真っすぐで綺麗な思いでーー
「蓮が好きでした……走りに行くのが楽しくて自分の気持ちに気付くのが遅れちゃった……生きてる時に伝えたかったな……」
しばらくして、西野が本当の想いを呟いた。
「そうだな」
私は短く同意した。それ以上の言葉は必要なかったからだ。
「名残惜しいが、そろそろ下りよう。また置いていかれるかもしれない」
「その時はまた猛士が泣き止まなかったせいにするわよ」
「好きにしてくれ」
いつもの西野に戻ってくれて良かったな。
帰り際に、心の中でもう一人の思いを伝えたい相手に言葉を送る。
「そういう事だから見守ってあげて下さい」
そう、蓮さんに願った。
なぜなら、ここは蓮さんが眠る墓地がある場所だったのだからーー
どうしてもこの場所でチーム名の発表をしたかったからだ。
西野、北見さん、南原さん、木野さんの4人を前にして、立ち上げたレーシングチームの名前を発表する。
「チーム名は『いつも一緒』にしたよ」
「なんだその気の抜けた名前は。一応レーシングチームなんだろ?」
すかさず北見さんが突っ込みを入れてきた。
「まったりしていて僕は好きですよ」
「自分は何でも良いですよ。面子は変わらないですから」
木野さんの好みには合ったようだ。
南原さんは相変わらず何事にも動じないな。
反応はそれぞれだけど、何故『いつも一緒』に決めたのか説明はしておく必要があるな。
「まぁ、仲間と『いつも一緒』に楽しく走りたいって思いをそのまま表現しただけだ。愛車と『いつも一緒』って意味もある。これからも一緒にロードバイクを楽しめたらと思っている」
「そういう事かい。少し恥ずかしいけど、目立ちそうだから良いか。他のチームは外国語が多いからな」
「僕はずっとソロだったから仲間と『いつも一緒』なのは大賛成だよ」
「自分も賛成しますよ」
「私は猛士と一緒に考えたから当然賛成よ」
全員賛成してくれて良かった……自分でも格好良さは無いと思っていたから。
でも、今の気持ちを正直に言葉にしたら、こうなってしまったのだ。
「同じチームメイトになるんだから、私の事は『ノノ』って呼びなさいよ」
突如、西野が北見さんに『ノノ』と呼ぶように迫った。
「なぁ、その呼び方は蓮を思い出して辛くならねぇか?」
いつも遠慮しない北見さんが遠慮がちに言う。
西野に『ノノ』と名付けた蓮さんは病気で亡くなったのだ。
友人だった北見さんが気を遣うのも無理もない。
「蓮は関係ない! 私のサイクリストとしての名前は『ノノ』だから。蓮と一緒にサイクリストとしての私まで否定しないで!」
「そこまで言うなら仕方ねぇな。改めて宜しく『ノノ』」
「宜しく北見」
事情を知らない木野さんは面食らっている。
サイクリストとしてのあだ名を呼ばせるにしては物々しいからだ。
「僕、場違いな気がするけど大丈夫かな?」
「場違いじゃないよ。木野さんも大事な仲間だから。ただ、あの二人には過去の因縁が少しだけあっただけさ。南原さんもそう思うだろ?」
状況が理解出来ず、疎外感を感じている木野さんに気を遣った。
「木野さんがいると和みますからね。むしろ自分の方が場違いなのではと思ってしまいますよ。蓮さんの事で西野……『ノノ』に遠慮して、勝手に苦手意識をもってましたからね」
南原さんも木野さんをフォローする。
流石、最年少だけど出来る男だ。
「そろそろ帰りましょ。長居しても意味ないから」
北見さんに『ノノ』と呼んでもらう事を確約させた西野が帰宅を促す。
私は西野が早く帰宅したい理由を知っている……だから敢えて引き留める。
「いや、ノノは残ってくれ」
「それじゃ、私達は先に降りてるぜ」
私が西野を引き留めた理由に感づいたのだろうか、北見さんが木野さんと南原さんの二人を連れて先に下っていった。
「どうしたの猛士?」
西野が少し苛立ちながら引き留めた理由を問う。
「蓮さんの事を無理して嫌おうとしてないか?」
「どうしてそんな事を……前にも言ったでしょ。私はロードバイクで走りに行くのが楽しかっただけ! 蓮は関係ない!」
今の私と同じで走りに行くのが楽しかったというのは嘘ではないだろう。
だけど蓮さんが関係ないと言うのは駄目だ。
蓮さんが亡くなってサイクリストとしての自分まで否定された。
だから、原因となった蓮さんを無理に嫌おうとしている様に感じる。
それが本当なら悲しい事だ……
「走りに行くのが楽しかったのと、蓮さんが好きだった事は別の話だろう?」
「好きじゃないわよ! だって……蓮は好きになる前に死んじゃった人なのよ。毎週楽しかった。これからも一緒に走りに行くものだと思ってたわよ! それなのに……それなのに! 始まる前に終わった恋なんて!」
「それでも目を背けるな。好きになった気持ちは大切にしろ」
錯乱して叫ぶ西野に冷徹に思いを告げた。
「猛士には関係ないでしょ! 今更想ったところで何の意味があるのよ!」
今更想った所で何の意味があるかだって?
あるさ! 叶わない恋であっても!
「『ノノ』は真っすぐな人だと思っている。誰かの機嫌を伺いながら生きる人ではないだろ」
「そうよ! ご機嫌伺いなんてしないわよ。それがなんだって言うの?」
「だったら自分自身の機嫌を伺って嘘をつくな! 本当の気持ちを隠すな!!」
西野には大切な思い出を歪ませたまま生きて欲しくない。
悲しみで心を曇らせないでいて欲しい。
ヒルクライムで軽快に上ってる時と同じように、ひたすらに真っすぐで綺麗な思いでーー
「蓮が好きでした……走りに行くのが楽しくて自分の気持ちに気付くのが遅れちゃった……生きてる時に伝えたかったな……」
しばらくして、西野が本当の想いを呟いた。
「そうだな」
私は短く同意した。それ以上の言葉は必要なかったからだ。
「名残惜しいが、そろそろ下りよう。また置いていかれるかもしれない」
「その時はまた猛士が泣き止まなかったせいにするわよ」
「好きにしてくれ」
いつもの西野に戻ってくれて良かったな。
帰り際に、心の中でもう一人の思いを伝えたい相手に言葉を送る。
「そういう事だから見守ってあげて下さい」
そう、蓮さんに願った。
なぜなら、ここは蓮さんが眠る墓地がある場所だったのだからーー
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