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2章 進化する中年レーサー
第22話 科学で証明出来る運命
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レース後、会場の撤収まで少し時間があったので、理論派の北見さんにヒルクライムが速くなる方法が無いか相談した。
「始めたばかりか……SSTが良いんじゃないかな」
北見さんが少し悩んだ後に言った。
SST? 有名なトレーニングで、確かFTPの88~94%で走る事だな。
FTP……1時間維持出来るパワーより低めだから、身体のダメージが抑えられるけど、FTPに近いから練習効果が高いのだったな。
「少しいい加減に聞こえるんですけどぉ」
西野が北見さんを咎めるような言い方をする。
西野は年上にも遠慮が無いな。
少し調べれば知る事が出来る練習メニューだったから、いい加減だと思ったのだろうか?
「変に期待させたら、がっかりさせると思って遠慮したのだよ。効果的な練習でも人によって練習効果は変わってくるからね」
「北見の事だから、なんか良く分からない理屈があるのよね?」
「良く分からないのは西野だからだ。中杉さんは理解出来ると思うのだがね」
「ハイハイ、分かったわよ。私は黙ってるから」
西野がパタパタと手を振った。
「えぇっと、人によって練習効果が違うって話だったかな?」
西野が黙った後に、北見さんが思い出した様に言った。
「その話ですけど、人によって練習への理解が違うからですか?」
「うーん、それもあるけどね。そもそも頑張れば何でも出来る様になるわけではないのでな」
「才能ですか?」
「そう、才能だ。でも才能っていうザックリとした話では無くて、科学的に証明出来る事だけどね」
「科学的に証明ですか?」
「出来るのだよ。スポーツ遺伝子の検査でね」
「スポーツ遺伝子? 遺伝子検査をするのですか?」
遺伝子検査だって?
プロならともかく趣味のホビーレースでそこまでやるのか?
北見さんが大げさに言っているのだろうと思い、聞き返してしまった。
「そうだよ。検査キットを買って、口の中を専用の綿棒で擦って送るだけだから簡単だ。通販サイトで普通に売ってるからね」
「面白そうじゃない。勝負しましょうよ」
興味を持った西野が再び会話に割って入った。
「おいおい、勝負するものじゃない。結果が違っても得意な分野が違うだけで、優劣はない」
「それなら受けてみようかな」
「受けるなら少し値が張るけど、3種類検査出来るヤツにしなよ」
「3種類ってなんですか?」
「速筋・遅筋の割合が分かる奴と、運動の疲労度が分かる奴と、持久力の育ち具合が分かる奴なんだけど名前は憶えていないな。少し待ってくれーーあぁ、これだよ」
北見さんがスマホを取り出し、お勧めの遺伝子検査キットを教えてくれた。
スポーツに関わる遺伝子を検査する事で、自分自身のスポーツの才能を知る事が出来るのか……
面白そうだと思った私と西野は、検査キットを購入する事にしたのであったーー
*
約3週間後、スポーツ遺伝子の検査結果が出たので興奮気味に確認する。
自分自身の才能を科学的に知る事が出来るのだから、高揚感を抑えられなくても当然だ。
最初の検査項目は『ACTN3』……速筋・遅筋の割合が分かる項目だ。
私の結果は見事に一番速筋が多いタイプだった。
瞬間的に大きな力を出せる速筋が多く、持久力がある遅筋が少ないという事だ。
これだけでも瞬間的に大きな力を出すスプリントが得意で、持久力が必要なヒルクライムが苦手なのが分かる。
次の検査項目は『ACE』……血管の収縮機能が分かる項目だ。
私は血管の収縮力に優れるタイプだった。
瞬間的に力を発揮するのは得意だが疲労を感じやすい。
これもスプリントが得意な理由と言える。
最後の検査項目は『PPARGC1A』……ミトコンドリアの生産量に関わる項目だ。
私は残念ながらミトコンドリアが増えにくいタイプだった。
つまりエネルギー生産量が増え辛いから他の人より持久力が育たない。
3つの遺伝子結果で言える事は、私は瞬発力が非常に高くて持久力が低いタイプだという事だ。
普通の人だったら簡単に上れる峠であっさりギブアップしたり、持久力の成長が遅かったのは遺伝子の影響だったのか。
その代わり、スプリントは師匠にコツを習っただけで出来たのだ。
これが私の『遺伝子』なのだな。
一緒に検査した西野は遅筋が多く、持久力に優れるタイプだった。
私も努力を続ければ、ある程度は峠を走れる様になるだろう。
だけど、西野より速く上る事は一生出来ない。
逆に西野はスプリントでは私に敵わない。
私は師匠にスプリントのコツを習っただけで、時速60kmを超える速度を出せる様になったが、西野は時速50kmを出す事すら難しい。
生まれついた遺伝子は変えられない。
だから私がなれるのはスプリンターだけという運命なのだ。
どうあがいてもヒルクライムが得意になれないけど、それも良いかなと思える。
他のスポーツでは筋肉の組成で競技成績が大体決まってしまう事が多いけど、ロードレースは違うからだ。
『瞬発力が高い私の様なスプリンターが活躍出来るコースがある』
『持久力が高い西野の様なクライマーが活躍出来るコースがある』
それぞれの特色を生かせるから面白い。
北見さんにスポーツ遺伝子検査を教えて頂いて良かったと思う。
自分自身の『持久力』と『瞬発力』を認識する事で、何を目指せば良いのか認識出来たのだからーー
「始めたばかりか……SSTが良いんじゃないかな」
北見さんが少し悩んだ後に言った。
SST? 有名なトレーニングで、確かFTPの88~94%で走る事だな。
FTP……1時間維持出来るパワーより低めだから、身体のダメージが抑えられるけど、FTPに近いから練習効果が高いのだったな。
「少しいい加減に聞こえるんですけどぉ」
西野が北見さんを咎めるような言い方をする。
西野は年上にも遠慮が無いな。
少し調べれば知る事が出来る練習メニューだったから、いい加減だと思ったのだろうか?
「変に期待させたら、がっかりさせると思って遠慮したのだよ。効果的な練習でも人によって練習効果は変わってくるからね」
「北見の事だから、なんか良く分からない理屈があるのよね?」
「良く分からないのは西野だからだ。中杉さんは理解出来ると思うのだがね」
「ハイハイ、分かったわよ。私は黙ってるから」
西野がパタパタと手を振った。
「えぇっと、人によって練習効果が違うって話だったかな?」
西野が黙った後に、北見さんが思い出した様に言った。
「その話ですけど、人によって練習への理解が違うからですか?」
「うーん、それもあるけどね。そもそも頑張れば何でも出来る様になるわけではないのでな」
「才能ですか?」
「そう、才能だ。でも才能っていうザックリとした話では無くて、科学的に証明出来る事だけどね」
「科学的に証明ですか?」
「出来るのだよ。スポーツ遺伝子の検査でね」
「スポーツ遺伝子? 遺伝子検査をするのですか?」
遺伝子検査だって?
プロならともかく趣味のホビーレースでそこまでやるのか?
北見さんが大げさに言っているのだろうと思い、聞き返してしまった。
「そうだよ。検査キットを買って、口の中を専用の綿棒で擦って送るだけだから簡単だ。通販サイトで普通に売ってるからね」
「面白そうじゃない。勝負しましょうよ」
興味を持った西野が再び会話に割って入った。
「おいおい、勝負するものじゃない。結果が違っても得意な分野が違うだけで、優劣はない」
「それなら受けてみようかな」
「受けるなら少し値が張るけど、3種類検査出来るヤツにしなよ」
「3種類ってなんですか?」
「速筋・遅筋の割合が分かる奴と、運動の疲労度が分かる奴と、持久力の育ち具合が分かる奴なんだけど名前は憶えていないな。少し待ってくれーーあぁ、これだよ」
北見さんがスマホを取り出し、お勧めの遺伝子検査キットを教えてくれた。
スポーツに関わる遺伝子を検査する事で、自分自身のスポーツの才能を知る事が出来るのか……
面白そうだと思った私と西野は、検査キットを購入する事にしたのであったーー
*
約3週間後、スポーツ遺伝子の検査結果が出たので興奮気味に確認する。
自分自身の才能を科学的に知る事が出来るのだから、高揚感を抑えられなくても当然だ。
最初の検査項目は『ACTN3』……速筋・遅筋の割合が分かる項目だ。
私の結果は見事に一番速筋が多いタイプだった。
瞬間的に大きな力を出せる速筋が多く、持久力がある遅筋が少ないという事だ。
これだけでも瞬間的に大きな力を出すスプリントが得意で、持久力が必要なヒルクライムが苦手なのが分かる。
次の検査項目は『ACE』……血管の収縮機能が分かる項目だ。
私は血管の収縮力に優れるタイプだった。
瞬間的に力を発揮するのは得意だが疲労を感じやすい。
これもスプリントが得意な理由と言える。
最後の検査項目は『PPARGC1A』……ミトコンドリアの生産量に関わる項目だ。
私は残念ながらミトコンドリアが増えにくいタイプだった。
つまりエネルギー生産量が増え辛いから他の人より持久力が育たない。
3つの遺伝子結果で言える事は、私は瞬発力が非常に高くて持久力が低いタイプだという事だ。
普通の人だったら簡単に上れる峠であっさりギブアップしたり、持久力の成長が遅かったのは遺伝子の影響だったのか。
その代わり、スプリントは師匠にコツを習っただけで出来たのだ。
これが私の『遺伝子』なのだな。
一緒に検査した西野は遅筋が多く、持久力に優れるタイプだった。
私も努力を続ければ、ある程度は峠を走れる様になるだろう。
だけど、西野より速く上る事は一生出来ない。
逆に西野はスプリントでは私に敵わない。
私は師匠にスプリントのコツを習っただけで、時速60kmを超える速度を出せる様になったが、西野は時速50kmを出す事すら難しい。
生まれついた遺伝子は変えられない。
だから私がなれるのはスプリンターだけという運命なのだ。
どうあがいてもヒルクライムが得意になれないけど、それも良いかなと思える。
他のスポーツでは筋肉の組成で競技成績が大体決まってしまう事が多いけど、ロードレースは違うからだ。
『瞬発力が高い私の様なスプリンターが活躍出来るコースがある』
『持久力が高い西野の様なクライマーが活躍出来るコースがある』
それぞれの特色を生かせるから面白い。
北見さんにスポーツ遺伝子検査を教えて頂いて良かったと思う。
自分自身の『持久力』と『瞬発力』を認識する事で、何を目指せば良いのか認識出来たのだからーー
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