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2章 進化する中年レーサー
第16話 意外な謝罪と未来に繋げる反省
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師匠のレースを見逃してしまったので、謝ろうとしたのだが……
「申し訳御座いません。全て私が話しかけたせいです」
何故か、木野さんが東尾師匠に必死に謝罪している。
180cm近い長身の木野さんが、身長165cmの東尾師匠に頭を下げる姿は、師匠の頭上目掛けて頭突きを食らわせている様に見えてしまう。
「あっ、えっ、気にしないで下さい」
いきなり見知らぬ他人に謝罪されて師匠も戸惑っている。
しかも木野さんは長身で、動作が大きく見えるからとても目立つ。
「ほら、東尾も気にしてないから木野さんも謝るの止めよう?」
「西野が言う事じゃないだろ、西野が!」
師匠の言う事はごもっともだ。
「すまない師匠。一緒のレースを走っていた相手と話すのが初めてだったから、時間を忘れて話し込んでしまった」
私も師匠に謝った。本当は殆ど西野と話し込んでいて、木野さんは関係なかったのだけど。
そんな私を見て師匠が腕を組んで頷く。
「あぁ、分かるよ。一緒のレースを走った相手は、ライバルと言うより仲間って感じる時があるからね。そう、奇妙な連帯感を感じるんだ。戦友みたいなものかな。それなら俺のレースを観戦するより二人で話した方が良いな」
「師匠のレースの観戦より?」
「そうだ、俺と猛士では実力がかけ離れていて、練習の強度がかけ離れていたり参考にならないだろう?」
「そういう事なら遠慮しないで木野さんと話しを続けるよ」
「ちょっと、そんな事言ってると、また見逃すわよ?」
西野が呆れた声で私と師匠の会話を遮る。
「何を見逃すって? 残りはエリートクラスのレースだけど、知り合いは参加していないだろ?」
「あなたの表彰式でしょ!」
そうだった。見ていなかったが、師匠はエキスパートクラスで優勝していたのだった。
表彰はエリートクラスのレースが終わってからだが、西野に言われなければ忘れて帰るところだった。
レースを見逃した上に、表彰式まで見逃したら流石に師匠も怒るだろう。
4人でロードバイクのパーツやトレーニングについて話し合っていたら、直ぐに表彰式の時間となった。
名前を呼ばれ、師匠が表彰台の一番上に立った。
そして賞状とトロフィーを高らかに掲げる。
師匠カッコイイな。私達は記念にスマホで写真を撮った。
表彰式が終わり、写真を交換するついでに木野さんと連絡先を交換した。
これで次回のレースとか一緒に走りに行く約束が出来るな。
そして、それぞれ帰り道が違うのでレース会場で別れるのであったーー
*
自宅に帰りレースの反省をする。
インターバル耐性が結構ついたから、立ち上がりはある程度こなせる様になった。
だけど、ホームストレートとバックストレートでの巡行で結構足を削られたな。
そのせいで、6周目で立ち上がりのパワーが出せなくなった。
明らかに基本的な持久力が足りていない。
持続力の向上を狙う必要があるが、心拍トレーニングだけでは管理が難しいな。
仕方がない、お金がかかるがパワーメーターを購入するか。
思い立ったら吉日だ。早速シゲさんに電話してパワーメーターを注文した。
入荷に二週間かかるとの返答だった。
パワーメーターが届くまでの二週間の間は、スマートトレーナーでパワートレーニングを行おう。
スマートトレーナーにはパワー計測機能がついているからね。
二日後、レースの疲れが取れたので、持久力を表す基本的な数値FTPを計測する事にした。
20分間の平均パワーの95%の数値を採用する方法だ。
本当は1時間漕ぎ続けた平均パワーなのだけど、1時間も全力で走るのは大変だ。
ロードバイクをスマートトレーナーにセットして早速計測を始めた。
先ずはウォーミングアップ。軽快にペダルを漕ぎ続ける。
20分経ち、体が温まった所で計測を始める。
勢いよくペダルを漕ぎ始めたが5分で明らかにパワーダウンしている。
あと15分も漕ぎ続けるのか……開始5分で既にギブアップしたくなる。
これはヒルクライムと同じだ、ケイデンスを保って無心になって漕ぎ続ければよいのだな。
適切なパワーの目安が分からないので、心拍数を頼りに安定したパワーで漕ぎ続ける。
何とか20分乗り切り、サイコンに表示されたパワーを確認した。
20分間の平均パワーが210Wだから、FTPは95%の199.5Wになるのか。
そうすると体重78kgの私のパワーウェイトレシオは2.56倍……3倍すら超えていないのか!
これでは才能以前の問題だ、ヒルクライムなど出来るはずがない。
パワーを上げるのが先か? 体重を下げるのが先か?
中年の私には痩せるのもパワーを付けるのも大変な事なのだが、身長175cmでも78kgは流石に重たすぎるから痩せる方が先との結論に至った。
それなら西野に相談するのが早いだろう。
早速痩せたいと相談の連絡を送るとすぐに返事が返ってきた。
『来週の土曜日に、お気に入りのスイーツコースを案内するわよ』
スイーツコース?
痩せるのにスイーツとはどういう意味なのだろう?
まぁ、聞いても教えてくれないだろうから、楽しみに待つとしようかーー
「申し訳御座いません。全て私が話しかけたせいです」
何故か、木野さんが東尾師匠に必死に謝罪している。
180cm近い長身の木野さんが、身長165cmの東尾師匠に頭を下げる姿は、師匠の頭上目掛けて頭突きを食らわせている様に見えてしまう。
「あっ、えっ、気にしないで下さい」
いきなり見知らぬ他人に謝罪されて師匠も戸惑っている。
しかも木野さんは長身で、動作が大きく見えるからとても目立つ。
「ほら、東尾も気にしてないから木野さんも謝るの止めよう?」
「西野が言う事じゃないだろ、西野が!」
師匠の言う事はごもっともだ。
「すまない師匠。一緒のレースを走っていた相手と話すのが初めてだったから、時間を忘れて話し込んでしまった」
私も師匠に謝った。本当は殆ど西野と話し込んでいて、木野さんは関係なかったのだけど。
そんな私を見て師匠が腕を組んで頷く。
「あぁ、分かるよ。一緒のレースを走った相手は、ライバルと言うより仲間って感じる時があるからね。そう、奇妙な連帯感を感じるんだ。戦友みたいなものかな。それなら俺のレースを観戦するより二人で話した方が良いな」
「師匠のレースの観戦より?」
「そうだ、俺と猛士では実力がかけ離れていて、練習の強度がかけ離れていたり参考にならないだろう?」
「そういう事なら遠慮しないで木野さんと話しを続けるよ」
「ちょっと、そんな事言ってると、また見逃すわよ?」
西野が呆れた声で私と師匠の会話を遮る。
「何を見逃すって? 残りはエリートクラスのレースだけど、知り合いは参加していないだろ?」
「あなたの表彰式でしょ!」
そうだった。見ていなかったが、師匠はエキスパートクラスで優勝していたのだった。
表彰はエリートクラスのレースが終わってからだが、西野に言われなければ忘れて帰るところだった。
レースを見逃した上に、表彰式まで見逃したら流石に師匠も怒るだろう。
4人でロードバイクのパーツやトレーニングについて話し合っていたら、直ぐに表彰式の時間となった。
名前を呼ばれ、師匠が表彰台の一番上に立った。
そして賞状とトロフィーを高らかに掲げる。
師匠カッコイイな。私達は記念にスマホで写真を撮った。
表彰式が終わり、写真を交換するついでに木野さんと連絡先を交換した。
これで次回のレースとか一緒に走りに行く約束が出来るな。
そして、それぞれ帰り道が違うのでレース会場で別れるのであったーー
*
自宅に帰りレースの反省をする。
インターバル耐性が結構ついたから、立ち上がりはある程度こなせる様になった。
だけど、ホームストレートとバックストレートでの巡行で結構足を削られたな。
そのせいで、6周目で立ち上がりのパワーが出せなくなった。
明らかに基本的な持久力が足りていない。
持続力の向上を狙う必要があるが、心拍トレーニングだけでは管理が難しいな。
仕方がない、お金がかかるがパワーメーターを購入するか。
思い立ったら吉日だ。早速シゲさんに電話してパワーメーターを注文した。
入荷に二週間かかるとの返答だった。
パワーメーターが届くまでの二週間の間は、スマートトレーナーでパワートレーニングを行おう。
スマートトレーナーにはパワー計測機能がついているからね。
二日後、レースの疲れが取れたので、持久力を表す基本的な数値FTPを計測する事にした。
20分間の平均パワーの95%の数値を採用する方法だ。
本当は1時間漕ぎ続けた平均パワーなのだけど、1時間も全力で走るのは大変だ。
ロードバイクをスマートトレーナーにセットして早速計測を始めた。
先ずはウォーミングアップ。軽快にペダルを漕ぎ続ける。
20分経ち、体が温まった所で計測を始める。
勢いよくペダルを漕ぎ始めたが5分で明らかにパワーダウンしている。
あと15分も漕ぎ続けるのか……開始5分で既にギブアップしたくなる。
これはヒルクライムと同じだ、ケイデンスを保って無心になって漕ぎ続ければよいのだな。
適切なパワーの目安が分からないので、心拍数を頼りに安定したパワーで漕ぎ続ける。
何とか20分乗り切り、サイコンに表示されたパワーを確認した。
20分間の平均パワーが210Wだから、FTPは95%の199.5Wになるのか。
そうすると体重78kgの私のパワーウェイトレシオは2.56倍……3倍すら超えていないのか!
これでは才能以前の問題だ、ヒルクライムなど出来るはずがない。
パワーを上げるのが先か? 体重を下げるのが先か?
中年の私には痩せるのもパワーを付けるのも大変な事なのだが、身長175cmでも78kgは流石に重たすぎるから痩せる方が先との結論に至った。
それなら西野に相談するのが早いだろう。
早速痩せたいと相談の連絡を送るとすぐに返事が返ってきた。
『来週の土曜日に、お気に入りのスイーツコースを案内するわよ』
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痩せるのにスイーツとはどういう意味なのだろう?
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