15 / 101
2章 進化する中年レーサー
第15話 時間を忘れてしまったひと時
しおりを挟む
レースを終えた私は、西野と師匠のもとに戻って愛車を近くの地面に置いた。
「完走しちゃったじゃない!」
「完走おめでとう。素晴らしいスプリントだったよ」
「ありがとう二人共」
西野と師匠それぞれとハイタッチする。
ビリでギリギリ完走でも、お互いに盛り上がれるのがホビーレースの良いところだよな。
これがプロのレーサーだったら、ひんしゅくもので来季の契約に影響が出るのだろうけど。
「バイク見ておくから食事行ってきな」
「師匠は食事どうするのですか?」
「俺はレース直前には食べない主義だから行ってきな」
「盗まれない様にしっかり見ておきなさいよ」
私と西野は師匠の好意に甘えて、少し遅い昼食を取りにレース会場内を散策した。
前回は焼きそばにしたけど、今回はどうしようかな。
レースの疲れで沢山食べれそうもないな。
場内を見渡すとパンが売っているのが目に入った。パン一個だけなら食べきれるな。
「今日はパンにするよ」
「小食なのね。私はホットドッグにするわ。当然セットで」
西野はホットドッグにポテト、更に炭酸飲料とカロリー盛りだくさんのセットを昼食に選んだ。
師匠のもとに戻り、並んで座って食事を始める。
私達が戻った事で師匠は入れ替わりで試走に向かった。
隣でホットドッグに噛り付く西野を見て思う。
こんなに食べ続けて、どうしてスタイルが維持出来るのだろう?
自分自身が太りやすい体質だから気になってしまう。
「ノノはいつも沢山食べるよな。太らないのが不思議だよ」
「太る方が不思議よ。毎週こんなにカロリーを消費しているのに」
西野がスマホを見せる。
これはサイクリングデータが記録出来るアプリか。
消費カロリーが毎週7,000キロカロリー……西野は何を目指しているのだ?
しかも見せてくれたデータには身長、体重も表示されているのだけど……
見せられているコッチが恥ずかしさと緊張で固まる。
自転車アプリの使い方を教えてくれるのは教えてくれるのは有り難いのだけどね。
その後も暫くデータを見せてもらったが、一つ気になる数値が目に入った。
理由は圧倒的に高い数値が表示されていたからだ。
「この獲得標高って数値がバグっている様に見えるけど?」
「んっ、普通じゃない。先月と同じで2万mくらいの数値が出ているし」
「獲得標高って上った高さで合ってるよな?」
「当然じゃない」
「この前上ったヤビツ峠で換算すると、毎月25回以上走っている事になるけど」
「大体そのくらいね。でも私が普段走っているのは箱根よ。ヤビツ峠は猛士に合わせて遠征しているだけだから」
「そうだったのか。毎回誘われるから西野が良く走っている峠だと思っていたよ」
「普段は2か月に1回くらいしか走らないわよ」
いつも遅い私に付き合ってくれているだけでも有難いのに、わざわざ遠征してくれていたのか。
嬉しい事だが、どうしてこんなに親切にしてくれるのだろう?
南原さんも東尾師匠も同じだけど……
「こんにちは、楽しそうですね」
突然見知らぬ男性に声をかけられ、私の思考は遮られた。
第一印象は35才くらいの温和な人。細身な体型だからヒルクライムが好きな人に見える。
私と西野がヒルクライムの話をしていたから興味を持ったのだろうか?
「こんにちは、ヒルクライムお好きなのですか?」
「大好きですよ。週末は色々な峠に走りに行ってますよ」
「私はやっと峠を上れる様になったところですよ。えっとーー」
「木野です。始めまして」
見知らぬ男性ーー木野さんが軽く会釈した。
「中杉です。宜しく木野さん」
「西野よ」
木野さんがつけているヘルメット、どこのメーカーのだろう。
元々ロードバイクのヘルメットってキノコっぽい見た目になりやすいけど、似合っていなくてキノコ感が強いな。
失礼な考えが頭をよぎった直後ーー
「キノコっぽいですかね?」
木野さんが私の視線に気づいた様だ。
一瞬の事とはいえ、失礼な事をしてしまった。
キノコっぽいと思っていたのは事実なので返答に困ってしまう。
「お気遣いなく。この愛用のヘルメットが似合っていなくて、キノコ感満載の見た目なのは事実ですからねぇ。仲間からもたまに弄られますよ」
木野さんが自分のヘルメットを指差しながら、優しい口調で話す。
物腰の柔らかさから伝わる良い人感……少し言葉を交わしただけだけど木野さんは良い人だと思う。
ヒルクライムは苦手だが、木野さんとは仲良くなれそうだ。
「今度一緒に峠を走りましょう? 木野さんと一緒に走ってみたくなりました」
「もう一緒に走っているけどね」
もう一緒に走っている? 何時の事だ?
この前ヤビツ峠を走っている時、一緒に走っていたのに気づかなかったとか?
「猛士気づいていなかったの? ずっと先頭走っていたじゃない?」
「えっ、木野さんビギナークラスで出場していたのですか?」
「参加してたよ。スプリント力が無いから4位になってしまったけどね」
私と同じレースを走っていたのか。しかも4位!
見るからにクリテリウムが苦手なクライマー体型なのに私より速いのか。
私も負けていられないな。
圧倒的にレベルが違う師匠とは違って、同じランクのレースに出場している尊敬出来る先輩の登場で、更にレースへの情熱が燃え上がった。
「おーい、俺のレースはどうだった?」
大声を出しながら師匠が戻ってきた。
まさか、話し込んでいる間に師匠のレースが終わってしまったのか?!
「混戦で良く見えなかったけど、結局何位だったの?」
西野がしれっと返事をする。
西野も師匠のレース見ていなかったはずだが?
適当な事を言って誤魔化そうとしているのか?
「ぶっちぎりの一位だっただろうが!」
結局、見ていなかった事がバレてしまったーー
「完走しちゃったじゃない!」
「完走おめでとう。素晴らしいスプリントだったよ」
「ありがとう二人共」
西野と師匠それぞれとハイタッチする。
ビリでギリギリ完走でも、お互いに盛り上がれるのがホビーレースの良いところだよな。
これがプロのレーサーだったら、ひんしゅくもので来季の契約に影響が出るのだろうけど。
「バイク見ておくから食事行ってきな」
「師匠は食事どうするのですか?」
「俺はレース直前には食べない主義だから行ってきな」
「盗まれない様にしっかり見ておきなさいよ」
私と西野は師匠の好意に甘えて、少し遅い昼食を取りにレース会場内を散策した。
前回は焼きそばにしたけど、今回はどうしようかな。
レースの疲れで沢山食べれそうもないな。
場内を見渡すとパンが売っているのが目に入った。パン一個だけなら食べきれるな。
「今日はパンにするよ」
「小食なのね。私はホットドッグにするわ。当然セットで」
西野はホットドッグにポテト、更に炭酸飲料とカロリー盛りだくさんのセットを昼食に選んだ。
師匠のもとに戻り、並んで座って食事を始める。
私達が戻った事で師匠は入れ替わりで試走に向かった。
隣でホットドッグに噛り付く西野を見て思う。
こんなに食べ続けて、どうしてスタイルが維持出来るのだろう?
自分自身が太りやすい体質だから気になってしまう。
「ノノはいつも沢山食べるよな。太らないのが不思議だよ」
「太る方が不思議よ。毎週こんなにカロリーを消費しているのに」
西野がスマホを見せる。
これはサイクリングデータが記録出来るアプリか。
消費カロリーが毎週7,000キロカロリー……西野は何を目指しているのだ?
しかも見せてくれたデータには身長、体重も表示されているのだけど……
見せられているコッチが恥ずかしさと緊張で固まる。
自転車アプリの使い方を教えてくれるのは教えてくれるのは有り難いのだけどね。
その後も暫くデータを見せてもらったが、一つ気になる数値が目に入った。
理由は圧倒的に高い数値が表示されていたからだ。
「この獲得標高って数値がバグっている様に見えるけど?」
「んっ、普通じゃない。先月と同じで2万mくらいの数値が出ているし」
「獲得標高って上った高さで合ってるよな?」
「当然じゃない」
「この前上ったヤビツ峠で換算すると、毎月25回以上走っている事になるけど」
「大体そのくらいね。でも私が普段走っているのは箱根よ。ヤビツ峠は猛士に合わせて遠征しているだけだから」
「そうだったのか。毎回誘われるから西野が良く走っている峠だと思っていたよ」
「普段は2か月に1回くらいしか走らないわよ」
いつも遅い私に付き合ってくれているだけでも有難いのに、わざわざ遠征してくれていたのか。
嬉しい事だが、どうしてこんなに親切にしてくれるのだろう?
南原さんも東尾師匠も同じだけど……
「こんにちは、楽しそうですね」
突然見知らぬ男性に声をかけられ、私の思考は遮られた。
第一印象は35才くらいの温和な人。細身な体型だからヒルクライムが好きな人に見える。
私と西野がヒルクライムの話をしていたから興味を持ったのだろうか?
「こんにちは、ヒルクライムお好きなのですか?」
「大好きですよ。週末は色々な峠に走りに行ってますよ」
「私はやっと峠を上れる様になったところですよ。えっとーー」
「木野です。始めまして」
見知らぬ男性ーー木野さんが軽く会釈した。
「中杉です。宜しく木野さん」
「西野よ」
木野さんがつけているヘルメット、どこのメーカーのだろう。
元々ロードバイクのヘルメットってキノコっぽい見た目になりやすいけど、似合っていなくてキノコ感が強いな。
失礼な考えが頭をよぎった直後ーー
「キノコっぽいですかね?」
木野さんが私の視線に気づいた様だ。
一瞬の事とはいえ、失礼な事をしてしまった。
キノコっぽいと思っていたのは事実なので返答に困ってしまう。
「お気遣いなく。この愛用のヘルメットが似合っていなくて、キノコ感満載の見た目なのは事実ですからねぇ。仲間からもたまに弄られますよ」
木野さんが自分のヘルメットを指差しながら、優しい口調で話す。
物腰の柔らかさから伝わる良い人感……少し言葉を交わしただけだけど木野さんは良い人だと思う。
ヒルクライムは苦手だが、木野さんとは仲良くなれそうだ。
「今度一緒に峠を走りましょう? 木野さんと一緒に走ってみたくなりました」
「もう一緒に走っているけどね」
もう一緒に走っている? 何時の事だ?
この前ヤビツ峠を走っている時、一緒に走っていたのに気づかなかったとか?
「猛士気づいていなかったの? ずっと先頭走っていたじゃない?」
「えっ、木野さんビギナークラスで出場していたのですか?」
「参加してたよ。スプリント力が無いから4位になってしまったけどね」
私と同じレースを走っていたのか。しかも4位!
見るからにクリテリウムが苦手なクライマー体型なのに私より速いのか。
私も負けていられないな。
圧倒的にレベルが違う師匠とは違って、同じランクのレースに出場している尊敬出来る先輩の登場で、更にレースへの情熱が燃え上がった。
「おーい、俺のレースはどうだった?」
大声を出しながら師匠が戻ってきた。
まさか、話し込んでいる間に師匠のレースが終わってしまったのか?!
「混戦で良く見えなかったけど、結局何位だったの?」
西野がしれっと返事をする。
西野も師匠のレース見ていなかったはずだが?
適当な事を言って誤魔化そうとしているのか?
「ぶっちぎりの一位だっただろうが!」
結局、見ていなかった事がバレてしまったーー
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
「南風の頃に」~ノダケンとその仲間達~
kitamitio
青春
合格するはずのなかった札幌の超難関高に入学してしまった野球少年の野田賢治は、野球部員たちの執拗な勧誘を逃れ陸上部に入部する。北海道の海沿いの田舎町で育った彼は仲間たちの優秀さに引け目を感じる生活を送っていたが、長年続けて来た野球との違いに戸惑いながらも陸上競技にのめりこんでいく。「自主自律」を校訓とする私服の学校に敢えて詰襟の学生服を着ていくことで自分自身の存在を主張しようとしていた野田賢治。それでも新しい仲間が広がっていく中で少しずつ変わっていくものがあった。そして、隠していた野田賢治自身の過去について少しずつ知らされていく……。
【完結】偽りの告白とオレとキミの十日間リフレイン
カムナ リオ
青春
八神斗哉は、友人との悪ふざけで罰ゲームを実行することになる。内容を決めるカードを二枚引くと、そこには『クラスの女子に告白する』、『キスをする』と書かれており、地味で冴えないクラスメイト・如月心乃香に嘘告白を仕掛けることが決まる。
自分より格下だから彼女には何をしても許されると八神は思っていたが、徐々に距離が縮まり……重なる事のなかった二人の運命と不思議が交差する。不器用で残酷な青春タイムリープラブ。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!
僕は 彼女の彼氏のはずなんだ
すんのはじめ
青春
昔、つぶれていった父のレストランを復活させるために その娘は
僕等4人の仲好しグループは同じ小学校を出て、中学校も同じで、地域では有名な進学高校を目指していた。中でも、中道美鈴には特別な想いがあったが、中学を卒業する時、彼女の消息が突然消えてしまった。僕は、彼女のことを忘れることが出来なくて、大学3年になって、ようやく探し出せた。それからの彼女は、高校進学を犠牲にしてまでも、昔、つぶされた様な形になった父のレストランを復活させるため、その思いを秘め、色々と奮闘してゆく

切り札の男
古野ジョン
青春
野球への未練から、毎日のようにバッティングセンターに通う高校一年生の久保雄大。
ある日、野球部のマネージャーだという滝川まなに野球部に入るよう頼まれる。
理由を聞くと、「三年の兄をプロ野球選手にするため、少しでも大会で勝ち上がりたい」のだという。
そんな簡単にプロ野球に入れるわけがない。そう思った久保は、つい彼女と口論してしまう。
その結果、「兄の球を打ってみろ」とけしかけられてしまった。
彼はその挑発に乗ってしまうが……
小説家になろう・カクヨム・ハーメルンにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる