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2章 進化する中年レーサー
第11話 意外! 真面目なスプリント練習
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「ロードレースの必殺技。スプリントの練習をしてみましょう」
スプリントって……この前のレースで師匠が見せてくれた、全力でバイクを振ってペダルを踏み抜くアレの事だよな。
この車庫でそんな過激な事を練習出来るのか?
そう思った私は思わず疑問を口にした。
「ローラー台で出来るのですか?」
「まずは椅子に座ったままやりますよ」
更に意味が分からない。
自転車にすら乗らないでスプリントの練習をするのか?
「椅子に座ったまま両足を地面から浮かせて下さい」
良く分からないが、師匠を信じて両足を浮かせてみた。
「その状態で出来るだけ勢いよく右膝を上げてみて下さい」
師匠に言われた通り右膝を上げようとするが、体が安定せずゆっくり上げる事しか出来ない。
「次は左足を地面につけて、同じように右膝を勢いよく上げてみて下さい」
今度は簡単だ。右膝を勢いよく振り上げる。
「勢いよく上げられましたね。右膝を上げる時、左足で何をしました?」
「左足は反動で地面を踏みしめていましたけど……それが何か?」
「その感覚が大事なので覚えていて下さい。次にロードバイクに乗車して下さい」
今の感覚が大事?
右膝を上げた感覚を忘れないうちに、ローラー台に取り付けられたロードバイクに乗車した。
私が乗車したのを確認した後、師匠は説明を続けた。
「スプリントの時、重たいギアを踏み込もうという意識が強くなってバックを踏んでしまう事が多い」
「バックを踏む?」
「クランクを水平にしてバイクの上に立ってみて下さい」
言われた通り、クランクを水平にしてペダルの上に立つ。
「今の状態が前側のペダルを踏み込む力と、後ろ側のペダルを踏む力が釣り合っている状態です。後ろのペダル、バックを踏んでいるからペダルが回らないでしょ。この状態になるとパワーをかけてもペダルが回らずスピードが出なくなるんだ。試しにそのまま垂直に体重をかけてみて」
確かに師匠に言われた様に、両足の裏に均等に力がかかっている。
バランスを崩さない様に垂直に勢いよく体重をかけると、両方の足の裏にかかる反発力は上がるが、クランクは回らなかった。
これがバックを踏んでいる状態なのか。
「バックを踏まない為には、後ろ足を素早く引き上げる必要がある」
「それで先ほどの膝上げの感覚が重要なのか」
「その通り。踏み込む側の足に集中すると、後ろ脚の引き上げが遅れてバックを踏んでしまう。だから後ろ足を引き上げる動作を意識して、踏み込む側の足は引き足と連動させる感覚が大事です。早速、右膝を上げる練習をしてみましょう。負荷が高いとフォームが崩れるので無理なく回せるギアを選択して下さい」
師匠に言われた通り、引き上げる右膝を意識すると綺麗にクランクが回る。
試しに踏み込みを意識して体重をかけると、クランクを回す抵抗が上がり直ぐにバテてしまう。
「次は左右連続でやってみましょう。踏もうとするとバックを踏むので、クランクを回す感覚を忘れないで下さい」
私が慣れてきたのを見計らって、師匠が両足での練習のコツを教えてくれた。
ひたすらクランクを回す事を意識して、両膝を胸の前まで交互に上げる。
暫く練習しているとコツがつかめてきたので、休憩する為にバイクを降りた。
「ありがとう。コツを掴めたと思うよ」
「どういたしまして。後は姿勢が大事かな。空気抵抗を下げるには、かなり低い姿勢を取らないといけないからね。プロのスプリンターの動画を見てスプリント時の姿勢をイメージすると良いよ。バイクを振るリズムとかも参考になるしね」
「師匠もプロの動画を参考にしてるのですか?」
「当然参考にしてるよ。有名なスプリンターの動画を見れば誰のモノマネしているのか直ぐに分かるよ」
私がロードバイクを始める切っ掛けとなった動画を思い出す。
初めて見た時はあまりの迫力に圧倒されただけだったが、今なら違った見方が出来るのだろう。
帰宅したら動画を見直してみよう。
「後は予算があるならディープリムホイールをオススメするよ」
「ディープリム?」
「ほら、俺のホイールのここ太いでしょ。簡単に言うと、このリムって部分の幅が太い程、高速走行時の空気抵抗が削減されるんだ」
師匠が自分のホイールを指差す。
タイヤがついているホイールの外周部分をリムと言うのか。
確かに太くて、デカールが貼ってある面積が広いから見た目がカッコイイけど……
「そんなに分厚かったら重くないのか?」
「軽量ホイールよりは重たいね。でも猛士さんの完成車についているアルミのホイールよりは軽いよ。カーボン製だからね」
「そうか、折角だから購入してみるよ」
その後、二人でローラー台でのトレーニングを続けた。
私は軽いトレーニングしか出来なかったが、隣の師匠は激しいトレーニングを続けた。
レースで勝てる人はこういう努力を怠らないのだな。
少し早く走れる様になっただけで調子に乗った私とは大違いだな。
1時間後にトレーニングを終え、師匠に別れを告げた。
「今日はありがとう」
「また練習しよう! あと必殺技の名前も期待してるよ」
真面目にトレーニングして終わると思ったら最後に来たか?
恥ずかしいが仕方がない。
私も必殺技の名前を考えてみるとするか。
だって師匠の弟子なのだからーー
スプリントって……この前のレースで師匠が見せてくれた、全力でバイクを振ってペダルを踏み抜くアレの事だよな。
この車庫でそんな過激な事を練習出来るのか?
そう思った私は思わず疑問を口にした。
「ローラー台で出来るのですか?」
「まずは椅子に座ったままやりますよ」
更に意味が分からない。
自転車にすら乗らないでスプリントの練習をするのか?
「椅子に座ったまま両足を地面から浮かせて下さい」
良く分からないが、師匠を信じて両足を浮かせてみた。
「その状態で出来るだけ勢いよく右膝を上げてみて下さい」
師匠に言われた通り右膝を上げようとするが、体が安定せずゆっくり上げる事しか出来ない。
「次は左足を地面につけて、同じように右膝を勢いよく上げてみて下さい」
今度は簡単だ。右膝を勢いよく振り上げる。
「勢いよく上げられましたね。右膝を上げる時、左足で何をしました?」
「左足は反動で地面を踏みしめていましたけど……それが何か?」
「その感覚が大事なので覚えていて下さい。次にロードバイクに乗車して下さい」
今の感覚が大事?
右膝を上げた感覚を忘れないうちに、ローラー台に取り付けられたロードバイクに乗車した。
私が乗車したのを確認した後、師匠は説明を続けた。
「スプリントの時、重たいギアを踏み込もうという意識が強くなってバックを踏んでしまう事が多い」
「バックを踏む?」
「クランクを水平にしてバイクの上に立ってみて下さい」
言われた通り、クランクを水平にしてペダルの上に立つ。
「今の状態が前側のペダルを踏み込む力と、後ろ側のペダルを踏む力が釣り合っている状態です。後ろのペダル、バックを踏んでいるからペダルが回らないでしょ。この状態になるとパワーをかけてもペダルが回らずスピードが出なくなるんだ。試しにそのまま垂直に体重をかけてみて」
確かに師匠に言われた様に、両足の裏に均等に力がかかっている。
バランスを崩さない様に垂直に勢いよく体重をかけると、両方の足の裏にかかる反発力は上がるが、クランクは回らなかった。
これがバックを踏んでいる状態なのか。
「バックを踏まない為には、後ろ足を素早く引き上げる必要がある」
「それで先ほどの膝上げの感覚が重要なのか」
「その通り。踏み込む側の足に集中すると、後ろ脚の引き上げが遅れてバックを踏んでしまう。だから後ろ足を引き上げる動作を意識して、踏み込む側の足は引き足と連動させる感覚が大事です。早速、右膝を上げる練習をしてみましょう。負荷が高いとフォームが崩れるので無理なく回せるギアを選択して下さい」
師匠に言われた通り、引き上げる右膝を意識すると綺麗にクランクが回る。
試しに踏み込みを意識して体重をかけると、クランクを回す抵抗が上がり直ぐにバテてしまう。
「次は左右連続でやってみましょう。踏もうとするとバックを踏むので、クランクを回す感覚を忘れないで下さい」
私が慣れてきたのを見計らって、師匠が両足での練習のコツを教えてくれた。
ひたすらクランクを回す事を意識して、両膝を胸の前まで交互に上げる。
暫く練習しているとコツがつかめてきたので、休憩する為にバイクを降りた。
「ありがとう。コツを掴めたと思うよ」
「どういたしまして。後は姿勢が大事かな。空気抵抗を下げるには、かなり低い姿勢を取らないといけないからね。プロのスプリンターの動画を見てスプリント時の姿勢をイメージすると良いよ。バイクを振るリズムとかも参考になるしね」
「師匠もプロの動画を参考にしてるのですか?」
「当然参考にしてるよ。有名なスプリンターの動画を見れば誰のモノマネしているのか直ぐに分かるよ」
私がロードバイクを始める切っ掛けとなった動画を思い出す。
初めて見た時はあまりの迫力に圧倒されただけだったが、今なら違った見方が出来るのだろう。
帰宅したら動画を見直してみよう。
「後は予算があるならディープリムホイールをオススメするよ」
「ディープリム?」
「ほら、俺のホイールのここ太いでしょ。簡単に言うと、このリムって部分の幅が太い程、高速走行時の空気抵抗が削減されるんだ」
師匠が自分のホイールを指差す。
タイヤがついているホイールの外周部分をリムと言うのか。
確かに太くて、デカールが貼ってある面積が広いから見た目がカッコイイけど……
「そんなに分厚かったら重くないのか?」
「軽量ホイールよりは重たいね。でも猛士さんの完成車についているアルミのホイールよりは軽いよ。カーボン製だからね」
「そうか、折角だから購入してみるよ」
その後、二人でローラー台でのトレーニングを続けた。
私は軽いトレーニングしか出来なかったが、隣の師匠は激しいトレーニングを続けた。
レースで勝てる人はこういう努力を怠らないのだな。
少し早く走れる様になっただけで調子に乗った私とは大違いだな。
1時間後にトレーニングを終え、師匠に別れを告げた。
「今日はありがとう」
「また練習しよう! あと必殺技の名前も期待してるよ」
真面目にトレーニングして終わると思ったら最後に来たか?
恥ずかしいが仕方がない。
私も必殺技の名前を考えてみるとするか。
だって師匠の弟子なのだからーー
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