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1章 最強中年は敗北を求める
第5話 最強中年は高速巡行を身につける
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今日はヤビツ峠で知り合った南原堅司さんと海岸通りに来ていた。
海岸通りは平地で信号が少ないから、ヒルクライムが苦手な南原さんのお勧めのサイクリングスポットだそうだ。
最初にハンドサインを習う。
手のひらを後方に見せたら停止の合図か。追突しないように気を付けよう。
私は南原さんの後ろを走る事になった。
なんでもドラフティングといって、モータースポーツのスリップストリームと同じで空気抵抗が減って、楽に走れるらしい。
早速、南原さんの後ろについて走り始める。
海の匂いを感じながら軽快に進んでいく。
最初はゆっくり走ると言っていたが、サイコンの速度表示を見ると既に時速30kmを超えている。
海岸通りは基本的に平地で走り易かったが、橋に差し掛かると息が乱れて辛くなってきた。
大した登りじゃないのに追いつけない。
気合で変速しながらペダルを必死に回すが、南原さんとの距離が開いていく。
南原は橋の登り区間でも時速30kmを維持しているのか。
私はたまらず南原さんに声をかけた。
「南原さん! 早すぎです!」
僕の声を聴いた南原さんは速度を落としてくれた。
そして次の交差点で停車して歩道の隅で休憩する事にした。
「これくらいの速度なら余裕だと思ったのですが」
「必死にペダルを回しましたけど、息が辛くてスグにバテてしまいましたよ」
「平地で息が切れる? 猛士さんはケイデンスいくつで走ってますか?」
ケイデンス? なんだろう? 初めて聞く言葉だな。
「そうか……西野は何も教えていないのですね。ケイデンスは1分間のクランクの回転数。どれだけ早くペダルを回しているか分かる数値です」
「それに何の意味があるのですか?」
「意味ですか……実際にやってみた方が良いですね。まずはケイデンス80rpmを維持して走ってみましょう。ペダルが重いと思ったらギアを下げてケイデンス80rpmを維持する。軽いときは逆にギアを上げてみて下さい」
良く分からないが、南原さんの言う通りケイデンスを80rpmに維持してみれば理解出来るのか。
再び南原さんと走り始める。
言われた通り、ケイデンスが80rpmになる様にペダルの回転を維持する。
登りと向かい風の時はペダルが重くなるのでギアを下げる。
逆に下りや追い風の時はギアをあげる。
当然の事だがギアを下げた時は速度が落ちるし、ギアを上げた時は速度があがる。
だけど、心臓の鼓動は一定で息が上がらない。
これなら辛くない!
これが南原さんが伝えたかったケイデンスを意識する事か……30分程走った所で水分補給の為に自販機によった。
「ありがとうございます南原さん。ケイデンスを意識するって大事なんですね。これからもケイデンス80rpmを意識して走ってみます」
「それは違いますよ。ケイデンスを意識する効果を教える為に80rpmを維持してもらっただけです」
「それならどうしたら良いのですか?」
「自分で探すしかないです。人によって得意なケイデンスが違うので。私の場合は平地は90rpm、上りは80rpmが基本です。同じ平地でも時速50kmの高速巡行する時は100rpmを維持しています」
時速50kmなんて自動車と同じレベルの速度じゃないか。
プロならともかく、アマチュアのホビーレーサーでもそんなに早く走る人がいたとは……私は驚きの声を上げた。
「時速50km?! そんなに早く走れるようになるのですか?」
「人によりますよ。僕はホビーレーサーですけどタイムトライアルスペシャリストなので。見ての通りパワーがあるので」
確かに南原さんはごっつい体格をしている。太ももなんか西野のウエストより太いだろう。
南原さんは平地の高速巡行が得意なタイムトライアルスペシャリストだから時速50kmを出せるけど、普通のロードバイク乗りでは一瞬くらいしか出せない速度だそうだ。
その後、南原さんの指導のお陰でだんだん早く走れる様になり、最終的に時速40kmで走る事が出来る様になったのであったーー
*
自宅に帰った私はSNSに西野から着信があった事に気付いた。
『南原と走りに行ったの楽しかった?』
『楽しかったよ。自分でもこんなに早く走れる様になれるとは思わなかった』
『それなら来週も南原と走りに行ったら?』
返信するとすぐに西野から返事がきた。
『西野は来週忙しいのか? 一緒に走ろうと思ってたけど』
『どうして私と走りたいの? いきなり峠につれて行って、あっさり挫折させたのに?』
『まだ気にしてるのか。今度はもう少し頑張ってみるよ』
『嫌じゃないの?』
『先週言っただろ。挫折するのも楽しいんだ。全力になれるから。西野は自分が好きな事を教えてくれただけだろ? 好きな事を教えてくれた相手を嫌だと思わない』
一時間経っても返事が来ない。
何か困らせる事を送ってしまったのだろうか……悩んでいても仕方がない。スマホを机に置いて夕食をとりに行った。
『日曜6時 ヤビツ峠』
夕食を終え更に二時間たった頃に、やっと西野から返事が来ていた。
シンプルな内容だが、来週は一緒に走ってくれるようだ。
誘いの連絡をもらって安心した。西野は初めて出来た自転車乗りの仲間なのだから。
場所は因縁のヤビツ峠。
でも前回と違って南原さんに習った秘策がある。
海岸通りは平地で信号が少ないから、ヒルクライムが苦手な南原さんのお勧めのサイクリングスポットだそうだ。
最初にハンドサインを習う。
手のひらを後方に見せたら停止の合図か。追突しないように気を付けよう。
私は南原さんの後ろを走る事になった。
なんでもドラフティングといって、モータースポーツのスリップストリームと同じで空気抵抗が減って、楽に走れるらしい。
早速、南原さんの後ろについて走り始める。
海の匂いを感じながら軽快に進んでいく。
最初はゆっくり走ると言っていたが、サイコンの速度表示を見ると既に時速30kmを超えている。
海岸通りは基本的に平地で走り易かったが、橋に差し掛かると息が乱れて辛くなってきた。
大した登りじゃないのに追いつけない。
気合で変速しながらペダルを必死に回すが、南原さんとの距離が開いていく。
南原は橋の登り区間でも時速30kmを維持しているのか。
私はたまらず南原さんに声をかけた。
「南原さん! 早すぎです!」
僕の声を聴いた南原さんは速度を落としてくれた。
そして次の交差点で停車して歩道の隅で休憩する事にした。
「これくらいの速度なら余裕だと思ったのですが」
「必死にペダルを回しましたけど、息が辛くてスグにバテてしまいましたよ」
「平地で息が切れる? 猛士さんはケイデンスいくつで走ってますか?」
ケイデンス? なんだろう? 初めて聞く言葉だな。
「そうか……西野は何も教えていないのですね。ケイデンスは1分間のクランクの回転数。どれだけ早くペダルを回しているか分かる数値です」
「それに何の意味があるのですか?」
「意味ですか……実際にやってみた方が良いですね。まずはケイデンス80rpmを維持して走ってみましょう。ペダルが重いと思ったらギアを下げてケイデンス80rpmを維持する。軽いときは逆にギアを上げてみて下さい」
良く分からないが、南原さんの言う通りケイデンスを80rpmに維持してみれば理解出来るのか。
再び南原さんと走り始める。
言われた通り、ケイデンスが80rpmになる様にペダルの回転を維持する。
登りと向かい風の時はペダルが重くなるのでギアを下げる。
逆に下りや追い風の時はギアをあげる。
当然の事だがギアを下げた時は速度が落ちるし、ギアを上げた時は速度があがる。
だけど、心臓の鼓動は一定で息が上がらない。
これなら辛くない!
これが南原さんが伝えたかったケイデンスを意識する事か……30分程走った所で水分補給の為に自販機によった。
「ありがとうございます南原さん。ケイデンスを意識するって大事なんですね。これからもケイデンス80rpmを意識して走ってみます」
「それは違いますよ。ケイデンスを意識する効果を教える為に80rpmを維持してもらっただけです」
「それならどうしたら良いのですか?」
「自分で探すしかないです。人によって得意なケイデンスが違うので。私の場合は平地は90rpm、上りは80rpmが基本です。同じ平地でも時速50kmの高速巡行する時は100rpmを維持しています」
時速50kmなんて自動車と同じレベルの速度じゃないか。
プロならともかく、アマチュアのホビーレーサーでもそんなに早く走る人がいたとは……私は驚きの声を上げた。
「時速50km?! そんなに早く走れるようになるのですか?」
「人によりますよ。僕はホビーレーサーですけどタイムトライアルスペシャリストなので。見ての通りパワーがあるので」
確かに南原さんはごっつい体格をしている。太ももなんか西野のウエストより太いだろう。
南原さんは平地の高速巡行が得意なタイムトライアルスペシャリストだから時速50kmを出せるけど、普通のロードバイク乗りでは一瞬くらいしか出せない速度だそうだ。
その後、南原さんの指導のお陰でだんだん早く走れる様になり、最終的に時速40kmで走る事が出来る様になったのであったーー
*
自宅に帰った私はSNSに西野から着信があった事に気付いた。
『南原と走りに行ったの楽しかった?』
『楽しかったよ。自分でもこんなに早く走れる様になれるとは思わなかった』
『それなら来週も南原と走りに行ったら?』
返信するとすぐに西野から返事がきた。
『西野は来週忙しいのか? 一緒に走ろうと思ってたけど』
『どうして私と走りたいの? いきなり峠につれて行って、あっさり挫折させたのに?』
『まだ気にしてるのか。今度はもう少し頑張ってみるよ』
『嫌じゃないの?』
『先週言っただろ。挫折するのも楽しいんだ。全力になれるから。西野は自分が好きな事を教えてくれただけだろ? 好きな事を教えてくれた相手を嫌だと思わない』
一時間経っても返事が来ない。
何か困らせる事を送ってしまったのだろうか……悩んでいても仕方がない。スマホを机に置いて夕食をとりに行った。
『日曜6時 ヤビツ峠』
夕食を終え更に二時間たった頃に、やっと西野から返事が来ていた。
シンプルな内容だが、来週は一緒に走ってくれるようだ。
誘いの連絡をもらって安心した。西野は初めて出来た自転車乗りの仲間なのだから。
場所は因縁のヤビツ峠。
でも前回と違って南原さんに習った秘策がある。
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