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8.【最終話】夢をみせて(3)
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「うそ……だって、グレッグ様は私と同じ寝室を使うのが夫としての義務だって」
震えた声を遮るようにグレッグ様は「すまない」と言った。
「違うんだ……。いや、言った言葉に間違いはない。義務なのは、メアリーを抱かないでいること、だったんだ」
「……え?」
「君が出産を機に『ヒト』になるのだと知ったとき、夫としてできることはないかと勉強していたんだ。そこで……その、どの資料にも発情期のないヒトは性的欲求が獣人に比べて極めて低いのだと記されていた。そして性交渉の無い期間こそに愛を感じるのだ、と」
彼は眉間に皺を寄せた。
私も自分の周りに関することはたくさん調べたけれど、自分自身のことは実際体験してみないと分からないからとそこまで真剣に勉強したことはなかったのだ。
でも、彼は『ヒト』でないのだから書物しか知識がなくて当然だ。調べてくれていたこともすごく嬉しい。そのぶん、自分が伝えてこなかったことが悔しくなってきた。
「でも、君は『ヒト』になり、母としての柔らかさを纏ってさらに魅力的になった。身体の仕組みも異なる、もとより大きな俺の身体はヒトになった君を怖がらせてしまうかもしれない……そう考えると自分の野蛮さが嫌になった。その先を望む自分が情けなくて口付けするのも躊躇うようになった」
「……いつか、欲望のままに君を貪ってしまうのが恐ろしくて」
彼は贖罪のように告げると、そっと私の頬を撫でた。
私もそろりと手を伸ばして彼の頬に触れる。
「……叩いてごめんなさい。私、ずっと勘違いしてて……っ」
グレッグ様は手にすり寄り、銀色の耳をぺたんと垂れさせた。
「俺が勘違いさせるようなことを言ったからだ。妻に直接話せばよかったことを、見栄を張って3年も触れる機会を逃し続けた馬鹿な夫だ。……寂しい想いをさせたよね」
ふるふると首を振る。
愛されていた。
義務、なのはヒトである私と共に過ごすことが、なのではなく『ヒト』は性交渉がない期間に愛があるのだという資料をみて勘違いしたせいだった。そして、私が言葉にして伝えてこなかったせい。
「……あのっ、グレッグ様、その……私はヒト、ですが個人差があるので……そのっ……もっとたくさん、したいです」
言った、伝えた! 覚悟を決めて言ったその言葉に、グレッグ様は今まで見たことがないくらい目を輝かせて、それはもう可愛らしい無邪気な笑みを浮かべた。
もふもふの尻尾が左右にちぎれんばかりに振られている。
「嬉しいな……! 無理、してないんだよね? 俺に合わせてくれているわけじゃないかい?」
「そ、そんなことないです」
「よかった。じゃあこれからは遠慮しないで毎晩可愛い妻が抱けるんだね。幸せだな……いや、今までも十分に幸せだったけれど」
え、毎晩? 猫族のときより大分体力落ちてるけれど大丈夫かな、という心配とは裏腹に、お腹の奥からきゅんっと熱が溢れるのを感じた。目が合うと、どちらともなく重なり合ってシーツに絡みついた。
◇
それから15年の間に、公爵家は『ヒト』と『犬族(オオカミ)』との間に6人の子供に恵まれ、仕事では冷徹な強面と恐れられている公爵が家では瓜二つな長男が呆れかえるほどの愛妻家として知られ、とあるきっかけを作った天才魔導師から生涯イジられ続けたというのは犬国ではかなり有名な話となる。
震えた声を遮るようにグレッグ様は「すまない」と言った。
「違うんだ……。いや、言った言葉に間違いはない。義務なのは、メアリーを抱かないでいること、だったんだ」
「……え?」
「君が出産を機に『ヒト』になるのだと知ったとき、夫としてできることはないかと勉強していたんだ。そこで……その、どの資料にも発情期のないヒトは性的欲求が獣人に比べて極めて低いのだと記されていた。そして性交渉の無い期間こそに愛を感じるのだ、と」
彼は眉間に皺を寄せた。
私も自分の周りに関することはたくさん調べたけれど、自分自身のことは実際体験してみないと分からないからとそこまで真剣に勉強したことはなかったのだ。
でも、彼は『ヒト』でないのだから書物しか知識がなくて当然だ。調べてくれていたこともすごく嬉しい。そのぶん、自分が伝えてこなかったことが悔しくなってきた。
「でも、君は『ヒト』になり、母としての柔らかさを纏ってさらに魅力的になった。身体の仕組みも異なる、もとより大きな俺の身体はヒトになった君を怖がらせてしまうかもしれない……そう考えると自分の野蛮さが嫌になった。その先を望む自分が情けなくて口付けするのも躊躇うようになった」
「……いつか、欲望のままに君を貪ってしまうのが恐ろしくて」
彼は贖罪のように告げると、そっと私の頬を撫でた。
私もそろりと手を伸ばして彼の頬に触れる。
「……叩いてごめんなさい。私、ずっと勘違いしてて……っ」
グレッグ様は手にすり寄り、銀色の耳をぺたんと垂れさせた。
「俺が勘違いさせるようなことを言ったからだ。妻に直接話せばよかったことを、見栄を張って3年も触れる機会を逃し続けた馬鹿な夫だ。……寂しい想いをさせたよね」
ふるふると首を振る。
愛されていた。
義務、なのはヒトである私と共に過ごすことが、なのではなく『ヒト』は性交渉がない期間に愛があるのだという資料をみて勘違いしたせいだった。そして、私が言葉にして伝えてこなかったせい。
「……あのっ、グレッグ様、その……私はヒト、ですが個人差があるので……そのっ……もっとたくさん、したいです」
言った、伝えた! 覚悟を決めて言ったその言葉に、グレッグ様は今まで見たことがないくらい目を輝かせて、それはもう可愛らしい無邪気な笑みを浮かべた。
もふもふの尻尾が左右にちぎれんばかりに振られている。
「嬉しいな……! 無理、してないんだよね? 俺に合わせてくれているわけじゃないかい?」
「そ、そんなことないです」
「よかった。じゃあこれからは遠慮しないで毎晩可愛い妻が抱けるんだね。幸せだな……いや、今までも十分に幸せだったけれど」
え、毎晩? 猫族のときより大分体力落ちてるけれど大丈夫かな、という心配とは裏腹に、お腹の奥からきゅんっと熱が溢れるのを感じた。目が合うと、どちらともなく重なり合ってシーツに絡みついた。
◇
それから15年の間に、公爵家は『ヒト』と『犬族(オオカミ)』との間に6人の子供に恵まれ、仕事では冷徹な強面と恐れられている公爵が家では瓜二つな長男が呆れかえるほどの愛妻家として知られ、とあるきっかけを作った天才魔導師から生涯イジられ続けたというのは犬国ではかなり有名な話となる。
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