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3.これは夢ですか?(2)
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――寂しい。
中途半端に高ぶった体はちゃんと気持ちがいいはずなのに、それ以上先に進めない。
本当のグレッグ様だったら、触れられただけでぶわっと沸きだつような不思議な感覚に襲われるのに。
――夢でいいから、触れてほしい。あの大きな手に、たくましい背中に……グレッグ様に触れたい。
――もうやめないと。明後日お戻りになられたときに合わせる顔がないわ。
ゆっくりと、体が寝具に沈んでいく。ゆらゆらと思考が溶けて、昂ぶりかけた体もすぐに熱が冷めていく――はずだった。
「メアリー」
名前を呼ばれてハッと目を開けた。そこには、いるはずのない愛しの姿が。
「グレッグ様っ! お戻りは明後日のはずでは……っ」
「メアリーに一日でも早く会いたくて。ごめんね、寝ていたのに」
よしよし、となだめるように大きな手で頭を撫でられる。ああ、グレッグ様の手だ。
思わず目がとろんとして、喉が甘える……代わりに熱い息が漏れた。
もっとくっつきたくて、両腕を伸ばしてシーツを脱ぎ捨てる。
「驚いたな……これは本当に……可愛い格好をして……」
「え? きゃっ、なにこれっ」
眠りにつく前、着ていたのは確かにシンプルな夜着だった。質のいい睡眠を取るのに最適な寝心地のいい夜着。
それなのに、そんなものはベッドのどこにも見当たらないし、それどころか見たこともないベビードール姿になっている。
月の光を薄っすらと飲み込んだ雲みたいな淡いグレーにリボンと花の装飾がたっぷり施された美しい下着姿。
綺麗だけど、今はすごいと感動するよりも恥ずかしいのが遥かに上回っている。
なんで、どうしてこんな格好。確かにグレッグ様はベビードールが似合うといくつか誂えてくれたけれど、この色は持っていなかったし、なにより自ら着ることなんてほとんどなかったのに。
なにより、避けられているこの身体を見られたくなくて慌ててシーツの中へ戻った。
けれどベッドに腰掛けたグレッグ様はもふもふの尻尾で布を器用に遠くへと放り投げてしまった。
「かくれんぼはまた今度にしたいな」
甘い声で囁かれて指が絡む。じっと見つめられるとそれ以上動けなかった。
『ヒト』の身体がいくら誇らしくても、グレッグ様にとってそうでないなら今は別。
恥ずかしい。愛されないのが分かってるから、悲しい。怖い、見ないで。
「この指、どうしたんだい?」
指? とグレッグ様に絡め取られた自分の指を見ると、先が濡れていた。
「……っ」
さっきまで自分がしていたことを思い出して、ぶわっと顔が熱くなる。
「ち、違うのです! これは……その……っ、月が綺麗で、グレッグ様の香りがして……っ」
それで、と続ければ続けるほどぼろがでてしまう。嫌われてしまう。
こんなわがままではしたないなんて。
グレッグ様は私の手を取ると、濡れた指にちゅっとキスをした。
「俺の匂いを嗅いでしたくなっちゃったの?」
否定できない。グレッグ様に嘘をつくなんてできないから。
恥ずかしくてどうにかなっていしまいそうだけれど、晴天色の瞳に涙をためて小さく頷いた。
「こ、これは夢……ですか? それとも私の妄想……?」
どちらも現実でないことに変わりないけれど。
「夢にみるほど俺を待っていてくれたって、期待してもいい?」
中途半端に高ぶった体はちゃんと気持ちがいいはずなのに、それ以上先に進めない。
本当のグレッグ様だったら、触れられただけでぶわっと沸きだつような不思議な感覚に襲われるのに。
――夢でいいから、触れてほしい。あの大きな手に、たくましい背中に……グレッグ様に触れたい。
――もうやめないと。明後日お戻りになられたときに合わせる顔がないわ。
ゆっくりと、体が寝具に沈んでいく。ゆらゆらと思考が溶けて、昂ぶりかけた体もすぐに熱が冷めていく――はずだった。
「メアリー」
名前を呼ばれてハッと目を開けた。そこには、いるはずのない愛しの姿が。
「グレッグ様っ! お戻りは明後日のはずでは……っ」
「メアリーに一日でも早く会いたくて。ごめんね、寝ていたのに」
よしよし、となだめるように大きな手で頭を撫でられる。ああ、グレッグ様の手だ。
思わず目がとろんとして、喉が甘える……代わりに熱い息が漏れた。
もっとくっつきたくて、両腕を伸ばしてシーツを脱ぎ捨てる。
「驚いたな……これは本当に……可愛い格好をして……」
「え? きゃっ、なにこれっ」
眠りにつく前、着ていたのは確かにシンプルな夜着だった。質のいい睡眠を取るのに最適な寝心地のいい夜着。
それなのに、そんなものはベッドのどこにも見当たらないし、それどころか見たこともないベビードール姿になっている。
月の光を薄っすらと飲み込んだ雲みたいな淡いグレーにリボンと花の装飾がたっぷり施された美しい下着姿。
綺麗だけど、今はすごいと感動するよりも恥ずかしいのが遥かに上回っている。
なんで、どうしてこんな格好。確かにグレッグ様はベビードールが似合うといくつか誂えてくれたけれど、この色は持っていなかったし、なにより自ら着ることなんてほとんどなかったのに。
なにより、避けられているこの身体を見られたくなくて慌ててシーツの中へ戻った。
けれどベッドに腰掛けたグレッグ様はもふもふの尻尾で布を器用に遠くへと放り投げてしまった。
「かくれんぼはまた今度にしたいな」
甘い声で囁かれて指が絡む。じっと見つめられるとそれ以上動けなかった。
『ヒト』の身体がいくら誇らしくても、グレッグ様にとってそうでないなら今は別。
恥ずかしい。愛されないのが分かってるから、悲しい。怖い、見ないで。
「この指、どうしたんだい?」
指? とグレッグ様に絡め取られた自分の指を見ると、先が濡れていた。
「……っ」
さっきまで自分がしていたことを思い出して、ぶわっと顔が熱くなる。
「ち、違うのです! これは……その……っ、月が綺麗で、グレッグ様の香りがして……っ」
それで、と続ければ続けるほどぼろがでてしまう。嫌われてしまう。
こんなわがままではしたないなんて。
グレッグ様は私の手を取ると、濡れた指にちゅっとキスをした。
「俺の匂いを嗅いでしたくなっちゃったの?」
否定できない。グレッグ様に嘘をつくなんてできないから。
恥ずかしくてどうにかなっていしまいそうだけれど、晴天色の瞳に涙をためて小さく頷いた。
「こ、これは夢……ですか? それとも私の妄想……?」
どちらも現実でないことに変わりないけれど。
「夢にみるほど俺を待っていてくれたって、期待してもいい?」
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