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2.これは夢ですか?(1)
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キィ……パタン、ぽふん。
夫婦の寝室。
私は天蓋付きのベッドに倒れ込んで、ひとりため息をつく。
このベッドは長身のグレッグ様ものびのび眠れるようにと、かなり立派で大きめのものだ。
だからこそ、ひとりで横になると、本当に1人なんだという気持ちが際立ってしまう。
普段は意識して気にしないようにしているもののふとした時に胸の奥がつんっと痛む。
落ち着かないから意味もなく寝返りを打っていると、カーテンが微かに開いているのに気付いた。隙間から漏れる星明かりが妙に明るくて、閉めようとした、そのとき。
「わあっ……」
目に飛び込んできたのは美しい純金の満月だった。
大好きなグレッグ様と、初めて体を重ねたあの夜と同じ。
首を振って、ぎゅっと瞑ったまぶたの裏で記憶を手繰り寄せる。グレッグ様の甘い声で名前を呼ばれて、頭を撫でられて、キスをしてくれて。それから、項から背中にかけてすっと長い指に撫でられると体の力が抜けて、耳に甘く噛みつかれて。
思い出しただけで、肌の内側がぞわぞわとして、息が熱くなる。
発情期でもないのに。
『ヒト』なのだから発情期なんてもう、くるはずがないのに。
「……っ、はっ……んんっ」
再びベッドに横たわり、私は無意識に下着に手を這わせていた。
指先に少しだけ力を入れて上下に滑らせる。
なんとなく、いけないことをしているようなそんな気分が余計背徳的に感じた。
――あの頃、グレッグ様が触れてくださっていたところ……。
くちっ、くちゅっ……と、淫らな音が響く。
グレッグ様はとてもいい旦那様であり、お父様。
私には想像も及ばないほど沢山の人たちから信頼を寄せられていて、その重圧の中少しでも家族の時間を確保しようとしてくださっている。それなのに、私はただ寂しい、なんて自分勝手なわがままを抑えきれずに、こんなことをしてしまうなんて馬鹿げているのに。
「……ふっ、……っ」
自分の体に触れる自分の手がまるでグレッグ様の、あの大きな手であるかのように思えてくる。
枕に顔を埋めたら、微かにグレッグ様の甘い香りがする気がした。
「……グレッグ様……グレッグさ、ま……」
グレッグ様はもう1年以上――私に触れることはなかった。
息子を産んでから一度も夫婦としての夜を過ごしていない。仕事が忙しいのももちろんあるだろうが、共に同じベッドで眠るときは頻繁に寝室を抜け出して戻ってきてを繰り返しているのを私は知っていた。
――耳と尻尾以外、私は何も変わっていないのに。
グレッグ様への気持ちはもちろん変わらない。大好きで大好きで、触れたくて、触れられたくてしかたがないのに。
でも、それは私の一方的な感情。そんなことを言えるわけがなかった。
鈍感すぎると両親の頭を散々悩ませてきた私でも、『ヒト』の姿に対してどうしても苦手意識を持つ犬族、猫族がいることは知っている。
異種間での妊娠、出産という苦難を乗り越えた妻になんてひどい仕打ちだと思う一方で、妙に納得してしまっている自分もいるから余計やるせない。
身体のつくりが異なる。あるべき場所にあるものがなく、不思議な位置についているものがある。
実際、当事者の私ですらまだ不思議だと感じることがあるのだ。
夫であり、姿形の変わらないグレッグ様がそう思っていたとしても……おかしくはない。
夫婦の寝室。
私は天蓋付きのベッドに倒れ込んで、ひとりため息をつく。
このベッドは長身のグレッグ様ものびのび眠れるようにと、かなり立派で大きめのものだ。
だからこそ、ひとりで横になると、本当に1人なんだという気持ちが際立ってしまう。
普段は意識して気にしないようにしているもののふとした時に胸の奥がつんっと痛む。
落ち着かないから意味もなく寝返りを打っていると、カーテンが微かに開いているのに気付いた。隙間から漏れる星明かりが妙に明るくて、閉めようとした、そのとき。
「わあっ……」
目に飛び込んできたのは美しい純金の満月だった。
大好きなグレッグ様と、初めて体を重ねたあの夜と同じ。
首を振って、ぎゅっと瞑ったまぶたの裏で記憶を手繰り寄せる。グレッグ様の甘い声で名前を呼ばれて、頭を撫でられて、キスをしてくれて。それから、項から背中にかけてすっと長い指に撫でられると体の力が抜けて、耳に甘く噛みつかれて。
思い出しただけで、肌の内側がぞわぞわとして、息が熱くなる。
発情期でもないのに。
『ヒト』なのだから発情期なんてもう、くるはずがないのに。
「……っ、はっ……んんっ」
再びベッドに横たわり、私は無意識に下着に手を這わせていた。
指先に少しだけ力を入れて上下に滑らせる。
なんとなく、いけないことをしているようなそんな気分が余計背徳的に感じた。
――あの頃、グレッグ様が触れてくださっていたところ……。
くちっ、くちゅっ……と、淫らな音が響く。
グレッグ様はとてもいい旦那様であり、お父様。
私には想像も及ばないほど沢山の人たちから信頼を寄せられていて、その重圧の中少しでも家族の時間を確保しようとしてくださっている。それなのに、私はただ寂しい、なんて自分勝手なわがままを抑えきれずに、こんなことをしてしまうなんて馬鹿げているのに。
「……ふっ、……っ」
自分の体に触れる自分の手がまるでグレッグ様の、あの大きな手であるかのように思えてくる。
枕に顔を埋めたら、微かにグレッグ様の甘い香りがする気がした。
「……グレッグ様……グレッグさ、ま……」
グレッグ様はもう1年以上――私に触れることはなかった。
息子を産んでから一度も夫婦としての夜を過ごしていない。仕事が忙しいのももちろんあるだろうが、共に同じベッドで眠るときは頻繁に寝室を抜け出して戻ってきてを繰り返しているのを私は知っていた。
――耳と尻尾以外、私は何も変わっていないのに。
グレッグ様への気持ちはもちろん変わらない。大好きで大好きで、触れたくて、触れられたくてしかたがないのに。
でも、それは私の一方的な感情。そんなことを言えるわけがなかった。
鈍感すぎると両親の頭を散々悩ませてきた私でも、『ヒト』の姿に対してどうしても苦手意識を持つ犬族、猫族がいることは知っている。
異種間での妊娠、出産という苦難を乗り越えた妻になんてひどい仕打ちだと思う一方で、妙に納得してしまっている自分もいるから余計やるせない。
身体のつくりが異なる。あるべき場所にあるものがなく、不思議な位置についているものがある。
実際、当事者の私ですらまだ不思議だと感じることがあるのだ。
夫であり、姿形の変わらないグレッグ様がそう思っていたとしても……おかしくはない。
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