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幸せにしたい人(10)
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その庭園は、時の流れを忘れさせるほどの静寂と美しさに包まれていた。
高い木々が風に揺れ、太陽の光が葉っぱを透かして地面に煌めく。
庭園の一角には、様々な色とりどりの花々が咲き誇り、その美しさはまるで幻想の世界から飛び出してきたかのようだった。
「あっ! お義姉様!」
そこには、ひときわ目を引く花があった。深紅の花びらが風に舞い、その香りが心を魅了する。それはまるで、庭園の女王のような存在であり、周囲の花々もその美しさに敬意を払っているようだった。
まるで、すべてが彼女のためにあるかのように。
「お待たせ、シンデレラ」
そんな彼女はソフィーに飛びつくように駆け寄って大きな青い瞳を輝かせる。
「お義姉様とっても綺麗……っ! すっごくそのドレスお似合いだわ」
「そうかしら……嬉しいわ」
エルバートが選んでくれたドレスを褒められると素直に嬉しい。それに、衣装に着られているように見えていないことに少しだけ安堵した。
使用人に促され席に着いたソフィーに正面のエルバートが満足げな顔をしている。
なんですか、と照れてじとっと睨んでしまったソフィーとは裏腹にシンデレラはわあぁっと純粋な瞳を彼に向けた。
「ソフィーの美しさが際立っているだろう?」
「ええ……! まさかこのドレス、皇帝陛下が……?」
「もちろん」
きゃあっと歓声をあげるシンデレラにエルバートが「さあ、朝食にしよう」と宥めるように笑う。
清潔感のある白いテーブルに絵画のような素晴らしい朝食が並べられている。
それを摘みながら花々を背景にした二人が纏うドレスよりもずっと美しく見えて思わずぼうっとしてしまう。これが現実逃避なのはいやでも自覚できた。
「お義姉様」
こそっと呼ばれて耳を傾ける。愛らしく頬を蒸気させ、ソフィーに可憐な声で囁いた。
「エルバート様って素敵な方ね」
さあっ、と通り過ぎるような風が吹く。晴天色の宝石のような瞳が長いまつ毛の奥で砂糖のような甘い熱を帯びる。
その表情、もしかして。シンデレラ、私は。
「私思ったの。まるで――ガラスの靴みたいだなって」
無邪気な声が遠く聞こえる。
ガラスの靴……シンデレラ以外は当然入ることの無い運命の証。私の役目が節目を迎えた瞬間。
あのガラスの靴のようにぴったりと寄り添い祝福を受ける相手は王子ではなくエルバートだとしたら。
彼女がそう望むのだとしたら。
(これも……運命だと言うの?)
卑屈な自分の顔を自覚するのが恐ろしい。
でも、それ以上に自分を律さなければいけないと浅い呼吸をなんとか繋ぎ止めて酸素を胸の奥に送り込む。
まだ、主役のための物語は途中だったというのことだ。
彼女は「もっと知りたいな」と彼をちらりと覗いた。
(大丈夫よシンデレラ。私の可愛い義妹)
「あら、貴女にこのドレスが着こなせるかしら?」
ソフィー、そう、私は悪役でいる必要がある。主役の恋を叶え、永遠の幸せを迎えるために。
無意識で胸に当てていた手を口元へ移してクッと皮肉に笑ってみせた。
胸が痛むのは気のせいだろう。だって、抱いてた感情が横恋慕であったことに今まで気づけなかったほど鈍感なのだから。
(私はシンデレラの義姉だもの)
高い木々が風に揺れ、太陽の光が葉っぱを透かして地面に煌めく。
庭園の一角には、様々な色とりどりの花々が咲き誇り、その美しさはまるで幻想の世界から飛び出してきたかのようだった。
「あっ! お義姉様!」
そこには、ひときわ目を引く花があった。深紅の花びらが風に舞い、その香りが心を魅了する。それはまるで、庭園の女王のような存在であり、周囲の花々もその美しさに敬意を払っているようだった。
まるで、すべてが彼女のためにあるかのように。
「お待たせ、シンデレラ」
そんな彼女はソフィーに飛びつくように駆け寄って大きな青い瞳を輝かせる。
「お義姉様とっても綺麗……っ! すっごくそのドレスお似合いだわ」
「そうかしら……嬉しいわ」
エルバートが選んでくれたドレスを褒められると素直に嬉しい。それに、衣装に着られているように見えていないことに少しだけ安堵した。
使用人に促され席に着いたソフィーに正面のエルバートが満足げな顔をしている。
なんですか、と照れてじとっと睨んでしまったソフィーとは裏腹にシンデレラはわあぁっと純粋な瞳を彼に向けた。
「ソフィーの美しさが際立っているだろう?」
「ええ……! まさかこのドレス、皇帝陛下が……?」
「もちろん」
きゃあっと歓声をあげるシンデレラにエルバートが「さあ、朝食にしよう」と宥めるように笑う。
清潔感のある白いテーブルに絵画のような素晴らしい朝食が並べられている。
それを摘みながら花々を背景にした二人が纏うドレスよりもずっと美しく見えて思わずぼうっとしてしまう。これが現実逃避なのはいやでも自覚できた。
「お義姉様」
こそっと呼ばれて耳を傾ける。愛らしく頬を蒸気させ、ソフィーに可憐な声で囁いた。
「エルバート様って素敵な方ね」
さあっ、と通り過ぎるような風が吹く。晴天色の宝石のような瞳が長いまつ毛の奥で砂糖のような甘い熱を帯びる。
その表情、もしかして。シンデレラ、私は。
「私思ったの。まるで――ガラスの靴みたいだなって」
無邪気な声が遠く聞こえる。
ガラスの靴……シンデレラ以外は当然入ることの無い運命の証。私の役目が節目を迎えた瞬間。
あのガラスの靴のようにぴったりと寄り添い祝福を受ける相手は王子ではなくエルバートだとしたら。
彼女がそう望むのだとしたら。
(これも……運命だと言うの?)
卑屈な自分の顔を自覚するのが恐ろしい。
でも、それ以上に自分を律さなければいけないと浅い呼吸をなんとか繋ぎ止めて酸素を胸の奥に送り込む。
まだ、主役のための物語は途中だったというのことだ。
彼女は「もっと知りたいな」と彼をちらりと覗いた。
(大丈夫よシンデレラ。私の可愛い義妹)
「あら、貴女にこのドレスが着こなせるかしら?」
ソフィー、そう、私は悪役でいる必要がある。主役の恋を叶え、永遠の幸せを迎えるために。
無意識で胸に当てていた手を口元へ移してクッと皮肉に笑ってみせた。
胸が痛むのは気のせいだろう。だって、抱いてた感情が横恋慕であったことに今まで気づけなかったほど鈍感なのだから。
(私はシンデレラの義姉だもの)
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