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幸せにしたい人(4)

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「んっ……は……っ」

 息が絡み、唇を追いかけ合うような口づけが続く。
 ただ様子を見に来ただけなのだから、自分の部屋に戻らなければいけないのに力なく押し返した手を絡め取られあっさり抵抗をやめた。

「ソフィー……」

 熱の籠もったアメジストの瞳に見つめられて、あからさまに体温が上昇する。
 一度離れれば、茹でられたような頬を大きな手で撫でられ、甘やかな声で名前を囁かれた。
 啄むような口付けを繰り返し、ソフィーの腰にまわした手で器用に夜着を脱がせていく。

「……っ、エルバート様、待ってくださ……っ」
「僕が怖い?」

 鼻先を擦り合わされ、縋るような視線につい首を横に振った。

「なら、待たない」

 その瞳が安心したように見えたからソフィーはもうこれ以上なにも言えなかった。
 優しく腰を抱かれ、もたつく脚はエルバートに流されるままバスルームへと雪崩れ込んだ。
 バスタブの縁に下ろされたとき、ソフィーは一糸まとわぬ姿になっていた。
 灯りは幻想的に揺らめくキャンドルだけだとしても恥ずかしいことに変わりはない。

「ソフィー……綺麗だ。もっと見せて」

 両腕で胸を隠すソフィーはふいっと顔を逸らした。

「……私、もうお風呂入ったんです」

 服を脱がされることを受け入れておいて今更、と自分でも思う。

「約束忘れちゃった? 今日はお風呂で癒してほしいなぁ」

 バスタブにはすでにお湯がはられていて、ほのかに甘い香りが漂っている。
 初めてふたりでカモミール畑に行ったときに吸い込んだ爽やかさによく似ていて胸をかき乱した。
 本当に嫌なら今すぐ逃げればいい。
 怖い、とたった一言告げれば彼はソフィーに服を着せ、そっとベッドで眠るだけにしてくれるだろう。
 この一月半、さんざん彼に翻弄されつつも今までの人生では想像もできなかったほど甘やかされた思考は簡単にその逃避にたどり着いた。

(けれど……私はそれをしない……それどころか……)

 自身も手早く服を脱ぎ捨てたエルバートの仕草やその身体に見とれてしまっている。
 今まで恥ずかしいからとほとんど直視したことがなかったエルバートの身体は、想像よりも筋肉がついていてしなやかに割れた腹筋やより生々しく感じる逞しい腕から目が離せない。
 昼間、あれだけの力強さを見せただけあって、大男というわけではないのに自分が小動物にでもなったかのような雄々しさを感じさせられた。

 触れてみたいと思う自分がいる。隠さなければいけないのに、あふれる気持ちに瞳が潤む。
 自分がこんなに淫らな女だとは思わなかった。悪役らしいといえば、そうなのだけれど。

「風邪引いちゃうから入ろうか」

 ソフィーの視線に、ふっと笑みを零したエルバートは抱きしめるようにしてバスタブの中へ沈んだ。
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