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悪役を愛するのは(2)
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間髪入れないエルバートの肯定にソフィーは伏せがちだった顔をあげた。
自分から告げておきながらこの話しを気味悪がられることはあっても、信じてもらえるとは思ってもみなかった。
驚くソフィーに彼はふっと目を細めてクッキーを一枚摘んで、ソフィーの唇へ運ぶ。
「だって、ソフィーが言うことだもん。信じるよ」
口当たりの良いクッキーを噛んでソフィーは彼の言葉を飲み込んだ。
甘くて優しい味に全身に張り巡らせていた緊張感が解けていく。
「ありがとうございます……」
誰かに信じてもらえることがこんなに嬉しいことだったなんて、ソフィーは知らなかった。
シンデレラのことで願うことはあっても、信じるとはまた異なる感情だった。誰かを信じることも、信じられることも無縁の生活だったのだと改めて思う。
エルバートは紅茶を飲みながらおどけるように続けた。
「それに、知ってる? 地上には沢山の国があって、その中には悪い魔女からもらった毒リンゴを食べて仮死状態になる人や、陸の王子に恋をして声を失う人魚もいるんだよ。どれも運命の相手に出会うためだから、それには絶対抗えなくて何度でもそうなるんだ。まるでそんなシナリオがあるみたいにね」
さすが、地上の国々を見下ろしている神のような存在なだけはある。彼らが関与しているのはソフィーの住むベテン王国だけのようだが、他国についても内情等は知っているようだった。
ソフィーの知らない国ではそんなおとぎ話のようなことが起こっていると言われても、作り話だとは思えない。
「何度もだなんて……残酷ですね」
ソフィー自身、たった一度、脇役の立場でさえ二度目があるなんて想像するだけでやりきれないのに、運命の人に出会うためだからと何度も仮死状態になったり、声を失うだなんて耐えられそうにない。
きっと、シンデレラのように主役側の人物だろう。
シンデレラがそうでなくてよかったと、思ってしまう自分はきっと冷酷だ。
「残酷だよね……でも、だからこそ僕はソフィーに出会えたんだから感謝してるよ」
「……私もそう思います」
エルバートに出会わなければシンデレラはあの舞踏会に参加することは叶わなかった。
その件に関して、ソフィーはエルバートに出会えたことを心から感謝している。
嬉しいなぁ、とソフィーの手を握るエルバートがその顔を覗き込んだ。
テーブルを間に挟んでいるとはいえ、ティーセットがギリギリ乗る大きさのため彼との距離は近い。
「ソフィー、気づいている?」
なにを、と視線だけで返したソフィーにエルバートは困ったような顔をした。
「ソフィーがシンデレラのことを命をかけたいほど大切ってことは伝わってきたよ。でもね、僕はソフィー自身のことがもっと知りたいな」
自分から告げておきながらこの話しを気味悪がられることはあっても、信じてもらえるとは思ってもみなかった。
驚くソフィーに彼はふっと目を細めてクッキーを一枚摘んで、ソフィーの唇へ運ぶ。
「だって、ソフィーが言うことだもん。信じるよ」
口当たりの良いクッキーを噛んでソフィーは彼の言葉を飲み込んだ。
甘くて優しい味に全身に張り巡らせていた緊張感が解けていく。
「ありがとうございます……」
誰かに信じてもらえることがこんなに嬉しいことだったなんて、ソフィーは知らなかった。
シンデレラのことで願うことはあっても、信じるとはまた異なる感情だった。誰かを信じることも、信じられることも無縁の生活だったのだと改めて思う。
エルバートは紅茶を飲みながらおどけるように続けた。
「それに、知ってる? 地上には沢山の国があって、その中には悪い魔女からもらった毒リンゴを食べて仮死状態になる人や、陸の王子に恋をして声を失う人魚もいるんだよ。どれも運命の相手に出会うためだから、それには絶対抗えなくて何度でもそうなるんだ。まるでそんなシナリオがあるみたいにね」
さすが、地上の国々を見下ろしている神のような存在なだけはある。彼らが関与しているのはソフィーの住むベテン王国だけのようだが、他国についても内情等は知っているようだった。
ソフィーの知らない国ではそんなおとぎ話のようなことが起こっていると言われても、作り話だとは思えない。
「何度もだなんて……残酷ですね」
ソフィー自身、たった一度、脇役の立場でさえ二度目があるなんて想像するだけでやりきれないのに、運命の人に出会うためだからと何度も仮死状態になったり、声を失うだなんて耐えられそうにない。
きっと、シンデレラのように主役側の人物だろう。
シンデレラがそうでなくてよかったと、思ってしまう自分はきっと冷酷だ。
「残酷だよね……でも、だからこそ僕はソフィーに出会えたんだから感謝してるよ」
「……私もそう思います」
エルバートに出会わなければシンデレラはあの舞踏会に参加することは叶わなかった。
その件に関して、ソフィーはエルバートに出会えたことを心から感謝している。
嬉しいなぁ、とソフィーの手を握るエルバートがその顔を覗き込んだ。
テーブルを間に挟んでいるとはいえ、ティーセットがギリギリ乗る大きさのため彼との距離は近い。
「ソフィー、気づいている?」
なにを、と視線だけで返したソフィーにエルバートは困ったような顔をした。
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