婚前レスの王子に真実の姿をさらけ出す薬を飲ませたら――オオカミだったんですか?

梅乃なごみ

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婚前レスの王子に真実の姿をさらけ出す薬を飲ませたら――オオカミだったんですか?

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憧れのグレッグ様、あなたの本当の気持ちが知りたい。
 夫婦となる前に、それだけは知っておきたいのです。

 長く続いた猫族と犬族の争いの果て、平和条約を結び八十年。
 犬国の第二王子、グレッグの婚約者となった猫族のメアリーは、正式な婚姻の日を控え『満月の閨』の最終日を迎えていた。

 月が満ちる三日前から始まる王子が姫の待つ『満月の間』に通い、一夜を共にする。互いに思いを深め、夫婦としての務めが果たせるかどうかを判断するものだ。
 メアリーとグレッグの間にはその儀式――つまり房事が一度もない。一夜を共に過ごしていることは確かだが、お茶をしながらお喋りをして、一つの寝台に並んで眠って……もう二日を終えてしまった。

 苦手なダンスも、犬族の歴史と厳しいマナーも、狩りも、お裁縫も……メアリーはグレッグの隣にいるために出来ることはなんでもやった。
 でもきっと、全然足りない。グレッグ様の妃に相応しくないまま、時間だけが流れてしまうとメアリーは焦りを感じていた。

 ――でも、どうしよう。このままではまた、私がお話しするだけで終わってしまう。

「もっと、もっと奥まで突いてください……っ」
「そんなにされてはもう……イってしまいます」

 厳格な宮殿の離れ。月明かりが差し込む寝具と湯浴み場が中心の『満月の間』に艶やかな声が響く。
 メアリーは香色のふわふわとした髪の中から覗く猫耳をぺしょんと垂れさせた。
 代わりに長い尻尾がゆらゆらと揺れる。

「メアリー。ぼうっとしていないで復唱して」
「は、はいっ。失礼致しました王太子妃殿下」
「今は二人きりよ。昔みたいにお姉様と呼んでちょうだい」
「はい! ブルーお姉様」

 メアリーは焦り顔からぱっと花が咲くような笑顔にコロコロ表情を変えた。
 王太子妃であり、メアリーの姉であるブルーは手元の紙にまた視線を戻す。

「さあ、先程私が言った台詞を復唱してみて」
「はいっ! えっと……もっと奥まで突いてください! ……この奥ってどこなのですか?」
「大丈夫よ。グレッグ様なら分かるはずだわ。はい、続けて」
「あ、えっと……そんなにされてはイってしまいます! ……これはどこに行くのですか?」
「それもグレッグ様なら分かるはずよ」

 なるほど……とメアリーは深く頷いた。
 王太子妃であるブルーがわざわざメアリーのために伝授してくれているのは今、大きな悩みである房事の秘技だ。

 メアリーがこの国の第二王子である、グレッグ王子の婚約者となり、ついに正式な婚姻の日も間近。
 送り出してくれたお母様は『王子のお心のままに従いなさい』と仰っていたが、ブルーが今の自分と同じ時期にはもう既に第一王子とまるで恋人同士のような雰囲気を放っていて『麗しい』と賞賛されていた。

 愛馬に相乗りした話も聞いた。メアリーもグレッグと相乗りしたことはあるけれど、まるで兄と妹のような雰囲気で他のお姉様たちからは『まるで兄妹のよう』と揶揄われグレッグに恥をかかせてしまった。
 確かに、十七歳のメアリーより五歳年上のグレッグは体格差も相まって夫婦のように見えづらいのかも知れないが婚約者同士に相応しい言葉ではない。
 グレッグ王子との距離がなかなか縮まらずメアリーは不安は募る。
 
 ――麗しくない私はグレッグ様の妻に相応しくない、のでしょうか。

 メアリーの晴天色の瞳にじわっと涙が膜を張る。
 もし自分にもブルーと同じようにロシアンブルーの血を引く思慮深い気品と、細長い手足があったら。せめてペルシャのお父様のように圧倒的な威厳があれば。
 メアリーはマンチカンの母の血を濃く引くミヌエットだ。
 それもミヌエットにしてはかなり小柄で、まるでずっと子猫のようだった。大好きな母似の外見は嬉しいが、知的さとも威厳ともかけ離れた外見は今はちょっと複雑だった。
 
「私はブルーお姉様と違って長い手足も艶のある毛並みもありません……婚約者ではなく妹のようで……こんな私がグレッグ様の妻として務まるでしょうか……もしかして、グレッグ様もそれを危惧して……」

 ブルーの細い手がメアリーの頬を包む。
 
「メアリー。貴女は私にないものを沢山持っているわ。他の姉妹たちはグレッグ様に憧れていたから貴女に嫉妬していただけよ」
「そう……でしょうか」
「そうよ。それに沢山練習したじゃない。大丈夫よ。あの言葉の数々を教えてくれた殿下は、いつも大変お喜びになるもの」
 
 ブルーの言葉にメアリーは涙と弱音を飲み込んだ。弱気になってもグレッグとの距離は縮まらない。

「それから……メアリーにこれを」

 ブルーはメアリーに液体の入った小瓶を渡す。
 メアリーは小瓶を指でつまみ、それを覗き込む。

「これは……? なにかのお薬ですか?」
「ええ。これは『真の姿をさらけだす薬』よ」
「真の姿……!? で、でも、ただでさえ落ち着きのない私がこんなものを飲んでしまったらきっと一晩中お喋りしながら夜鳥を追いかけ回してしまいます……!!」
「違うわ。貴女が飲むのではなくて、グレッグ様に飲ませるのよ。無味無臭で効果は長くて数時間……毒ではないし、もちろん後遺症もないわ」
「グレッグ様に……」

 確かに、グレッグ様の気持ちを知りたい。そのためには真の姿も見せてもらいたい。でも――。

「今日お姉様とたくさん練習しましたから、まずはそれを活かして頑張りたいです」

 薬で無理矢理暴くようなやり方は抵抗があった。まずは自分の力でやれることをやってみたい。

「そう。無理強いはしないわ。……でも、念の為持っていて。成功を祈ってるわ、メアリー」
「ありがとうございます。ブルーお姉様」

 メアリーは背伸びをして、ブルーの鼻先に自分の小さな鼻をくっつけた。姉妹は互いに喉を鳴らして軽く頬を擦り合わせる。
 今夜がグレッグ様の本音を知るラストチャンス。
 頑張るぞ、とメアリーはひとり強く意気込んだ。

 ブルーが退出した後、メアリーは規則通り身を清められ薄絹の夜着を纏い寝台の上で婚約者を待つ。

「メアリー、俺だ。入るよ」
「グレッグ様!」

 メアリーは待ちに待った婚約者の登場に喜びが隠せずトンッと床を跳ねてグレッグに駆け寄る。
 と、同時に夜着の腰紐が解け合わせていた胸元が大きくはだけてしまう。

「きゃっ、わっ!」

 着付けが緩かったのだろうか。メアリーは慌てて前を隠し、その場にしゃがみ込む。

「……着付けをしっかりするよう侍女に伝えておこう……とはいえ、今日で最後だが」

 抑揚のない声。真っ赤になるメアリーと異なり、見上げたグレッグの表情はいつも通り眉間に皺を寄せて、美しい毛並みの耳と尻尾同様、銀色の前髪を後方へ流した。
 今日で最後でも、私の肌をみても、眉ひとつ動かしてはくださらない。……意識しているのは私だけなんだ。

「グレッグ様、お疲れには甘いものがいいらしいです。一緒に頂こうと思って、旬の果物を用意してもらいました」

 夜着の紐をきつく結び直し、メアリーは寝台横のサイドテーブルに置かれた果物を指してグレッグに座るよう促した。

「――そうか。それで、昨日言っていた本は読めたか?」
「はいっ、ですが……途中で窓の外に蝶を見つけてしまって……そのまま追いかけっこをしてしまいました」
「ふっ、メアリーらしいな」

 寝台に並んで座り、果物をつまみながら今日あったことの話をする。

「君といると癒やされる。コロコロ表情が変わるところも面白い」

 メアリーの頬にグレッグの手が触れる。ブルーに触れられた時とは全然違う。大きくて、ごつごつしていて、熱い。触れられたところに熱が集まってくるのがわかった。

「猫族として、もっと淑やかにするべきなのですが……気づくとこう」
「猫も犬も、そんなに大きな括りでは皆違うだろう。俺も犬族としてもっと朗らかで親しみやすくあるべきだか……」
「グレッグ様はグレッグ様です! 犬族の王子として立派な思慮深さをお持ちです!」

 食い気味の否定にくつくつと喉で笑ったグレッグはメアリーの頭を撫でる。

「メアリー、君は優しいな。その王子が言っているんだ、君はもっと自信を持っていい」

 目元以外の表情は相変わらず変わらない。けれど、黄金色の瞳が細められ、メアリーの心臓は早鐘を打った。
 グレッグに向けたメアリーの言葉はそのまま自分に返ってきたのだ。

「グレッグ様!」
「どうした?」
「もっと奥まで突いてください!」
「……なんの話だ?」
「え? えっと……その! あっ! そんなにされてはイってしまいます!」
「……ん? ……いや。違うな。どこへ行きたいんだ? 散歩でもするか?」

 グレッグは二言目に一瞬悩んだものの、まさかと言わんばかりに目元に手を当てて小さく唸ると、また優しい目に戻る。
 グレッグ様と夜のお散歩なんて楽しそう……じゃなくて、正解がどうなるのかはメアリーには分からなかったが、伝わっていないことだけは理解出来た。
 房事についてブルーに教わったのだ。でも始まる気配すらない。

「グレッグ様は……私をどうお思いですか」

 意を決して口にした。品も情緒もないがはっきりした言葉が欲しかった。
 一瞬目を見張ったグレッグが少し悩んで口を開く。

「大切に思っている。こんな場所には似合わないほどに」

 メアリーの胸の奥に鋭い針で刺されるような痛みが走る。
『こんな場所』である『満月の間』は王族との結婚前に婚約者として互いを知ることができる最初で最後の場所だ。つまり正式な婚姻前の最後の門だ。

『グレッグ様とメアリーはまるで兄妹のようね』
 何番目かの姉が言っていた言葉が過る。

 ――グレッグ様にとって私は妹のような存在なんですね。
  グレッグの真剣な表情と優しげな瞳が余計にメアリーを絶望に追い込んでいく。

「果実ばかりで喉が乾いちゃいました。今お茶を煎れますね」

 メアリーはグレッグに背を向けあらかじめ用意されていたお茶を煎れる。本来は房事のあとに喉を潤すものらしいけど……きっと兄妹のような私たちには必要ない。
 メアリーは隠し持っていた小瓶を取り出す。先程ブルーから貰った『真の姿をさらけだす薬』だ。
 それを一滴、二滴……小瓶のなか全てを茶器に注ぐ。

 私はグレッグ様が好き。それは恋い焦がれている意味で。
 口付けも額や頬ではなくて唇にしたい。もっと深くまで触れあいたい。でもそれは私の独りよがり。到底、妃として、妻としての役割など果たせない。なら、グレッグ様の本当の姿でハッキリとこの先がないことを――婚約破棄を告げて欲しい。

 メアリーは薬の入った茶をグレッグに差し出した。スンッと鼻を反応させたグレッグが訝る。

「……メアリー、これは?」

 無味無臭で無害だと聞いている。無色で普段飲んでいるお茶と見た目からは分からない。ばれるわけがないとメアリーは焦りそうになるのを必死に堪える。

「お茶です! 普段と何ら変わりません!」
「そうか。ありがとう」
 一瞬、グレッグが困ったように笑った気がしたが、受け取った茶を一気に飲み込む。
「え!? グレッグ様っ、そんな一気に飲まれては火傷を……!」
「――そんなことより、君は自分の心配をした方がいいよ」
「――え?」

 視界がぐるりと反転した。視界はグレッグの顔で埋まる。寝台に押し倒されたのだと、ようやく気がついた。

「グ、グレッグ様……ッ」

 これが薬の効果なのだろうか。グレッグの熱い息がメアリーの首筋に掛かる。

「メアリー……」

 名前を呼ばれぎゅっと目を瞑った。なんだか、なにかが始まりそうな雰囲気に身構えた。
 けれど身を固くしていてもなにも起こらない。

 ……グルルッ

 グレッグの声ではなく獣の声が降ってきて、メアリーは恐る恐る目を開けた。

「グ、グレッグ様……?」

 黒い鼻。大きな口から覗く鋭い牙。降り積もった雪のように大きな躰。もふもふの尻尾と耳、黄金色の瞳はそのままに、完全に獣化している。
 足元に丸まった衣服がその証拠だ。

「真実の姿ってこのことだったんですね!?」

 メアリーも含め、普段完全な獣化はめったに他人が見られるものではない。大抵が生まれた瞬間から耳と尻尾以外は人の形をしている。病気などでかなり衰弱したとき、もしくは激しい争いなどで酷く興奮状態になったときにごく稀に獣化するケースを除けば家族でさえ目にすることがない姿だ。

 グレッグが大きな舌でベロッとメアリーの頬を舐めて、じゃれつく。

「わあっ! ふふっ」

 大きく尻尾を振り、上機嫌にメアリーに頭を擦り付けたり、腹をみせて触るよう促してくる。
 本当にあのグレッグなのかと疑いたくなるくらい甘えん坊で、かわいい。

「でもこのお姿……犬族というより……もっと……」

 グレッグの姿は犬族より噂でしか聞いたことの無いオオカミ族に似ていた。毛並みも、牙や爪の鋭さも犬族とは少し違う気がする。

「なんて、失礼ですよね! えいっ!」

 メアリーもグレッグの真っ白な毛並みに顔を埋めて、大きく吸い込んだ。相乗りしたときに掴まったグレッグの香りが胸いっぱいに広がる。間違いなくグレッグだ。私の、大好きな方。

「最後にこんな特別なグレッグ様がみられたんですもの……これを胸に生きていけます」

 ――そう。たとえ明日婚約破棄になって、いつかグレッグ様が新しい妻を娶ることになっても。

「……っ、ふえ……わああんっ! いやですっ、私が、グレッグ様とキスしたり、触れたりしたいのに……ッ、グレッグ様のお側に、いたい……っ」

 自分で考えておきながら、想像しただけで涙がでてきて止まらない。妄想なのかそれともこれから真実になるのか。もう頭の中がぐちゃぐちゃだ。

 グルルッ

 メアリーの涙に濡れたグレッグがそれを舌先でぺろぺろと拭う。申し訳ないと思いつつメアリーはグレッグにしがみ付いた。いつのまにかまたグレッグに押し倒されている体制になる。
 鋭い爪がでないように気遣ってくれているのだろう。時折触れる肉球が冷たくて気持ちいい。
 グレッグの前足に引っかかって、夜着の紐が解ける。

「グレッグ様……っ、紐が」

 締め直したいがグレッグに乗られており叶わない。それどころかグレッグは赤い舌でメアリーの頬や首筋を丁寧にくすぐるように舐める。メアリーの背にぞくぞくとなにかが這い上がってきた。

「っ、……んんっ」

 くすぐったいのに、なぜかほんの少し気持ちがいい。不思議な感覚に脳がふやけそうになる。
 いつのまにか涙は止まっていた。グレッグの舌が鎖骨から肩へ、そして胸元に降りていく。
 メアリーは恥ずかしくて、でも拒否をしようとは思わなかった。ぎゅっと目を瞑り、尻尾をぴんっと張って、グレッグの毛並みに掴まって受け入れようとした。そのとき。

「メアリー」

 名前を呼ばれた。
 触れていた毛が、熱をもつ。毛と言うより、皮膚だ。
 そろりと瞼をあける。目の前にいたのは獣化の解けたグレッグだった。しかも裸だ。満月の明るさがはっきり映し出した姿に、メアリーは慌てて目を手で覆った。
 
「グレッグ様……! もう元のお姿に……っ」

  飛び起きようとしてできなかった。語尾がグレッグの唇に飲み込まれる。口付けされている。突然のことに理解が追いつかないメアリーを他所に、グレッグの親指がメアリーの顎を開くよう促し、熱い舌を侵入させる。

「んむっ、んっ、んんッー……!」

 舌はゆっくり歯列をなぞり、メアリーの小さな舌を絡めとる。ちゅうっと卑猥な音を立てて吸い上げては上顎を舌先でくすぐった。口内を食べられているような感覚にメアリーの目に生理的な涙が浮かぶ。

「ふっぁ、……グレッグ、さ、ま……ひゃっん!」

 ようやく唇が解放され、肩で息をするメアリーにグレッグは休む暇を与えない。
 グレッグの大きな手がメアリーのはだけた夜着のなかに侵入して、肌の上をゆっくりと滑らせる。
 メアリーの薄い腹が露わになる。それだけでもぞくぞくするのに、這い上がったその手は形のいい胸を下から押し上げるように揉みあげた。

「俺に薬を盛るなんて、悪い子だ」

 ばれていたのだ。グレッグは薬入りのお茶を飲む前に訝っていた。まさか、気づいていながら飲んだというのだろうか。

「あッ、んんっ……やっ、どうし、て……ふぁ」

「毒や薬には慣れているからね……それに、有害なものでないのは分かったから」
「ご、ごめんなさっ、ひゃッああっ!」

 メアリーの胸の先端にグレッグは唇を寄せ、べろりと舐めた。肉厚な舌が包み込むと、そのまま小刻みに吸い上げられる。もう片方は相変わらず大きな手の中でぐにぐにと卑猥に形を変えていて、異なる刺激にメアリーの腰が無意識に浮く。

「おねだりか?……上手だね」

 夜着はもう両腕にはまとわりついているだけで、なんの意味をなしていない。グレッグは顕わになった華奢な脚の付け根に手を這わし、濡れた中心を軽く擦るように触れる。

「んあっ!」

 びりっと鋭い刺激がメアリーを襲う。その反応にグレッグは口元を緩めた。

「しっかり解さないと辛いからね」

 グレッグはメアリーの両脚の間に身体を差し込み、大きく脚を開かせ腰を浮かせた。狩りで捕食する前のようにグレッグが小さく舌舐めずりをする。何もかもが丸見えだ。あまりの羞恥心にメアリーが腰を揺らして抵抗する。

「グレッグ様、恥ずかしいですっ、こんなっ、ひゃあああっ!」

 メアリーの抵抗なんてもろともせず、グレッグは濡れた中心に顔を埋めた。舌全体で押されたかと思えば、腟内に押し入ってくる。
 じゅるっ、じゅっ、じゅううっ!

「あ――ッ、やっ、んんあっ! アッアッ、んやっ! ……あっあっ、ふにゃッ!!」

 羞恥と快感に押し潰されるメアリーの声がある一点で一層高くなる。グレッグの鼻先が腟の上にある小さな粒に触れたのだ。グレッグがそれを見逃すわけが無い。

「メアリーはここもおねだりが上手だね」

 グレッグの恍惚とした視線と熱い息がかかるだけで粒は震える。親指で周辺をさらに押し広げると、被っていた皮を脱いで、粒が外気に晒される。メアリーは本能的に腰を引いて逃げようとしたがそれがグレッグを更に煽り、容赦なくそこに吸いつかせた。
 ぢゅううッ、ぢゅるるっ、ぢゅう、にゅぽっ

「ぁッアアア――ッ! アッアッ、ぁ……あ……んんっ! うニャァ――……」

 メアリーは首を反らして喘ぐ。自分の声とは思えないそれが喉を嗄れさせていく。黙ろうにも口を閉じる余裕もない。膣内に舌より硬く長いものが挿入され、にちにちと抽挿している。指だ。

「可愛い……もうナカも痛くないみたいだね、えらいね」
「そこで喋っちゃッ、んンンンっ! にゃアァッ」

 吸い上げた粒を食みながら喋るもだからそれさえも鋭い刺激になる。脳が痺れる。何かが這い上がってきて飲み込まれそうだ。こわい。メアリーのつま先に力が入り、浮いた膝がガクガクと震えた。

「グレッグさまっ、こわいっ、なにかきちゃ……ッ!」
「いいよ。そのままイってごらん」

 グレッグが腟内の指を深く沈め奥をトントンとノックしながら舌で転がしていた粒に甘く歯を立てる。

「アッアッぁッ――ンにゃッ――……ッ!!」

 メアリーは身体を大きく跳ね上がらせ、グレッグの腕のなかで小刻みに震える。グレッグはそんなメアリーの頬に愛しげに口付ける。

「良く頑張ったね。上手にイケてえらいよ」
「グ……レッグさま……」

 メアリーはふわふわした頭で思う。この大きな波に襲われるような感覚が『イク』というのか。ブルーが教えてくれたのはこのことだったんだと。不思議で、未体験の感覚がメアリーを一気に襲う。
 この優しさだって、確かに普段のグレッグからも感じていたが突然こんなふうに触れ合うなんて。
頬以外への口付けだって初めてだった。あんなに深く……まさかこれも薬の効果なのではないか。

「メアリー、力を抜いて」

 ギシッと寝台が軋む。先程までグレッグの舌が触れていた場所に質量のある熱いものが宛てがわれている。
 メアリーは今更、これが房事なのだと気がつく。これが上手くいけば、正式な儀式を経て晴れてグレッグとの婚姻を結ぶことが出来る。……でも。

「グレッグさまっ、お待ちください……お待ちくださ……ッ」

 薬を使って結ばれることがこんなに悲しく、虚しい。
 真の姿をさらけだす効果は獣化だった。これは別の効果が発動しているだけなのかもしれない。惚れ薬のようなものだったらそれほど辛いものはなかった。

「自分勝手でごめんなさい……っ、私、お茶に真の姿をさらけだす薬を混ぜました。それでグレッグ様の獣化を……だからグレッグ様が今触れてくださるのは薬の効果で……」

 目元を腕で覆い隠してぼろぼろ泣く。懺悔と涙が溢れて止まらない。ほんの一瞬、沈黙が流れた。
 メアリーの腕に柔らかなものが落とされる。今日何度もキスをしたメアリーはそれがグレッグの口付けだとすぐにわかった。顔を隠す腕をゆっくり剥がされて、両手が絡め取られ、寝台に縫い付けられる。

「こんなところで君に触れるつもりはなかったんだ」
「ッ、だから薬のせいなのです、グレッグ様は夫婦になるためのこの部屋で私に触れるおつもりなんてなかったのに……っ」
「ああ。なかった。王族の伝統と儀式のためではなくただの夫婦として君に触れたかった。だからこの三日間は耐えると決めていた……それが君を泣かせるほど傷付けたんだな。……本当にすまなかった」
「――え?」
「ああでも、もう無理そうだな。薬の効果か、君への愛しさが溢れて仕方ない……我慢の限界だ」
「えっ、――ッ!」

 ぐいっと膝を曲げられて、メアリーのなかにグレッグが押し入る。小さく狭いメアリーの窄みは熱い槍を何とか受け入れようと蜜を増す。それがグレッグを更に奥まで誘導した、

「痛む、よな。早く済ませるから」

 グレッグは浅い場所で微かに腰を揺らし始める。
 メアリーは首を横に振った。確かに圧迫感はあるものの、不思議と激しい痛みはなかった。それよりも繋がれたことへの嬉しさと膣壁を擦られる度ぞくぞくと刺激が腰に走る。

「んっんんぅ、……グレッグ、さまっ、気持ちよくて、嬉しい、です」

 気遣うグレッグに向けたメアリーの本音だった。長い尻尾で懸命にグレッグに甘える。グレッグの動きが一瞬止まって、メアリーの腰を掴んだ。
 グレッグの中でなにかが外れたようだった。
 浅い所で抽挿していた槍が一気に再奥まで突き立てられる。

「――~~ッ!!」

 メアリーの声にならない悲鳴が響く。入り口のあたりで浅く動かされていた大きな熱が身体の中にずっぽりと埋まっているのだ。でも不思議と痛くはない。それどころか最奥に当たった瞬間、目の前が真っ白になった。
 グレッグがメアリーの様子を窺い問題ないと判断したのだろう。先程よりもずっと激しく抽挿を再開した。部屋の唯一の灯りである月光が艶めかしくメアリーの肌を照らして、グレッグをさらに煽る。

「あっ、ぁ、あアッ!」
「痛みは……なさそうだね」
「あっ、あぁ! ぃ、あ、グ、レッグさっ、ま、またっ、なんかちゃっ、ンンッ! またイッちゃっ」

 目の前のチカチカが大きくなる。グレッグの舌で弄られていたときよりも大きな刺激が内側から湧いてきて今にも弾けてしまいそうだ。水が満タンに入ったグラスを揺らされる感覚にメアリーの腰が高く浮く。自然と更に奥にグレッグを誘い込んで最奥を押し上げられた。

「あ、ッ~~~~!」

 メアリーの身体が激しく痙攣する。甘く押し寄せる波に上手く息が出来ない。
 グレッグは息を荒くして、メアリーの首にガブッと歯を立てた。

「……いッ……あぁっ、ふう」

 突然噛み付かれ驚いたものの痛くはない。じんじんと熱を持つそこはメアリーの身体を敏感に震わせる。グレッグはそこを指で撫で、たまらないというような表情を浮かべた。

「……こんなに愛しくて壊してしまわないか不安になる」
「んぅっ、んん……ッ」

 啄むような口づけが落とされて、メアリーは余韻が続く身体をすり寄せ懸命にこたえる。
 膣内がきゅうきゅう絞るように締まって、グレッグを離したくないと主張する。少しだけまたメアリーのなかで質量を増したのが分かってメアリーはびくりと震えた。

「ぁ、あ……まって、」
「ッ、待てない」
「ぁ、あアッ、あっ、きもちぃ、ぐれっぐさまッ、っ、ぁっ、きもちいい、またイクッ、ぃ、あっ、ああ――」
「もうトロトロだ。気持ちいいね」

 グレッグの表情から余裕がどんどんなくなっていく。
 痺れる余韻の最中に刺激されて、どちゅどちゅと響く音が卑猥で。もう頭の中はぐちゃぐちゃだ。
 きもちいい。そのことだけで頭がいっぱいになる。何度も何度も、奥を突かれる度にイっていて震える膝にもう力が入らない。ずっと浮いたところから戻ってこられない感覚がこわくなって、絡められた指に力を込めた。

「……ッ」

 ばちゅばちゅと腰を打つ音が大きくなって、ぐんっと押し上げられて膣内でグレッグが激しく脈打った。思わず溢れてしまったと言わんばかりの微かなグレッグの声がメアリーの胸をきつく締め上げる。雄々しいのに、かわいくて、いとしい。奥の方に熱い何かが注がれていく感覚に、メアリーはゆっくり意識を手放した。

    ◇◇

「昨晩は本当にすまなかった」

 朝日のまぶしさに目を覚ますと脱ぎ捨てたはずの夜着をきちんと着せられていて、グレッグが心底申し訳なさそうに頭を下げていた。
 メアリーは慌てて頭を上げるようお願いする。

「そんな……っ、嬉しかったんです、ずっとグレッグ様に触れたいと思っていて……それにあの薬を飲ませたのは私です……!」

 自分で言っていてかあっと赤くなるメアリーをグレッグはおずおずと抱き寄せた。

「儀式のために触れるつもりはないと決心していたが……そんな上品ではなかったな。まるで獣のように君を求めてしまった」

 グレッグの言葉に昨晩のことを思い出してメアリーの羞恥心は限界を寸前だ。ふるふると首を振って話題を変えようとする。

「獣といえば、グレッグ様の獣化をはじめてみました。まるで神話に出てくるオオカミのようで凜々しくて素敵でしたっ」

 嘘ではないが本当は無邪気に甘えてくる姿が意外で可愛かった。けれどそれは言わないでおこう。
 グレッグは一瞬目を見張って、照れるように目尻を赤くした。そして安心したように微笑む。

「よかった。神話に出てくるような神秘さはないが俺はオオカミの血が濃いから……怖がらせていないかと心配していたんだ」
「グレッグ様はオオカミ族だったのですか!?」
「ああ。父は兄と同じハスキーだが、俺の亡き母はオオカミ族でね。あまり公式にされていないから知らない者も多いだろうが」

 お母様が亡くなったことは聞いていたがオオカミ族だとは知らなかった。普段見えている耳や尻尾は確かにハスキーよりもふわふわしているけれど、まさかあのオオカミだなんて。

「素敵ですっ! グレッグ様のこともっと知りたいです! ……あっ! ちなみに私はミヌエットで母はマンチカンです! もっと大きくなれると思っていたのですがこれ以上は難しそうで……」

 ぱあっと笑ったメアリーはグレッグのことを知りたいと、まずは自分のことを話した。
 両親のこと、好きな食べ物のこと、庭に咲く花が綺麗なこと、それからグレッグ様によく似た初恋のオオカミのこと。
 最後はちょっと期待を込めた。もしかしたら、ずっとそうだといいと思っていたことが現実になるかも知れないから。
 グレッグは幼げにくしゃっと笑う。なぜか全部知られている気がしたけれど、知って欲しいからメアリーは何度でも言葉にしようと思う。

「俺たちは夫婦になるというのに知らないことが沢山あるね。結婚式の日まであと僅かだが……俺も、もっと君のことが知りたい。俺のことも知って欲しい」

 グレッグがメアリーの頬に口付ける。唇が離れると、メアリーもグレッグの頬にお返しした。

「愛しているよメアリー。ずっと前から君だけが欲しかった」

 黄金の瞳が優しくメアリーを見つめる。私もです! と元気よくこたえた婚約者にグレッグは肩を揺らして幸せそうに笑った。


 (了)
 
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