皇帝の寵愛

たろう

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※ぎりぎりR15の範疇にはいっている、はずです。こういうシーンは壁に頭を打ち付けたくなります。

 ずいぶん前から自分の体に違和感があることには気づいていた。
 一度気付くと、それ以前がどうだったのか、もう思い出すことができない。
 前からそうだったのだろうか。
 主上に触られると、最近はくすぐったさよりも、気持ち良いような、何か変な感じがする。

 いや、それは今更だ。以前も時々反応していた。主上と同じことだし、授業でも習った。男なら普通のことだと。
 ただ、今までは考えないようにしてきた。主上に触られて、時々反応してしまうことを。それに、別のことを考えていればすぐに収まった。ごまかしたいと思った。
 僕は変になったのだろうか。

 変な感じがすると思うと、反応してしまうので、あまり最近は触って欲しくない。必死に別のことを考える癖がついた。
 でも、なぜ今になってこんなに恥ずかしいのだろう。
 主上に触れられると困る。反応してしまう。いや、別に触られたくないわけではない。でも。
 初雪が降ったあたりからだろうか。僕は自分の気持ちがよくわからなくなっていた。
 
 けれど最近は、主上は年末から年の初めの儀式や種々の行事、臣下との会合や夜会などで忙しくされていて、ほとんど会うことがなかったから安心していた。
 けれど、そんな中で、僕の体は本人の知らぬ間に成長していたらしかった。
 僕はどうしたらいいのだろう。
 真っ先に浮かんだ言葉はそれだった。
 いや、最近は主上の御渡りがないから知らないはずだ。
 気づかれたくない。恥ずかしい。
 顔は見たい気がする。色々話もしたい。けど、知られるのは困る。
 大人になる嬉しさよりも気恥ずかしさのほうが勝るなんて思ってもみなかった。

 大人になりたいと思う気持ちは変わらない。けれど、このまま体だけ大人になってしまっていいのだろうか。
 まだしばらく先のことではあるだろうけれど、その時がきたら、僕はそういうことを主上としなくてはならないのだろうか。
 上手く想像できない。
 自分に求められていることだというのは分かっている。そのために僕はここにいるのだから。
 けれど。
 このあいまいな気持ちのまま主上を受け入れることはできるだろうか。
 わからない。
 もう少し時間が欲しいと思うのは、逃避だろうか……。


 月階の節会の夜から、引き続き主上は忙しくて、一月近く僕の部屋には来てない。朝はいつも通り顔を合わせている。
 僕はあの宴の経験から、楽器や詩作により力を入れるようになった。同じような事態は避けなければならない。主上にも迷惑はかけられないのだ。もっとしっかりしないといけない。
 そうして勉強に勤しみ、主上との時間が少ないまま過ごしている間に、自分の体の変化は日増しに顕著になっていった。
 少し前までは願っても変化など起こらなかったのに。
 もう隠しようが無い。じっくり観察していなくても気づかれてしまうだろう。
 主上には自分から申し上げたほうがいいのだろうか。でも、知られるのが気恥しい。


 また少し背が伸びて、髪も伸びた気がする。
 けれど、まだ主上にはおいつかない。僕はどこまで大きくなるだろう。
 雲嵐も背が伸びてきているけれど、僕ほどではない。僕はもう標準的な大人の男の人と同じくらいまでになった。侠舜ももうすぐ追い越すと思う。


 違和感を感じて目が覚めた。
 夢の世界から瞬時に覚醒する。
 自らを確認して、すぐにその時がきたのだとわかった。
 どうしよう。雲嵐がもうすぐ来る。
 寝台の上で僕は身じろぎもせずにいた。
 少しして、いつもの時間になっても僕が一向に起き出さないことを怪しんだのだろう、控えめに寝室の扉が叩かれた。
 僕はまだ心が決められなくて、答えられなかった。
 また少しして再度扉が叩かれる。さきほどより少し大きい。
 僕は返事をして雲嵐を迎え入れる。
「ごめん、雲嵐。忙しいところ申し訳ないのだけれど、侠舜を呼んできてもらえるかな。忙しいようだったらいいんだけど。」
 雲嵐の挨拶もそこそこに僕は声を掛ける。すぐに返事が返ってきて雲嵐が部屋を出ていった。しばらくしてから侠舜がやってきて僕の顔を覗き込む。体調を心配しているようだ。
 僕は顔をうつむける。こういう時どんな顔をしたらいいのかわからない。
「お願いがあるのですが。」
「どうされました?」
「朝から申し訳ないのだけれど、湯浴みがしたいので準備をお願いしてもいいですか?」
 怪訝な顔をされた。
「畏まりました。少しお待ちください。」
 そういって部屋から出ていく。
 部屋に誰もいなくなると自然ため息がこぼれた。どうしようか。望んでいたことのはずなのに嬉しくない。
 そのまま物思いに沈んでいると、侠舜から声がかけられた。思ったよりも長い時間こうしていたようだ。戻ってくるのが早く感じる。
 雲嵐ではなく侠舜が湯殿までついてくる。
 一人で大丈夫だというと、後は私が処理しておきます、と返された。何も言わなくてもわかってしまったらしい。恥ずかしい。
 浴室に入る直前におめでとうございますと言われた。居たたまれない。

 しばらくの間は、主上の御渡りもなく、穏やかな日常が過ぎていった。そうなると、僕は日々の勉強に追われて考えたくないことを後回しにできた。ただ、ときどきふとしたときに不安が心に影を落とすことはあったが。
 けれど、そんな日々はやはり長続きはしないのだ。記憶にある限り初めて主上から先触れがあり、僕はその日の午後を落ち着きなく過ごした。夜主上が僕の部屋にやってきた。
 軽く会話をし、寝室に誘われる。僕はうまく返事ができただろうか。
 主上が僕を優しく寝台の上に倒す。いつもとは違う。
 いつもは他愛もないおしゃべりをしながら僕を脱がせるのに。
 鼓動が早まったのは、期待か不安かわからない。
 優しく頭を支えられて、唇が重なった。
 舌が入り込んでくる。久しくこうされたことはなかった。
 舌の先から心地よさが広がってくる。まずい。
 息が合わされた唇の隙間から漏れる。意図しない声が。これは自分の声だろうか。
 下肢の間で反応するのがわかる。恥ずかしい。
 指が。
 主上のそれが自分のと重なる。主上も反応している。そう思うと、恥ずかしくはなくなる。
 けれど、これでいいのだろうかと思う自分がいる。
 もともとこのためにここにいるのだから、これでいいのだと思う自分がいる。
 どうしたらいいのだろう。このまま任せていれば終わるだろうか。
 主上の手が僕の夜着を脱がせる。露わになった肌が寒さに粟立つ。
 名前を呼ばれる。
 恥ずかしくて、目が開けられない。指の動きが気になる。
 指が僕の体をなぞるほどに不安が大きくなる。
 自分の声がうるさい。主上の息遣いがいやに大きく聞こえる。
 口づけが幾度か角度を変えて繰り返され、深いものになった。
 気持ち良い。けれど、自分がひどく頼りないような気がする。ただ抗うこともできずに流されているような。独りぼっちの子供のような不安が、少しずつ僕の胸に満ちてくる。
 どうしよう。
 もう一度名前が呼ばれたけれど、答えられずに目をとじたままでいると、不意に強い視線を感じた。
 ひどく優しく名を呼ばれて目を開くと、おどろくほど真剣な顔があった。僕の目をじっと見ている。
 主上の手が止まる。
 どうしたのだろう。上手く考えられない。僕はぼんやりと焦点の合わない目で主上を見上げるだけだった。

 そうして。
「今日はもう寝よう。」
 予想もしていなかった言葉が聞こえた。
 え、と僕の口から意図しない声が漏れる。うまく理解できなかった。
 しばらく呆けた後で、僕は何か粗相をしてしまっただろうかと慌てる。何と言うべきなのだろう。
 不安げな顔に気付いて、主上がふっと表情を緩めた。
「まだ早かったようだ。つい先走ってしまった。」
「そんなことはありません。」
 僕は小さく頭を振る。
「僕はもう大人になりました。ただ、ちょっと久しぶりだったというか、きちんとお相手をするのは初めてだったので、どうしたらいいのかと……。」
「怯えるお前を抱くつもりはない。」
「怯えているわけではない、です。それに、僕はそれが仕事で、主上はそうしたいって。」
 泣きたい気がしたけれど、僕はぐっとこらえる。もう子供ではないのだから。
「子供を抱くことはできない。いいから、今夜はもう寝よう。すまなかったな。怖かっただろう。」
 そう言って僕を抱き込んだ。
 この時の僕の気持ちはどう言えばいいのか自分でもわからなかった。ひどく傷ついたような、安堵したような。
 困惑しきりの僕を抱きしめながら主上が言う。
「お前は気にしなくていい。お前のせいではないのだ。」
「でも。でも僕は、あなたのお役には立てていないのに、その、主上を、ええと、お慰めする仕事もできないのは、やはり良くないのではないかと。」
「私がお前に期待しているのは、そんなことではない。お前に非があるわけでもない。焦らずゆっくりで良い。」
 そう言って主上は本当に何もしなかった。
 その夜、僕はなかなか寝付けなかった。ずっと太腿に主上の熱を感じていたから。

 それから主上は一緒に眠るとき、いたずらに僕に触れることがなくなった。

※展開が遅いと思われるかもしれませんが、ご容赦ください。
※続きはいつになるかわかりませんが(長くて二か月後くらい)、待っていていただけると嬉しいです。
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