皇帝の寵愛

たろう

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18 主上との夜のあれこれ

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「最近肉がついてきたと思ったら、また痩せたな。」
 ぽつりと主上が、僕を抱きしめていった。
 僕は自分の薄くなった胸を見て、今度は運動をいっぱいして筋肉をつけます、と言った。
 ほどほどにな、と主上は笑いながら口づけをくれた。
 授業はもう再開していた。みんな僕の快復を手放しで喜んでくれた。この時ばかりは厳しい先生方もすごく優しく授業をしてくれて、これならもっと頑張れそうと思ったけれど、次からはいつも通りに戻った。
 僕はどうなるのだろう。このままここにいていいのだろうか。
 不安が胸にさざ波のように押し寄せる。
 主上の怪しい手の動きがくすぐったいような、気持ち良いような変な気がした。
 僕はその手を捕まえながら、自分がどうなるのかの答えを知るのが怖いような気がして、上手く言葉を紡げない。下手なことを言って、帰るように言われるのが怖かった。

「そういえば暁明先生に、生まれてくる馬の名付け親になって欲しいと言われました。」
「良かったじゃないか。馬の出産時期は年末から春にかけてだから、もう少しだけ先だな。」
「そうなんですね。僕は……。」
 それまでここにいられるでしょうかと言いそうになって、口を閉ざした。
「名前は今からよく考えておいたほうがいい。馬の一生を左右するからな。」
「……ええ、そうですね。」
「それから、年明けに新年の祝いの宴を行う。お前にはそれに出てもらう。」
「え……。」
「出席するのは私と後宮の女たちが主だった者だ。毎年、家臣たちとの新年会とは別に行われるのだ。私の妻になると後宮からはほとんど出る機会がないから、年に何回か、後宮の外で羽を伸ばしてもらうのだ。私には妻を楽しませる義務がある。」
 今までそんな話を聞かされたことがない。年に何度か行われるということは、僕がここに来てからも行われたはずだ。でも僕は呼ばれなかった。それが今になって声をかけられるとはどういうことだろう。
「なんだ、不満か?だがだめだ。今回の宴は私の妃たちはみな参加が義務付けられている。新年の宴が一番重要だからな。お前とて例外ではない。それに、私の妻たちに対するお前のお披露目も兼ねている。決定事項だ。新しい衣装も仕立てさせる手筈になっている。」
「え……。」
「お前も少しずつ後宮の行事に参加していってもらう。侠舜と話して、宮殿内のことにもそろそろ慣れさせていこうということになった。楽しんでくれ。」
「いや、絶対楽しめないですよ、それ。どんな顔をして参加したらいいんですか。絶対恐ろしい事態になりますよ。」
「かもしれない。だが、しつこくお前を紹介しろと女たちにせっつかれているのだ。後宮ではお前は時の人だからな。」
 そう言って主上はなんとも言えない顔をした。
 僕は絶句した。まさか、そんなことになっているとは思わなかった。主上をたぶらかした卑しい子供と思われているのだろうか。
 血の気が引いていく。
 主上はそんな僕を励ますように抱きしめる。
「大丈夫だ、侠舜や暁明も一緒に参加する。年に何度かある妃たちのための宴は後宮の外でやるのだが、いろいろな趣向を凝らしたものなのだ。なかなか見事なものだ。歌合せや楽器の演奏などもある。しっかり練習しておいてくれ。」
 不安が一気に胸の内に広がった。
「主上は私の授業の様子を聞いているでしょう!詩作も演奏もやっとの状態で、人前で披露できるようなものではないのですよ!」
「私と同じだな。話しただろう?私は芸術事の教師から匙をなげられるほどの生徒だったと。毎年辛かったのだ。来年は仲間ができて私は嬉しい。」
 そういってくつくつと笑う。
 そう言われて、湧き上がった怒りと不安が少しずつ消えていった。

 布団の中でゴロゴロしながら考える。主上はまた少し伸びた僕の髪を梳いている。
 なんだか僕が帰されるという話はなくなったようだった。
 少なくとも今の会話では主上は僕を帰すつもりはなくなったらしい。そう思うとすごく嬉しくて僕はつい主上を抱きしめてしまった。
 しばらく主上の胸に顔をうずめていると、太腿のあたりに例の違和感を感じて、はっとして顔を上げた。
 主上がはものすごく嬉しそうな顔をして僕を見ていた。
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