8 / 58
前段
8 新(婚)生活
しおりを挟む
翌日も特にすることもなくのんびり夜まで過ごした。
朝食は一緒だったが、主上は昼餐と晩餐を客人とどこかで摂ったらしい。どうやら僕を誰かに紹介する気はないようで一緒に食事をしたのは朝だけだった。客室で昼を一人で食べ、夜は僕が頼んで侠舜と一緒に食べた。普通、彼が主上や僕と食事をとることはないのだそうだ。一人の食事はさみしいので、できればこれからも一緒に摂って欲しいとお願いした。
一緒の食事の間、いろいろとここでの生活の基盤となる常識というやつを教えてもらった。
まず、こちらからは基本的にお忙しい主上に会いに行くことができない。向こうからの使いがあって初めて会うことが許される。どうしても会う必要のある場合には、お伺いを立て、向こうに時間の余裕があれば会うことが許されるのだそうだ。夫婦で気軽に会えないのは大変だなぁと思った。
主上の生活には、後宮の妃たちとの兼ね合いもあって、いろいろときまりがある。侠舜によると主上の食事は、ここ皇帝の生活する区画でとるか後宮で妃のだれかと食事をともにするかを本人があらかじめ決めて先触れをだすのだそうだ。
食事をとる相手には、体調不良でもなければ基本的に拒否権はないのだとか。
主上の寵愛はみな同じというわけではなく、頻繁に渡る女性と滅多に合わない女性とがいるそうだ。数年お渡りのない妃は、重用する家臣へ下賜されるらしい。結婚しているのに数年会わないというのが信じられないし、下賜ってなんだ。
皇帝から別の男のもとへ嫁ぐよう言い渡される妃と、皇帝の奥さんを下げ渡される家臣の気持ちとは、それぞれどんなものなのだろう。好きな相手と添い遂げられない貴人というのは、なかなか不自由なものなのだと知った。金にものをいわせて好き勝手に生きているわけではないのだ。
僕はさすがに誰かに下賜されることはないと信じたい。下げ渡される相手もこまるだろうし。……あとで聞いてみよう。
主上には今八人の妃がいて、その内四人には子供がいる。合計で六人。一番年上の皇女が五歳におなりだそうだ。主上は皇子皇女のいる妃の元へは、頻繁に顔を見せに後宮へと足を運んでいると教えてもらった。かなり子供を可愛がっているようだ。父親としての自覚をもった素晴らしい皇帝ではないか。なら男に手を出すなよとは思ったが口にはださなかった。
驚いたことに自分の奥さんと子供にちらっと会おうとするだけでも先触れをださないといけないらしい。女の準備は大変だからとかなんとか。閨事については逐一記録をつけていると付け加えられた。
閨事とは何ですかと質問したら、あとで主上に教えてもらってくださいと言われた。なんだろう。
食事が終わって、ほかの宮殿内の知識についてはまた今度教えてくれることになった。そのあとはまた浴場へつれていかれた。僕はなにがあるかわからないから毎日夕食後は身を清めるようにと言われた。何かとはなんなのか。
湯殿につくと、また彼に全身洗われるのかと戦々恐々としてしまったが、今後は自分一人で済ますように言われて、やっとあの悪夢から解放されると思い嬉しかった。ただし、自分で中まで洗うことを無理やり約束させられた。それは強制なのか……。
僕が体を洗う様子をじっくり観察して、明日からはもう一人でも良いと許可をいただけた。ほっとした。
風呂からあがって、少しぼんやりしてから、することもないのでそろそろ寝ようかなと思ったら、突然主上が部屋にやってきた。先触れの話はどうなった。
主上は少し疲れた様子をしていたが、それでも僕をみると嬉しそうな顔をした。好かれているということはなんとなくわかった。
寝室に誘われて、昨日と同じように寝台に二人並んで腰かけた。またも高級そうな酒をちびちびと飲みながら、今日一日のことを聞かれるままに話した。こう腰を抱かれながら密着して話すのがきまりなのだろうか。触れ合う部分に感じる体温がすごく気になる。
夜着越しにまさぐられるのがくすぐったくて、彼の指を掴んで阻止しようとすると、楽しそうに横で笑われた。僕は玩具ではない。
普段の僕は早寝早起きなのでそろそろ眠いと言うと、布団の中に押し込まれた。当然のように密着してくる。さらに額や瞼や唇に口づけられる。耳をあまがみされて全身に鳥肌がたった。なんだか変な感じだからやめてくれと頼むと、しつこく耳を責め立てられるので両手で隠すはめになった。
さきほどから太腿に当たっているのが気になって仕方がない。指摘するのもはばかられて気付かないふりをしていると、夕食の話題を思い出して、思い切って質問してみた。
「主上、僕は誰かに下賜されるんですか?」
「……何の話だ。」
「ええと、夕食のときに侠舜さまに教えてもらったんです。数年お渡りのない妃は臣下の元へ下賜されると。それで僕はどうなるんだろうと、侠舜さまがいなくなったあとで思ったんです。」
「お前は平民なので、下賜する理由がない。下賜とは褒美の一つだ。地位のある女性と結婚することで家系を盤石なものにするという目的で下賜は行われる。したがってお前が誰かに下げ渡されるということはない。」
「良かった。じゃあ僕、下賜されるような状況になったら家に帰れるというわけですか?」
すごい目でにらまれた。
「……恐らく他意はないのだろうが、その話は不快だ。お前が帰ることは絶対とはいえないが、ほぼないと思え。」
あ、小さくなった。
怒らせてしまったと気づいた。不機嫌な声音で言われたので、この話はしてはいけないのだと悟った。
「……はい。」
僕が素直に返事をすると、気を取り直して主上がまた耳を食む。くすぐったい。
「そういえば、閨事ってなんですか?」
「興味があるのか?私はいつでも歓迎だが。」
「いえ、あの、さきほどの会話の続きで、侠舜さまから主上に訊いてくださいと言われたので、訊いてみました。」
「なるほど。」
あ、なんかまた太腿に当たってる。忙しいことだ。
主上が考えごとをするように目を細める。
「そうだなぁ。私自身はいますぐでも良いのだが、それでは私の外聞が良くない。未熟な子供に手を出すと言われるのも。あぁ、でももう手をだしたわけだから……。」
そういって一人悩んでいる。
かと思うとこちらを見てはぁとため息をついた。
「お前のここが大人になって、もう少し大人の関係というものを理解したら二人で楽しもう。」
そういっていたずらっぽくにやりと笑い、寝巻の合わせから手が侵入してくると、僕のあそこをまさぐり始めた。
びっくりして、瞬間顔に血が上るのを感じた。真っ赤になっているだろう僕がやめてほしいと怒って言っても、彼はくつくつと笑うだけでやめてくれなかった。
両手で彼のごつごつした指を力いっぱい掴んで無理やりやめさせると、その日がくるのが楽しみだと言って抱きしめられる。
それが心地よくて僕は知らぬ間に眠ってしまった。
朝食は一緒だったが、主上は昼餐と晩餐を客人とどこかで摂ったらしい。どうやら僕を誰かに紹介する気はないようで一緒に食事をしたのは朝だけだった。客室で昼を一人で食べ、夜は僕が頼んで侠舜と一緒に食べた。普通、彼が主上や僕と食事をとることはないのだそうだ。一人の食事はさみしいので、できればこれからも一緒に摂って欲しいとお願いした。
一緒の食事の間、いろいろとここでの生活の基盤となる常識というやつを教えてもらった。
まず、こちらからは基本的にお忙しい主上に会いに行くことができない。向こうからの使いがあって初めて会うことが許される。どうしても会う必要のある場合には、お伺いを立て、向こうに時間の余裕があれば会うことが許されるのだそうだ。夫婦で気軽に会えないのは大変だなぁと思った。
主上の生活には、後宮の妃たちとの兼ね合いもあって、いろいろときまりがある。侠舜によると主上の食事は、ここ皇帝の生活する区画でとるか後宮で妃のだれかと食事をともにするかを本人があらかじめ決めて先触れをだすのだそうだ。
食事をとる相手には、体調不良でもなければ基本的に拒否権はないのだとか。
主上の寵愛はみな同じというわけではなく、頻繁に渡る女性と滅多に合わない女性とがいるそうだ。数年お渡りのない妃は、重用する家臣へ下賜されるらしい。結婚しているのに数年会わないというのが信じられないし、下賜ってなんだ。
皇帝から別の男のもとへ嫁ぐよう言い渡される妃と、皇帝の奥さんを下げ渡される家臣の気持ちとは、それぞれどんなものなのだろう。好きな相手と添い遂げられない貴人というのは、なかなか不自由なものなのだと知った。金にものをいわせて好き勝手に生きているわけではないのだ。
僕はさすがに誰かに下賜されることはないと信じたい。下げ渡される相手もこまるだろうし。……あとで聞いてみよう。
主上には今八人の妃がいて、その内四人には子供がいる。合計で六人。一番年上の皇女が五歳におなりだそうだ。主上は皇子皇女のいる妃の元へは、頻繁に顔を見せに後宮へと足を運んでいると教えてもらった。かなり子供を可愛がっているようだ。父親としての自覚をもった素晴らしい皇帝ではないか。なら男に手を出すなよとは思ったが口にはださなかった。
驚いたことに自分の奥さんと子供にちらっと会おうとするだけでも先触れをださないといけないらしい。女の準備は大変だからとかなんとか。閨事については逐一記録をつけていると付け加えられた。
閨事とは何ですかと質問したら、あとで主上に教えてもらってくださいと言われた。なんだろう。
食事が終わって、ほかの宮殿内の知識についてはまた今度教えてくれることになった。そのあとはまた浴場へつれていかれた。僕はなにがあるかわからないから毎日夕食後は身を清めるようにと言われた。何かとはなんなのか。
湯殿につくと、また彼に全身洗われるのかと戦々恐々としてしまったが、今後は自分一人で済ますように言われて、やっとあの悪夢から解放されると思い嬉しかった。ただし、自分で中まで洗うことを無理やり約束させられた。それは強制なのか……。
僕が体を洗う様子をじっくり観察して、明日からはもう一人でも良いと許可をいただけた。ほっとした。
風呂からあがって、少しぼんやりしてから、することもないのでそろそろ寝ようかなと思ったら、突然主上が部屋にやってきた。先触れの話はどうなった。
主上は少し疲れた様子をしていたが、それでも僕をみると嬉しそうな顔をした。好かれているということはなんとなくわかった。
寝室に誘われて、昨日と同じように寝台に二人並んで腰かけた。またも高級そうな酒をちびちびと飲みながら、今日一日のことを聞かれるままに話した。こう腰を抱かれながら密着して話すのがきまりなのだろうか。触れ合う部分に感じる体温がすごく気になる。
夜着越しにまさぐられるのがくすぐったくて、彼の指を掴んで阻止しようとすると、楽しそうに横で笑われた。僕は玩具ではない。
普段の僕は早寝早起きなのでそろそろ眠いと言うと、布団の中に押し込まれた。当然のように密着してくる。さらに額や瞼や唇に口づけられる。耳をあまがみされて全身に鳥肌がたった。なんだか変な感じだからやめてくれと頼むと、しつこく耳を責め立てられるので両手で隠すはめになった。
さきほどから太腿に当たっているのが気になって仕方がない。指摘するのもはばかられて気付かないふりをしていると、夕食の話題を思い出して、思い切って質問してみた。
「主上、僕は誰かに下賜されるんですか?」
「……何の話だ。」
「ええと、夕食のときに侠舜さまに教えてもらったんです。数年お渡りのない妃は臣下の元へ下賜されると。それで僕はどうなるんだろうと、侠舜さまがいなくなったあとで思ったんです。」
「お前は平民なので、下賜する理由がない。下賜とは褒美の一つだ。地位のある女性と結婚することで家系を盤石なものにするという目的で下賜は行われる。したがってお前が誰かに下げ渡されるということはない。」
「良かった。じゃあ僕、下賜されるような状況になったら家に帰れるというわけですか?」
すごい目でにらまれた。
「……恐らく他意はないのだろうが、その話は不快だ。お前が帰ることは絶対とはいえないが、ほぼないと思え。」
あ、小さくなった。
怒らせてしまったと気づいた。不機嫌な声音で言われたので、この話はしてはいけないのだと悟った。
「……はい。」
僕が素直に返事をすると、気を取り直して主上がまた耳を食む。くすぐったい。
「そういえば、閨事ってなんですか?」
「興味があるのか?私はいつでも歓迎だが。」
「いえ、あの、さきほどの会話の続きで、侠舜さまから主上に訊いてくださいと言われたので、訊いてみました。」
「なるほど。」
あ、なんかまた太腿に当たってる。忙しいことだ。
主上が考えごとをするように目を細める。
「そうだなぁ。私自身はいますぐでも良いのだが、それでは私の外聞が良くない。未熟な子供に手を出すと言われるのも。あぁ、でももう手をだしたわけだから……。」
そういって一人悩んでいる。
かと思うとこちらを見てはぁとため息をついた。
「お前のここが大人になって、もう少し大人の関係というものを理解したら二人で楽しもう。」
そういっていたずらっぽくにやりと笑い、寝巻の合わせから手が侵入してくると、僕のあそこをまさぐり始めた。
びっくりして、瞬間顔に血が上るのを感じた。真っ赤になっているだろう僕がやめてほしいと怒って言っても、彼はくつくつと笑うだけでやめてくれなかった。
両手で彼のごつごつした指を力いっぱい掴んで無理やりやめさせると、その日がくるのが楽しみだと言って抱きしめられる。
それが心地よくて僕は知らぬ間に眠ってしまった。
0
お気に入りに追加
1,247
あなたにおすすめの小説
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~
tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。
番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。
ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。
そして安定のヤンデレさん☆
ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。
別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。
こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果
てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。
とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。
「とりあえずブラッシングさせてくれません?」
毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。
そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。
※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる