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学園編
156. トゲトゲ尻尾
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少しずつ増えていく観客に、氷の球キャッチは大好評だ。みんな、オレのことはお利口な羽狐として、覚えて帰ってね。犬じゃなくて、狐だよ。似ているけど、そこは正確に覚えてね。
「ルジェ、子どもたちの土のボールが行くぞ」
『キャン』
子どもたちが、魔法で作った球をオレの近くに投げる準備をしている。愛し子の指導でしっかりしたものができたから、ウィオの氷の球の代わりに投げることになったようだ。
最初は土の球。よーし、前足で打ち落とそう。ジャンプして、ぺしっ!
「すごい!」
「ほんとに羽で飛んでいる!」
えっへん。羽で飛んでいるわけじゃないけど、すごいでしょう。
どんどん投げて。片っ端から打ち落とすよ。ぺしぺし。飛んで、ぺし。今度は水の球だから、ぱく。さあ、次も来い。
今度は土だね。あ、目測を誤って、土の球を飛び越えてしまった。このままでは、観客に当たってしまう。よーし、ここは尻尾で、えいっ!
べしゃ。
「あー、ルジェの尻尾が泥だらけだ」
『キューン』
どうやら水と土の魔法を試してみた球だったようで、水分が少し多く、打ち返そうと思ったらつぶれて尻尾が泥まみれになっちゃった。オレのチャームポイントのふわふわ尻尾が、なんてことだ。
『部隊長さん、尻尾を洗ってください』
「私ですか? せっかくですから、子どもたちに洗ってもらうのはどうですか?」
洗ってくれるなら、だれでもいいよ。観客席でお世話係さんが、ブラシやタオルを用意してくれているから、仕上げはしてくれるでしょう。
「水魔法の使える生徒は、尻尾に水をかけてください」
「カイ、やってみて」
「他のところもぬれちゃったら悪いから……」
みんな尻込みしているけれど、他のところがぬれるくらいは気にしなくていいから。どうせウィオにお願いしたら、頭から水をかけられて、背中の羽も一緒にびしょびしょにされるのだ。だから部隊長さんにお願いしたんだけど、子どもたちの練習台なら、羽がぬれても気にしないよ。
水の子が、おそるおそる尻尾に水をかけてくれて、少しずつ泥が落ちていく。うんうん、上手だよ。よくコントロールできているね。ウィオとは大違いだ。
「次は、風の魔法でかわかしましょう。風の魔法が得意な人は、やってみませんか?」
「でも……」
マダム先生が、風の魔法が得意な生徒に声をかけているけど、子どもたちはみんなゆずりあってやろうとしない。
「うまくできなくても、大丈夫ですから」
「そうだ。たとえ尻尾の毛がなくなったところで、生えてくる。問題ない」
いやいや。ちょっと待ってよ。オレの自慢の尻尾をそんなに軽く言わないでよ。
もちろん、子どもの魔法でオレの尻尾が切れちゃったり、毛が全部なくなっちゃったりはしないし、そんなことにはならないと分かっていて、子どもたちの気持ちをほぐすためにウィオが言っているのは分かるけどさ。
このもふもふ尻尾がなくなったら、世界の損失だよ?
「じゃあ、お手本を見せるよ」と言って、風の神子がにこにこしながら近寄ってきた。
オレの尻尾を持って、手ぐしで毛を整えたあとに、ドライヤーのように風をあててくれる。だけど、なんだかあやしい。
『ねえ、風の子、オレの尻尾にいたずらしてない?』
「大したことない」
ほんとに? 執事さんにかわかされるときと、だいぶ感覚が違うのに。けれど、ウィオは大した問題ではないの一点張りだ。ますます、あやしい。
「はい、ルジェくん、かわいたよ。朝の黒い羽のほうが、この尻尾にはあっていたねえ」
「そうかもしれないな」
見ると毛束をつんつんにして、トゲトゲ尻尾が出来上がっていた。
ちょっとー、せっかくのもふもふ尻尾になにしてくれるの。
「ルジェ、つんつんの尻尾、かっこいいよ」
「おもしろーい」
『キュウ』
風の神子のいたずらにトゥレボルの施設長が青い顔になっている横で、面白がっている子どもたちと、無関心のウィオに、自分たちがやるべきだったかと苦笑しているマダム先生と部隊長さん。なんだかまとまりがないな。
子どもたちには楽しい記憶にしていてほしいから、仕方がない。ここはオレが大人な対応をして、問題ないと示そう。
『洗ってくれてありがとう。ウィオ、フリスビーを再開しよう。氷の花を投げて』
「観客に向かってでいいか?」
『キャン』
午前の部と同じように、午後も観客にプレゼントしよう。
ウィオが投げてくれた氷の花を、観客席の手前でジャンプして、受け取る。「ナイスキャッチ」と最初に拍手をしてくれた、目の前の子どもにあげよう。学園長と羽狐からのプレゼントをどうぞ。
「すぐに解けてしまいますが、学園長と使役獣よりの贈りものです」
「羽犬さんはお利口ですね」
「犬ではなく、狐ですよ」
『キャン!』
隣に座っている大人にほめられたけど、犬じゃないんだよね。
学園長の狐さんは、とってもお利口な羽狐って覚えて帰って、周りの人やお友だちに伝えてね。
さて、午後の部も前座として場を温める役目をしっかりとまっとうしたので、オレはお世話係さんにこのつんつん尻尾を直してもらおう。
お世話係さんに向かって走っていくと、お手入れの場を整えて、待っていてくれた。
魔法披露が始まる前に、ふわふわ、さらさら、もふもふの尻尾に戻してください!
「ルジェ、子どもたちの土のボールが行くぞ」
『キャン』
子どもたちが、魔法で作った球をオレの近くに投げる準備をしている。愛し子の指導でしっかりしたものができたから、ウィオの氷の球の代わりに投げることになったようだ。
最初は土の球。よーし、前足で打ち落とそう。ジャンプして、ぺしっ!
「すごい!」
「ほんとに羽で飛んでいる!」
えっへん。羽で飛んでいるわけじゃないけど、すごいでしょう。
どんどん投げて。片っ端から打ち落とすよ。ぺしぺし。飛んで、ぺし。今度は水の球だから、ぱく。さあ、次も来い。
今度は土だね。あ、目測を誤って、土の球を飛び越えてしまった。このままでは、観客に当たってしまう。よーし、ここは尻尾で、えいっ!
べしゃ。
「あー、ルジェの尻尾が泥だらけだ」
『キューン』
どうやら水と土の魔法を試してみた球だったようで、水分が少し多く、打ち返そうと思ったらつぶれて尻尾が泥まみれになっちゃった。オレのチャームポイントのふわふわ尻尾が、なんてことだ。
『部隊長さん、尻尾を洗ってください』
「私ですか? せっかくですから、子どもたちに洗ってもらうのはどうですか?」
洗ってくれるなら、だれでもいいよ。観客席でお世話係さんが、ブラシやタオルを用意してくれているから、仕上げはしてくれるでしょう。
「水魔法の使える生徒は、尻尾に水をかけてください」
「カイ、やってみて」
「他のところもぬれちゃったら悪いから……」
みんな尻込みしているけれど、他のところがぬれるくらいは気にしなくていいから。どうせウィオにお願いしたら、頭から水をかけられて、背中の羽も一緒にびしょびしょにされるのだ。だから部隊長さんにお願いしたんだけど、子どもたちの練習台なら、羽がぬれても気にしないよ。
水の子が、おそるおそる尻尾に水をかけてくれて、少しずつ泥が落ちていく。うんうん、上手だよ。よくコントロールできているね。ウィオとは大違いだ。
「次は、風の魔法でかわかしましょう。風の魔法が得意な人は、やってみませんか?」
「でも……」
マダム先生が、風の魔法が得意な生徒に声をかけているけど、子どもたちはみんなゆずりあってやろうとしない。
「うまくできなくても、大丈夫ですから」
「そうだ。たとえ尻尾の毛がなくなったところで、生えてくる。問題ない」
いやいや。ちょっと待ってよ。オレの自慢の尻尾をそんなに軽く言わないでよ。
もちろん、子どもの魔法でオレの尻尾が切れちゃったり、毛が全部なくなっちゃったりはしないし、そんなことにはならないと分かっていて、子どもたちの気持ちをほぐすためにウィオが言っているのは分かるけどさ。
このもふもふ尻尾がなくなったら、世界の損失だよ?
「じゃあ、お手本を見せるよ」と言って、風の神子がにこにこしながら近寄ってきた。
オレの尻尾を持って、手ぐしで毛を整えたあとに、ドライヤーのように風をあててくれる。だけど、なんだかあやしい。
『ねえ、風の子、オレの尻尾にいたずらしてない?』
「大したことない」
ほんとに? 執事さんにかわかされるときと、だいぶ感覚が違うのに。けれど、ウィオは大した問題ではないの一点張りだ。ますます、あやしい。
「はい、ルジェくん、かわいたよ。朝の黒い羽のほうが、この尻尾にはあっていたねえ」
「そうかもしれないな」
見ると毛束をつんつんにして、トゲトゲ尻尾が出来上がっていた。
ちょっとー、せっかくのもふもふ尻尾になにしてくれるの。
「ルジェ、つんつんの尻尾、かっこいいよ」
「おもしろーい」
『キュウ』
風の神子のいたずらにトゥレボルの施設長が青い顔になっている横で、面白がっている子どもたちと、無関心のウィオに、自分たちがやるべきだったかと苦笑しているマダム先生と部隊長さん。なんだかまとまりがないな。
子どもたちには楽しい記憶にしていてほしいから、仕方がない。ここはオレが大人な対応をして、問題ないと示そう。
『洗ってくれてありがとう。ウィオ、フリスビーを再開しよう。氷の花を投げて』
「観客に向かってでいいか?」
『キャン』
午前の部と同じように、午後も観客にプレゼントしよう。
ウィオが投げてくれた氷の花を、観客席の手前でジャンプして、受け取る。「ナイスキャッチ」と最初に拍手をしてくれた、目の前の子どもにあげよう。学園長と羽狐からのプレゼントをどうぞ。
「すぐに解けてしまいますが、学園長と使役獣よりの贈りものです」
「羽犬さんはお利口ですね」
「犬ではなく、狐ですよ」
『キャン!』
隣に座っている大人にほめられたけど、犬じゃないんだよね。
学園長の狐さんは、とってもお利口な羽狐って覚えて帰って、周りの人やお友だちに伝えてね。
さて、午後の部も前座として場を温める役目をしっかりとまっとうしたので、オレはお世話係さんにこのつんつん尻尾を直してもらおう。
お世話係さんに向かって走っていくと、お手入れの場を整えて、待っていてくれた。
魔法披露が始まる前に、ふわふわ、さらさら、もふもふの尻尾に戻してください!
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