願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい

戌葉

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学園編

148. ウィオのやる気

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 しばらくすると、超人的な動きから、剣の合間に小さな魔法を使って、タイミングや相手の体勢をくずす戦い方に変わった。王子様からは風だけでなく、土や水、いろんな魔法がくり出されている。お互いに手の内を知り尽くしているから避けられるのだろうけど、地味にいやな攻撃だ。

「全属性持ちか」
「あの方は、フェゴの……。さすがと言うべきでしょうか」

 部隊長さんも感心している。
 王族って、実はチートなんだね。魔法の使い方もだけど、魔力量もウィオや部隊長さんほどじゃないけど、並外れている。最初の忍者みたいな動きでかなりの魔力を使ったはずなのに、まだまだ戦えそうだ。

『王子様、実はフェゴ最強?』
「護衛もなく冒険者として活動を許されているのは、護衛が必要ないからだろう」
『ウィオを敵視していた護衛は?』
「二人よりも弱かったから、なにか事情があったんじゃないか?」

 王族は、魔力が多い。そうなるように政略結婚を繰り返した結果らしいので、王子様がハイスペックなのは分かる。だけどそれだけではなく、努力もしたのだろう。
 幼なじみは風魔法を上手く使っているから、風の精霊に愛される家系なのかもしれない。精霊には家系なんて関係ないはずだけど、特定の精霊が好ましいと感じる魔力が遺伝するということはありそうだ。

 合間に魔法を飛ばしながら剣での打ち合いを続け、幼なじみに疲れが見えてきたところで、王子様が相手の剣をはね飛ばして、試合を終わらせた。

 ワッと歓声が上がる。
 すごい、すごいよ。人間の可能性を見せてもらったよ。魔法と身体能力を組み合わせれば、あんなことも出来るなんて。

『キャンキャン! キャオーン!』
「ルジェ様!」
『ギャフッ』

 げほげほ。王子様のところへ行こうとしたら、ハーネスに引き止められて、息が詰まった。そうだった、ハーネスがお世話係さんとつながってるんだった。うっかり。
 お世話係さんが怪我がないか確認してくれているけど、ないよ。ちょっと恥ずかしいから、大げさにしないでほしいな。それからウィオ、それ見たことかって顔しないでよ。あまりにすごかったから、ちょっと我を忘れちゃっただけだから。

 席に戻ってきた王子様たちには、周りの魔術師たちから、あんな使い方があるのかと、声がかけられている。
 生徒たちも、予想とまったく違った模擬戦に、興奮冷めやらぬ感じだ。愛し子たちの魔法は真似できなくとも、王子様たちの魔法はできるかもしれない。そう期待させる模擬戦だった。こういうのもいいね。

「ライ、素晴らしかった。生徒たちもよろこんでいる。ルジェも興奮していた」
「それはうれしい。小技は見せたから、魔法合戦は任せた」

 うんうん、すごかったよ。オレの高速尻尾ふりふりで、その感動が伝わっているといいんだけど。
 ウィオたちとかぶらないように、剣の補助となる魔法を見せてくれたんだね。これは、ウィオも負けていられないよ。

「ハードルが上がりましたね」
「上級魔法を乱発しましょう」
「私はそこまでの回数は撃てませんよ」
『部隊長さん、オレが魔力を回復させるから、気にせずやっちゃって』

 珍しくウィオが攻撃的なことを言っているので、客席に魔法が飛ばないように結界を張って、その中は魔力が回復するようにしておこう。楽しむための努力は惜しまない。万が一怪我をしても、治癒するから安心して。

「では、最後になりましたが、氷の騎士として活躍した学園長と、水の騎士の対戦をご覧に入れます。お楽しみください!」

 紹介するマダム先生の声も、心なしかはずんでいる。やっぱり楽しみだよね。何をやってくれるかな?
 観客たちからも、いままででも十分すぎるのに、さらにこれ以上のものが見られるのかとワクワクしているのが伝わってくる。

 二人が訓練場中央で向き合ったのを確認して、観客席を守るように、ウィオの魔法も小さな石も通さない結界を張る。これでどんなド派手な魔法を使っても平気だよ。

 ウィオがなんのためもなく、軽く片手をあげると、そのすぐ上に氷の矢ができ始めた。氷の精霊が集まってきている。
 いやいや、ウィオさん、何本作るつもりですか? ちょっと多すぎやしませんか? 殺意を感じるんですが気のせいですか? 出だしをド派手にいこうと思っているにしても、そこまで必要?
 子どもたちのトラウマにならないように、治癒魔法を全力で展開しておくけど、なんでそんなにヤル気なの。王子様に触発されたにしても、やりすぎじゃない?

 ウィオが手を振り下ろすと、氷の矢が雨のように部隊長さんに降り注ぐ。観客席からは悲鳴があがり、目をおおっている人もいる。
 部隊長さん、大ピンチ!

 と思ったけど、氷の矢は部隊長さんから少し離れたところで、粉々にくだけちった。ウォーターカッターのように水を使って、矢を細かく切ったらしい。
 それだけにとどまらず、次々に生み出される氷の矢を、水の渦で包み込んで、バキバキと折っている。空中にフローズンなんとかって飲みものができそうだ。
 その渦を逃れた矢は、部隊長さんから少し離れた地面に突き刺さっているので、殺傷力はある。それは、部隊長さんなら必ずよけられるという、ウィオの信頼のかたまりだと思っていいんだよね?

 騎士団の訓練場で、二人の手合わせは何度も見せてもらってきたけど、あれは訓練だ。そして今は観客に見せるための試合。
 さらにそこに、学園長として生徒たちにいいところを見せようという責任感とか、神獣付きの特別部隊の長として負けられないプライドとか、そういうものが影響しているのだろう。
 いつもとはまったく違っている。
 ウィオがやりすぎないかちょっと心配だけど、この後の展開がどうなるのか楽しみだなあ。わくわく。
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