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学園編
134. 愛し子会議
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魔法の披露についての打ち合わせが終わったので、この後は目に属性が出ている精霊の愛し子たちの情報交換会だ。せっかく集まったので、各国での教育や仕事について聞くことになっている。
付きそいの魔術師たちは、授業見学会の参加者へのあいさつが終わったお兄さんたちにお任せして、愛し子だけでの会議だ。そのほうが、いろいろ話しやすいだろう。
付きそいの魔術師が退室して、すっきりした会議室には、部隊長さんも含めて水が三人、土が三人、風が二人、氷のウィオに、雪のオレ。半分が水関連属性だから、水の精霊が一番多く集まっている。
「これだけ集まると、壮観ですねえ」
「本当に」
この中で一番年長のアチェーリの土の愛し子がもらした言葉に、ノダクムの土の愛し子が答えた。
ノダクムは今回参加する予定はなかったのに、直前で駆け込み参加になった。商人さんによる魔眼の子の誘拐事件がノダクムに伝わって弁解に来たのではないかと、お兄さんたちはにらんでるらしい。政治に巻き込まれて、突然の国外出張で大変だろうから、楽しんでくれるといいな。
「フェゴの風の魔術師より、みなさまに会えなくて本当に残念だ、という手紙を受け取っています」
「私は隣国ですから、訪ねていくことができるか調整してみましょう」
この機会なら、ふだんはなかなか許可が下りない国外へ行けるかもしれないと、マトゥオーソの若い水の愛し子が意気込んでいる。フェゴの王子様もきていることだし、マダム先生からも口添えしてもらおう。
そのマダム先生によると、マトゥオーソにはあと二人精霊の愛し子がいるそうで、今回の訪問には若い水の愛し子が選ばれた。水の騎士としてマトゥオーソでも有名な部隊長さんのファンらしく、本人も熱望した結果だ。集まっている愛し子の中でも一番楽しそうにしている。部隊長さんに披露する魔法の打ち合わせを持ちかけていたのも、話すきっかけがほしかったのかもしれない。
一方、参加者の中で一番若いトゥレボルの風の子は、会議には興味がないようで、つまらなさそうにしている。水の子と十歳差くらいだったはずだから、今は二十代前半か。性格が属性に引っ張られるという話があるけど、風は移り気な人が多いと聞く。となると、こういう会議は退屈だろうな。
オレに用意されていた椅子から飛び降りて、風の子の足元に近づくと、抱き上げられる。
「ルジェくん、どうしたの?」
「会議に飽きたようだ。遊んでやってくれ」
『キャン』
各国での精霊の愛し子の扱いについては知りたいけれど、じっとしていることに飽きたのも事実。遊んでもらおう。
風の子の膝の上で、なでてもらいながら会議を聞いている。
やはりトゥレボルをのぞけばどこの国も、精霊の愛し子が見つかれば、すぐに貴族の養子になる。
「アチェーリは、魔術師か騎士、どちらかを本人の希望で選びます」
「では、魔術師ではなく騎士になるのは、オルデキアとノダクムだけですか」
面白いねえ。オルデキアの近くだけが騎士になるって、魔物の分布と関係あるのだろうか。
ノダクムの土の愛し子は、騎士だけど後方支援で野営地の整備などを行っているらしい。
「トゥレボルが教会所属としていることに、周辺国が影響を受けているのではないでしょうか」
「それは、ありそうですね」
なるほど。戦闘職である騎士より、研究職である魔術師のほうが、教会所属の神子に近い気がする。戦闘が好きな人ばかりじゃないし、女性の愛し子が前線に行くのはいろいろと大変だろう。
「ネウラ学園の卒業生は、どうする予定なのですか? たしか、トゥレボルの子も通っていますよね?」
「本人の希望に任せます。学園としては、何になれとも、なるなとも、言いません」
それは、ウィオが学園を作ったそもそもの目的だ。将来をしばられることなく、自分の可能性を伸ばしてほしい。水の子がどうするかは、水の子が決めることだ。
「では、オルデキアの騎士になる可能性もあるのですか?」
「少なくとも今は、騎士団の試験を受ける資格はありません」
騎士の試験を受けるには、オルデキアで生まれ育っている必要がある。例外はあるらしいけど、水の子はトゥレボルの所属と見なされているから、受験資格がない。本人が火の子と一緒に入りたいと言えば、王様が考えてくれるかもしれないけど、水の子の性格的に騎士はないと思う。
「私はトゥレボルの教会で育ちましたが、スフラル出身です。成人してからは、教会の所属としてスフラルでも活動しています。やはり教会所属というのが、トゥレボルに神子が集まる要員の一つでしょう」
「なぜスフラルではなく、トゥレボルに?」
「スフラルでは育て方が分からなかったからだと、物心がついてから聞きました」
そういえば、火の子を預けるときに、成人している風の神子は隣の国の出身と聞いた気がする。おそらく魔力暴走で被害が出る前にと、トゥレボルに預けられたのだろう。そして成人してからは両方の国で活動している。教会なら国を越えての協力もしやすく、自分の国でも活動してくれると言うのが、他国に預けるハードルを下げているのだ。
ネウラの学園を卒業すれば、他国出身でもオルデキアの騎士になれるとなれば、周りの国からも警戒される。いずれだれかがどうしても入りたいと言うまでは、今のまま騎士の受験資格なしでいいだろう。
「トゥレボルの施設は魔力が暴走しないと聞きましたが、どのようになっているのですか?」
「私もぜひお聞きしたい」
きたきた。やっぱりみんな興味はトゥレボルだよね。どう答えるのかな?
付きそいの魔術師たちは、授業見学会の参加者へのあいさつが終わったお兄さんたちにお任せして、愛し子だけでの会議だ。そのほうが、いろいろ話しやすいだろう。
付きそいの魔術師が退室して、すっきりした会議室には、部隊長さんも含めて水が三人、土が三人、風が二人、氷のウィオに、雪のオレ。半分が水関連属性だから、水の精霊が一番多く集まっている。
「これだけ集まると、壮観ですねえ」
「本当に」
この中で一番年長のアチェーリの土の愛し子がもらした言葉に、ノダクムの土の愛し子が答えた。
ノダクムは今回参加する予定はなかったのに、直前で駆け込み参加になった。商人さんによる魔眼の子の誘拐事件がノダクムに伝わって弁解に来たのではないかと、お兄さんたちはにらんでるらしい。政治に巻き込まれて、突然の国外出張で大変だろうから、楽しんでくれるといいな。
「フェゴの風の魔術師より、みなさまに会えなくて本当に残念だ、という手紙を受け取っています」
「私は隣国ですから、訪ねていくことができるか調整してみましょう」
この機会なら、ふだんはなかなか許可が下りない国外へ行けるかもしれないと、マトゥオーソの若い水の愛し子が意気込んでいる。フェゴの王子様もきていることだし、マダム先生からも口添えしてもらおう。
そのマダム先生によると、マトゥオーソにはあと二人精霊の愛し子がいるそうで、今回の訪問には若い水の愛し子が選ばれた。水の騎士としてマトゥオーソでも有名な部隊長さんのファンらしく、本人も熱望した結果だ。集まっている愛し子の中でも一番楽しそうにしている。部隊長さんに披露する魔法の打ち合わせを持ちかけていたのも、話すきっかけがほしかったのかもしれない。
一方、参加者の中で一番若いトゥレボルの風の子は、会議には興味がないようで、つまらなさそうにしている。水の子と十歳差くらいだったはずだから、今は二十代前半か。性格が属性に引っ張られるという話があるけど、風は移り気な人が多いと聞く。となると、こういう会議は退屈だろうな。
オレに用意されていた椅子から飛び降りて、風の子の足元に近づくと、抱き上げられる。
「ルジェくん、どうしたの?」
「会議に飽きたようだ。遊んでやってくれ」
『キャン』
各国での精霊の愛し子の扱いについては知りたいけれど、じっとしていることに飽きたのも事実。遊んでもらおう。
風の子の膝の上で、なでてもらいながら会議を聞いている。
やはりトゥレボルをのぞけばどこの国も、精霊の愛し子が見つかれば、すぐに貴族の養子になる。
「アチェーリは、魔術師か騎士、どちらかを本人の希望で選びます」
「では、魔術師ではなく騎士になるのは、オルデキアとノダクムだけですか」
面白いねえ。オルデキアの近くだけが騎士になるって、魔物の分布と関係あるのだろうか。
ノダクムの土の愛し子は、騎士だけど後方支援で野営地の整備などを行っているらしい。
「トゥレボルが教会所属としていることに、周辺国が影響を受けているのではないでしょうか」
「それは、ありそうですね」
なるほど。戦闘職である騎士より、研究職である魔術師のほうが、教会所属の神子に近い気がする。戦闘が好きな人ばかりじゃないし、女性の愛し子が前線に行くのはいろいろと大変だろう。
「ネウラ学園の卒業生は、どうする予定なのですか? たしか、トゥレボルの子も通っていますよね?」
「本人の希望に任せます。学園としては、何になれとも、なるなとも、言いません」
それは、ウィオが学園を作ったそもそもの目的だ。将来をしばられることなく、自分の可能性を伸ばしてほしい。水の子がどうするかは、水の子が決めることだ。
「では、オルデキアの騎士になる可能性もあるのですか?」
「少なくとも今は、騎士団の試験を受ける資格はありません」
騎士の試験を受けるには、オルデキアで生まれ育っている必要がある。例外はあるらしいけど、水の子はトゥレボルの所属と見なされているから、受験資格がない。本人が火の子と一緒に入りたいと言えば、王様が考えてくれるかもしれないけど、水の子の性格的に騎士はないと思う。
「私はトゥレボルの教会で育ちましたが、スフラル出身です。成人してからは、教会の所属としてスフラルでも活動しています。やはり教会所属というのが、トゥレボルに神子が集まる要員の一つでしょう」
「なぜスフラルではなく、トゥレボルに?」
「スフラルでは育て方が分からなかったからだと、物心がついてから聞きました」
そういえば、火の子を預けるときに、成人している風の神子は隣の国の出身と聞いた気がする。おそらく魔力暴走で被害が出る前にと、トゥレボルに預けられたのだろう。そして成人してからは両方の国で活動している。教会なら国を越えての協力もしやすく、自分の国でも活動してくれると言うのが、他国に預けるハードルを下げているのだ。
ネウラの学園を卒業すれば、他国出身でもオルデキアの騎士になれるとなれば、周りの国からも警戒される。いずれだれかがどうしても入りたいと言うまでは、今のまま騎士の受験資格なしでいいだろう。
「トゥレボルの施設は魔力が暴走しないと聞きましたが、どのようになっているのですか?」
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