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学園編
115. 救出部隊に合流
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オレがいると、三人とも食べなさそうだから、ご飯のあいだにウィオのところへ行ってこよう。あの感じなら、明日の朝まで荷台には入ってこないだろうから、結界を張っておけば、離れても心配ない。
『クー、キュー、キャン』
「ルジェ? どうしたの?」
みんなの意識がこちらに向いたところで、荷台の出口に向かって歩きだす。これで、ちょっと出かけてくるというのは分かってもらえるだろう。
「外には見張りがいるの。危ないわ!」
『キャン』
大丈夫だよ。すぐ帰ってくるから、待っててね。
尻尾で返事をしてから透明になり、オレは荷台をおおう布のすき間から飛び降りた。
薄闇の中、ウィオの元へ急ぐと、空き地には五十人くらいの人がいた。向こうは二十人くらいだから、ちょっと戦力過多じゃない?
「ルジェ、エウリーチェは?」
『無事だよ。いま夕食の時間。ってことで、干し肉ちょうだい』
「……持ってきていない。エウリーチェはどうしている?」
え、オレのご飯ないの? そんなあ。お姉ちゃんたちとのやり取りで、すっかり食べるつもりの口になってるのに。
執事さんがオレのご飯を用意し忘れるなんて、やっぱり冷静じゃなかったんだなあ。
お屋敷が魔界になっていないか心配していたら、副隊長さんにつかまった。
「ちびっ子、この状況でまず最初にご飯って、和ませようとしてわざとですか? エウリーチェ様方はご無事ですよね?」
『無事だよ。いまは、パンをもらって食べてるよ。それを見たからお腹が空いちゃったの。なんかね、よく分からないけど、カミラって子に協力してほしいんだって。だから、子どもたちに危険はないよ』
じゃなきゃ、のんきにご飯を要求したりしないから。
丁寧に扱われているお姉ちゃんたちの現状を伝えようにも、魔眼のことに触れなければならない。オレが勝手に言っていいのか分からないから、中途半端な説明になってしまった。
「子爵令嬢が狙われたのに、公爵令嬢まで巻き込んだのか」
あの子は子爵家のお嬢様なのか。身分が上の友だちを巻き込んでしまって、今ごろ生きた心地がしないだろうなあ。
『犯人はこの国の人じゃないみたい』
「そうなのですか?」
『国外に逃げる気だし、三人のうちのどの子が狙いの子なのか、分かってなかったから』
「入念に計画された誘拐ではないということですか。どう対処していいのか、迷いますね」
予想外の事態にどうしていいか分からないのは、さらった側も同じなのかもしれない。貴族の女の子三人を連れて、長旅なんてできるはずがない。武力で無理やり言うことを聞かせようというほどの強硬さを感じないから、魔眼の子の体調を気にせずに先を急ぐというようなことをするとも思えないのだ。
『今日は森の浅いところに隠れて一晩を過ごすんだって。なるべく早く助けてあげて』
「森か。浅いとはいえ、魔物が出ると厄介だな」
『馬車の荷台にはお姉ちゃんたちしかいないから、外が騒がしくなったら結界を張っておくよ』
「頼む」
お姉ちゃんたちに血生臭いことは見せたくないから、なるべく穏便に済ませてね。
『あとね、オレがいるの、子どもたちにバレちゃった』
「ルジェ、何をしたんだ……」
ウィオ、そんなあきれた顔で見ないでよ。今回はオレのせいじゃないって。
「なんでバレたんですか?」
『これは言っていいのか分からないんだけど』
「私は聞かないほうがいいですか?」
『それも分からないんだけど、姿を消しているオレが見える子がいるんだ』
秘密にしているのだったら勝手に話してはいけないと思うけれど、オレの名誉のために少しだけ。ごめんね。
「詳しく聞くのはやめておきます」
『それが今回の原因だよ』
「能力が狙われたのか」
『キャン』
なんで魔眼が必要なのかは分からないけど、ないと困る事態が起きているのだろう。
『ところで、副隊長さんは、今日はお休み?』
「一応任務です。ちびっ子とウィオラスが無茶をしないように」
『オレも?』
オレは冷静だって。それにウィオだっていつになくピリピリしているけど、副隊長さんに逆らう気はないように見える。
副隊長さんによると、ここにいるのは見覚えのあるお屋敷の警備の人たちと、縦ロールお嬢様のおうちである公爵家の私兵だ。国として騎士を派遣する気はないけど、ウィオが無茶すると困るので、副隊長さんがついてきたらしい。まあね。敵を無力化するだけならウィオがいれば十分だもんね。
『ひなは?』
「留守番です。ここに連れてくるわけにいきませんから」
『残念だね』
「今日のひな係が張り切っていましたよ」
一晩一緒に過ごせる降ってわいた幸運に、ひな係がよろこんでいるのが目に浮かぶよ。「パパがいないから一緒に寝ようね」くらいは言っていそうだ。
『じゃあオレは戻るけど、ウィオが来ているって分かるものある?』
「エウリーチェにこのハンカチを見せてくれ」
「待ってください。公爵家の私兵からも何かもらってきます」
『キャン』
それぞれの家の紋章の入ったメダルとハンカチをもらったので、お姉ちゃんの元へと帰ろう。
『早めに来てね』
「これから作戦を立てます。お嬢様方の安全は、ちびっこに任せていいですよね?」
『キャン!』
子どもたちの安全を守って大人しくしているから、オレがしびれを切らす前に来てね。
『クー、キュー、キャン』
「ルジェ? どうしたの?」
みんなの意識がこちらに向いたところで、荷台の出口に向かって歩きだす。これで、ちょっと出かけてくるというのは分かってもらえるだろう。
「外には見張りがいるの。危ないわ!」
『キャン』
大丈夫だよ。すぐ帰ってくるから、待っててね。
尻尾で返事をしてから透明になり、オレは荷台をおおう布のすき間から飛び降りた。
薄闇の中、ウィオの元へ急ぐと、空き地には五十人くらいの人がいた。向こうは二十人くらいだから、ちょっと戦力過多じゃない?
「ルジェ、エウリーチェは?」
『無事だよ。いま夕食の時間。ってことで、干し肉ちょうだい』
「……持ってきていない。エウリーチェはどうしている?」
え、オレのご飯ないの? そんなあ。お姉ちゃんたちとのやり取りで、すっかり食べるつもりの口になってるのに。
執事さんがオレのご飯を用意し忘れるなんて、やっぱり冷静じゃなかったんだなあ。
お屋敷が魔界になっていないか心配していたら、副隊長さんにつかまった。
「ちびっ子、この状況でまず最初にご飯って、和ませようとしてわざとですか? エウリーチェ様方はご無事ですよね?」
『無事だよ。いまは、パンをもらって食べてるよ。それを見たからお腹が空いちゃったの。なんかね、よく分からないけど、カミラって子に協力してほしいんだって。だから、子どもたちに危険はないよ』
じゃなきゃ、のんきにご飯を要求したりしないから。
丁寧に扱われているお姉ちゃんたちの現状を伝えようにも、魔眼のことに触れなければならない。オレが勝手に言っていいのか分からないから、中途半端な説明になってしまった。
「子爵令嬢が狙われたのに、公爵令嬢まで巻き込んだのか」
あの子は子爵家のお嬢様なのか。身分が上の友だちを巻き込んでしまって、今ごろ生きた心地がしないだろうなあ。
『犯人はこの国の人じゃないみたい』
「そうなのですか?」
『国外に逃げる気だし、三人のうちのどの子が狙いの子なのか、分かってなかったから』
「入念に計画された誘拐ではないということですか。どう対処していいのか、迷いますね」
予想外の事態にどうしていいか分からないのは、さらった側も同じなのかもしれない。貴族の女の子三人を連れて、長旅なんてできるはずがない。武力で無理やり言うことを聞かせようというほどの強硬さを感じないから、魔眼の子の体調を気にせずに先を急ぐというようなことをするとも思えないのだ。
『今日は森の浅いところに隠れて一晩を過ごすんだって。なるべく早く助けてあげて』
「森か。浅いとはいえ、魔物が出ると厄介だな」
『馬車の荷台にはお姉ちゃんたちしかいないから、外が騒がしくなったら結界を張っておくよ』
「頼む」
お姉ちゃんたちに血生臭いことは見せたくないから、なるべく穏便に済ませてね。
『あとね、オレがいるの、子どもたちにバレちゃった』
「ルジェ、何をしたんだ……」
ウィオ、そんなあきれた顔で見ないでよ。今回はオレのせいじゃないって。
「なんでバレたんですか?」
『これは言っていいのか分からないんだけど』
「私は聞かないほうがいいですか?」
『それも分からないんだけど、姿を消しているオレが見える子がいるんだ』
秘密にしているのだったら勝手に話してはいけないと思うけれど、オレの名誉のために少しだけ。ごめんね。
「詳しく聞くのはやめておきます」
『それが今回の原因だよ』
「能力が狙われたのか」
『キャン』
なんで魔眼が必要なのかは分からないけど、ないと困る事態が起きているのだろう。
『ところで、副隊長さんは、今日はお休み?』
「一応任務です。ちびっ子とウィオラスが無茶をしないように」
『オレも?』
オレは冷静だって。それにウィオだっていつになくピリピリしているけど、副隊長さんに逆らう気はないように見える。
副隊長さんによると、ここにいるのは見覚えのあるお屋敷の警備の人たちと、縦ロールお嬢様のおうちである公爵家の私兵だ。国として騎士を派遣する気はないけど、ウィオが無茶すると困るので、副隊長さんがついてきたらしい。まあね。敵を無力化するだけならウィオがいれば十分だもんね。
『ひなは?』
「留守番です。ここに連れてくるわけにいきませんから」
『残念だね』
「今日のひな係が張り切っていましたよ」
一晩一緒に過ごせる降ってわいた幸運に、ひな係がよろこんでいるのが目に浮かぶよ。「パパがいないから一緒に寝ようね」くらいは言っていそうだ。
『じゃあオレは戻るけど、ウィオが来ているって分かるものある?』
「エウリーチェにこのハンカチを見せてくれ」
「待ってください。公爵家の私兵からも何かもらってきます」
『キャン』
それぞれの家の紋章の入ったメダルとハンカチをもらったので、お姉ちゃんの元へと帰ろう。
『早めに来てね』
「これから作戦を立てます。お嬢様方の安全は、ちびっこに任せていいですよね?」
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