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学園編
107. 騎士団長さんのヒミツ
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『副隊長さん、貴族のお抱えになっちゃう?』
「いいえ。引退したら、学園で雇ってくれるのでしょう?」
『もちろん。でも、ますます周りがうるさくならない?』
「むしろ、学園の所属になれば、落ち着くと思いますよ」
オレのお膝元では、貴族たちも無茶はできないから、強引な勧誘もなくなるだろう、という予想だ。
「どうにもならなくなったら、近衛騎士として、陛下付きにするという案も出ている。そうすれば、下級貴族は近づけない」
『近衛騎士の制服も似合いそう!』
近衛のカチッとした制服の肩に鳥が止まってるのもいいよね。鳥だとスカーフはじゃまそうだから、指輪ならぬ足輪とか? 制服の装飾と合わせれば、おそろいだよね。
オレの場違いな感想にみんなが苦笑しているけど、素直にそう思ったんだもん。
だけど、ずっと魔物を相手にしてきた副隊長さんを、王宮の中に押し込めてしまうのは、戦力の損失ではあるよね。平たく言えば、もったいない。それに何より、本人は異動したくないようだ。
「宰相が事態の沈静化に乗り出したので、しばらくすれば収まるはずだ」
「宰相閣下が? どういう理由でですか? ルジェの正体を明かしての注意はできないでしょう」
「今回のことで、大義名分ができた」
『ん?』
今回というのは、ドラゴンのことかと思ったら、ひなのことだった。
「少し強引だが、騎士の使役獣を取り上げるのは国への反逆だ、と騎士団として抗議した」
『ほー』
「その抗議を使って、宰相が貴族たちを抑えるように動いている」
こじつけに聞こえるけど、そもそも強引に勧誘していること自体が問題なのだ。それも、オレの正体について言及できないために、表立って文句を言えないことを分かって、身分でごり押ししている。
騎士団に抗議されては、引き下がるしかないだろう。騎士団を敵に回せば、魔物が出ても第三部隊が遠征に来てくれない。
「フィニーを利用するような形になってしまって申し訳ない」
「必要なことだと分かっています」
ただ可愛いから受け入れたのではなく、利害が一致した結果だったとしても、ひなが大切にされているのは分かるから、オレに文句はないよ。
もしかして、騎士団長さんはあの短時間でそこまで考えて、副隊長さんに受け入れるように言ったのかな。だとしたら、実は仕事ができる人ってことだ。ウィオや部隊長さんに振り回されている人という印象しかなかったけど、騎士団のトップに登り詰めているのだから、ただの平凡な人ではないはずだよね。
よし、ここはお礼に、オレの極上な毛を堪能してもらおう。
なでるのが一段落した副隊長さんの膝から降りて、騎士団長さんが座るソファに向かう。思い返すと、今まで騎士団長さんになでてもらったことはあまりない。理由があるわけではなく、単純にタイミングが合わなくて機会がなかった。オレから肩に飛び乗ることはあっても、気安く触れられた記憶はない。だから、いきなり膝には乗らずに、横にお座りしてスタンバイ。
「ルジェ、何をしている?」
『副隊長さんとひなを助けてくれてありがとうっていう気持ちの表明。なでる?』
「いいのかな?」
『キャン』
よし。許可はもらった。前足を膝にかけ、嫌がられなかったので、そのままお腹に頭突きするように膝に乗り上げる。頭をすりつけると、背中をゆっくりなでてくれる。
最初に会った、まだオレがただの魔法が使える狐だと思われていたときから、騎士団長さんは優しい目で見てくれたから、きっと心根の優しい人だ。
「団長、顔が怖いですよ」
「うるさい。おまえたちが気軽になでていると聞いて、どれだけうらやましいと思っていたことか」
「じゃあ団長もいらっしゃればよかったのに」
「訓練場に来ていたと私が知るころには、すでに帰った後だ」
どうやら団長という仕事は、書類仕事や会議続きで忙しく、あまり現場には関わらないらしい。だから、訓練場に遊びに行っていいかというウィオのおうかがいを事前に承認していても、当日来ていることを知るのは帰った後のことが多いのだとか。
そんな事情を話しながらも、なでる手は止まらない。
『実は可愛いもの好き? 動物好き?』
「団長は動物好きだけど、動物には嫌われるんですよねー。フィニーちゃんもちょっと怖がっているし」
「やっぱり顔が怖いんじゃないですか?」
自分たちのトップ相手なのに、隊員たちがずいぶんと気軽に話すと驚いたが、ひなを引き取ってからこの三日、何度も第三部隊に顔を出すので、慣れたらしい。忙しい合間の息抜きと癒しに通っているんだろう。
『あー、たぶん魔力が怖いんだと思う。ひなが副隊長さんの魔力を気に入ったように、好き嫌いというか、苦手な魔力ってあるから』
「それはつまり、今後も嫌われる続けるということなのか……」
「団長、大丈夫ですよ。馬には大人気じゃないですか! 馬には好かれる魔力ってことですよ」
馬のきゅう舎に行くと、いつも乗っている馬以外も寄ってくるそうだ。魔力が好かれているというのもあるだろうけど、馬は賢い動物だから、群れのボスとして見ているのかもしれない。
騎士団長さんはむくわれないもふもふ派のようだ。馬なら触りたい放題なのだろうけど、小動物のもふもふとは違う。恋しくなったら、オレをもふもふするといいよ。
「いいえ。引退したら、学園で雇ってくれるのでしょう?」
『もちろん。でも、ますます周りがうるさくならない?』
「むしろ、学園の所属になれば、落ち着くと思いますよ」
オレのお膝元では、貴族たちも無茶はできないから、強引な勧誘もなくなるだろう、という予想だ。
「どうにもならなくなったら、近衛騎士として、陛下付きにするという案も出ている。そうすれば、下級貴族は近づけない」
『近衛騎士の制服も似合いそう!』
近衛のカチッとした制服の肩に鳥が止まってるのもいいよね。鳥だとスカーフはじゃまそうだから、指輪ならぬ足輪とか? 制服の装飾と合わせれば、おそろいだよね。
オレの場違いな感想にみんなが苦笑しているけど、素直にそう思ったんだもん。
だけど、ずっと魔物を相手にしてきた副隊長さんを、王宮の中に押し込めてしまうのは、戦力の損失ではあるよね。平たく言えば、もったいない。それに何より、本人は異動したくないようだ。
「宰相が事態の沈静化に乗り出したので、しばらくすれば収まるはずだ」
「宰相閣下が? どういう理由でですか? ルジェの正体を明かしての注意はできないでしょう」
「今回のことで、大義名分ができた」
『ん?』
今回というのは、ドラゴンのことかと思ったら、ひなのことだった。
「少し強引だが、騎士の使役獣を取り上げるのは国への反逆だ、と騎士団として抗議した」
『ほー』
「その抗議を使って、宰相が貴族たちを抑えるように動いている」
こじつけに聞こえるけど、そもそも強引に勧誘していること自体が問題なのだ。それも、オレの正体について言及できないために、表立って文句を言えないことを分かって、身分でごり押ししている。
騎士団に抗議されては、引き下がるしかないだろう。騎士団を敵に回せば、魔物が出ても第三部隊が遠征に来てくれない。
「フィニーを利用するような形になってしまって申し訳ない」
「必要なことだと分かっています」
ただ可愛いから受け入れたのではなく、利害が一致した結果だったとしても、ひなが大切にされているのは分かるから、オレに文句はないよ。
もしかして、騎士団長さんはあの短時間でそこまで考えて、副隊長さんに受け入れるように言ったのかな。だとしたら、実は仕事ができる人ってことだ。ウィオや部隊長さんに振り回されている人という印象しかなかったけど、騎士団のトップに登り詰めているのだから、ただの平凡な人ではないはずだよね。
よし、ここはお礼に、オレの極上な毛を堪能してもらおう。
なでるのが一段落した副隊長さんの膝から降りて、騎士団長さんが座るソファに向かう。思い返すと、今まで騎士団長さんになでてもらったことはあまりない。理由があるわけではなく、単純にタイミングが合わなくて機会がなかった。オレから肩に飛び乗ることはあっても、気安く触れられた記憶はない。だから、いきなり膝には乗らずに、横にお座りしてスタンバイ。
「ルジェ、何をしている?」
『副隊長さんとひなを助けてくれてありがとうっていう気持ちの表明。なでる?』
「いいのかな?」
『キャン』
よし。許可はもらった。前足を膝にかけ、嫌がられなかったので、そのままお腹に頭突きするように膝に乗り上げる。頭をすりつけると、背中をゆっくりなでてくれる。
最初に会った、まだオレがただの魔法が使える狐だと思われていたときから、騎士団長さんは優しい目で見てくれたから、きっと心根の優しい人だ。
「団長、顔が怖いですよ」
「うるさい。おまえたちが気軽になでていると聞いて、どれだけうらやましいと思っていたことか」
「じゃあ団長もいらっしゃればよかったのに」
「訓練場に来ていたと私が知るころには、すでに帰った後だ」
どうやら団長という仕事は、書類仕事や会議続きで忙しく、あまり現場には関わらないらしい。だから、訓練場に遊びに行っていいかというウィオのおうかがいを事前に承認していても、当日来ていることを知るのは帰った後のことが多いのだとか。
そんな事情を話しながらも、なでる手は止まらない。
『実は可愛いもの好き? 動物好き?』
「団長は動物好きだけど、動物には嫌われるんですよねー。フィニーちゃんもちょっと怖がっているし」
「やっぱり顔が怖いんじゃないですか?」
自分たちのトップ相手なのに、隊員たちがずいぶんと気軽に話すと驚いたが、ひなを引き取ってからこの三日、何度も第三部隊に顔を出すので、慣れたらしい。忙しい合間の息抜きと癒しに通っているんだろう。
『あー、たぶん魔力が怖いんだと思う。ひなが副隊長さんの魔力を気に入ったように、好き嫌いというか、苦手な魔力ってあるから』
「それはつまり、今後も嫌われる続けるということなのか……」
「団長、大丈夫ですよ。馬には大人気じゃないですか! 馬には好かれる魔力ってことですよ」
馬のきゅう舎に行くと、いつも乗っている馬以外も寄ってくるそうだ。魔力が好かれているというのもあるだろうけど、馬は賢い動物だから、群れのボスとして見ているのかもしれない。
騎士団長さんはむくわれないもふもふ派のようだ。馬なら触りたい放題なのだろうけど、小動物のもふもふとは違う。恋しくなったら、オレをもふもふするといいよ。
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