願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい

戌葉

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学園編

73. 棒倒しでもする?

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 山の尾根近くで夜を明かした翌朝、騎士に送ってもらうために、人間がたくさん集まっているところへと足を向けている。

『ウィオ、うれしそうだね。近いうちにまた会いに来よう』
「ああ」
『そんなに会いたかったんだったら、もっと早く、こっそり来ればよかったね』

 ドラゴンにちょっぴりジェラシーを感じちゃうけど、でもウィオがこんなにご機嫌なのは珍しいから、もっと早く来ればよかった。
 けれど、返されたウィオの言葉は、思いもよらぬものだった。

「確かに私も会いたかったが、ルジェがドラゴンと仲良くしているのがうれしかったんだ」
『え? なんで?』
「あのドラゴンは、私たちやリンたちよりも、ルジェのことを分かってくれるだろう?」
『んー?』

 ドラゴンはオレを崇拝してくれているけれど、理解とは違うと思う。ウィオの言いたいことが分からなくて、首をかしげてしまう。

「ルジェは、ドラゴンがからむと感情的になる」
『そ、そう?』
「怒ったり、すねたり、八つ当たりをしたり」
『……ごめん』
「そうじゃない。ドラゴンには気を許しているのだと、安心した。他の者にはしないだろう?」
『そう……かな?』

 言われてみれば、そうかもしれない。オレがドラゴンにしたことを、ウィオ以外の人間にしたら、神獣の機嫌を損ねたと大騒動になる。動物も、きっと二度とオレの前には現れないだろう。
 けれどドラゴンは、オレの怒りにも八つ当たりにも、いい意味で鈍感だ。だから、ドラゴンに対してなら大丈夫だと無意識に感じて、オレは甘えているのか。

 元人間として人と仲良くしているけれど、オレは人間ではない。食パンくんたちやお馬さんとも仲良くしているけれど、普通の動物ではない。そして、いまこのあたりに顕現している神獣はいない。そういう意味では、オレには仲間がいない。
 いま一番オレに近しい存在は、ドラゴンだ。仲間になれる可能性があるのは、ドラゴンだけだ。

 ウィオがそんなことを考えてくれていたなんて、オレの孤独を心配してくれていたなんて、まったく気づかなかった。

『ウィオ、ありがとう』

 ウィオは無言で首周りをなでてくれるから、オレもウィオの首筋にすりついて、感謝の気持ちを伝える。
 オレがウィオのことをいろいろ考えているように、ウィオもオレのことを考えてくれて、うれしい。

『今度会ったら、ウィオのつけた名前を呼んでいいよって伝えようかな』
「そうだな」

 温かい、けれどちょっぴりしんみりした雰囲気で、山を歩く。言葉がなくても思いが伝わる、そんな時間がとても優しい。
 いつかきっと、この冬山の光景をなつかしく思い出すことがあるんだろうな。


 けれどその余韻は、山を出てそこに集まっている人たちを見て、吹き飛んだ。
 そこには騎士だけではなく、見覚えのある馬車があった。あの王族が乗っていた馬車だ。うそでしょ?

「学園長、ドラゴンの元へ行ったのか?」
「殿下、おやめください!」
「ええい、邪魔をするな!」

 騎士たちが、こちらに近づこうとする、きらびやかな服を着た人を必死で止めている。
 前回会ったときはちゃんと見ていなかった問題の王族は、一番目のお兄さんより年上の、おじさんという言葉が似合いそうな人だ。王子って言葉で若い人を想像しちゃったけど、決めつけちゃダメだね。

『ウィオ、どうする?』
「彼らに任せよう」

 騎士さんの一人が、オレたちに近寄ってきて、来るときに乗せてもらった馬車へ乗るように勧めてくれる。
 よし、ここは逃げの一手だ。ややこしいことからは、遠ざかるに限る。

「学園長、もしやその背中のものは、ドラゴンの牙か? 見せてくれ!」
「殿下!」
「氷の騎士殿、早く馬車へ」
「そなたには神獣様の加護があるから不要だろう。その牙は私が活用しよう」

 なんだと? これは牙じゃなくて爪だけど、ドラゴンがオレのためにわざわざ伸ばしてまで、用意してくれたものだ。うろこの山の中に、途中で折れた爪も入っていた。おそらく何度も挑戦して、やっときれいに伸ばすことができた爪なのだ。
 それを横取りするなんて、許せない。しかも、オレの目の前で。なめるのも、いいかげんにしろ。

『ウゥゥーッ』
「ルジェ」
『止めないでよ、ウィオ』
「止めないが、できれば関係のない人は傷つけないでほしい」
『分かってる』

 狙いはただ一人、おじさん王子だ。オレをなめたこと、後悔しても遅いよ。
 ウィオの肩から飛び降りて、標的を見すえたまま、少しずつ近づいていく。ウィオと王子の間にいた騎士たちが自然と道を空けてくれるから、王子がよく見える。一歩、また一歩と近づくたびに、王子が後ずさっていくけど、目線は外さない。王子も、さすがにオレを怒らせたらマズいってことだけは、分かってるみたいだね。

 さあて、どうしようか。まずは雪だるまにしようか。それともかまくらに閉じ込めてしまおうか。
 王子まであと数歩。ひとまず足を雪に埋めて、逃げられないようにしよう。

 と、そのとき。王子が後方に、大きく吹っ飛んだ。
 ちょっと待って、今まさに雪に埋めようとしたところだったのに。何が起きた?

『御方にあだなすのは、おまえかーっ!』

 あー、来ちゃったのね。来ちゃダメって言うの、忘れたもんね。ここは住処のご近所だから、オレの怒りに気づいたドラゴンが飛んできて、その元凶をぶっ飛ばしちゃったのね。
 その気持ちはありがたいんだけど、このタイミングじゃなかったなあ。

 オレの前には、小さな雪山がとってもきれいな形でできている。
 その雪に埋めようとした王子は、離れた場所で、何もない地面に転がっている。
 オレがコントロールを誤ったみたいで、すっごく恥ずかしいよ。
 この雪の山、どうしよう。
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