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学園編
71. 涙のトッピング
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ドラゴンの寝床でゆっくり眠って迎えた翌朝。
朝ご飯を食べてから、ドラゴンと生贄以外の話をしよう。会わない間にお互いに何があったのかなど、久しぶりの友人に会ったときの会話だ。といってもドラゴンはこの山からほとんど動いていないので、オレの話になる。
ちなみに、生贄の子どもの様子は、昨夜こっそり見に行った。ドラゴンが小さい人間というから、小屋にいるのは小さな子どもだと思っていたけれど、実際にいたのは成人間近の少年だった。それも農作業でしっかりと筋肉のついたがっしりした体格の。おびえているかと思いきや、どうせドラゴンは来ないと割り切っていて、突然与えられた休みを満喫していた。時間になると、まるでノルマをこなすようにドラゴンに祈りをささげ、終わると小屋の中にある食料を食べてごろごろしている。手伝えと口うるさく言われないのがうれしいようで、本人に悲壮感がないことに安心したけど、同時に、この世界の生贄の選び方に疑問がわいたよね。
とりあえず危険がないように、小屋には結界を張って中の温度も快適にしてある。それから、さみしくないように、途中で見つけた動物を小屋に誘導しておいた。念のため、あの少年に食料として狩られそうになったら、逃げてねと伝えてある。
『御方の神気を二度感じました。何かあったのですが?』
『ウィオが子どもたちに勉強や魔法の使い方を教える学校を作ったから、開校式に姿を見せたんだ。二回目はオレの騎士団ができたから、お祝いに空を光らせてみた』
『ここからでも空へと散った神気が感じ取れました』
あのオーロラは傑作だったと思うんだ。また何かのときに出現させると思うから、いつかはドラゴンも見る機会があると思う。
『御方の騎士団というのは、人間ですか?』
『そうだよ』
『私も御方の騎士にしてください。全身全霊でお守りいたします!』
『却下』
その巨体でうろうろされたら目立つからダメ。それに、タイロンの王様がドラゴンの引っ越しを気にしているらしいから、ここで大人しくしてて。
そもそも、この山の見張りのためにいるのに、勝手に動いたらダメでしょう。神様にオレが怒られちゃうよ。
『では、私も御方の愛し子に魔法の使い方を習うことはできますでしょうか?』
『無理!』
人間がドラゴンに使い方教えることなんて、できるわけないでしょう。
そもそも、魔法の使い方なんて習わなくても使える魔法チートのくせに! オレは使えない攻撃魔法も使い放題の分際で、許せん!
『ガルルル』
『ヒッ! お許しを!』
「ルジェ、やめろ。ドラゴンがおびえている」
『だって、全属性の魔法が使えるんだよ? それなのに、ぜいたく!』
悔しいよう。オレも攻撃魔法使いたかったのに。山を一つなぎ払って、高笑いしてみたかったのに。
ウィオに背中をなでられ、なだめられているけど、うらやましい気持ちはなくならない。
いじけた気持ちを立て直すために、ウィオが出してくれた干し肉と、干し魚を食べよう。涙でちょっとしょっぱくなって、美味しいよ。しくしく、かじかじ。
そこにドラゴンが巣穴の奥から、何かをくわえて持ってきた。
『お、御方と愛し子のために集めたものです。なにとぞお納めください!』
「ほら、ルジェ、きれいな鱗があるぞ」
オレたちの目の前には、山のように積まれた鱗や、その他いろいろ。前回オレたちが帰って以降、落ちた鱗や折れた爪、珍しい魔物の素材を集めていたものを、オレの機嫌を取るために出してきたのだ。
『この爪は、愛し子の武器にどうですか?』
『……どうせオレの爪じゃ、矢じりにもならないもん。うわーん!』
長く伸びて少しカールしている爪は、オレの身体よりも大きい。対して、オレのちっちゃい爪では、矢じりにもならない。ドラゴンとのスペックの違いを見せ付けられて、悲しい。涙が止まらないよ、ふえ~ん。
「ルジェ、ドラゴンと自分を比べる必要はないだろう?」
『でもウィオはドラゴンにあこがれているよね、ぐすん』
ドラゴンはみんなのあこがれだ。ウィオだけじゃない。子どもたちも、フェゴの王子様も、あのお調子者の隊員だって、恐れながらもドラゴンにあこがれている。
「私は鱗よりもふわふわの毛が好きだ。手触りがすばらしい」
『キューン』
「肩に乗り、腕の中に納まる大きさがちょうどいい」
『クーン』
「子どもたちを気にかける優しさを持つルジェを尊敬している」
『キュウ』
「美味しいものを食べているときのルジェはとても幸せそうで、こちらまで笑顔になる」
『キャフ』
「ルジェは世界一可愛い飼い狐だ。そうだろう?」
『キャン!』
そうだよね。オレは、可愛い飼い狐を目指しているんだから、落ち込む必要なんてないよね。ドラゴンに会うとコンプレックスを刺激されるから、自分を見失うところだった。
神に連なる存在であるオレと、幻獣であるドラゴンの間には、埋められない差がある。それでも、人間に比べればオレに近い存在だから、なんとなく張り合ってしまって、冷静になれない。ファンタジーの世界で圧倒的な存在感を持つキャラクターが同じ世界にいることに、嫉妬してしまうのだ。
だけど、他人と比べて、ないものねだりをしてもしょうがない。せっかくみんなに愛されるもふもふとして生まれたんだ。自己肯定感高く、自信を持って、生きていこう。
オレは、可愛い飼い狐。キャオーン!
オレが機嫌を直したことで、ウィオもドラゴンもホッとした。
鱗の山の中から、きれいなものを探して、オレの前に並べてくれているから、いいものを探そう。
だけど、お土産にもらって帰っても、あげる相手がいないんだよなあ。お父さんたちは受け取ってくれなかったし、警備隊長さんもあの鱗は誰にも言わずに隠しているっぽい。
『そうだ、特別部隊へお土産としてあげようよ。護衛してくれたし』
「ダメだ。陛下と団長に報告できないだろう」
『キューン』
「だが、学科長たちに見せるくらいならいいだろう」
『キャン!』
学科長たちもドラゴンに興味津々だったもんね。じゃあ、とっておきのきれいな鱗を探そう。
朝ご飯を食べてから、ドラゴンと生贄以外の話をしよう。会わない間にお互いに何があったのかなど、久しぶりの友人に会ったときの会話だ。といってもドラゴンはこの山からほとんど動いていないので、オレの話になる。
ちなみに、生贄の子どもの様子は、昨夜こっそり見に行った。ドラゴンが小さい人間というから、小屋にいるのは小さな子どもだと思っていたけれど、実際にいたのは成人間近の少年だった。それも農作業でしっかりと筋肉のついたがっしりした体格の。おびえているかと思いきや、どうせドラゴンは来ないと割り切っていて、突然与えられた休みを満喫していた。時間になると、まるでノルマをこなすようにドラゴンに祈りをささげ、終わると小屋の中にある食料を食べてごろごろしている。手伝えと口うるさく言われないのがうれしいようで、本人に悲壮感がないことに安心したけど、同時に、この世界の生贄の選び方に疑問がわいたよね。
とりあえず危険がないように、小屋には結界を張って中の温度も快適にしてある。それから、さみしくないように、途中で見つけた動物を小屋に誘導しておいた。念のため、あの少年に食料として狩られそうになったら、逃げてねと伝えてある。
『御方の神気を二度感じました。何かあったのですが?』
『ウィオが子どもたちに勉強や魔法の使い方を教える学校を作ったから、開校式に姿を見せたんだ。二回目はオレの騎士団ができたから、お祝いに空を光らせてみた』
『ここからでも空へと散った神気が感じ取れました』
あのオーロラは傑作だったと思うんだ。また何かのときに出現させると思うから、いつかはドラゴンも見る機会があると思う。
『御方の騎士団というのは、人間ですか?』
『そうだよ』
『私も御方の騎士にしてください。全身全霊でお守りいたします!』
『却下』
その巨体でうろうろされたら目立つからダメ。それに、タイロンの王様がドラゴンの引っ越しを気にしているらしいから、ここで大人しくしてて。
そもそも、この山の見張りのためにいるのに、勝手に動いたらダメでしょう。神様にオレが怒られちゃうよ。
『では、私も御方の愛し子に魔法の使い方を習うことはできますでしょうか?』
『無理!』
人間がドラゴンに使い方教えることなんて、できるわけないでしょう。
そもそも、魔法の使い方なんて習わなくても使える魔法チートのくせに! オレは使えない攻撃魔法も使い放題の分際で、許せん!
『ガルルル』
『ヒッ! お許しを!』
「ルジェ、やめろ。ドラゴンがおびえている」
『だって、全属性の魔法が使えるんだよ? それなのに、ぜいたく!』
悔しいよう。オレも攻撃魔法使いたかったのに。山を一つなぎ払って、高笑いしてみたかったのに。
ウィオに背中をなでられ、なだめられているけど、うらやましい気持ちはなくならない。
いじけた気持ちを立て直すために、ウィオが出してくれた干し肉と、干し魚を食べよう。涙でちょっとしょっぱくなって、美味しいよ。しくしく、かじかじ。
そこにドラゴンが巣穴の奥から、何かをくわえて持ってきた。
『お、御方と愛し子のために集めたものです。なにとぞお納めください!』
「ほら、ルジェ、きれいな鱗があるぞ」
オレたちの目の前には、山のように積まれた鱗や、その他いろいろ。前回オレたちが帰って以降、落ちた鱗や折れた爪、珍しい魔物の素材を集めていたものを、オレの機嫌を取るために出してきたのだ。
『この爪は、愛し子の武器にどうですか?』
『……どうせオレの爪じゃ、矢じりにもならないもん。うわーん!』
長く伸びて少しカールしている爪は、オレの身体よりも大きい。対して、オレのちっちゃい爪では、矢じりにもならない。ドラゴンとのスペックの違いを見せ付けられて、悲しい。涙が止まらないよ、ふえ~ん。
「ルジェ、ドラゴンと自分を比べる必要はないだろう?」
『でもウィオはドラゴンにあこがれているよね、ぐすん』
ドラゴンはみんなのあこがれだ。ウィオだけじゃない。子どもたちも、フェゴの王子様も、あのお調子者の隊員だって、恐れながらもドラゴンにあこがれている。
「私は鱗よりもふわふわの毛が好きだ。手触りがすばらしい」
『キューン』
「肩に乗り、腕の中に納まる大きさがちょうどいい」
『クーン』
「子どもたちを気にかける優しさを持つルジェを尊敬している」
『キュウ』
「美味しいものを食べているときのルジェはとても幸せそうで、こちらまで笑顔になる」
『キャフ』
「ルジェは世界一可愛い飼い狐だ。そうだろう?」
『キャン!』
そうだよね。オレは、可愛い飼い狐を目指しているんだから、落ち込む必要なんてないよね。ドラゴンに会うとコンプレックスを刺激されるから、自分を見失うところだった。
神に連なる存在であるオレと、幻獣であるドラゴンの間には、埋められない差がある。それでも、人間に比べればオレに近い存在だから、なんとなく張り合ってしまって、冷静になれない。ファンタジーの世界で圧倒的な存在感を持つキャラクターが同じ世界にいることに、嫉妬してしまうのだ。
だけど、他人と比べて、ないものねだりをしてもしょうがない。せっかくみんなに愛されるもふもふとして生まれたんだ。自己肯定感高く、自信を持って、生きていこう。
オレは、可愛い飼い狐。キャオーン!
オレが機嫌を直したことで、ウィオもドラゴンもホッとした。
鱗の山の中から、きれいなものを探して、オレの前に並べてくれているから、いいものを探そう。
だけど、お土産にもらって帰っても、あげる相手がいないんだよなあ。お父さんたちは受け取ってくれなかったし、警備隊長さんもあの鱗は誰にも言わずに隠しているっぽい。
『そうだ、特別部隊へお土産としてあげようよ。護衛してくれたし』
「ダメだ。陛下と団長に報告できないだろう」
『キューン』
「だが、学科長たちに見せるくらいならいいだろう」
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学科長たちもドラゴンに興味津々だったもんね。じゃあ、とっておきのきれいな鱗を探そう。
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