願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい

戌葉

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学園編

68. 尻尾ふりふり

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 前に泊まった宿が一部屋空いていたそうなので、ひとまず今夜のご飯とベッドが確保できた。あわただしく移動してきたから、今夜は美味しいご飯を食べて、ぐっすり眠りたい。
 オレの出番は明日以降だから、あとの難しいことはウィオにお願いして、オレはのんびり遊んでいよう。

 食い倒れツアー中は、冒険者や宿で一緒になった人たちに、たくさんちやほやしてもらっていた。けれど、今回は出発してすぐにオレ目当てでからまれてしまったために、ウィオが近づいてくる人に警戒していて、気軽に遊んでもらうような雰囲気ではなかった。
 ここの警備隊は問題ないだろう。警備隊長さんにはドラゴンのうろこのプレゼントについてだれにも、騎士にも言っていないようなのだ。義理堅いねえ。お礼にこのすばらしい毛並みを堪能するといいよ。

 ウィオの向かいの席に座っている警備隊長さんの膝の上でなでられていると、宿の空きを確認に行った隊員が隣に座り、手を伸ばしてきた。

「狐くん、ドラゴンのこと呼べる? 俺も近くで見てみたいんだよね」
「ラディ、やめろ!」
「ルジェ、呼ぶなよ」

 オレの前足を持って変なポーズを取らせながら聞いてきたけど、これ以上の騒動はごめんだ。今回はこっそり山に入って、こっそり帰ってくるのだ。そんな残念そうな顔をされても、ほだされないよ。
 警備隊長さんが頭が痛いって顔をしながら隊員を止めているから、きっといつもこんな感じなんだろう。

 警備隊長さんになでられながら、お調子者の隊員と遊んでいると、騎士二人が到着した。出迎えのため、部屋にいた人が全員立ち上がったので、オレは警備隊長さんの腕の中だ。
 部屋に入ってきた騎士は、ウィオを見て、それから何かを探すように部屋の中を見回し、そしてオレを見つけて少し目を見張った。オレがウィオ以外の人間に抱っこされていることに驚いたんだろう。旅先だと、オレの正体を知らない人が多いから、人懐っこい使役獣としてよくあることなんだけど。とりあえず尻尾を振っておこう。
 何か言いたげにしていた騎士は、言葉を無理やり飲みこむことにしたようだ。ウィオに座るように言って自分も座り、自己紹介をした。

「氷の騎士殿、今回のツウォン訪問の目的をお聞かせ願いたいのだが」
「ドラゴンに会いに来ました。約束したので」
「そうですか。ちなみに、どうやってドラゴンのもとまで行くのか、うかがってもよろしいか?」

 ドラゴンのところまで行く、その方法を知りたいというよりも、冒険者が同じような方法が取れるのかを気にしているようだ。オレたちの後ろをこっそりつけた冒険者が、ドラゴンのもとにたどり着くのを警戒しているのだろう。今回も途中でドラゴンに迎えに来てもらうつもりだから、冒険者ではたどり着けないよ。安心して。

「その前に一つ。オルデキアの王都を出発してすぐに、タイロンの第三王子殿下から同行したいというご要望をいただきました」
「同行、ですか……?」
「街道に魔物が出たため、そのお返事はしないまま、ここまで来たのですが」
「……大変申し訳ございませんでした。その件は忘れてください。国を代表して謝罪いたします」

 騎士たちは、お互いに顔を見合わせ目くばせしたあと、顔を引きつらせながら上司のほうが答えた。平謝りしているから、どうやらあの王子の独断だったらしい。これは王宮に戻ったら盛大に怒られるやつだな。
 オレのほうをちらちらと見て反応をうかがっているけど、ウィオが気にしないなら、オレは何も言わないよ。オレには、副隊長さんに怒られた以外の実害はなかったからね。
 オレが気にしてないことに少しだけ表情をゆるめた騎士は、あらためてドラゴンのところに行く方法を質問をしている。そのあたりの話はウィオに任せよう。どうせ人間には真似できないんだから、言っても言わなくてもどっちでもいいよ。
 隣を見ると、お調子者の隊員がこっちを見ている。この状況に飽きているのはオレだけじゃなかったようなので、遊ぼう。その制服についている飾り、狩猟本能が刺激されるのか、引きちぎりたくなっちゃうんだ。ちゃいちゃい、かぷ。

 しばらく遊んでいると、オレのアンテナにひっかかるものが現れた。ぐんぐん街へと近づいてくる。この気配は、どう考えてもあいつだ。行くから待っててって言ったのに! あーもう、どうしよう。また怒られちゃう。
 このまま通り過ぎるなんていう奇跡が起きないかと様子をうかがっていると、警備隊員が部屋に駆け込んできた。

「大変です! ドラゴンがこちらに向かって飛んできています!」
「なんだと!?」

 慌てているため、声が裏返っている。また騒動になっちゃったじゃないか。オレのせいじゃないのに!

「ルジェ、呼んだのか?」
『呼んでないよ! ぬれ衣だよ!』

 どうしてあとちょっと待ってくれなかったの。歓迎の気持ちを表すために、家の門までじゃなくて、最寄り駅まで迎えに来てくれたって感じなのかもしれないけど、人の街に近づくと大騒動になるんだってば。

 建物の外へと飛び出した警備隊長さんは、上空を見上げたまま固まっている。オレを抱いていることも忘れているっぽいな。
 ドラゴンは上空を旋回しているだけで、降りてこようとはしていない。魔力も抑えているし、羽ばたきで起きる風も地上まで届いていないし、一応気を使ってくれてはいるようだ。
 かといって、このまま上空を旋回していると街の中がパニックになりそうだから、速やかにおうちに帰ってもらおう。

『あとで呼ぶから、帰ってー!』

 オレの声が届くと、分かったというように尻尾をふりふりしたあと、ドラゴンはすんなりと山へと向かって飛んでいった。
 尻尾を振るなんて、そんな可愛い仕草をされたら、怒れないじゃないか。
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