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学園編
67. 再会
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アチェーリとの国境の手前の街で、特別部隊の騎士たちとはお別れだ。遊んでくれた騎士とは、ネウラでまた会おうと約束して、オレたちだけで国境を越えた。
『もうすぐ毛刈りの街だね』
「あそこは通り過ぎよう。毛刈りに参加を求められると面倒だ」
断るだけなんだけど、能力を見込んで依頼してくれるのを断るのは、気が引ける。声をかけられないように、街に寄らないのが一番だ。それに冒険者と依頼を受ける受けないで押し問答になったら、オレの正体を知るギルド長の胃に穴が空いちゃう。春になれば食パンくんが来るから、待っててね。
アチェーリを足早に横断し、いよいよタイロンへと入る。
狐に会うためにドラゴンが人の街の近くに現れたといううわさが広まったので、オレたちはあれ以来タイロンに足を踏み入れていない。
入国する際に何か言われるかと身構えながら、国境を越える人の列に並ぶ。
「上級冒険者か。ドラゴン討伐に来たのではないだろうな?」
「違います。知り合いに会いに行きます」
「そうか、ならいい。最近多いからな」
うそは言っていない。知り合いのドラゴンに会いに行くけど、討伐じゃないから問題ないはず。
よその国から来た冒険者がドラゴンを怒らせた場合、被害が出るのもその後の対応をするのもこの国だ。だから、余計なことをされる前に排除したいのだろう。あの王族がドラゴンに会いたいというのは、やっぱり独断かな。
だけど、ドラゴン討伐に向かおうなんて、人間に勝てる相手じゃないのに、よくやるねえ。ドラゴンが目撃されたからだろうけど、やっぱりエリクサーの原料になると伝えられている生き血が目的かな。
『薬草の街はどうなったかな?』
「あの、子煩悩な食堂の冒険者か」
『そうそう。美味しいご飯と、魔女の薬師ギルド長さんと、かっこいい薬草専門のお姉さんたち』
「薬学科がタイロンとの共同研究をしたいと言っていたから、上手くいっているのかもしれないな」
オレが薬草探知狐としての地位を確立することになった依頼を受けた街は、薬師ギルドと冒険者ギルドで協力して、薬草採取をしようと計画していた。その薬師ギルド長は魔女の格好をしている愉快な女性だったし、見つけた薬草を採取してくれたお姉さんたちは志の高い冒険者だったから、上手くいっているといいなあ。治癒を司る神獣として、応援したい。帰りに寄れたら寄ってみよう。
でも今はまず、寄り道せずにドラゴンだ。
途中の街ではオレの大好物の小籠包っぽい料理もがまんして進み、ドラゴン村に一番近い街に着いた。
ここでドラゴンのことを聞いたときに、宿まで案内してくれた冒険者さんは元気かな。みんながドラゴン討伐に来たやっかいな冒険者として遠巻きにする中、唯一優しくしてくれた人だ。だから、鱗をプレゼントしたんだけど、受け取ってくれたかな。
そんなことを思い出しながら街に入ろうとしたところで、門番に止められてしまった。
「上級冒険者のウィオラスさんが来た場合、知らせるようにと騎士に言われているので、ここでお待ちいただけますか?」
「分かった」
前回もドラゴンのところから戻ってきたあとは、騎士に護衛されながら移動した。あれは周りの人間たちからオレを遠ざけるのが目的だったけど、今回も同じだろうか。王族に声をかけられたから、ウィオがちょっと警戒している。門の脇の建物の中に案内されるときに、お客様扱いだったから、多分大丈夫だとは思うけど。
もしドラゴンのところへ一緒に連れていけとか言われたら、そのときはタイロンの王宮までオレがドラゴンを連れていこう。それで、オレの尻尾でドラゴンの鼻先をこしょこしょすれば、きっとくしゃみが出て、王宮の屋根の一つや二つは吹き飛ぶに違いない。
しばらく待っていると、門番と同じ制服を着た人が部屋に入ってきたけど、見覚えがある。さっき思い出していた冒険者さんだ。
「久しぶりだ」
『キャン』
「実はこの街の警備隊の隊長なんだ。黙っていて悪かった」
「問題ない」
え、オレは全然気づいてなかったんだけど、もしかしてウィオは気づいていたの? だから問題ないの?
ウィオを見ると、興味ないって顔だ。これは気づいていなかったけど、気にしてもなかったから、問題ないってことっぽい。まあ冒険者さんあらため警備隊長さんが元気だったなら、なんでもいいや。
「それで、今回もドラゴンに会いたくてきたのか?」
「ドラゴンがオルデキアまで飛んできたからな」
「オルデキアに? またその狐に会いにか?」
どうやらこの街にはまだ、ドラゴンがオルデキアに現れたことは伝わっていないらしい。この街は、ドラゴンの住処から見るとオルデキアと反対側だから、飛んでいるところも見られていないのだろう。ドラゴンがオルデキアを訪れたことを初めて聞いたらしい警備隊長さんが、オレをしげしげと見ている。「この狐のどこがいいんだ?」って、失礼な。どの角度から見ても、可愛くて魅力的な狐でしょうに。
抗議してほしいのに、ウィオはオレの文句を無視して、人が集まっていることで不足しているだろう宿の心配をしている。その前に飼い狐の繊細な心を心配してよね。
「早めに今夜の宿を取りたい」
「あー、この街はあれから拡張されたんだ。騎士がどこに泊めるつもりなのか、ちょっと分からん」
『お風呂のある宿はできた?』
前にはなかったけど、お風呂のある宿ができたかも。期待してウィオに聞いてもらったけれど、庶民街にはなかった。なんでよ。新しく宿を作るなら、お風呂もつけようよ。
新しくできた貴族が泊まるための宿にはあるけど、オレたちは近づいてはいけないらしい。まあね、トラブルが起きるのが目に見えているから、仕方がない。
『だったら、前の宿がいい。あそこのご飯は美味しかった』
「ルジェが前の宿に泊まりたいと言っているんだが」
「部下に確認に行かせる」
やっぱりオレが王になって、宿にはお風呂をつけることって法律を作るべきかな。
神託を下してもらえるのが手っ取り早いけど、お風呂はどの神様の担当なんだろうか。
『もうすぐ毛刈りの街だね』
「あそこは通り過ぎよう。毛刈りに参加を求められると面倒だ」
断るだけなんだけど、能力を見込んで依頼してくれるのを断るのは、気が引ける。声をかけられないように、街に寄らないのが一番だ。それに冒険者と依頼を受ける受けないで押し問答になったら、オレの正体を知るギルド長の胃に穴が空いちゃう。春になれば食パンくんが来るから、待っててね。
アチェーリを足早に横断し、いよいよタイロンへと入る。
狐に会うためにドラゴンが人の街の近くに現れたといううわさが広まったので、オレたちはあれ以来タイロンに足を踏み入れていない。
入国する際に何か言われるかと身構えながら、国境を越える人の列に並ぶ。
「上級冒険者か。ドラゴン討伐に来たのではないだろうな?」
「違います。知り合いに会いに行きます」
「そうか、ならいい。最近多いからな」
うそは言っていない。知り合いのドラゴンに会いに行くけど、討伐じゃないから問題ないはず。
よその国から来た冒険者がドラゴンを怒らせた場合、被害が出るのもその後の対応をするのもこの国だ。だから、余計なことをされる前に排除したいのだろう。あの王族がドラゴンに会いたいというのは、やっぱり独断かな。
だけど、ドラゴン討伐に向かおうなんて、人間に勝てる相手じゃないのに、よくやるねえ。ドラゴンが目撃されたからだろうけど、やっぱりエリクサーの原料になると伝えられている生き血が目的かな。
『薬草の街はどうなったかな?』
「あの、子煩悩な食堂の冒険者か」
『そうそう。美味しいご飯と、魔女の薬師ギルド長さんと、かっこいい薬草専門のお姉さんたち』
「薬学科がタイロンとの共同研究をしたいと言っていたから、上手くいっているのかもしれないな」
オレが薬草探知狐としての地位を確立することになった依頼を受けた街は、薬師ギルドと冒険者ギルドで協力して、薬草採取をしようと計画していた。その薬師ギルド長は魔女の格好をしている愉快な女性だったし、見つけた薬草を採取してくれたお姉さんたちは志の高い冒険者だったから、上手くいっているといいなあ。治癒を司る神獣として、応援したい。帰りに寄れたら寄ってみよう。
でも今はまず、寄り道せずにドラゴンだ。
途中の街ではオレの大好物の小籠包っぽい料理もがまんして進み、ドラゴン村に一番近い街に着いた。
ここでドラゴンのことを聞いたときに、宿まで案内してくれた冒険者さんは元気かな。みんながドラゴン討伐に来たやっかいな冒険者として遠巻きにする中、唯一優しくしてくれた人だ。だから、鱗をプレゼントしたんだけど、受け取ってくれたかな。
そんなことを思い出しながら街に入ろうとしたところで、門番に止められてしまった。
「上級冒険者のウィオラスさんが来た場合、知らせるようにと騎士に言われているので、ここでお待ちいただけますか?」
「分かった」
前回もドラゴンのところから戻ってきたあとは、騎士に護衛されながら移動した。あれは周りの人間たちからオレを遠ざけるのが目的だったけど、今回も同じだろうか。王族に声をかけられたから、ウィオがちょっと警戒している。門の脇の建物の中に案内されるときに、お客様扱いだったから、多分大丈夫だとは思うけど。
もしドラゴンのところへ一緒に連れていけとか言われたら、そのときはタイロンの王宮までオレがドラゴンを連れていこう。それで、オレの尻尾でドラゴンの鼻先をこしょこしょすれば、きっとくしゃみが出て、王宮の屋根の一つや二つは吹き飛ぶに違いない。
しばらく待っていると、門番と同じ制服を着た人が部屋に入ってきたけど、見覚えがある。さっき思い出していた冒険者さんだ。
「久しぶりだ」
『キャン』
「実はこの街の警備隊の隊長なんだ。黙っていて悪かった」
「問題ない」
え、オレは全然気づいてなかったんだけど、もしかしてウィオは気づいていたの? だから問題ないの?
ウィオを見ると、興味ないって顔だ。これは気づいていなかったけど、気にしてもなかったから、問題ないってことっぽい。まあ冒険者さんあらため警備隊長さんが元気だったなら、なんでもいいや。
「それで、今回もドラゴンに会いたくてきたのか?」
「ドラゴンがオルデキアまで飛んできたからな」
「オルデキアに? またその狐に会いにか?」
どうやらこの街にはまだ、ドラゴンがオルデキアに現れたことは伝わっていないらしい。この街は、ドラゴンの住処から見るとオルデキアと反対側だから、飛んでいるところも見られていないのだろう。ドラゴンがオルデキアを訪れたことを初めて聞いたらしい警備隊長さんが、オレをしげしげと見ている。「この狐のどこがいいんだ?」って、失礼な。どの角度から見ても、可愛くて魅力的な狐でしょうに。
抗議してほしいのに、ウィオはオレの文句を無視して、人が集まっていることで不足しているだろう宿の心配をしている。その前に飼い狐の繊細な心を心配してよね。
「早めに今夜の宿を取りたい」
「あー、この街はあれから拡張されたんだ。騎士がどこに泊めるつもりなのか、ちょっと分からん」
『お風呂のある宿はできた?』
前にはなかったけど、お風呂のある宿ができたかも。期待してウィオに聞いてもらったけれど、庶民街にはなかった。なんでよ。新しく宿を作るなら、お風呂もつけようよ。
新しくできた貴族が泊まるための宿にはあるけど、オレたちは近づいてはいけないらしい。まあね、トラブルが起きるのが目に見えているから、仕方がない。
『だったら、前の宿がいい。あそこのご飯は美味しかった』
「ルジェが前の宿に泊まりたいと言っているんだが」
「部下に確認に行かせる」
やっぱりオレが王になって、宿にはお風呂をつけることって法律を作るべきかな。
神託を下してもらえるのが手っ取り早いけど、お風呂はどの神様の担当なんだろうか。
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