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学園編
58. いつもの質問
しおりを挟む お屋敷に戻ると、興奮した子どもたちが待ちかまえていた。
「叔父上、帰りにドラゴンは見えましたか?」
「いや、すでに王都からは去ったようだ」
「見たかったなあ」
やっぱりドラゴンは子どもたちに人気だねえ。もしも攻撃されたときの恐ろしさよりも、大きな身体と魔法へのあこがれが強いんだろう。
ドラゴンはどんな姿かと話している子どもたちを微笑ましく思いながら見ていたら、こちらに話が飛んできた。
「ルジェ、ドラゴンが来たのに、ねてたなんてもったいない」
「だけどリュカ、ルジェなんか一口で食べられちゃうよ」
「じゃあ、ねててよかったのかな」
え? もしかしてあのときのオレ、眠っていたことになってるの?
避難するかしないかという騒動になっていたときに、ウィオの腕の中で動かないとなれば、寝ていると思われて当然か。
だけど、子どもたちにそう思われているってことは、あの場にいた他の国の王族にも、同じように思われてるよね。
ああ、またなめられちゃう。ドラゴンにも動じなかったと、見直してくれるといいんだけど。
お屋敷の中は落ち着いている。教会からの帰り道、馬車の窓から見た他のお屋敷は、門番が警戒していたり、バタバタ人が走り回っていたり、いつもと様子が違っていたけど、ここはほぼいつもどおりだ。この家の人たちは、ドラゴンよりもオレのほうが強いと知っているのだから、そこまで恐ろしくは感じていないのだろう。
ウィオはこのあと晩餐会だけど、オレは用事がないので、子どもたちと遊ぼう。
ガウンを脱がせてもらって、先に庭へ向かっていった子どもたちを追いかけようとしたところで、来客だと止められた。着替えるために離れへと行ったウィオも呼び戻されて、一緒に玄関へと向かうと、近衛団長さんが来ていた。
王様の代理でオレに質問する、いつものやつだね。
「神獣様、今回のドラゴンの飛来について、何かご存じでしょうか?」
『オレは寝ていたから分からないよ』
子どもたちが勘違いしたように、騒動の間は眠っていたということにしよう。きっと近衛団長さんだって信じていないだろうけど。
すっとぼけるオレを見て、ウィオがため息をつきながら補足してくれる。
「また訪ねると約束したのに行かなかったために、新年の任命式の際に神気を感じて飛んできたのでしょう。ですが、ルジェには会えないとあきらめて戻ったのではないでしょうか」
「攻撃の意思はなかったと思ってよさそうですね」
オレがそれに答えないと分かっているのか、近衛団長さんは同意を求めるのではなく、ただ独り言のようにつぶやいた。
オレがドラゴンに帰れと言ったことを、部隊長さんや近衛団長さんに教えるのはかまわないんだけど、王様に伝えるのは違う気がするのだ。そうすると、ウィオが言ったように、オレが寝ているのであきらめて帰っていったと言うしかない。
それにあのドラゴンが実際のところ、人間をどう思っているのかは聞いていない。攻撃しようとは思っていないだろうけど、共存しようとも思っていないはずだ。
『お城は大騒動になってるよね?』
「まあ……」
苦笑いしているから、きっと王様を避難させたり、騒ぐ人たちをなだめたり、大変だったんだろうなあ。何度も言うけど、オレのせいじゃないからね。
だけどお城では、オレの想像とはちょっと違うことで、騒動になっていた。
「タイロンの王子殿下が、ドラゴンがオルデキアに移住するのではないかと心配されているのです」
『なんで?』
引っ越しの下見に来たと思ったのかな? でもそれだったら、場所のない王都じゃなくて、どこかの山を目指すはずだよね?
なんだかよく分からないなと首をかしげていたら、その仕草が面白かったのか、近衛団長さんも一緒に首をかしげて笑っている。
「人とは欲深いものなのですよ。それはともかく、とてもお可愛らしいですねえ」
『キュウ?』
文脈がつながらなくて全く意味が分からないけど、近衛団長さんがご機嫌なので、困ったことにはなっていないのだろう。聞いても答えてもらえなさそうだ。
にこにこしたまま帰る近衛団長さんを尻尾を振って見送ってから、ウィオに質問だ。
『さっきの欲深いっていうの、分かった?』
「だいたい想像はつく」
タイロン王国は、あの山にドラゴンが住むことをずっと知っていて、けれどただの伝説として、知らないふりをしてきた。「寝た子を起こすな」とか「触らぬ神にたたりなし」という理由だ。あの山で大人しくしている分には、タイロンに被害はない。
けれど、オレが訪ねていったことでドラゴンが動き、そのドラゴン目当てにたくさんの旅人が集まるようになって、タイロン王国に欲が出た。
今は、あのドラゴン村の近くの街を拡張して、貴族が泊まることのできる高級宿も作っているそうだ。だから、ドラゴンにはずっとあの山にいてほしい。もし移住されてしまうと、街の工事がすべて無駄になってしまう。
「神獣がいるだけでは満足できず、ドラゴンまで奪うつもりなのか、とでも言われているのだろう」
『え、オレって別にオルデキアの所属じゃないよね?』
「学園を国内に作ったことで、オルデキアが上手く神獣を引き留めたと言われているのは知っている」
そういえば、ウィオが学園を作ると言ったときに、他の国からも勧誘があったと聞いた。ネウラは国からは独立した自治領だけど、実質オルデキアの一部だ。だから、オレを手に入れたかった周囲の国としては、さらにドラゴンまで独り占めするな、という気持ちなのだ。
『なんだかあの街や村に行きづらいなあ』
「変わっているだろうな」
オレがドラゴンに会えるようにと応援してくれた冒険者さん、元気かなあ。
「叔父上、帰りにドラゴンは見えましたか?」
「いや、すでに王都からは去ったようだ」
「見たかったなあ」
やっぱりドラゴンは子どもたちに人気だねえ。もしも攻撃されたときの恐ろしさよりも、大きな身体と魔法へのあこがれが強いんだろう。
ドラゴンはどんな姿かと話している子どもたちを微笑ましく思いながら見ていたら、こちらに話が飛んできた。
「ルジェ、ドラゴンが来たのに、ねてたなんてもったいない」
「だけどリュカ、ルジェなんか一口で食べられちゃうよ」
「じゃあ、ねててよかったのかな」
え? もしかしてあのときのオレ、眠っていたことになってるの?
避難するかしないかという騒動になっていたときに、ウィオの腕の中で動かないとなれば、寝ていると思われて当然か。
だけど、子どもたちにそう思われているってことは、あの場にいた他の国の王族にも、同じように思われてるよね。
ああ、またなめられちゃう。ドラゴンにも動じなかったと、見直してくれるといいんだけど。
お屋敷の中は落ち着いている。教会からの帰り道、馬車の窓から見た他のお屋敷は、門番が警戒していたり、バタバタ人が走り回っていたり、いつもと様子が違っていたけど、ここはほぼいつもどおりだ。この家の人たちは、ドラゴンよりもオレのほうが強いと知っているのだから、そこまで恐ろしくは感じていないのだろう。
ウィオはこのあと晩餐会だけど、オレは用事がないので、子どもたちと遊ぼう。
ガウンを脱がせてもらって、先に庭へ向かっていった子どもたちを追いかけようとしたところで、来客だと止められた。着替えるために離れへと行ったウィオも呼び戻されて、一緒に玄関へと向かうと、近衛団長さんが来ていた。
王様の代理でオレに質問する、いつものやつだね。
「神獣様、今回のドラゴンの飛来について、何かご存じでしょうか?」
『オレは寝ていたから分からないよ』
子どもたちが勘違いしたように、騒動の間は眠っていたということにしよう。きっと近衛団長さんだって信じていないだろうけど。
すっとぼけるオレを見て、ウィオがため息をつきながら補足してくれる。
「また訪ねると約束したのに行かなかったために、新年の任命式の際に神気を感じて飛んできたのでしょう。ですが、ルジェには会えないとあきらめて戻ったのではないでしょうか」
「攻撃の意思はなかったと思ってよさそうですね」
オレがそれに答えないと分かっているのか、近衛団長さんは同意を求めるのではなく、ただ独り言のようにつぶやいた。
オレがドラゴンに帰れと言ったことを、部隊長さんや近衛団長さんに教えるのはかまわないんだけど、王様に伝えるのは違う気がするのだ。そうすると、ウィオが言ったように、オレが寝ているのであきらめて帰っていったと言うしかない。
それにあのドラゴンが実際のところ、人間をどう思っているのかは聞いていない。攻撃しようとは思っていないだろうけど、共存しようとも思っていないはずだ。
『お城は大騒動になってるよね?』
「まあ……」
苦笑いしているから、きっと王様を避難させたり、騒ぐ人たちをなだめたり、大変だったんだろうなあ。何度も言うけど、オレのせいじゃないからね。
だけどお城では、オレの想像とはちょっと違うことで、騒動になっていた。
「タイロンの王子殿下が、ドラゴンがオルデキアに移住するのではないかと心配されているのです」
『なんで?』
引っ越しの下見に来たと思ったのかな? でもそれだったら、場所のない王都じゃなくて、どこかの山を目指すはずだよね?
なんだかよく分からないなと首をかしげていたら、その仕草が面白かったのか、近衛団長さんも一緒に首をかしげて笑っている。
「人とは欲深いものなのですよ。それはともかく、とてもお可愛らしいですねえ」
『キュウ?』
文脈がつながらなくて全く意味が分からないけど、近衛団長さんがご機嫌なので、困ったことにはなっていないのだろう。聞いても答えてもらえなさそうだ。
にこにこしたまま帰る近衛団長さんを尻尾を振って見送ってから、ウィオに質問だ。
『さっきの欲深いっていうの、分かった?』
「だいたい想像はつく」
タイロン王国は、あの山にドラゴンが住むことをずっと知っていて、けれどただの伝説として、知らないふりをしてきた。「寝た子を起こすな」とか「触らぬ神にたたりなし」という理由だ。あの山で大人しくしている分には、タイロンに被害はない。
けれど、オレが訪ねていったことでドラゴンが動き、そのドラゴン目当てにたくさんの旅人が集まるようになって、タイロン王国に欲が出た。
今は、あのドラゴン村の近くの街を拡張して、貴族が泊まることのできる高級宿も作っているそうだ。だから、ドラゴンにはずっとあの山にいてほしい。もし移住されてしまうと、街の工事がすべて無駄になってしまう。
「神獣がいるだけでは満足できず、ドラゴンまで奪うつもりなのか、とでも言われているのだろう」
『え、オレって別にオルデキアの所属じゃないよね?』
「学園を国内に作ったことで、オルデキアが上手く神獣を引き留めたと言われているのは知っている」
そういえば、ウィオが学園を作ると言ったときに、他の国からも勧誘があったと聞いた。ネウラは国からは独立した自治領だけど、実質オルデキアの一部だ。だから、オレを手に入れたかった周囲の国としては、さらにドラゴンまで独り占めするな、という気持ちなのだ。
『なんだかあの街や村に行きづらいなあ』
「変わっているだろうな」
オレがドラゴンに会えるようにと応援してくれた冒険者さん、元気かなあ。
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