願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい

戌葉

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学園編

56. 後始末

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 ちょっぴりうなだれながら聖堂の中に戻ると、どういうことかとウィオに詰め寄ろうとする神官たちを、部隊長さんたちが押し返しているところだった。タイロンの小さな村にドラゴンが現れたときにオレたちがいたことが、神官たちには知られているようだ。

『ただいま。帰したよ』
「帰ったそうです」

 気づかれないようにウィオの腕の中の雪の人形を消してなり替わると、ウィオがそっとオレの背中をなでてくれた。
 ウィオはドラゴンが帰ったことを部隊長さんだけに聞こえる小さな声で伝えたけれど、しばらくすれば外にいる警備の人たちから伝わる。そうすれば、この騒動も収まるだろう。
 ウィオの肩に飛び乗って周囲を見回すと、オレが出ていく前とほとんど同じところに、花嫁さんと腕を組んだまま立っているお兄さんと目が合った。花嫁さんと話しながら聖堂内の騒ぎを苦笑いで見ているけれど、怖がってはいない。お父さんたちは、周りの貴族に落ち着きましょう、と声をかけている。
 前のほうの席にいた人たちがいなくなっているのは、王族が避難したからだろう。だけど逃げると言ってもどこに逃げるのかな。ドラゴンならお城くらいは簡単に壊せるはずだから、逃げるところなんてない気もする。護衛の人たちの苦労を思うと、オレまで胃が痛くなりそうだ。
 結婚式は一番重要な誓いも終わっているので、このまま終了することになった。

 教会の親族控室へと連れられてきたオレは、お父さんたちによる事情聴取の真っ最中。
 子どもたちはお屋敷へと帰されたけど、大人たちは全員集合している。入り口には部隊長さんたち特別部隊の騎士が立って、神官たちを中に入れないように止めてくれている。

「ルジェくん、ドラゴンはなんで王都に来たのかな?」
『オレに会いに来たみたい』
「どうして今日なの?」
『新年のオーロラに神気を感じたらしくて』
「あれからもう一月はたっているのに?」

 そうなのだ。そこはさすが長命種というべきか、ちょっと前が数百年前なのと同じで、オレの神気を感じて重い腰を上げるまでに一か月かかったのだ。ドラゴンとしてはすぐに行動を移したつもりらしい。
 オーロラのすぐ後なら、オレのせいで何かいつもと違うことが起きないかと注意していたので、王都に近づかれる前に気づけたのに。
 それよりも、まず最初に謝らなければならない相手がいる。

『お兄さん、ごめんね。それから、お姫様にせっかくの結婚式を台無しにしてごめんなさいって伝えて』
「ルジェくんのせいじゃないけど、伝えておくよ。ありがとう」
『この後は予定どおり?』
「ドラゴンの脅威きょういは去ったと、各国の王族の方々が納得してくださるなら、だろうねえ」
『オレの名前を出していいよ?』
「それは、最後の手段かなあ」

 ドラゴンが神獣に会いに来たとか、ドラゴンに攻撃の意思はないとか、そういうのを伝えるのはよくないだろうと、お父さんとお兄さんたちが話し合っている。特に今は他の国の王族もいるのだから、慎重にもなる。
 本当に、なんでこのタイミングで来ちゃったのよ。起きてしまったことはもう取り消せないけど、今日じゃなければ、と思ってしまう。

「ルジェは、すぐにドラゴンのことろに行ったほうがいいんじゃないか?」
『あのね、ウィオも一緒に来てねって言われて、分かったって言っちゃった』
「……」

 ウィオだけでなく、お父さんたちも無言になってしまった。どうしてウィオも一緒にと言ったのかは分からないけど、もしかしてウィオの使役獣になるのを、まだあきらめていないのかな。

「ウィオラス、明日の朝、ルジェくんと一緒に出発しなさい」
「ですが父上、学園の後期の始まりに間に合いません。ルジェが行けばドラゴンも納得するはずです」
「約束は守らなければ。学園は学科長たちに任せればいいだろう」

 ウィオと一緒なら、まずはタイロンのドラゴン村まで行って、そこから山の中へ踏み入るしかない。
 オルデキア側で、どこかドラゴンに迎えに来てもらえるところはあるだろうか。

『夜の闇に紛れてドラゴンに迎えに来てもらえそうな広いところないかな?』
「ルジェくん。人間の都合で申し訳ないんだけど、それはやめてほしい。ドラゴンはちょっと刺激が強すぎるんだ」
『キュゥ』

 インドア派のドラゴンだけど、人にとっては脅威であることは分かる。あのとき、ドラゴンが地上に降りてきていたら、教会は潰れただろう。
 けれど、広い草原なら問題ないかなと思ったオレは、甘かったようだ。前に気軽に送ってもらって、フェゴに被害が出たから、タクシー代わりに使うのはやめようと思ったのを、うっかり忘れていた。また魔物がパニックを起こして逃げ惑うようなことになれば、人の生活にも影響が出てしまう。

 人の生活圏に近づくときは、魔力を抑えるように言ったのを守ってくれたので、今日のように上空を飛んでいただけなら、ほとんど魔物に影響はないはずだけど、地上に降りればそうもいかない。
 それに夜とは言っても、月明りがあるとドラゴンを見られる可能性もある。そうなると、飛ぶ魔物が攻めてきたと、勘違いされるかもしれない。
 どちらにせよ、人間のそばにドラゴンを近づければ、混乱が起きる。大人しく、タイロンまで行って、山を登るしかなさそうだ。

『ウィオ、ごめん』
「ルジェのせいじゃない。ドラゴンに会いに行こう」
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