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学園編
51. 不審な冒険者
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結婚式の参列者は、最低限に絞ってある。オレも出席するということで、参列希望者が殺到することが目に見えているからだ。
花嫁が王族ということで、マトゥオーソ王国からは第二王子が来る。そして、お姫様と今注目の自治領の領主の結婚式ということで、近隣諸国からも王族が来る。けれど、マトゥオーソが第二王子にしたことで、他の国も王様とか未来の王様である王太子とか、そういう偉い人は来ない。第二王子という微妙な人選は、おそらく他の国から偉い人が来ないようにという、マトゥオーソの王様の配慮なんだと思う。
そして今回の結婚式では、「使役獣の同伴は式のみ許可する」というお触れが早々に出された。これは、晩餐会にオレは参加しない、ということを周知するためだ。
上流階級っぽい行事と美味しいご飯を逃すのは惜しいけど、オレが出ると主役そっちのけの騒動になってしまうから、仕方ない。どうせならダンスも踊ってみたかったんだけどなあ。音楽に合わせてステップを踏んで、尻尾をふりふりするのなら、オレにだってできる。そこにお母さんたちがこだわりにこだわったガウンを羽織れば、優雅な狐が出来上がったはず。
それに、どうせなら結婚式でリングドッグならぬ、リングフォックスをやってみたかった。ウィオの結婚式があれば、張り切ってやるのになあ。
『お父さん、ちょっとはお休みできてる?』
「ルジェくん、ありがとう。準備はだいたい済んだから、来賓の方々が到着されるまでは、少しゆっくりできるよ」
久しぶりにお屋敷で夕食を取った後にサロンでのんびりしているお父さんのお膝に乗ってなでてもらっている。
オレがきっかけとなった部隊長さんの異動騒動からずっと忙しくしているお父さんが、過労で倒れてしまわないか心配だよ。
「こうしてルジェくんをなでて、美味しいポトゥテルルの料理も食べて、明日からまた頑張れるよ」
『食パンくんにありがとうって伝えておくね』
「いいお友だちができてよかったね」
『キャン』
飼い主さんがあまりにも貴族にびびっているから、お父さんたちと顔を合わせたことはないけれど、採ってきてくれたキノコを使った料理はお父さんたちにも出されている。一部は今後のために乾燥させているらしいし、食パンくんのおかげで長く楽しめそうだ。
そのことに感謝して、お母さんが食パンくんの新しい首輪やスカーフやリュックをせっせと新調していることは、まだ飼い主さんには知らせていない。わざわざ知らせて、もっとびびらせる必要はないよね。
結婚式が近づいてきたころ、森から帰ってきた冒険者たちから、気になる話を聞いた。
「ギルドに、どっかの貴族がいたぞ。冒険者の格好だったが、氷の騎士様と同じ感じがしたから、あれは絶対貴族だ」
「この国に来るのは初めてだって言ってたから、やっぱり神獣様目当てだろうな」
「たぬたぬに興味を持っていたが、まさか連れていかれないよな?」
キノコの買い取りのためにギルドに寄ると、国外の貴族っぽい冒険者がいたらしい。
新年のオーロラのうわさを聞いてきたのか、それとも、神獣の眷属と一部で思われている大福くんを見に来たのか。見るだけならいいけれど、連れて帰ると言われたら、ギルドは対抗できるんだろうか。
『大福くん、連れていかれちゃう?』
「それはない。たぬたぬは少し変則的だが、それでも正式に契約している使役獣だ。それを取り上げるようなことを、ギルドが許すはずもない」
「だが相手は他国の貴族だぞ?」
「そんな暴挙はこの国も許しはしない」
大福くんの契約相手がギルドという今までにないものなので、ちょっと心配だけど、ウィオが言うなら大丈夫なんだろう。
「リンちゃんが狙われたりしないか? 俺はアチェーリの人間だし……」
今日はギルドに入ったところで、その貴族の存在に気づいたので、食パンくんたちはすぐにギルドの建物から出たので見られていないそうだ。いつも一緒に依頼を受けていることを知っているから、買取は代理でしてもらえたけれど、指名依頼を受けるためには、食パンくんたちが受付に行くしかない。そのときにもし会ったら、食パンくんを譲れと言われるかもしれない。オレもかつてマトゥオーソの貴族の子どもに渡すように言われたことがあるから、これは使役獣を持つ冒険者のあるあるだ。
そのときに、いつもはアチェーリで活動している食パンくんを、この国のギルドが守ってくれるか心配になるのは、仕方がない。オレの友だちと認識されている食パンくんは、ギルド長さんが何をおいても守ってくれると思うけどね。
「次にギルドに行くときは、一緒に行こう」
「兄さん、忙しいのに悪い。ありがとう」
「気にするな。ポトゥテルルをもらって、こちらも感謝している」
『キャン!』
美味しいキノコのためでもある。オレも行こう。そして、張り切って威嚇しよう。ガオー。
ということで、久しぶりにやってきたギルド。入ってすぐに冒険者たちがいつものように近寄ってきた。
「お、狐、久しぶりだな」
「今日はわんこと一緒に依頼を受けるのか?」
「わんことおそろいの首輪じゃないか。可愛いな」
うん、オレの人気は健在だね。食パンくんと大福くんの人気に負けていなくてよかった。
ところで、うわさの貴族って今日は来ていないのかな?
「他国の貴族と思われる冒険者が来たと聞いたが」
「今日は来ていないが、あれは元騎士だろうな。戦って勝てる気がしなかった」
「上級ランクらしいぞ」
へえ。ウィオみたいな冒険者が他の国にもいるのか。なんで冒険者をしているのかちょっと興味があるから見てみたい。どんな人かな。
食パンくんたちが依頼に行ってもしばらくここで待っててみようかと思いながら受付のカウンターに飛び乗ると、あちこちから手が伸びてきた。
「俺になでてほしかったのか。よしよし」
「違うわよ。今日こそギルドの子になってくれる決心がついたんだよね、狐くん?」
「たぬたぬに会いたいんじゃないか? たぬたぬを連れてきてくれよ」
みんな、自分勝手にいいように解釈しているけど、全部不正解。
でも大福くんには会いたいから連れてきてくれるとうれしいな。
え? 朝ごはんを食べたら、寝てる? 本来狸は夜行性だから、仕方がない。そのまま寝させてあげてね。
花嫁が王族ということで、マトゥオーソ王国からは第二王子が来る。そして、お姫様と今注目の自治領の領主の結婚式ということで、近隣諸国からも王族が来る。けれど、マトゥオーソが第二王子にしたことで、他の国も王様とか未来の王様である王太子とか、そういう偉い人は来ない。第二王子という微妙な人選は、おそらく他の国から偉い人が来ないようにという、マトゥオーソの王様の配慮なんだと思う。
そして今回の結婚式では、「使役獣の同伴は式のみ許可する」というお触れが早々に出された。これは、晩餐会にオレは参加しない、ということを周知するためだ。
上流階級っぽい行事と美味しいご飯を逃すのは惜しいけど、オレが出ると主役そっちのけの騒動になってしまうから、仕方ない。どうせならダンスも踊ってみたかったんだけどなあ。音楽に合わせてステップを踏んで、尻尾をふりふりするのなら、オレにだってできる。そこにお母さんたちがこだわりにこだわったガウンを羽織れば、優雅な狐が出来上がったはず。
それに、どうせなら結婚式でリングドッグならぬ、リングフォックスをやってみたかった。ウィオの結婚式があれば、張り切ってやるのになあ。
『お父さん、ちょっとはお休みできてる?』
「ルジェくん、ありがとう。準備はだいたい済んだから、来賓の方々が到着されるまでは、少しゆっくりできるよ」
久しぶりにお屋敷で夕食を取った後にサロンでのんびりしているお父さんのお膝に乗ってなでてもらっている。
オレがきっかけとなった部隊長さんの異動騒動からずっと忙しくしているお父さんが、過労で倒れてしまわないか心配だよ。
「こうしてルジェくんをなでて、美味しいポトゥテルルの料理も食べて、明日からまた頑張れるよ」
『食パンくんにありがとうって伝えておくね』
「いいお友だちができてよかったね」
『キャン』
飼い主さんがあまりにも貴族にびびっているから、お父さんたちと顔を合わせたことはないけれど、採ってきてくれたキノコを使った料理はお父さんたちにも出されている。一部は今後のために乾燥させているらしいし、食パンくんのおかげで長く楽しめそうだ。
そのことに感謝して、お母さんが食パンくんの新しい首輪やスカーフやリュックをせっせと新調していることは、まだ飼い主さんには知らせていない。わざわざ知らせて、もっとびびらせる必要はないよね。
結婚式が近づいてきたころ、森から帰ってきた冒険者たちから、気になる話を聞いた。
「ギルドに、どっかの貴族がいたぞ。冒険者の格好だったが、氷の騎士様と同じ感じがしたから、あれは絶対貴族だ」
「この国に来るのは初めてだって言ってたから、やっぱり神獣様目当てだろうな」
「たぬたぬに興味を持っていたが、まさか連れていかれないよな?」
キノコの買い取りのためにギルドに寄ると、国外の貴族っぽい冒険者がいたらしい。
新年のオーロラのうわさを聞いてきたのか、それとも、神獣の眷属と一部で思われている大福くんを見に来たのか。見るだけならいいけれど、連れて帰ると言われたら、ギルドは対抗できるんだろうか。
『大福くん、連れていかれちゃう?』
「それはない。たぬたぬは少し変則的だが、それでも正式に契約している使役獣だ。それを取り上げるようなことを、ギルドが許すはずもない」
「だが相手は他国の貴族だぞ?」
「そんな暴挙はこの国も許しはしない」
大福くんの契約相手がギルドという今までにないものなので、ちょっと心配だけど、ウィオが言うなら大丈夫なんだろう。
「リンちゃんが狙われたりしないか? 俺はアチェーリの人間だし……」
今日はギルドに入ったところで、その貴族の存在に気づいたので、食パンくんたちはすぐにギルドの建物から出たので見られていないそうだ。いつも一緒に依頼を受けていることを知っているから、買取は代理でしてもらえたけれど、指名依頼を受けるためには、食パンくんたちが受付に行くしかない。そのときにもし会ったら、食パンくんを譲れと言われるかもしれない。オレもかつてマトゥオーソの貴族の子どもに渡すように言われたことがあるから、これは使役獣を持つ冒険者のあるあるだ。
そのときに、いつもはアチェーリで活動している食パンくんを、この国のギルドが守ってくれるか心配になるのは、仕方がない。オレの友だちと認識されている食パンくんは、ギルド長さんが何をおいても守ってくれると思うけどね。
「次にギルドに行くときは、一緒に行こう」
「兄さん、忙しいのに悪い。ありがとう」
「気にするな。ポトゥテルルをもらって、こちらも感謝している」
『キャン!』
美味しいキノコのためでもある。オレも行こう。そして、張り切って威嚇しよう。ガオー。
ということで、久しぶりにやってきたギルド。入ってすぐに冒険者たちがいつものように近寄ってきた。
「お、狐、久しぶりだな」
「今日はわんこと一緒に依頼を受けるのか?」
「わんことおそろいの首輪じゃないか。可愛いな」
うん、オレの人気は健在だね。食パンくんと大福くんの人気に負けていなくてよかった。
ところで、うわさの貴族って今日は来ていないのかな?
「他国の貴族と思われる冒険者が来たと聞いたが」
「今日は来ていないが、あれは元騎士だろうな。戦って勝てる気がしなかった」
「上級ランクらしいぞ」
へえ。ウィオみたいな冒険者が他の国にもいるのか。なんで冒険者をしているのかちょっと興味があるから見てみたい。どんな人かな。
食パンくんたちが依頼に行ってもしばらくここで待っててみようかと思いながら受付のカウンターに飛び乗ると、あちこちから手が伸びてきた。
「俺になでてほしかったのか。よしよし」
「違うわよ。今日こそギルドの子になってくれる決心がついたんだよね、狐くん?」
「たぬたぬに会いたいんじゃないか? たぬたぬを連れてきてくれよ」
みんな、自分勝手にいいように解釈しているけど、全部不正解。
でも大福くんには会いたいから連れてきてくれるとうれしいな。
え? 朝ごはんを食べたら、寝てる? 本来狸は夜行性だから、仕方がない。そのまま寝させてあげてね。
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