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学園編
40. 来客
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新年の行事も落ち着いて、お父さんたちの仕事が通常モードになったころ、お屋敷にお客さんが来た。
「ジーク様とリン様がいらっしゃいました」
『キャン!』
食い倒れツアー中にアチェーリで出会った使役獣仲間の食パンくんが、飼い主さんと一緒に遊びに来てくれた。冬の間はオルデキアにいるから遊びにきてねと誘ったのに、今まで一度しか来てくれなかったのだ。
食パンくんは飼い主さんの腕を抜け出すと、オレに体当たりしてきた。うんうん、うれしいのは分かるから、落ち着こうね。飼い主さんがあわてているよ。でも前よりも毛並みがきれいだね。飼い主さんに洗ってもらってるんだね。
「リンちゃんがごめん。あのさ、泊まってた宿を追い出されちゃったから、その、泊めてもらえるか?」
「宿など取らずに、最初から来てくれてよかったのに」
「いや、そう簡単にこれるところじゃないから」
追い出されたって穏やかじゃないけど、何かあったのかと思ったらオレのせいだった。
王都に宿を取って、前回来たときに知り合った冒険者たちと一緒に依頼を受けていたそうだ。けれど、任命式でのオーロラ演出を知った人たちが王都に集まってきたために部屋が足りず、冒険者は宿を追い出されてしまったらしい。冒険者は野宿になれているだろうって。
「ギルドが訓練場を宿泊のために開けてくれてるんだが、狭いからおまえは侯爵家に行けと言われてしまって……」
「最近はネウラにいることもあるが、気にせず来てくれていい」
そんな遠慮しなくていいのに。まあでも、オレも高級宿にビビっていたから、気持ちは分かるよ。
だけど、オーロラがそんな事態を招いていたとは、ちょっと申し訳ない。年明けの人の移動と合わせて、予想を上回る人が集まってしまったのだろう。
「紹介する。セスだ。ルジェの世話をしてくれている。ジークとリンのことも、セスに頼むから、いつでも来てくれ」
「どうも」
「よろしくお願いいたします。さっそくですが、リン様にお風呂に入っていただいてもよろしいですか?」
『キューン』
『大丈夫だよ。オレも一緒だから』
まずはお風呂だよね。
食パンくんたちには、前回と同じ、オレたちが使っている離れの客間に泊まってもらう。お風呂は一つしかないけど、順番に使えばいい。前回来たときも、執事さんに入れてもらっていたから大丈夫だろう。
『ねえ、泊まるとこがないなら、他の冒険者にも来てもらえば? お部屋余ってるよね』
「そうだな。セス、シェリスに確認してみてくれ」
離れは俺たちの好きに使っていいと言われているけど、いままで食パンくんと飼い主さん以外の人を招いたことはなかった。
でもオレのせいで、冒険者たちの宿がなくなったなら、せめて食パンくんと一緒に依頼を受けた冒険者たちには泊まってもらいたい。それに飼い主さんがお屋敷の豪華さに気後れしているから、仲間がいたほうがいいだろう。
お風呂の準備ができるまで、最近はどうしていたのか、聞いてみよう。
「いつからオルデキアに?」
「冬前に山で薬草採取をして、そのままこっちに来たんだ。その、リンちゃんが……」
『ワンワン、ワフン!』
『干し肉が終わっちゃったから、ちょうだいって』
ちょうど同じ時期に、山の向こうとこっちで薬草採取をしていたらしい。お仕事を終えたところで、干し肉が食べたいからオルデキアに行こうと、食パンくんがおねだりしたんだろう。
前回遊びに来てくれたときにたくさん渡したけど、少しずつ食べていたのかな。
「セスに頼んで、用意してもらう」
「なんか、ごめん」
「ルジェの友だちだ。気にするな」
『キャン』
そうだよ。冒険者の使役獣仲間は、まだ食パンくんしかいないんだから、オレの大切なお友だちだよ。
「ギルドの白い狸には会ったか?」
「ああ、たぬたぬな。真っ白で可愛いな。リンちゃんには負けるが」
「あの狸も干し肉が気に入っている」
大福くんは正式にギルドの所属になったけど、まだ名前は決まっていない。だけど「たぬたぬ」がそのまま正式名になるかもしれない。
「なあ兄さん、花火? あれすごいな。めっちゃきれいだった。兄さんはあれを作ってるとこの校長なんだってな」
「ああ」
「あの後の光、あれってやっぱり神獣様なのか?」
「らしいな」
「やったー! 帰ったら自慢しよう。リンちゃん、よかったねー。長生きできそうだねー」
『ワン!』
そんな御利益はないけど、うれしそうで何よりだ。
食パンくんのブルブルで泡や水をかけられながらも、一緒のお風呂はなんとか終わった。食パンくんはあわれっぽい鳴き声で助けを求めていたけど、たまに飼い主さんに洗われているそうで、前回よりは落ち着いていたそうだ。
オレも簡単に洗ってもらって、飼い主さんもお風呂に入って、きれいになると心も晴れやかだ。
しなしなになっていた食パンがふんわりと焼き上がるように、お世話係さんのブラッシングでふんふわの毛を取り戻した食パンくんはつやつやで、美味しそう。明日の朝食にはハチミツトースト食べたいな。じゅるる。
お風呂を終えてご機嫌で客間に戻ると、部屋の中からにぎやかな声が聞こえている。入ると、その声がさらに大きくなった。
「ジーク、ありがとな! お前のおかげで、俺たちも貴族の屋敷を体験できる」
「お、わんこ、きれいになったなあ」
「旨そうになってる」
前回、食パンくんと一緒に薬草採取の依頼を受けた冒険者たちが、執事さんに案内されて、ちょうど到着したところだった。仕事が早いねえ。
「狐、久しぶりだなあ。元気だったか?」
「俺たちよりもいい暮らししやがって」
「いつも旨いもん食ってんだろう」
「今日は狐と同じもん食えるのか?」
「いやいや、俺たち払えないぞ」
返事をする隙もないくらい好き勝手にしゃべっている。でもそれでこそ冒険者って感じだ。スフラルの屋台を思い出すなあ。地元の冒険者たちと宴会で盛り上がったあの屋台広場を。
だけど、オレをなでるのは却下。洗ったばっかりだからダメ。触りたかったら、まずお風呂入ってきて。
「ジーク様とリン様がいらっしゃいました」
『キャン!』
食い倒れツアー中にアチェーリで出会った使役獣仲間の食パンくんが、飼い主さんと一緒に遊びに来てくれた。冬の間はオルデキアにいるから遊びにきてねと誘ったのに、今まで一度しか来てくれなかったのだ。
食パンくんは飼い主さんの腕を抜け出すと、オレに体当たりしてきた。うんうん、うれしいのは分かるから、落ち着こうね。飼い主さんがあわてているよ。でも前よりも毛並みがきれいだね。飼い主さんに洗ってもらってるんだね。
「リンちゃんがごめん。あのさ、泊まってた宿を追い出されちゃったから、その、泊めてもらえるか?」
「宿など取らずに、最初から来てくれてよかったのに」
「いや、そう簡単にこれるところじゃないから」
追い出されたって穏やかじゃないけど、何かあったのかと思ったらオレのせいだった。
王都に宿を取って、前回来たときに知り合った冒険者たちと一緒に依頼を受けていたそうだ。けれど、任命式でのオーロラ演出を知った人たちが王都に集まってきたために部屋が足りず、冒険者は宿を追い出されてしまったらしい。冒険者は野宿になれているだろうって。
「ギルドが訓練場を宿泊のために開けてくれてるんだが、狭いからおまえは侯爵家に行けと言われてしまって……」
「最近はネウラにいることもあるが、気にせず来てくれていい」
そんな遠慮しなくていいのに。まあでも、オレも高級宿にビビっていたから、気持ちは分かるよ。
だけど、オーロラがそんな事態を招いていたとは、ちょっと申し訳ない。年明けの人の移動と合わせて、予想を上回る人が集まってしまったのだろう。
「紹介する。セスだ。ルジェの世話をしてくれている。ジークとリンのことも、セスに頼むから、いつでも来てくれ」
「どうも」
「よろしくお願いいたします。さっそくですが、リン様にお風呂に入っていただいてもよろしいですか?」
『キューン』
『大丈夫だよ。オレも一緒だから』
まずはお風呂だよね。
食パンくんたちには、前回と同じ、オレたちが使っている離れの客間に泊まってもらう。お風呂は一つしかないけど、順番に使えばいい。前回来たときも、執事さんに入れてもらっていたから大丈夫だろう。
『ねえ、泊まるとこがないなら、他の冒険者にも来てもらえば? お部屋余ってるよね』
「そうだな。セス、シェリスに確認してみてくれ」
離れは俺たちの好きに使っていいと言われているけど、いままで食パンくんと飼い主さん以外の人を招いたことはなかった。
でもオレのせいで、冒険者たちの宿がなくなったなら、せめて食パンくんと一緒に依頼を受けた冒険者たちには泊まってもらいたい。それに飼い主さんがお屋敷の豪華さに気後れしているから、仲間がいたほうがいいだろう。
お風呂の準備ができるまで、最近はどうしていたのか、聞いてみよう。
「いつからオルデキアに?」
「冬前に山で薬草採取をして、そのままこっちに来たんだ。その、リンちゃんが……」
『ワンワン、ワフン!』
『干し肉が終わっちゃったから、ちょうだいって』
ちょうど同じ時期に、山の向こうとこっちで薬草採取をしていたらしい。お仕事を終えたところで、干し肉が食べたいからオルデキアに行こうと、食パンくんがおねだりしたんだろう。
前回遊びに来てくれたときにたくさん渡したけど、少しずつ食べていたのかな。
「セスに頼んで、用意してもらう」
「なんか、ごめん」
「ルジェの友だちだ。気にするな」
『キャン』
そうだよ。冒険者の使役獣仲間は、まだ食パンくんしかいないんだから、オレの大切なお友だちだよ。
「ギルドの白い狸には会ったか?」
「ああ、たぬたぬな。真っ白で可愛いな。リンちゃんには負けるが」
「あの狸も干し肉が気に入っている」
大福くんは正式にギルドの所属になったけど、まだ名前は決まっていない。だけど「たぬたぬ」がそのまま正式名になるかもしれない。
「なあ兄さん、花火? あれすごいな。めっちゃきれいだった。兄さんはあれを作ってるとこの校長なんだってな」
「ああ」
「あの後の光、あれってやっぱり神獣様なのか?」
「らしいな」
「やったー! 帰ったら自慢しよう。リンちゃん、よかったねー。長生きできそうだねー」
『ワン!』
そんな御利益はないけど、うれしそうで何よりだ。
食パンくんのブルブルで泡や水をかけられながらも、一緒のお風呂はなんとか終わった。食パンくんはあわれっぽい鳴き声で助けを求めていたけど、たまに飼い主さんに洗われているそうで、前回よりは落ち着いていたそうだ。
オレも簡単に洗ってもらって、飼い主さんもお風呂に入って、きれいになると心も晴れやかだ。
しなしなになっていた食パンがふんわりと焼き上がるように、お世話係さんのブラッシングでふんふわの毛を取り戻した食パンくんはつやつやで、美味しそう。明日の朝食にはハチミツトースト食べたいな。じゅるる。
お風呂を終えてご機嫌で客間に戻ると、部屋の中からにぎやかな声が聞こえている。入ると、その声がさらに大きくなった。
「ジーク、ありがとな! お前のおかげで、俺たちも貴族の屋敷を体験できる」
「お、わんこ、きれいになったなあ」
「旨そうになってる」
前回、食パンくんと一緒に薬草採取の依頼を受けた冒険者たちが、執事さんに案内されて、ちょうど到着したところだった。仕事が早いねえ。
「狐、久しぶりだなあ。元気だったか?」
「俺たちよりもいい暮らししやがって」
「いつも旨いもん食ってんだろう」
「今日は狐と同じもん食えるのか?」
「いやいや、俺たち払えないぞ」
返事をする隙もないくらい好き勝手にしゃべっている。でもそれでこそ冒険者って感じだ。スフラルの屋台を思い出すなあ。地元の冒険者たちと宴会で盛り上がったあの屋台広場を。
だけど、オレをなでるのは却下。洗ったばっかりだからダメ。触りたかったら、まずお風呂入ってきて。
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