願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい

戌葉

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学園編

34. 大福くんのおうち

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 オレはウィオの問いかけにちょっと機嫌を損ねたので、お世話係さんの肩に避難だ。

「セス、ルジェは大人しくしているか?」
「使役獣同士の交流とお食事をお楽しみになっていらっしゃいます」

 ちゃんと大人しくしていたのに、わざわざお世話係さんにまで確認するなんて、失礼しちゃう。
 会場の隅に追いやられたから、ここでとっても楽しんでますよー。ご飯が美味しいからいいもん。いーっだ。
 牙をチラ見せしてから、ぷいっと横を向いたオレを、王様とウィオの警護のために控えている、近衛団長さんと部隊長さんが笑ってる。
 なんで騒動を起こす前提なのか、小一時間ほど問いただしたい。もっともやり始めたらすぐに飽きちゃうんだろうけど。
 オレはそんなに騒動ばっかり起こしていないはずだ。飼い狐を信用しないなんて、飼い主失格だよ。

「ルジェ、帰るか? まだ食べるか?」
『まだ食べる』
「そうか。だったら私もここにいる」
『ウィオ、どうしたの?』
「社交は苦手だ」

 何かあったのかと部隊長さんを見たら、騎士たちの壁の向こうからウィオに熱い視線を送るドレスのお嬢さんたちに目をやった。なるほど。夜会にまったく出てこないウィオに浴びせかけられる、お嫁さんにしてください攻撃に疲れちゃったのか。それでもちゃんとあいさつしないといけない相手にはしてきたんだろう。
 仕方がない。怒りは静めて、癒してあげよう。飼い主のメンタルケアは飼い狐の仕事だ。
 ウィオの肩に飛び移って、首筋にすりよる。苦手なこと頑張ったの、偉いよ。オレの毛で癒やされるといいよ。すりすり。その感触に、ウィオがくすぐったいと小さく声を上げて笑った。それを驚いたように、特別部隊の騎士たちが見ているから、きっと昔のウィオは騎士団でずーっと仏頂面だったに違いない。

 ということで、一気に人口密度の上がった使役獣用お食事処。
 王様はまだ声をかける相手がいるとかで、宰相さんに呼ばれて、名残惜しそうに大福くんから手を離して去っていった。あとで兎さんに浮気したって怒られないといいね。
 同じタイミングで統括ギルド長もどこかに行っちゃったけど、王都のギルド長は大福くんを抱っこしたままだ。
 王様がそばにいたから、空気のように気配を消して微動だにしなかった魔術師さんと受付係さんは、大きく息を吐きだした。

「緊張したー。ギルド長、こんなの聞いていません!」
「私だって聞いていない。ギルドの白い狸を見たいと言われてしまったんだ」

 ギルドの内紛が始まってるけど、食べ物から視線を離さない大福くんが、そろそろしびれを切らしそうだよ。
 けれど、ギルド長さんがウィオと話し始めたので、大福くんのご飯はもう少し先になりそう。

「学園長、ブローはこのまま冒険者ギルドで面倒を見ようと思っています」
「ルジェ、ブローにどうしたいか聞いてくれ」
『大福くん、旅じゃなくて、このままギルドで面倒見てもらう?』
『きゅーんきゃん!(ここがいい!)』
『これは今日だけだよ』
『きゅぅ』

 いろんな種類の美味しい料理をたらふく食べて、とってもご機嫌な大福くんの言う「ここ」は「王宮」だ。さらに言えば、「夜会」だ。ここに住めば、毎日こんな食事ができると思っている。
 まあギルドよりはいい食生活になるだろうけど、中には意地悪な人もいるだろう王宮と、冒険者に可愛がられるギルド、どっちが大福くんにとって幸せなんだろう。
 それに、王様には猫可愛がりしている兎さんがいる。あのわがままお嬢様が、大福くんのことを受け入れてくれるだろうか。大福くんが自分より小さな兎さんにけられたり尻尾をかじられたりして、悲鳴を上げる未来が見えるのは、オレに予知能力が芽生えたからじゃないだろう。
 大福くんの優先順位をちゃんと聞いて、通訳してあげよう。
 
『美味しいご飯が食べられるなら、どこでもいいって』
「……そうなのか」
『今のギルドでの生活には満足しているみたい。多分、旅に行かないといろんなご飯を食べられないと思ってたんじゃないかな。景色が変わるのは楽しいみたいだけど』

 大福くんが旅を続けたいと言ったのは、いろんなところに行きたいわけではなくて、いろんなご飯が食べたいだけだと思う。森から出て、それでいろんなご飯が食べられるようになったから、旅を望んだのだろう。
 ウィオがオレの言葉を伝えてくれたけど、ギルド長さんは迷わずギルドで面倒を見ると言い切った。

「旅は、ギルド職員の出張に連れていきましょう。商会の護衛に面倒を見てもらうことも考えたのですが……」
『キューン?』
「今さらギルドから出すと、冒険者たちが暴動を起こしそうで」

 あー。俺たちのアイドルを取り上げるなってことか。大福くん、愛されてるねえ。
 それに、食いしん坊なのが知れ渡ったのか、最近は貴族のお屋敷での土魔法の依頼を受けると、終わったあとにいろんな美味しい料理をごちそうしてもらえるらしい。だったら、王宮の料理が恋しくて家出するなんてことにはならなさそうだ。
 これで、大福くんの住むところが決まった。仮の住まいが本住まいになっただけだけど。

『そうだ、鷹さん、手紙を運ぶ鳥の使役獣を探しているから、もしなりたいって子がいたら、教えてね』
『キッ』

 学園と王都の間の手紙を運んでくれる鳥の使役獣が見つかるといいな。そうしたら、マダム先生に契約してもらおう。生徒たちが使役獣を持つなら、マダム先生も持っていたほうがいいよね。

 こうして、最初でおそらく最後の、使役獣の夜会は、つつがなく終わった。多分。
 裏でどんな騒動があったのかは知らない。予想以上にたくさん食べちゃったのか、品薄になった料理コーナーを見て、バタバタと走り回っている足音が聞こえていたけど、きっと気のせいだ。大福くんが口の中に食べものを詰めて、リスみたいになっていたのも気のせいだ。王様のあいさつにみんな注目しなきゃいけなかったのに、気づかずずっともぐもぐしていたのも気のせいだ。オレの正体を知る人は、神獣だからしょうがないと言い、オレの正体を知らない人は、使役獣だからしょうがないと大目に見てくれたらしい。

 美味しい料理を全種類食べて、気に入ったものはお代わりして、大福くんはお土産にお持ち帰りまでもらって、お魚は全部鷹さんのものになって、とっても楽しい夜になったよ。
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