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学園編
33. 使役獣の夜会
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「ルジェ様、最初はどのお料理がよろしいですか?」
『薄味のものを、端っこから順番で』
「ここにあるものは、すべてルジェ様のために薄味ですよ」
なんと、この一角はオレのために用意された料理らしい。わーい。だったら全部食べなきゃね。調理人さんの努力の結晶を、しっかりと味わわないと。いただきまーす。もぐもぐ。うまうま。
「ルジェ様、いかがですか?」
『美味しい! お世話係さん、次のものをお願いします!』
さすが王宮。もちろん、オレの好みを知り尽くした料理長さんには負けちゃうけど、味付け以外の火のとおり具合とか、素材の合わせ方とかは最高だ。
まだ夜会は始まっていないとか、誰もご飯を食べている人はいないとか、そういうことには気づかないフリだ。オレは獣だからね。待ては気の向いたときしか出来ないんだ。もぐもぐ。
全部美味しくいただくために、ちょっとずつにしよう。それで気に入ったものは二周目でたくさん食べればいいのだ。次はあの一角をちょっとずつ取ってください!
「狐くんだ。そっか、氷の騎士様はネウラの学園長だから招かれてるのね。今日も可愛いマントね」
『キャン』
『きゅーん』
声をかけられたから誰かと思ったら、ギルドの受付係と、その腕に抱かれている大福くんだった。統括長と王都のギルド長が冒険者ギルドの代表として、ついでに話題の白い狸も招かれたそうだ。
「たぬたぬ、美味しいご飯がたくさんあるよ」
『きゃん』
「おや、本当に使役獣の食事も用意されているのですね」
『鷹さん!』
『キュイ』
「今日はヒョードルを連れて出席するようにと魔術師長から言われたのですが、使役獣の夜会ですね」
魔術師さんと鷹さんも登場だ。本当に使役獣の夜会が開かれているけど、多分オレの参加をごまかすためなんだろう。なんとか他の使役獣の中に紛れ込ませようという、涙ぐましい努力が垣間見えるよ。
ところで、鷹さんは人間の食べ物を食べるんだろうか。
「ヒョードルは、人間の食べ物も多少は食べますが、魚が大好物です」
「あの端っこにある魚は、そちらの鷹のご飯でしたか。たぬたぬ、あれはダメだよ。あ、冒険者ギルドで面倒を見ているたぬたぬと、受付のソーニャです」
「魔術塔のイシュマです。うわさの白い狸ですね」
使役獣の契約主同士のあいさつが始まっている。
でも、よかった。ここでヘビや虫が置かれていたら、ちょっと腰が引けている受付係さんだけじゃなく、オレも逃げていたかも。生きてるならいいんだけど。いや、生き餌もちょっと無理かも。
「みなさま、お料理を少しずつ盛りましたので、お召し上がりください」
『食べよう!』
オレたちがあいさつを交わしている間に、お世話係さんが三匹分の料理をお皿に取って、低いテーブルの上に置いてくれた。このテーブルは、オレたちが床で食べなくていいように用意されている。
お皿には、オレたちでも食べやすいように、いろんな料理を小さく固めて、まばらに盛ってある。おかげでとっても食べやすい。さすが執事さんに鍛えられただけあるね。そのうちの一つをぺろっと口に入れて、もぐもぐすると、ほのかなお魚の甘みが口の中に広がる。これはお魚のソテーを食べやすくほぐしてくれたものかな。うまうま。
鷹さんは、やっぱり生のお魚のほうが好きなようで、お皿にきれいに盛られた料理には手を付けず、丸のままの魚を突っついている。
大福くんは、目の前に出されるものをすべて平らげているので、どれが気に入っているのか分からない。
『大福くん、美味しい?』
『きゃん』
それはよかったけど、もうちょっと落ち着いて食べて。周りにたくさんこぼれているから。
オレたちに話しかけようとする人間は、すべて特別部隊の騎士に止められている。白い騎士服の壁の向こうから人間がのぞき込んでいるのは気づいているけど、ご飯のじゃまだから気づかないフリだ。大福くんは美味しいものに夢中で、まったく気にもしていない。鷹さんだけが落ち着かなさそうだ。
「ヒョードル、手出しはさせませんから」
『大丈夫だよ。この白い騎士服の人たちが守ってくれるから』
鷹さんが緊張しているのは、魔術師さんの緊張を感じ取っているからだ。王族や貴族がたくさんいるこの会場で、鷹さんに目を付けられて取り上げられるんじゃないかと、魔術師さんが警戒している。
でも大丈夫だよ。そんなことすれば、オレの怒りを買う。それが分かっているから、何があっても王様が助けてくれる。
そんなことを考えていたら、白い壁が割れて、王様が登場した。
「使役獣の食べものは足りているか?」
「……はい、陛下」
魔術師さんが周りを見回してから、気まずそうに返事をした。
ここにいる人間は、おそらく使用人枠になるお世話係さんと、ギルド職員と、魔術師さんだ。となると、答えるのは一番身分が高い魔術師さんになる。オレの飼い主であるウィオがいればよかったんだけど、いなくてごめんね。
「その、なでてもいいだろうか」
「陛下、もちろんです」
王様がなでたいと言ったのは、オレじゃなくて大福くんだ。そしてその要求に即座に返事をしたのは、王様の後ろにいる冒険者ギルドの統括長だ。
大福くんは、王都のギルド長さんに抱っこされて、王様へと差し出された。大福くんは大人しく王様になでられているけど、視線は食べものに固定されている。きっと、早く終わらないかな、あれ食べたいな、と思っているに違いない。
さっきから王様は、オレのことを微妙に視界に入れないようにしているんだけど、そんなに怖がられると、傷つくよ。部隊長さんの就任のごたごたの解決を、オレに押しつけてしまったから、怒るんじゃないかと思っているのかな。
いっそのこと、王様の手元に飛び込んでイタズラしちゃおうかな。でも多くの人が見てるところでやるとウィオに迷惑かけちゃうから、お利口にしているべきだよな。と考えていたら、統括長の後ろからウィオが近づいてきた。
「陛下、学園にご尽力いただきありがとうございます」
「……うむ」
その短い返事にめっちゃ葛藤が現れている。オレがすぐそばにいて下手なことは言えないから、短くなっちゃったんだね。
ウィオも分かったのか、大福くんをなでている王様に頭を下げて話を終わらせてから、オレのほうに向いた。
「ルジェ、大人しくしているか?」
『キャンキャン!』
ちょっと! 大人しくしていない気がするけどどうなんだ、できているか? っていうその問いかけは、ひどくない? オレの被害妄想じゃないよね!?
『薄味のものを、端っこから順番で』
「ここにあるものは、すべてルジェ様のために薄味ですよ」
なんと、この一角はオレのために用意された料理らしい。わーい。だったら全部食べなきゃね。調理人さんの努力の結晶を、しっかりと味わわないと。いただきまーす。もぐもぐ。うまうま。
「ルジェ様、いかがですか?」
『美味しい! お世話係さん、次のものをお願いします!』
さすが王宮。もちろん、オレの好みを知り尽くした料理長さんには負けちゃうけど、味付け以外の火のとおり具合とか、素材の合わせ方とかは最高だ。
まだ夜会は始まっていないとか、誰もご飯を食べている人はいないとか、そういうことには気づかないフリだ。オレは獣だからね。待ては気の向いたときしか出来ないんだ。もぐもぐ。
全部美味しくいただくために、ちょっとずつにしよう。それで気に入ったものは二周目でたくさん食べればいいのだ。次はあの一角をちょっとずつ取ってください!
「狐くんだ。そっか、氷の騎士様はネウラの学園長だから招かれてるのね。今日も可愛いマントね」
『キャン』
『きゅーん』
声をかけられたから誰かと思ったら、ギルドの受付係と、その腕に抱かれている大福くんだった。統括長と王都のギルド長が冒険者ギルドの代表として、ついでに話題の白い狸も招かれたそうだ。
「たぬたぬ、美味しいご飯がたくさんあるよ」
『きゃん』
「おや、本当に使役獣の食事も用意されているのですね」
『鷹さん!』
『キュイ』
「今日はヒョードルを連れて出席するようにと魔術師長から言われたのですが、使役獣の夜会ですね」
魔術師さんと鷹さんも登場だ。本当に使役獣の夜会が開かれているけど、多分オレの参加をごまかすためなんだろう。なんとか他の使役獣の中に紛れ込ませようという、涙ぐましい努力が垣間見えるよ。
ところで、鷹さんは人間の食べ物を食べるんだろうか。
「ヒョードルは、人間の食べ物も多少は食べますが、魚が大好物です」
「あの端っこにある魚は、そちらの鷹のご飯でしたか。たぬたぬ、あれはダメだよ。あ、冒険者ギルドで面倒を見ているたぬたぬと、受付のソーニャです」
「魔術塔のイシュマです。うわさの白い狸ですね」
使役獣の契約主同士のあいさつが始まっている。
でも、よかった。ここでヘビや虫が置かれていたら、ちょっと腰が引けている受付係さんだけじゃなく、オレも逃げていたかも。生きてるならいいんだけど。いや、生き餌もちょっと無理かも。
「みなさま、お料理を少しずつ盛りましたので、お召し上がりください」
『食べよう!』
オレたちがあいさつを交わしている間に、お世話係さんが三匹分の料理をお皿に取って、低いテーブルの上に置いてくれた。このテーブルは、オレたちが床で食べなくていいように用意されている。
お皿には、オレたちでも食べやすいように、いろんな料理を小さく固めて、まばらに盛ってある。おかげでとっても食べやすい。さすが執事さんに鍛えられただけあるね。そのうちの一つをぺろっと口に入れて、もぐもぐすると、ほのかなお魚の甘みが口の中に広がる。これはお魚のソテーを食べやすくほぐしてくれたものかな。うまうま。
鷹さんは、やっぱり生のお魚のほうが好きなようで、お皿にきれいに盛られた料理には手を付けず、丸のままの魚を突っついている。
大福くんは、目の前に出されるものをすべて平らげているので、どれが気に入っているのか分からない。
『大福くん、美味しい?』
『きゃん』
それはよかったけど、もうちょっと落ち着いて食べて。周りにたくさんこぼれているから。
オレたちに話しかけようとする人間は、すべて特別部隊の騎士に止められている。白い騎士服の壁の向こうから人間がのぞき込んでいるのは気づいているけど、ご飯のじゃまだから気づかないフリだ。大福くんは美味しいものに夢中で、まったく気にもしていない。鷹さんだけが落ち着かなさそうだ。
「ヒョードル、手出しはさせませんから」
『大丈夫だよ。この白い騎士服の人たちが守ってくれるから』
鷹さんが緊張しているのは、魔術師さんの緊張を感じ取っているからだ。王族や貴族がたくさんいるこの会場で、鷹さんに目を付けられて取り上げられるんじゃないかと、魔術師さんが警戒している。
でも大丈夫だよ。そんなことすれば、オレの怒りを買う。それが分かっているから、何があっても王様が助けてくれる。
そんなことを考えていたら、白い壁が割れて、王様が登場した。
「使役獣の食べものは足りているか?」
「……はい、陛下」
魔術師さんが周りを見回してから、気まずそうに返事をした。
ここにいる人間は、おそらく使用人枠になるお世話係さんと、ギルド職員と、魔術師さんだ。となると、答えるのは一番身分が高い魔術師さんになる。オレの飼い主であるウィオがいればよかったんだけど、いなくてごめんね。
「その、なでてもいいだろうか」
「陛下、もちろんです」
王様がなでたいと言ったのは、オレじゃなくて大福くんだ。そしてその要求に即座に返事をしたのは、王様の後ろにいる冒険者ギルドの統括長だ。
大福くんは、王都のギルド長さんに抱っこされて、王様へと差し出された。大福くんは大人しく王様になでられているけど、視線は食べものに固定されている。きっと、早く終わらないかな、あれ食べたいな、と思っているに違いない。
さっきから王様は、オレのことを微妙に視界に入れないようにしているんだけど、そんなに怖がられると、傷つくよ。部隊長さんの就任のごたごたの解決を、オレに押しつけてしまったから、怒るんじゃないかと思っているのかな。
いっそのこと、王様の手元に飛び込んでイタズラしちゃおうかな。でも多くの人が見てるところでやるとウィオに迷惑かけちゃうから、お利口にしているべきだよな。と考えていたら、統括長の後ろからウィオが近づいてきた。
「陛下、学園にご尽力いただきありがとうございます」
「……うむ」
その短い返事にめっちゃ葛藤が現れている。オレがすぐそばにいて下手なことは言えないから、短くなっちゃったんだね。
ウィオも分かったのか、大福くんをなでている王様に頭を下げて話を終わらせてから、オレのほうに向いた。
「ルジェ、大人しくしているか?」
『キャンキャン!』
ちょっと! 大人しくしていない気がするけどどうなんだ、できているか? っていうその問いかけは、ひどくない? オレの被害妄想じゃないよね!?
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