上 下
133 / 246
学園編

32. 花火の開発

しおりを挟む
 部隊長さんのなでなでに目を細めながら、学園関係者の控室に入ると、先に出発していた二番目のお兄さんがいた。

『お兄さん、疲れてる?』
「あれは神獣様の御業か、学園に守護を与える神獣様に会うにはどうすればいいか、って同じ質問しかされなくて、逃げてきたんだよ」
『おごらず、謙虚に、善行を積むことだ。さすればいつか目にすることもかなうだろう。って言っておいて』
「おお、それっぽいねえ」

 本物だからね。そのうちまたあの姿を披露することもあるだろうから、うそは言ってないよ。

 今日の夜会で誰にあいさつしないといけないのか、どれくらいで退室するかという話が、お兄さんとウィオ、そして部隊長さんも参加して始まったので、聞くとはなしに聞いていると、学科長たちが入室してきた。
 部隊長さんの肩に乗るオレを見つけて、あいさつしようとし、けれど見知らぬ人を発見して、マダム先生は言葉をのんだ。

『大丈夫だよ。ここにいる人はみんなオレの正体を知っているから』
「そうでしたか」
「紹介しよう。ネウラ特別部隊のカエルラ隊長と、スキャンダー副隊長だ」

 副隊長はオレの正体をもともと知っていたんだろうけど、部隊長さんが正式に伝えたそうだ。部隊長さんがいないときは指揮をとるから、知らないと困ることもあるだろう。他の隊員たちに伝えるかどうかは、今後考える。オレへの反応から半分以上は知ってそうだったけど。

「マトゥオーソのゴベール殿のおうわさは、オルデキアにも聞こえていました。お会いできて光栄です」
「こちらこそ、水の騎士様にお会いできてうれしいです。ぜひ、水魔法のお話を聞かせてください」

 マダム先生はマトゥオーソの宮廷魔術師だったから、部隊長さんと話すのは初めてで、ちょっとテンションが上がっている気がする。部隊長さんは魔法をすごく効率的に使うとマトゥオーソにも知られていたらしい。

『花火はどうだった?』
「とてもきれいでした。特に最後の、花がたれ下がる様は、大量の流れ星のようで、本当にすてきでした」

 今回、マダム先生と一緒に、開いたあとに光がたれ下がる花火を開発したのだ。よく花火大会のフィナーレであげられる花火。開発したと言っても、オレはこういうのを作ってほしいな、と言っただけだけど。
 マダム先生はその完成品が初めて打ち上げられるということで、王都の端から眺めていた。前回は上げる側だったから、遠目に見てみたかったらしい。

「学園長、下ではどうでしたか?」
「星が降り注ぐようだった」

 この世界の花火はただの光だから降り注いできても問題ないけど、実はちょっとお城の人が火傷しないか不安になったのは内緒だ。昔、風に流された燃えかすが降ってきて、けむり臭かったことがあったんだよね。

 学園の花火は、周辺国からも問い合わせが来ているらしいけど、まだ売るかどうかは決めていない。魔法陣は一度教えたら簡単に複製できるので、売るのか、使用料を取るようにするか、無料で公開するのか決まっていないからだ。
 学園の研究成果は秘匿せず公開することになっているけど、これは商品なのか研究成果なのか、少し迷うところだ。

「あの光のカーテンは、神獣様がなされたことですか?」
『うん。きれいだったでしょう?』
「はい。とても美しく神秘的でした。まさに神の御業だと思いました。今後、光のカーテンは学園に加護をくださった神獣様の象徴となるでしょう」

 まあね、もとは暁の女神の名を持つ自然現象だからね。オレは光の精霊にお願いしただけだけど。
 今後もオレの威光が必要なときは、オーロラを光らせよう。


「みなさま、お時間です」という騎士の言葉で、みんなでまとまって王城内の夜会の会場に向かう。マダム先生はドレスの上に、ウィオやおじいちゃん先生たちはおしゃれな貴族っぽい服の上に、学園の教師を示すガウンを羽織っている。オレは、そのガウンと同じようなマントを首に巻いている。
 会場に入ると、ガウンと白い騎士服に注目が集まる。そしてオレにも。おそらくオレの正体を知っている人たちの視線が、オレと、オレを肩に乗せている部隊長さんと、ウィオの間をうろうろしている。

「狐くん、やっぱりウィオラスの肩に移らない?」
『最初だけだから』

 部隊長さんに文句を言う人に向けて、肩から威嚇しているのだ。ガオー。

「ルジェくん、あそこに食事が用意されているよ。セス、ルジェくんに食事を」
「畏まりました」

 もうちょっと部隊長さんの肩から威嚇をしていたかったのに、オレは二番目のお兄さんの言葉で、お世話係さんに抱っこされて、会場すみの料理が置かれているところへと連れてこられた。ウィオもうなずいているし、参加者がオレに近づけないように白い騎士服の隊員たちが壁になってくれているし、無駄のないこの流れ、最初からオレをすみっこに追いやる計画を立てていたっぽいぞ。オレもせっかくだから上流階級の雰囲気を味わいたかったのに。ごきげんよう、とかってあいさつしてみたかったのに。
 頭に来たので、ここの料理を全部制覇してやる。
しおりを挟む
感想 699

あなたにおすすめの小説

今、目の前で娘が婚約破棄されていますが、夫が盛大にブチ切れているようです

シアノ
恋愛
「アンナレーナ・エリアルト公爵令嬢、僕は君との婚約を破棄する!」  卒業パーティーで王太子ソルタンからそう告げられたのは──わたくしの娘!?  娘のアンナレーナはとてもいい子で、婚約破棄されるような非などないはずだ。  しかし、ソルタンの意味ありげな視線が、何故かわたくしに向けられていて……。  婚約破棄されている令嬢のお母様視点。  サクッと読める短編です。細かいことは気にしない人向け。  過激なざまぁ描写はありません。因果応報レベルです。

【完結】忌み子と呼ばれた公爵令嬢

美原風香
恋愛
「ティアフレア・ローズ・フィーン嬢に使節団への同行を命じる」  かつて、忌み子と呼ばれた公爵令嬢がいた。  誰からも嫌われ、疎まれ、生まれてきたことすら祝福されなかった1人の令嬢が、王国から追放され帝国に行った。  そこで彼女はある1人の人物と出会う。  彼のおかげで冷え切った心は温められて、彼女は生まれて初めて心の底から笑みを浮かべた。  ーー蜂蜜みたい。  これは金色の瞳に魅せられた令嬢が幸せになる、そんなお話。

お前は要らない、ですか。そうですか、分かりました。では私は去りますね。あ、私、こう見えても人気があるので、次の相手もすぐに見つかりますよ。

四季
恋愛
お前は要らない、ですか。 そうですか、分かりました。 では私は去りますね。

【完結】妹に全部奪われたので、公爵令息は私がもらってもいいですよね。

曽根原ツタ
恋愛
 ルサレテには完璧な妹ペトロニラがいた。彼女は勉強ができて刺繍も上手。美しくて、優しい、皆からの人気者だった。  ある日、ルサレテが公爵令息と話しただけで彼女の嫉妬を買い、階段から突き落とされる。咄嗟にペトロニラの腕を掴んだため、ふたり一緒に転落した。  その後ペトロニラは、階段から突き落とそうとしたのはルサレテだと嘘をつき、婚約者と家族を奪い、意地悪な姉に仕立てた。  ルサレテは、妹に全てを奪われたが、妹が慕う公爵令息を味方にすることを決意して……?  

醜さを理由に毒を盛られたけど、何だか綺麗になってない?

京月
恋愛
エリーナは生まれつき体に無数の痣があった。 顔にまで広がった痣のせいで周囲から醜いと蔑まれる日々。 貴族令嬢のため婚約をしたが、婚約者から笑顔を向けられたことなど一度もなかった。 「君はあまりにも醜い。僕の幸せのために死んでくれ」 毒を盛られ、体中に走る激痛。 痛みが引いた後起きてみると…。 「あれ?私綺麗になってない?」 ※前編、中編、後編の3話完結  作成済み。

お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして

みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。 きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。 私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。 だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。 なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて? 全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです! ※「小説家になろう」様にも掲載しています。

【完結】「政略結婚ですのでお構いなく!」

仙桜可律
恋愛
文官の妹が王子に見初められたことで、派閥間の勢力図が変わった。 「で、政略結婚って言われましてもお父様……」 優秀な兄と妹に挟まれて、何事もほどほどにこなしてきたミランダ。代々優秀な文官を輩出してきたシューゼル伯爵家は良縁に恵まれるそうだ。 適齢期になったら適当に釣り合う方と適当にお付き合いをして適当な時期に結婚したいと思っていた。 それなのに代々武官の家柄で有名なリッキー家と結婚だなんて。 のんびりに見えて豪胆な令嬢と 体力系にしか自信がないワンコ令息 24.4.87 本編完結 以降不定期で番外編予定

【短編】婚約破棄?「喜んで!」食い気味に答えたら陛下に泣きつかれたけど、知らんがな

みねバイヤーン
恋愛
「タリーシャ・オーデリンド、そなたとの婚約を破棄す」「喜んで!」 タリーシャが食い気味で答えると、あと一歩で間に合わなかった陛下が、会場の入口で「ああー」と言いながら膝から崩れ落ちた。田舎領地で育ったタリーシャ子爵令嬢が、ヴィシャール第一王子殿下の婚約者に決まったとき、王国は揺れた。王子は荒ぶった。あんな少年のように色気のない体の女はいやだと。タリーシャは密かに陛下と約束を交わした。卒業式までに王子が婚約破棄を望めば、婚約は白紙に戻すと。田舎でのびのび暮らしたいタリーシャと、タリーシャをどうしても王妃にしたい陛下との熾烈を極めた攻防が始まる。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。